第00話 終わり、そして「始まり」
転生。憑依。生まれ変わり。
二次創作の世界ではほぼ当たり前と言ってもいいだろう。
空想の現象かと思っていたが、まさか自分が体験することになるとは………。あぁ、そういえば誰かが言ってたな。
“人が考えうる空想の全ては、現実に起こりうる可能性がある”
とはいうが、俺の場合はどうなんだろうか………よく分からないなぁ。
「で、どこにいきたい?」
のっけから意味が分からないことをのたまう人こそ、人生の転生屋に勤務する天使だ。白い翼にムキムキマッチョな体。鉄仮面に傍らには何故か棍棒。違うと思いつつ、最初は神かと尋ねたら、
「あ? あんなうさんくさい爺といっしょにするな!」
と怒られた始末。
だって、テンプレだったらここで神様登場じゃん? こんな神がいても困るが。いや、天使でも困るよ。世紀末でヒャッハーしてても違和感がない人である。
まぁそれはともかく。
一部の人間はここで次の転生先を決めることが出来る仕様になっているらしいが、最近は転生できるだけの素質や素養などを持つ者が少なくなってきているという。
要するに、誰も来なくて暇だったそうだ。
まぁそのおかげで3日ほど、話し相手をさせられた。見た目はこんなんでも、趣味に関してはほぼ似たりよったりの部分があったので話が弾んでしまったのが原因。
「転生ね……。俺が持ってる知識でもいいのか?」
「地上の知識など、ここに全て入っているわ」
と、自分の頭を叩く自称天使。昨日あたりに部屋の奥を見せてもらったが、出てくるわ出てくるマンガやゲーム。外国のものもあったが、ほとんどが日本のものだった。
地上の知識を全て詰め込んだというが、かなり偏った知識なのは聞くまでもない。
「やっぱ、剣や魔法でどんぱちするのは憧れるけどなー」
「まぁ男には昔から戦闘に関する欲があるからな。今となっては幻想の産物だ」
マンガやゲームなどでみかける剣や魔法などのファンタジーな世界。確かに憧れはする。するが・・・。
「やっぱ、死にたくないしな」
それに尽きる。
剣を持っても才能がなければ活躍することはおろか、生き残ることも出来ない。
「だったら、剣の才能を望めばいいんじゃねぇか」
「う~ん。しかし、ポイントが……」
ここで教えられた“転生”について、少し語る。
ポイント―――なんと、転生はポイント制だったのだ。
これまでの行い―――先祖やら何やらの全ての行いを元に計算されて、ポイントが与えられる。その上限は決まっておらず、先祖が偉大であれば現在の者がクズでもポイントは高い。
そして、そのポイントを使って、転生先や自分の才能、能力などを決めていく。もちろん、取得しているポイント数は教えられないし、どの能力がどれだけポイントを使用するかも教えられない。
ある程度の助言はされるが、そこから自分で見極めなければならない。
そして次に罰則。
仮に高望みしすぎてポイント総数を超えて転生すると、全てがランダムで最悪なおまけ付きで転生させられるという。
かなり前に、特定の世界にいわゆる最強系チートキャラに自分を仕立てあげて転生を望んだ者は、余裕でポイント総数を超えてしまった。
結果、望んでいたポジションではなく、主人公たちの敵で雑魚というポジション。おまけに不幸体質で転生させられたという。
欲も控えめに、ということだ。
「とりあえず、世界はファンタジーか?」
「あー、なのはの世界に行きたいかも」
「なのは? あー、あの萌えじゃなくて燃えな展開のな」
やはり知っていたか。
「そうそう。熱血少女バトルもの」
「大きいお兄ちゃんは大好きだよな」
目の前の大きなお兄ちゃんが言った。
・世界 ファンタジー:リリカルなのは
「時期的にはいつにする? 無印か?」
「お任せで」
ポイントを使えば、転生時期も決められるが、ここで使いすぎるのもアレだろう。なのはの世界にさえ行ければ主人公たちと会うことも出来る………よな?
出会うことがなかったらなかったで諦めて第二の人生を横臥するか。
・世界 ファンタジー:リリカルなのは(時期はランダム)
「あの世界に行くなら、やっぱり魔導師か?」
「あー」
確かに原作キャラとの絡みを持ちたいなら、魔導師………つまるところ、管理局勤務になれる方が良い。しかし、管理局にはあまり良いイメージがあるとは言えないしな。嫌いって訳ではない。クロノさんとか好きなキャラだよ? 俺。
「そこもランダムで」
「ほぅ?」
「もし魔導師になれる素質があったらなるし、なかったらならない。それでいく」
「運に任せるか。それもいいな」
「天使の前で言うことじゃないが、神頼みという奴だな」
「神に頼んで願いが叶うなら今頃世界は混沌と化してるな。実際、過去にあったし」
おぅ……なんという、聞きたくない事実。
「能力は何かないか?」
「能力ねぇ……クリエイターの才能が欲しい」
「くりえいたー?」
「そ。何かの物作りの才能があれば、とりあえず職には困らんだろうし」
「お前はあの世界に何しに行くんだ?」
「や、ガキの頃は主人公たちに会っていやっほぉい! でもいいかもしれないが、大人になったら就職して金を稼がんとならんのだよ。趣味のために」
「そこは未来の妻子のためにと言えよ」
「や。結婚とか人生の墓場じゃん」
「お前はホントに何しに行くんだ?」
そりゃねー、俺もなのはやフェイトのことは好きだよ。大好きだよ。でも、結婚したいかと言われれば………うーん。
夢や憧れはあるが、それだけじゃないというのを知ってしまったからかねぇ。現状はフィルター越しにしか知ってないからってのもあるが。
・能力 クリエイター系
「ま、何になるかは楽しみにしておくんだな。覚えてはないだろうが」
「おぅ、楽しみにしてる。覚えてはないだろうが」
ここでの出来事は当たり前だが、転生したら忘れる。たまに前世の記憶やら何やらを思い出す人もいるらしいが、大抵の人は忘れたままのようである。
「聞き忘れてたが、性別は?」
「野郎。オス。男」
・性別 男
「そういや、種族がなかったけど、人間だよな?」
ここまでやっておいて人外とかになってたら笑うしかない。猫とか犬とかね。あぁ、アリサとかすずかに飼われるようになるのかね。
「基本な。たまに別種族になりたい奴もいるから、個別に対応している。何も希望がなければ生前と同じ種族を引き継ぎだ」
「把握」
「それで、能力はもういらんのか? 大抵の奴は2~3個選んでいくが」
「例えば?」
「例えば、カリスマだとか、何かを操る力だとか。よくあるだろ? 主人公だけが持つ特殊な力。そういったものだな」
「ん~……」
ぶっちゃけなー、平和に暮らせればそれでいいしな。でも、一応自分の身を守れるくらいの力は欲しいかな。
しかし、こうゆうのって、護衛のはずの力が逆に目立って争いに巻き込まれるとかってパターンじゃね?
素直に言えば、ハーレム作って原作崩壊余裕でチートわはは! はしたいけど、あんまやる気はしないしなー。
「くくく、お前の欲が見える。見えるぞ~」
「黙ってろよ、不良天使」
なんか他に面白そうな能力で、かつ俺に危険が降りかからなさそうなものはないか。そういえば、一つ気になるのが。
「なぁ、ポイントって余ったらどうなるんだ?」
「ん? 余ったポイントはこれになる」
と、指先で丸を作って俺に見せる。俗に言う“金”のマークだ。
「ちなみに俺のだ」
「だと思った」
つまり余ったポイントは目の前の不良天使の懐に入る訳だ。ポイントが金というのもよく分からないが、どっかで変換できるのかね。まぁいいや。
ならば、超えることは持っての他だが、余らせることはできるだけしたくない。
それに、さっき大抵の奴は2~3個の能力を選んでいっていると言った。つまり、平々凡々な俺でも2~3個は可能なはずだ。
「……良縁だ!」
「ふむ・・・カリスマってことか?」
「いや、良縁。縁が良いってだけで、相手を支配とか魅了とかそういったものは全部排除してくれていい」
「つまり、合コンに誘う友人みたいなものか? 場所は作ってやったから、後は自分でやれ、と」
「例えがアレだが、そんな感じだ」
この不良天使。このままだと、更に悪く進化するんじゃね? まぁいいけどさ。
「で、もう一個が成長力」
「ふむ………」
「ステータスで言うと、普通の人が1上がるところを俺は5上がる的なものが欲しい」
「楽して強くなりたいと」
「成長するための努力は必須だから、楽ではないと思うが………まぁ多少楽にはしてるが」
・能力 良縁・成長力アップ
「あとは能力とかじゃないんだが……欲しいものがある」
「ん?」
「闇の書もとい、夜天の魔導書の元々のプログラムが欲しい」
「ふむ?」
行き先をランダムにした以上、必要がないかもしれない。更に言えば、魔導師になるかどうかも未定の身。関わらない可能性だって低くはない。
だが、それでも可能性があるならばそれに賭けてみたい。救えるならば、救ってあげたい。
物語は皆が笑えるハッピーエンドが俺は見たい。
「ま、言わなくても分かってるとは思うが、可能か不可能かで言えば、可能だ。もちろん―――」
「ポイントは使う、だろ? 構わない」
「なら、転生先に送っておこう」
「じゃあ、これで決定だな」
「おぅ」
「いや~、久しぶりに地上の人間と話せて楽しかったわ」
「まさかここまでに1週間もかかるとは思わなかったけどね。楽しかったよ」
そう、文面だけではほんの数分かもしれないが、実はここまでに4日かかっている。なんせ、無駄話が長い長い。
既に死んでる身だから、睡眠も食事も必要ないってのはいいけど、よくまぁ付き合ったものだ。俺も。
最初の意気投合から無駄話で3日。これまでの転生先を決めるのに4日。計、1週間もここにいたのだ。太陽とかないから体感時間でなんとなく計算だが。
「さて、これで目出度くお前の転生が決まった訳だが、残りのポイントが俺の懐に入る」
「やっぱ、余ったか」
「うむ。しかも、ありがたいことにかなりたくさんに」
「なん………だと………」
「残念ながらもうダイムオーバーだ」
「くそー!」
こちらとは裏腹にポイントの使用量は少なかったのか、それとも元々の総数が高かったのか。ならば、もっと欲を出せば良かった!
「ぐっ、手に入らないと分かると欲しくなる……」
「それが人間というものだ。ま、行ってこい」
―――パチンッ
その音を聞いて、俺の意識は暗転した―――
「ま、新たな人生を歩みな。今度くるときはゆっくりでいいぞ?」