不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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幕間04 影に隠れる「闇」

 

 

 

隠れ、潜み

 

表には出ず

 

 

まだ―――出番ではないから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この前の連休のことだ。俺は協力者に言われ、とある場所に来ていた。

 

 というのも、4月の連休はなのはたちは温泉旅行に行くだろうと考え、それとなく話してみたが“そんな話はない”と言われた。すずかにもアリサにも聞いてみたが、連休は3人でお泊り会なるものをするだけらしい。混ぜてもらおうかと思ったが、これは女子限定と言われれば退かざるを得ない。

 とはいえ、最近は顔を合わせることさえ少ないのだ。ここはアリサたちを魅了させて―――

 

 

 

 

 

―― 「      」 ――

 

 

 

 

 

 いや、止めておこう。

 

(じっくりと落としていくのもまた楽しみ、か)

 

 これからも時間はあるのだ。焦って失敗する奴らを何人も見てきた。たっぷりと時間があるならば、その中で少しずつと魅了させていけばいいのだ。

 

 

 

 

 さて、連休をどうしたものか。温泉旅行に行くものだと考えて、他に予定を入れてなかった。いつも通りに適当に女で遊ぶか、それとも………。

 

「―――フェイトか」

 

 そういえば、フェイトがどこに住んでいるかとかは調べてなかったな。無印は始まってるから、どこかにはいるはずだ。それを探しに―――

 

 

 

 

 

―― 「      」 ――

 

 

 

 

 

 いや、別にいいか。何故、わざわざこっちから出向くみたいなことをしなければならないんだ?

 

「霧谷」

「―――なんだ?」

 

 部屋の中でぼーっとしていたのもあるが、俺がこいつの存在に気付かなかったってのは頂けない。

 

「暇ならこっちを手伝え」

 

 実に面倒な話だ。断りたいところだが今の俺は暇な身だし、更に言えば俺と協力者の関係は相互協力が契約だ。

 次のジュエルシード戦で必要なことだと言われれば断ることはできない。最近は上手くいってるのかどうなのか微妙なところなので、ここらで一気に成果を上げておきたい。

 

「―――別に構わんが、何をするんだ?」

「決まってる。転生者狩りだ」

 

 どうやらまた転生者を見つけたようだ。

 

「またか………この世界はこんなにも転生者が多いのか?」

 

 この転生者狩りも結構長く続けているが、今日みたいにこいつは転生者をよく見つけてくる。

 

「海鳴以外にいるかもしれんが、1つの町にこれだけの転生者はやはり異常だな」

 

 まぁ分からないでもない。やはり、転生するならば主人公たちがいる舞台に来たい、とは思うが、それにしても多い。

 

「記念すべき20人目か………」

「行こう」

 

 協力者に案内された場所は普通の一軒家だった。適当にドアを蹴破って中に入れば、緑と桃色の髪をした姉妹がいた。

 

(今度はボカロか………)

 

 緑のツインテールの女と桃色の長髪の女。ちょっと変わったヘッドホンみたいなのをしている姉妹。魔導師ではないようなので、俺のニコポ・ナデポが効いた。魅了させて従順させ、協力者が質問を投げつけていく。その結果、前世が男であり、かつ記憶を有しているとなると………考えないことにした。

 いくら俺好みでも、中身が男の女はさすがにいらないな。

 

「で、こいつらはいつも通りか?」

「あぁ―――こっちで“処理”をする」

「やれやれ、あっけなかったな」

 

 楽ではあったが、楽過ぎた。周りへの誤魔化しなどの対応で時間だけはかかるだろうが、それも退屈なだけ。

 

「仕方が無いから、適当な奴を捕まえて鬱憤を晴らすか」

 

 俺は目に入った適当な家に入り、好みの奴がいなければ出て次の家へ。それを繰り返して遊んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今。夜の街。

 

 なのはたちが飛び交う夜空の下に俺はいた。

 いつも傍にいる協力者はこの前捕らえた転生者の1人を連れてどこかに行ってしまった。もうじき始まる時間だというのに、どこに行ったのか………念話も通じない。

 奴がいてもいなくても構わないが、あいつがいないとなのはたちから念話が届かないのが問題だな。

 

「ふっ、直接話すのが恥ずかしいからってな。照れ屋ななのはたちも可愛いぜ」

 

 こっちから念話を繋ごうにも向こうで拒否られる。協力者が言うには、恥ずかしいらしい。なので、協力者を間に挟んで俺たちはやりとりをしている。

 面倒だとは思うが、

 

『女とはそうゆうものだ。女心の分からない男とか言われたくないだろ?』

『確かにな』

 

 恋人みたいと言われれば確かに悪い気はしない。白と言えば例え黒でも白と言うような女たちしか相手にしていなかったので、忘れていたぜ。

 

「ん?」

 

 フェイトが何かをしている。空では彼女を中心に暗雲が広がっていき―――

 

≪霧谷≫

≪なんだ?≫

≪フェイトが広域魔法を使うそうだ。ジュエルシードを強制的に発動させるらしい≫

≪分かった≫

 

 まだ準備に時間がかかるのか、と聞けば、まだかかるとの返事。広域魔法が行われる時までには終わるように行っているが、もしかしたら遅れるかもしれないと言う。

 

≪そっちはどう動くのかをしっかり考えておけ≫

 

 ふと考える。

 広域魔法で発動するジュエルシード。そして暴走。そこに颯爽と現れる俺。

 

 

 あぁ、これは間違いない。

 

 間違いなく、好感度が上がる!

 

 

 選択肢があったならば、“大丈夫か?”か“俺が来たからには安心しろ”だろうか。

 

「――――――っ!!」

 

 ここからでは遠くてフェイトの声は聞こえなかった。だが、彼女の声と共に雷があちこちに降り注ぐのを見れば分かる。

 フェイトの広域魔法が発動したのだ!

 

「さぁ! どこからでもこい!」

 

 と、準備はしたはいいが―――ジュエルシードの反応と思われる光があがったのは、かなり遠方だった。

 

「ちっ! 遠いじゃねぇか!」

 

 思った通り、俺が向かうよりも先になのはが先に辿りつき、

 

 

「リリカル! マジカル! ジュエルード、封印!」

 

 

 ジュエルシードを封印してしまった。

 

「は?」

 

 協力者の話ではジュエルシードを暴走“させる”と話していた。今回“も”ジュエルシードは暴走して、戦闘へと流れるはずだったが………なのはが予想以上に速かったのか、暴走する前に封印を完了させてしまった。これでは戦闘など起こるはずがない。

 

≪おい! どういうことだ!? 暴走するんじゃなかったのか!?≫

≪落ち着け≫

≪あぁ!?≫

 

 問い質せば、先ほどのジュエルシードは偶然の産物だったようで、本命は用意している最中だと。どうやら“処理”とやらに手こずり、少々遅れたようだ。

 

≪驚かせるなよ。じゃあ、早くしてくれ≫

≪あぁ。ほら行くぞ≫

 

 その言葉と同時に光の柱があがった。

 場所はすぐ近く―――

 

 

 

―――ドォンッ!!

 

 

 

 場所を確認するよりも早く―――俺の体を衝撃が走り、無理矢理体が曲げられた。見えたのは小さい影と角。

 

(今度は、東方のキャラかよ!)

 

 小さい体に鬼の角。和服と思われる服に鎖がついた腕―――“伊吹萃香”が再び俺を掴み、振り回す。

 

「くっ!」

 

 

 

――萃鬼「天手力男投げ」

 

 

 

 その速度は素早く、視界が目まぐるしく回る。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 投げ飛ばされたと知ったのは、衝撃が俺を貫いた時だった。

 

 

 

 

 

 

「くっそっ!」

 

 萃香に投げ飛ばされて、俺はビルの中に突っ込んだようだ。瓦礫と化した建物から上空を見れば、こちらを見下ろす小さな鬼“萃香”が見えた。

 

≪おい! あれがお前の言う暴走なのか!?≫

≪そうだ。ジュエルシードの暴走思念体だ≫

≪なんで、東方のキャラしてるんだよ≫

≪その方が一番定着しやすいんだ。この世界(・・・・)ではな≫

 

 訳が分からないが、あの萃香はジュエルシードの思念体ということで間違いはないようだ。それにしては暴走している気配が見えない。

 

(ちっ、いきなり躓いてしまったじゃねぇか!)

 

 少し落ち着いて、現状を考える。

 まず、相手が鬼という点だ。詳しくは知らないが、人間以上の剛力を持っていたはず。接近戦では勝てない、か?

 だからといって遠距離戦もあまりやりたくない。無限の剣製で剣を飛ばしたり、弓矢で射ったりは出来る。しかし、とことん命中率が悪い。

 

「えぇい! くそ! 考えるのは得意んじゃねぇんだよ!」

 

 邪魔するなら押し潰す。そうやって飛び出した先に待っていたのは、小さい萃香だった。最初に見た萃香をそのままサイズを小さくさせた萃香がそこにいた。

 その小さい萃香が腕を振り回しながら近づいてくる。

 

「ちっ!」

 

 紙一重で避けた先、瓦礫の山が吹き飛んだ。見た目に反して、力だけは強いらしい。

 

「くっそっ! さすがの萃香ってとこか!?」

 

 この大きさの萃香でこの力。ならば、元の萃香はどれくらいの力を持っているのだろうか。

 

(くそが! くそが! くそが!)

 

 恐怖を感じた。それは認めない。俺は強い。俺が最強だ。俺よりも強い奴はいない。これだけの力を持っているのだ。

 不意打ちされたとはいえ、まさか俺が吹き飛ばされ―――恐怖を感じるなど!

 

「こんの、やろおおおおおおおお!!」

 

 鬼だろうが悪魔だろうが、俺よりも強い奴はいない。全て、俺が踏み潰す。

 

(力だけは人間よりも強いだろう。ならば、攻撃させなければいい!)

 

 攻撃して攻撃して攻撃する!

 これで相手が思念体ではなく、実際の体を持つ相手ならばもっと良かったのだが。そうすれば、勝った後にお楽しみが待っているのに。

 

「さっきは不意打ちだから喰らったが、次はないぞ!」

 

 手に力を込める。脳裏に浮かぶイメージをそのまま移動させる。

 俺は持っている、と。俺は今手に武器を持っているとイメージする。

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 イメージしたのは槍。穂先が5つに分かれた特徴的な槍―――のはずが、2つしかない。色も蒼から銀へと変色していた。

 どことなく、とあるアニメの使徒を封じてた槍に似ている気がする。曖昧なままのイメージで他と混ざってしまったのか。

 

「まぁいい! 轟く五星(ブリュ-ナク)!!」

 

 だが、きちんと宝具として発動はしたのでよしとする。これが当たらずとも、何かしらのアクションはするだろう。避けるなり防ぐなりしたら、その隙に接近して叩き伏せる。

 

「つらぬk―――」

 

 

―――ギュンッ

 

 

 槍は一筋の稲妻となり、光速で萃香へと向かい―――夜空に消えた。萃香はそこにいない。

 

「は?」

 

 当たって消えたとかではない。萃香が消えたのだ。霧となって。

 

 

 

――四天王奥義「三歩壊廃」

 

 

 

 霧が再び集まり、俺の近くで実体化する。

 

(マズい! 攻撃が―――)

 

 そう思った次の瞬間には視界がブレ、ジェットコースターに乗っているように画面が回りだす。

 

「―――っ!?」

 

 

 

 気付いた時には俺の視界は暗闇になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 

 夜を駆ける少年少女たちを観察する者がいた。

 周囲に隠れ、見つからないようにと。それは徹底して行われていた。

 

「あらら、運が悪い。最初に指定した場所で待っていればよかったものを………」

 

 と言っているが、全ては計算どおりだ。霧谷ならばあの状況で飛び出すと思っていたし、指定した場所と“偶然”あったジュエルシードの場所を考えれば、“2個目”のジュエルシードの場所で停止すると考えていた。

 

「彼女は強いですからね。君専用に調整してますからね」

 

 ちょうど見えたのは、霧谷が萃香に捕まって放り投げられたところだ。

 

「おっと、その前に伝えておかないと………ユーノくん、声を借りますね」

 

 表紙には何も書いていない黒い本を取り出す。ページをめくり、開いた場所が怪しく光り始めたのを確認してから念話を送る。

 

 

≪なのは! フェイト! 気をつけて! ジュエルシードの思念体だ!≫

 

 

 彼の声はユーノの声となり、遠方のなのはとフェイトの2人に送られた。アリシアにも別で念話を送っておくのを忘れずに行い、黒い本を閉じた。

 これで彼女たちは目の前の存在がジュエルシードの思念体と思い込むだろう。いや、実際思念体で正しいのだから、思い込むというのもおかしな話か?

 

「しかし、力を引き出しすぎると意識までも持って来てしまうようです。そこらへんは調整してバランスを取るしかないですね」

 

 1人目のときは力は捨てて操作性を求めて。2人目は力をなるべく高めてそれ以外を捨てて。次には調整も取れてバランスの良いモノが造れそうである。

 

 

 色々と頭の中で考えているうちに、霧谷が再び飛び出してきた。どうやらもう一度萃香に挑戦するようだが………。

 

「あぁあぁ、それじゃダメだよ」

 

 猪突猛進。まるで獣のようだ、と漏らした。得意の投影で武器を作っては放り投げてを繰り返しているが、やはり単調過ぎる。今の萃香には届いていない。一撃必殺を狙ったのか、強力な物を作ったが、やはりそれも外れた。

 

「はい、終わり」

 

 その言葉と同時に、視界の向こうでは霧谷の敗北が決定した。同時に観察の目を霧谷からクロへと移した。

 

 

 

 

 

 

「―――こんなものですか」

 

 予定外のキャラではあるが、そこまで危惧するようなモノでもない。そう判断した。

 魔力量もそう多くないし、これといった力もない。東方のスペルカードシステムをそのまま持って来ているのか、クロの攻撃時にはカードが見えた。その制限を考えれば、そこまで脅威ではないのだ。

 

「ご退場を、願いましょうか」

 

 再び黒い本を手にする。おもむろに開き、自分にも聞こえないような声でぶつぶつと呟く。

 

「彼女たちは問題ない。だが、君はダメなんだよ―――影月裕也(・・・・)くん」

 

 本が怪しく光る。それは躍動するように輝くと、観察していたクロ―――裕也に変化が起こった。

 

「墜落して死ぬか。それともこのまま呪い殺されるか―――ん?」

 

 

 

―――ザクッ!

 

 

 

 突如、怪しく輝いていた本ごと手を貫かれた。刺さっていたのは1本の剣。鈍く輝く翡翠の剣から―――

 

 

 

 

 

―― ■ツ■タ ――

 

 

 

 

 

 恐ろしい声が聞こえた………ような気がした。改めてみれば、剣などどこにもなく、本にも貫かれたような後はない。

 

「解かれ、た? 抵抗した、のか?」

 

 行使していた術は解かれ、怪しく光っていた本は既にない。手に持っているのは、ごく普通の本であった。

 裕也を探せども見えない。どこにもいないということは、既に落下したということになる。

 

「死んだ………とは考えにくいですね。危険ですが、ここは会いに行きますか」

 

 本を閉じる。観察も止めて、身の回りの片づけを行う。ここに自分がいたという証拠をなくし、自身を変化させる。

 霧谷と念話を繋げるものの、繋がらない。どうやら完全に気を失っているようである。こちらの回収は全てが終わってからでも問題ないだろう。

 

「残すところ後僅か。数的に次で最後ですかね?」

 

 残っているジュエルシードも残り少ない。実験に必要な人材もまた少ない。そろそろこの事件も終わる頃合だ。

 

「―――ようやく」

 

 零れた言葉は夜闇に溶けて、消えた。

 

 

Side Out

 

 

 


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