不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第20話 「鬼」

 

 

 

砕かれた月

 

萃まる夢

 

 

そして、百鬼夜行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやてがうちに来て数日が経過した。

 

 必要な荷物などを運び、関係各所への連絡は親父に任せた。ちょいと狭くなったが、まぁなんとかスペースを確保した。

 それと車椅子をもう1個買った。今まで使っていたのは外用として、新しくコンパクトサイズの物を家用に買ったのだ。丈夫さや使いやすさは二の次にしてしまったためか、はやて本人は微妙な顔をしていた。

 

「ま、使ってるうちに慣れるやろ」

「ふむ」

 

 しばらく使っても違和感が拭えないようなら、別なのを買うことも検討する旨を伝えた。体に合わない物を無理に使い続けるのはよろしくないのでね。

 

 

 あ、そうそう。

 

 

「私、高町なのは。よろしくね」

「うちは八神はやて言うねん。よろしゅうな」

 

 はやての歓迎会の翌日にはなのはがやってきて、ついに無印とA’sのヒロインが邂逅することになった。

 誰も理解してはくれないが、何か感慨深いモノがあるよな? な?

 

「そうだね………」

「おいこら幼女。人を可愛そうなモノを見るような目で見るんじゃねぇよ」

 

 その後は恒例のゲーム大会。なのはが賭けないかって言ってきたので、俺は自重して辞退した。どうせ負けるのは分かってるからな、勝てない勝負はしないのだ。

 そしたら不戦敗扱いになって、賭け事が成立している不思議。どうしてこうなった。

 安定の土下座戦法で勝負に出て、この日はなのはを抱きかかえて家まで送ることを条件になかったことにしてもらった。

 

 ところで、どうして俺は勝負をしていないのにも関わらず敗北者扱いで、更に許しを請わなければならないのだろうか。

 

「理不尽すぎる!」

「何か言った?」

「何も言ってません」

 

 終始笑顔だったので良しとしよう。

 いつの世も、泣くのは男なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでしばらくは何も起こらない平和な日々が続いた。今日もそんな1日で終わると思っていたが、今日は違った。

 

「そうか。今日か」

 

 届いたのはなのはからのメール。

 中々見つからないジュエルシードにしびれを切らしたアリシアが提案した作戦。町内全体に魔力を流してジュエルシードを強制発動させるのが、今日―――決行される。

 ユーノやプレシアさんなど、その道の専門職に相談した上での作戦だ。

 これから一騒ぎ起こすけど、危険なことが起きないようにしているから安心してくれ、と。でも、一応気をつけてくれと追伸で書いてあった。

 

『何かあったら電話してね!』

 

 と最後に締めくくられてメールは終了。

 電話したら文字通り飛んできそうだ。なのはにユーノ、フェイトにアリシアとどこから嗅ぎ付けてきたかは知らないけど、霧谷がいる。

 霧谷がいる時点で不安が押し寄せてくるが、大丈夫だろう。

 

「分かった。気をつけてな。明日の学校で寝るなよ、と」

 

 なのはにはそう返信し、続いてフェイトにも返信を送る。霧谷のことはなのはのメールではなく、フェイトのメールを見て分かったことだ。ただ“霧谷”が“斬りたい”に誤変換されてたけどな。わざとじゃないと思う。うん。

 

『大丈夫だとは思うけど、何かあったら助けに行くから連絡してね』

 

 やはりこの2人は似たもの同士なのだなぁとメールを見て1人笑っていた。

 

「油断はするなよ。手伝いにはいけないが、無事に帰ってこい、と」

 

 ジュエルシードもそうだが、霧谷も油断してはいけない。

 転生者が皆、原作の話を知ってるとは限らないが、奴のなのはたちへの執着度から考えると明らかに原作の流れなどは知っているはずだ。更に、分からないのが幼少時はしつこいくらいに付きまとってたのに、今ではそれも回数が少なくなってきたという。なのはやアリサが露骨に嫌がってるのが効果を成したのだろうか。

 何故フェイトを襲ったのか。何故今はなのはたちに昔ほど付きまとわないのか。何故?

 

(改心した………のか? ふーむ)

 

 奴が何を考えているのか全く分からん。

 

「どったの? 裕也」

 

 パジャマ姿で麦わら帽を脱いだ諏訪子が目の前にいた。

 

「なのはたちがこれからジュエルシードを強制発動するようだ。何もないとは思うが気をつけろってな」

「へぇ~………今回は行かないの?」

「今回は、な」

 

 既に流れは原作とは外れてきている。これからどう動くかは分からないが、良い方向に動いているのは分かる。

 懸念は俺と同じ転生者である霧谷だが、なのははもちろんのこと、アリシアやフェイトたちが警戒している今、動いたとしても大したことはできないはず。それこそ原作ブレイク並みに行動すれば別だが、奴からは世界観を壊そうとした意思は見られなかった。そこだけは信頼できる。

 奴は自分の思い通りに舞台を動かさないと気が済まない性質だ。だからこそ、予想外の出演者である俺のことを嫌っている。アリシアは予想外と言えば予想外だが、想定内と言えば想定内でもあるのだろう。

 

(と、俺は考えているが………あながち、外れてもないだろう)

 

 こればかりは俺ではどうしようもない。相手が心変わりして受け入れてくれるまで待つしかないが………果たして、そんな日は来るのだろうか。

 

「ゆうやーーん!」

「はやてが呼んでるよ?」

 

 階下からはやての呼ぶ声が響く。本当に俺がはやてを運ぶ係りになってしまったから笑えない。諏訪子は見た目幼女だし、力も幼女。母さんは逆に不安。親父はもういないし、咲夜さんはやってくれるとは思うけど、家事とか色々やってもらってるから逆に申し訳ない。

 そうして残ってるのが俺しかいないという。

 

「はいはいっと」

 

 

 

 

「諏訪子ー開けてくれー」

「あーい」

 

 はやてを抱き上げて自室へと到着。布団の上にはやてをゆっくり置いて、俺も自分の布団に移動。

 

「2人して何話してたん?」

「ん? 裕也が夜寂しいから一緒に寝てくれって懇願してきてね」

「ちょっと待てよコラ」

「なんや、裕やんは寂しがり屋やなー」

「おいコラ。人を勝手に寂しい人にするなよ」

 

 くそ、諏訪子もはやてもニヤニヤ笑ってるだけでうっとおしい。

 

「しゃーないから、うちも一緒に寝てあげるで」

「狭いから来るな」

「お、照れてるの? 裕也く~ん」

「うっせ」

 

 

 

 

 

 

 とある場所の魔法少女たち。

 

「「なんか今、イラッてした」」

「なのはにフェイトも………どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 結局、3人でくっついで寝ることになった。

 

「………く~」

「はやてって寝付くの早いよね」

「あぁ、電気消して数分も経たないで熟睡とか………未来からロボットが助けに来てくれたあの小学生を超えたな」

「あっち。確か秒タイムで寝れたはず」

「………はやてよ。お前も数秒で寝れるように頑張るのだぞ」

 

 頭を撫でながらそんなことを呟く。ふと気付けば、はやての口が動いてたような気もするが、寝言だろうか。よく聞こえなかった。

 

「んで、向こうはどうするの?」

 

 諏訪子の言う向こう、とはなのはたちのことだろう。

 

「どうするも何も、寝る。なのはたちは大丈夫だろう? 早々変なことは起きないさ」

 

 はやても寝たことだし、小声で諏訪子と話す。

 ふむ、そうこうしているうちに眠気が襲ってきた。実を言えば多少の不安はあるが、無事に今日も終わるだろう。

 なのはにはフェイトもアリシアもユーノもついているんだから。

 

「ねぇ? 知ってる裕也」

「―――ぅん?」

「そうゆうのってフラグって言うんだよ」

 

 襲ってきた眠気が去っていった。待って、行かないで。どうして手を振って俺から去っていくの?

 これじゃあまるで、俺がこれから夜中に町中に行くみたいではないか。

 

「あーぁ、裕也の所為でフラグがたっちゃったー、なのはたちがたいへんだー(棒)」

「……………」

「もしかしたら例の男があばれちゃってるかもなー(棒)」

「……………」

「あーぁ、裕也がフラグ立てるからー(棒)」

「……………」

「ニヤニヤニヤ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 

一方、その頃。

 

≪フェイトちゃん、そっちはどう?≫

≪ダメ。やっぱり、見つけられない≫

 

 夜を駆ける少女たちは、それぞれバラバラに行動してジュエルシードを探していたが、発動していない小さな石を人ごみ溢れる街中から探すのはやはり一苦労であった。

 

≪やっぱり、アリシアちゃんが言った方法をやるしかないかな?≫

≪うーん………≫

 

 アリシアが示したのは、ジュエルシードが強制発動するように町全体に魔力を流す方法だ。危険は伴うが、準備の出来ていない時に突然発動するより、人も準備も出来ている今起こしてしまった方が圧倒的に危険は少ない。

 

≪ユーノくんはどう思う?≫

≪僕は………やっぱり、危険だから、としか………でも、アリシアが言ったように、突然起きるよりかは今起こしてしまった方が危険は少ないと思うよ≫

 

 発動さえしていればその反応を追うだけで簡単に見つけられるが、発動していなければただの綺麗な石だ。それを人ごみ溢れる町の中から見つけるのは中々に厳しい。

 連日連夜、こうして探してはいるが、見つかる気配ない。

 

 というわけで、

 

 アリシア発案“動いてないなら動かしてしまえジュエルシード”作戦が動こうとしている。

 

≪それにあまり遅くなると、なのはが困るでしょ? やるならやっちゃおうよ≫

≪………そうだね≫

 

 ユーノとアリシアで広域結界を張り、フェイトで全方位に魔力を流し、なのはが封印に動くための魔法を放つというものだ。

 霧谷にも連絡はユーノが一応行ったのだが、相手側から切られてしまったので要件は伝えずじまい。満場一致で放置ということが決まった。

 

(あ、その前に裕也くんに教えておこう)

 

 なのはが裕也に連絡する頃、同じように思ったのかフェイトもまた連絡していた。

 

(関係ないとは言ってたけど、やっぱり、ね……)

 

 寝てるかなと思ったが、少ししてから返信が来て確認する。

 

(無事に帰ってこいよ、か………ふふ)

 

 買ったばかりの携帯を仕舞う。登録者はまだなのはやアリシア、そして裕也くらいと数は少ない。

 

「フェイトちゃん、なんか嬉しそうだね?」

「そうかな? そうゆうなのはも嬉しそうだね」

「にゃはは、ちょっとね。明日の学校で寝ないように気をつけないとねー」

「学校か………行ったことないから分からないな。どんなところなのかな?」

 

 フェイトもアリシアも家庭教師や通信学校で今まで勉強してきた。なので、学校という施設には通ったことがない。

 というのも、当時は色々と敵が多かったプレシアが溺愛する娘たちを想って行かせなかったのだ。

 

「そうなの? 楽しいところだよ。ジュエルシードが集め終わったらプレシアさんに頼んでみたらどうかな?」

「そうだね………うん。ちょっと頼んでみる」

「あ、でも。その場合ってフェイトちゃんたちは元の世界に戻っちゃうのかな?」

「それはまだ分からない。母さんはもう戻りたくないって言って辺境の場所に住んでたくらいだし」

 

 2人の会話に入るように、ユーノとアリシアから連絡がきた。

 

≪ほらほら2人とも≫

≪広域結界終わったよ≫

 

≪≪了解≫≫

 

 

「はぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

 

 フェイトが連絡を受けてから儀式魔法を展開する。

 

「儀式魔法かぁ………これが攻撃に使えたら面白いと思うの」

 

 なのはが何か物騒なことを呟いているが、フェイトは儀式の行使に集中して魔力を練っているために聞き取ることはできなかった。

 

「………バルエル・サルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷」

 

 空を雷雲が覆い、ゴロゴロと雷が鳴り響く。やがてそれらは範囲を拡大し、

 

「サンダーフォール!!」

 

 落雷と成った。

 あちこちに落ちた雷だが、ある一箇所に落ちたところで魔力の奔流と共に光が地上から天へと昇った。

 

「なのは!」

「うん!」

 

 それを確認したなのはが真っ先に飛び向かう。

 モードは既に封印に使うシーリングモード。

 

「リリカル! マジカル! ジュエルード、封印!」

 

 光の帯が伸び、ジュエルシードが包まれる。やがて、光は収縮し―――消えた。そこに残っていたのは、封印が完了したジュエルシードのみだった。

 どうやら、今回はなのはたちの作戦が勝ったようである。

 

「やっ―――」

 

 

 

 

 

―――ドォンッ!!

 

 

 

 

 

 なのはの言葉を遮るように、近くの場所で再び光の柱があがった。

 

「――っ!?」

「ジュエルシードがもう1個!?」

 

 各々が反応したようにジュエルシードがもう1つ近場にあったようである。雷が落ちたのが微妙に遠かったのか、同時に発生しなかったのは幸か不幸か。

 

「ぐぉぉぉっ!?」

 

 その一瞬後、飛び出してきた小さい影に何故か近くにいた霧谷が捕まれ―――

 

 

 

 

 

――萃鬼「天手力男投げ」

 

 

 

 

 

 振り回した。

 

 ぐるんぐるんと霧谷が回る。周り霧谷に吸い寄せられるように、岩盤があちこちからくっついてくる。やがて、大きな岩の塊りとなり―――放り投げた。

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 

 岩の塊もビルにぶつかったら砕けて消えた。どうやら魔力で作られた岩盤のようである。

 

「あれは………?」

 

≪なのは! フェイト! 気をつけて! ジュエルシードの思念体だ!≫

 

 慌てたような声が2人に目の前の存在を確定させた。

 

「思念体!? あれが!」

 

 そこに浮かんでいたのは、茶髪の小柄な少女。頭の左右から角のようなものが生えていて、手には千切れた鎖が繋がっている。紫の大きな瓢箪にはお札が貼ってあり、少女が目の前で中を飲み干す。漂ってくる酒気から中身を酒だと判断する。

 とろんとした眼で少女は次の敵―――なのはとフェイトの方を向いた。

 

「くる!」

 

 

――萃符「戸隠山投げ」

 

 

 ぐるんぐるんと回した腕に再び岩盤が集まりだす。やがて巨大な塊となったソレをなのはたちに投げつけた。

 

「レイジングハート! 練習中のアレやってみよう!」

『all right』

 

 モードはナックルモード。両の手にデバイスを装着し、拳を握る。父から教えを受け、裕也から教えられたマンガの中にあった一つの技―――

 マンガの中の世界なだけに、少々無茶なことが描かれてもいたが、そこは自分流にレイジングハートと改良を加えていた。

 

「いくよ!」

『Devine Blow』

 

 構えから放たれた小さな拳が大きな轟音と共に岩盤を抉り砕いた。目の前には少女へと通ずる道。塊は砕け、幻となって消えていく。

 そのまま速度を殺さずに岩盤の中を突き進み、少女へと到達する。

 

 が、

 

 

――風羽(ふわ)

 

 

「え、消えたっ!?」

 

 なのはが近づく前に、少女は自ら霧になって消え―――なのはの後ろに再び出現した。岩はないが、既に拳は振り上げた状態。いつでも放たれる姿勢だ。

 その小さい拳にどれほどの威力が詰まっているかは分からないが、

 

(あれは―――危険!)

 

 なのはの本能が、防御ではなく回避することを選択させる。そして頼れる愛機であるレイジングハートもその意思を組まなく受け取り、シールドなどは張らずに全力での回避を選択した。

 

「―――させないっ!」

 

 更にフェイトが少女の後ろから得意の速さで回り込み、バルディッシュを振り上げ、下ろした。

 

 

「……………」

 

 

 少女はそれを避けるでもなく躱すでもなく―――その身で受け止めてみせた。フェイトの雷の刃を―――その腕で。

 魔力の刃を素手で受け止めても傷1つ付かないどころか、雷を浴びても眉1つ変えなかった。

 

「今度こそ!」

 

 なのはが追いつくと同時にフェイトが離れる。今度こそとなのはが拳を突き出して少女に攻撃を加えるものの、やはり防がれた。

 しかし、そこで終わるなのはではなかった。

 

『Double Break』

 

 

 

―――牙厳(がごん)っ!

 

 

 

 防がれ密着している状態からそのままの体勢で相手を吹き飛ばした。予想外の攻撃に能面のような少女の顔は驚きの表情で飛んでいった。

 

「なのは………今のは?」

「にゃはは。零距離から相手に接触した状態で穿つ技。成功してよかったの」

 

 ダブル・ブレイクと名付けた拳技。

 初撃は拳を握らずに放ち、相手に密着した状態で次に拳を握り、その時の衝撃と軽い腕の動作で相手を吹き飛ばしたという。

 

「………す、すごいね」

「がんばったの!」

 

 ぐっと笑顔でサムズアップするなのは。もし、ここに裕也がいたら頭を抱えていたかもしれないが、今はいないので割合する。

 

「でも、まだ終わりじゃないみたい………」

「だね………ちょっとやりにくいしね」

 

 見た目もなのはたちとあんまり変わらないのもやり難さの1つ。全力を出しているつもりではある。人間ではないのも分かってはいる。だがやはり、どうしても腕や体が鈍ってしまうような感じがしていた。

 対する少女はふわりふわりと落ち着き無く揺れていた。時々、思い出したように酒を飲んでは幸せそうに顔を歪める。

 

「くっそっ! さすがの萃香ってとこか!?」

 

 ビルの一部から飛び出してきた霧谷がそう吐き捨てる。手にはお馴染みの白黒の二対の剣が握られている。

 

「すいか?」

「………………」

「こんの、やろおおおおおおおお!!」

 

 思念体の少女にやられたのが余程頭にきたのか、霧谷が愚直に特攻する。対して少女はため息を吐いたかと思うと、詰まらないものを見るかのように霧谷を見下した。

 

 

「―――“伊吹萃香”。それが彼女の名だ」

 

 

「あ―――」

「クロさん」

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドォンッ!!

 

 

 諏訪子に言われ、妙な不安感に囚われた俺はやはりというか現場に来ていた。行くことを決意した際に諏訪子に笑われたのは割合する。もう慣れた。

 俺が来た時にちょうど始まったのか、ジュエルシード発動と思われる光の柱があがっていた。

 

『あそこだな』

『だねぇ。誰か戦ってるのか、戦の気配がするよ』

『―――そろそろスカさんに連絡をいれておくか』

 

 更に近づいた時、霧谷が吹き飛ばされるのが見えた。そして、その先に佇む少女の姿も。

 

(幽香の次は萃香か………なんで、こうも東方のキャラが現れるんだ?)

 

 恐らくだが、彼女も以前に出会った幽香と同じく思念体のはず。何故東方のキャラが思念体として出てくるのかは不明だが。

 

『やぁ、今はクロなのかい?』

「あぁ、今ジュエルシードが発動していてな。あいつらが先に行っていると思うが、例の思念体が見える」

『なるほど。強敵という訳か』

「戦力的には十分だからすぐ終わると思うが……」

『了解した。ウーノとチンクも近くに向かわせておこう。何もないならそれはそれでキミの観察に努めさせてもらうよ』

「りょーかい」

 

 スカさんと連絡を終えたら、向こう側にも動きが見えた。

 

『お、動いた』

 

 まず先に動いたのは萃香だった。ぐるんぐるんと腕を振り回して周囲から岩盤を萃めてくる。近くになのはとフェイトが見えることから、敵と見定めたのは彼女たち2人のようだ。

 

『なのはが動いた』

『レイジングハートは持ってない? いや、違うのか』

 

 ここからでは遠いが、拳に纏っているのがデバイスの一部だろう。ならば、あれが噂のナックルモードか?

 

 

―――ゴォンッ!

 

 

 おぉ、岩の塊が砕けましたよ。奥さん。あんな小さい子供が自分よりも大きな塊を砕きましたよ。すごいですねー、恐いですねー。

 そしてそのまま接近するものの、萃香は霧状になることで追撃を避けた。その先で待っていたフェイトの攻撃も防ぎ、

 

『おっ。なのはの攻撃かな?』

 

 再びなのはが攻める。これも空いてる腕で防ぎ―――

 

 

――ガゴンッ!

 

 

 なのはが萃香を吹き飛ばした。

 

『今―――何をした?』

『ん~、こっからだと分からないね。特に動いた形跡はなかったけど』

 

 何か似たようなことをマンガで見たような気がするが、きっと気のせいだろう。うん。冗談でなのはに読ませたけど、いやいやまさかそんなばかな。

 だってアレは人間辞めちゃった人たちが……………あー。

 

『な、何はともあれ、今が近づくチャンスだな』

『だね~』

『さて、諏訪子。お前のお望みの戦闘だ。準備は万端か?』

『もちのろんだよ! さぁ行くよ! 裕也! パワーアップした私を見せてあげるよ! 死なないでね(笑)』

『………善処はする』

『もし死んだら墓にポッキー立ててあげるから、安心してね』

『分かった。絶対死なない』

 

 諏訪子のやる気も十分なようなので、俺は2人に近づいて飛んだ。

 

 

「くっそっ! さすがの萃香ってとこか!?」

 

 

 途中、ビルの一角から飛び出した霧谷がそう吐き捨てるのを聞いた。やはり、知っていたか。

 

「すいか?」

「………………」

「こんの、やろおおおおおおおお!!」

 

 特攻した霧谷に代わり、なのはたちには俺が答えてやるとするか。

 

「―――“伊吹萃香”。それが彼女の名だ」

 

「あ―――」

「クロさん」

「ジュエルシードの思念体か」

 

 2人の後ろに降り立つ。視線の先では霧谷と萃香が激しい戦闘を繰り広げているが、萃香の方が優勢であった。力は強くとも技術を置き忘れている霧谷では荷が重いようだ。それでも現状は拮抗に持ち込めているあたりは、強いのだろう。

 だが、当たれば必殺の一撃でも当たらなければ恐くはない。

 

「知ってるんですか?」

「知ってると言えば知ってるが、知らないと言えば知らない」

 

 まさかゲームのキャラですとは言えない。諏訪子も咲夜さんも存在していることだし、萃香ももしかしたら存在しているかm………いや、幻想郷があるんだからいそうだよな。

 というより、俺も詳しくは知らないからなぁ………。何故東方のキャラなのか。何故思念体という形なのか。謎は深まるばかりだ。

 そろそろじっちゃんの名をかける探偵とか出てきませんかね? この謎を解決してくれ。

 

「クロさん、よくあの子が思念体って分かりましたね?」

「あぁ、以前に似たようなことに出会ったからな。あの時もあぁして現れていた」

「その時はどうしたんですか?」

「倒したら大人しくなった」

 

 消える最後の瞬間に恐ろしい宣戦布告をされたけどね。まぁ、会うことはない―――

 

 

 

 

 

『――――――ニィ』

 

 

 

 

 

「―――っ!?」

 

 あれ!? なんかすげー悪寒がしたぞ!?

 

『よく分からないけど、裕也にフラグが立った気がした』

 

 黙ってなさいダメカエル。

 

「クロさんってすごいんですね………」

「ほえー………」

 

 すごく驚かれている。この前渡したジュエルシードがこの前のだ、と言ったら更に驚かれた。まぁ、目の前の萃香ほど強くは無かったってのもあるので、そこまで尊敬される云われはない。

 

 

――四天王奥義「三歩壊廃」

 

 

 萃香のスペカが発動したのを見送る。

 霧谷の全ての攻撃を霧化することで無効化し、自身は巨大化しながら接近する。一歩、踏み出すごとに巨大化し、拳を穿つ。それが三度、行われた。

 

「―――ただのパンチに見えたが、中々に速いな」

「ですね」

 

 トドメの最後の拳を叩きつけられた霧谷は、再びビルへと墜落した。

 

「なのは! フェイト! っと、クロさん?」

「アリシアか。ちょうどいい。どうやら次の敵は俺たちのようだぞ」

「え?」

 

 霧谷を倒したからか、萃香がこちらを見る。いつかの幽香とは違い、その眼に宿るのは空虚な闇ではなかった。

 

(―――?)

 

 確かにその瞳には光があった。理性の光があったが―――

 

(なんだ?)

 

「姉さん! くる!」

「修行の成果をみせるの!」

「ちょっとまって! 私に状況を説明して!」

 

 悪いが、そんな時間はない。

 

 

『裕也―――』

『あぁ―――神遊びを始めようか』

 

 

 

 


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