不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第19話 「車椅子」の少女

夜の闇の少女

 

歯車は回る

 

 

されど、目醒めはならず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後。

 

「やってきました高台!」

「やってきましたね高台!」

 

 諏訪子と2人、俺たちは高台に来ていた。

 

「で、裕也くん。ここはどこかね?」

「高台だ!」

「高台のどこかね?」

「林の中だ!」

「もっと詳細を」

「林の中のどっかだ!」

「つまり、迷子ってことでよろしいかね?」

「うむ」

 

 まぁそういうことだ。

 

「一度行ったんでしょ!? 何で迷ってるのよ!」

「いや~」

「褒めてない!」

 

 こっちの方が近道じゃね? って進んだ道がまさかハズレだったとはね。俺の勘も鈍ったかな?

 

「まさかの孔明もびっくりだ」

「こーめーもよーめーもどうでもいいよ。どうするの?」

 

 どうするも何も前に進むしかない。だって、帰り道も分からないし。まぁ、そこまで大きな場所ではないから、適当にまっすぐ進んでいけば帰れるとは思う。まっすぐ歩ければな。

 

「とりあえず、お前の力で何とかならない? 元は一緒だろ? なんかこう引っ張り合う的な力はないのか?」

「そんなご都合主義なものある訳ないじゃん」

「まぁ物は試しでやってみようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ご都合主義」」

 

 諏訪子の勘に従い、右へ左へと進んだところ、例の社に着いた。着くことができた。ご都合主義の力はすごかった。

 

「まだ残ってたんだ………」

「え?」

「ここは分社。なるほど、確かにここならば出現できるね」

 

 ここは建御名方神―――八坂神奈子と戦う前に建てられた分社。諏訪子の本体ではなく、分神が崇められていた場所だという。

 今ではこうして忘れ去られてしまったが

 

 

―――反転。

 

 

「おっと、お出ましかしら? ()

『久方ぶり―――というのもおかしな話か? ()よ』

 

 目の前に現れたのは巨大な白蛇―――ではなく、最初から諏訪子と同じ姿だった。やはり、威圧感は圧倒的に違う。

 

「むっ、私と違う………あんたは白蛇(その姿)のままなのね」

 

 だが、諏訪子には違いが分かったようだ。

 

『然り。我は全盛期の頃の分霊故にな』

 

 どういうことかと話を聞けば、諏訪子は例の神戦で負けて蛙の姿を押し付けられた神だという。対して、カリスマ諏訪子は全盛期の頃に分けられたので、その姿はかつてのまま―――

 

『ま、それ故か―――本体からも忘れ去られているようだがな』

 

 どちらにしろ哀れな神であるのは間違いなさそうだ。

 

「で、私に会いたかったみたいだけど、何か用?」

『ふむ―――』

 

 それを最後に2人は黙ってしまった。俺の知ってる諏訪子もカリスマ諏訪子も虚空を見ているかのように微動だにしない。

 いたずらとかしようかと思ったが、相手は神様。しかも祟り神だ。仕返しにどんなことをされるか………で、済めばいいか。となれば、静かに待つしかない。

 無力な一般人である俺はただ静かに待つことしかできないのだ。

 

「持って来て良かったPFP。俺は伝説を始めるぜ」

 

 さぁ、始めよう伝説を。龍討伐開始だ。

 

 

 

 

 

 

―――しばらくして

 

 

「―――むぅ」

「お?」

 

 体を薄くさせて消えていくカリスマ諏訪子。こちらの諏訪子は不機嫌な顔でそれを見送ってる。よくは分からないが、話は終わったようである。

 

『話は以上だ』

「………」

『裕也よ』

 

 不意にカリスマ諏訪子がこちらを向く。既に下半身は失われ、その存在感を消失させているのに威厳はそこにまだ残っているのが分かった。

 

『覚えておけ―――彼らの力を使うならば、死を覚悟せよ』

「死?」

『然り。努々、忘れるな』

「そんなことは―――」

『来る。決断を迫られる時が来る。確実だ』

 

 ―― 何を生かし、何を殺すか ――

 

『覚悟せよ』

 

 よくは分からないが、彼らの力を使う時がいつか来て、その力を使ったら死ぬかもしれないよってことか。

 諏訪子なら彼女って言うだろうし、または我の力とか。彼ら………彼ら? “ら”ってことは複数形?

 

「ま、分かった。覚えておく」

『あぁ………これで、ようやく―――――』

 

 

―― 我も眠ることができる ――

 

 

 そして静かに消えた。気付けば、辺りの風景もいつも通りに戻っていた。目の前には社。ただその社からは、見た目通りのボロさしか伝わってこなかった。

 住んでいた神が消えたから、なのだろう。

 

(神のいなくなった社………)

 

 今の世の中、目の前の社みたいなのはどれほどの数存在することか。少し、寂しく感じた。

 

「―――して、どうなったん?」

「うん。ちょっと融合―――というか、吸収した」

「ほう」

「で、新しい力が手に入った………というより、元々あった力に戻ったって感じ」

「ほうほう」

「でも、その力使ったら裕也がヤバいことになる」

「ほうほ―――ダメじゃん!」

「でもね、適量範囲内ならば問題はないよ」

「適量って?」

「使っていくうちに分かるよ」

「やっぱダメじゃん!」

 

 貰った力というのが“祟り”の強化だ。

 万物を呪うこの力、今までは敵対する相手にのみ効果を及ぼしてきた―――というのは、ただ単に力が弱かっただけ。それが元通り、とまでは言わないが、それなりに強化された。

 強力になった祟りは周囲はもちろん、使用者である“人間”にも影響を及ぼすことにもなってしまった。だがまぁ、諏訪子のおかげで最小限に抑えることは可能である。ただし、ゼロにはならないとのこと。

 つまり、祟り系のスペカを使いまくると、自滅するということだ。で、どれくらいならば問題ない範囲ってのが分からない。

 少しばかり俺は無茶をしなけりゃならんことだが………寿命が減るとかってのはないよな? うん。肯定する場合はこっち向けよ、諏訪子。

 

「あ、それと、私の魔力消費が若干緩くなったから多少は長く戦えると思うよ」

「お、それは嬉しいね」

 

 分神体からちょっとパワーアップしたおかげで、存在維持に回す魔力が若干少なくなった。その分、戦闘に回せるので長く戦うことができる。

 より長く戦いたい訳ではないが、長く戦えるのと戦えないのではけっこう違う。選択肢があるかないかは大きい差だ。

 デメリットは少々あったが、全体的に考えればメリットの方が大きいと思う………そう考えさせてください。

 

「そういえば、ふと気になったんだけど」

「ん?」

「あれが全盛期の諏訪子なんだよね?」

「………まぁ、過去の私ではあるよ」

 

 記憶の中のカリスマ諏訪子と目の前の諏訪子を見比べる。体に精神が引っ張られたとでも言うのだろうか。

 

「どうしてこんなになるまで………」

「うっさいな! 私にも色々あったの! ほっといてよ!」

 

 やっぱ例の神戦が原因なのかねー。一人称が変わるほどな出来事だったのだろうか。

 

「元は同じなのに」

「………祟るよ?」

「おkボス」

 

 人の過去に歴史あり。ま、カリスマ諏訪子みたいに固っ苦しいと確かに肩が凝りそうだ。今のかりちゅま諏訪子で良かった。

 

「ふんっ!」

「あいたっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 男がゆったりと歩いていた。黒いきっちりとしたスーツに中折れハットを深めに被った姿。手荷物は少なく、会社から帰ってきた父親を思わせる。しかし、今の時刻は昼。会社帰りには早いし、向かうには遅すぎる。

 そんな男が向かう先に1人の少女の姿が見えた。

 

「ん………しょ! ダメやー、動かへんわ」

 

 車椅子に乗った少女は懸命に車椅子を動かそうとするがびくともしない。道路の溝に嵌まったようで、それをなんとかしようとたった1人で頑張っていた。しかし、押そうにも引こうにも少女の腕力では動かすことは出来なかった。

 いざとなったら車椅子から降りて自分で押せばいいかもと思ったが、それも容易にはできない。何故ならここは緩やかな登り坂。自分という支えがなくなったら車椅子は後ろ向きに快走して、曲がり角で粉微塵にならないかと心配している。

 

「ほえ?」

 

 がこんっと溝から車椅子が外れ、自由に動かすことが出来た。だが、それは少女の力で動いた訳でもなく、超上的な存在が願いを叶えてくれた訳でもない。

 

「これでよろしいかな? お嬢さん」

「あ、ありがとうございます」

 

 少女の車椅子を後ろから男が押して、溝から外したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、寛治さんは冒険者なんやー」

 

 男の名は“影月寛治”。世界を駆け抜ける冒険者と名乗った。怪しいというレベルではないにも関わらず、少女は男の言葉を真っ直ぐに捉えてそれを信じた。

 

「うむ。はやてくんは素直な良い子だね」

 

 少女の名は“八神はやて”。海鳴に住むごく普通の少女だ。車椅子に乗っていることから分かるように、彼女は足が不自由であった。だが、それをおくびに出さずに元気に真っ直ぐに育っているのが寛治からも窺えた。

 

「じゃあ、冒険者のお仕事が終わったから戻ってきたん?」

「うむ。悪者も退治したことだし、無事に仕事も終わったのでな。久しぶりに我が家に帰ってきたのだよ」

 

 どこかの小説やゲームにでも出てきそうな話のようなことを語りながら、寛治ははやての乗る車椅子を押し続けた。

 最初こそ断っていたはやてだったが、ここであったのも何かの縁と言って強引に寛治は押し進めたのだ。適当に押し進めたものだから、途中で折れたはやてが正しい道を指し示した。

 途中ではやてが折れたからいいものの、折れなかったらどこに連れていこうとしたのか。それとも折れるまで適当にぶらぶらするつもりだったのかと問えば、

 

「何、その時は我が家にご招待したまでさ」

 

 と曇りの無い笑みで応えてくれた。何とも食えない人である、とはやては思った。

 

 

 

 

 

 

「時にはやてくん。君は何故1人で出歩いていたのだい?」

「あっ、と、うちは1人やねん」

「ふむ?」

「両親はうちがちっちゃい時に死んじゃったみたいでな。兄弟もいないねん」

「ふむ………これは知らないとは言え、すまなかった。では、君は今1人なのかい?」

「そやで」

 

 気にしないでくれ、と笑うはやて。もう慣れた、と。その姿に寛治は足を止め、くるりと回転する。車椅子ごと。

 

「ひゃわっ!?」

 

 体が浮いたことで慌ててはやては車椅子にしがみ付く。もちろん、寛治とてはやてを振り下ろそうとは考えてなく、むしろ体は浮いたものの落ちないように調整していた。

 

「それはいかんな。うむ。いかん」

「え?」

「しっかり捕まっていたまえ」

 

 寛治は言い終わらないうちに走っていた。

 

 

「ひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 激しく揺れる車椅子に必死でしがみつきながら、はやてたちは元来た道を戻っていった。静かな住宅街に少女の悲鳴が響いて―――消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今帰ったぞぉい!」

 

 ドパンッとドアを蹴破って寛治が家の中に飛び込んだ。

 

「あら、おかえりなさいませ」

 

 出迎えてくれたのはこの家のメイドである“十六夜咲夜”であった。彼女も慣れたもので、寛治の奇行にも一々反応しなくなった。

 

「あら、おかえり~♪ あなた」

「ただいま、おまえ」

 

 もう1人の出迎えてくれた女性“影月澪”―――寛治の妻は語るまでもなく。即座に自分たちの世界を築きあげて、周囲をピンク色に染め上げていた。

 それらを華麗にスルーして咲夜は寛治に聞いた。

 

「それで、こちらの目を回している方はどちら様です?」

「きゅぅ~………」

 

 寛治がお土産と称して意味不明なモノを持って帰ってくるのはよくあること。だが、少女を拾ってきたのは初めてのことだ。

 

「遺跡の中で見つけたのかしら?」

「ありえ―――ないとは言い切れませんね。寛治様の場合」

 

 連れてこられた少女は現代の車椅子に乗り、現代の服を着ているという点に気付いたであろう彼の子供たちは今はいない。

 故に、咲夜と澪の2人の少々ずれた言葉に突っ込みを入れる者はいなかった。

 

「うむ。彼女は―――――」

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校から帰ってきたら親父が帰ってきてた。それはいい。同時に、家族が増えていた。妹でも弟でもないし、生き別れの兄弟とかでもない。まして、親父のことでもない。

 

「よろしゅうな」

「あ、ども」

 

 まったく知らない………という訳でもないけど、他人である少女がいた。名を“八神はやて”。後に夜天の王と呼ばれる魔導師(予定)の少女だ。

 

 

 

 

「―――で、もっかい説明してくれ。親父」

「うむ。お前は白痴にでもなったのか?」

 

 はやてを含めた俺たち家族はお茶の間に集まっている。だが、この中に咲夜さんはいない。彼女は今、カオス部屋の向こうで中華鍋を振るっている最中だろう。

 今夜は中華にしようと言って買ってきた中華鍋。しかし、家の台所で使うには火力はもちろんスペース的に厳しい。かといって庭でやれば、ご近所さんから通報物だ。だからといって諦めるのではなく、カオス部屋に持ち込んで料理を作って持ってくるという風に考えるのだから流石である。瀟洒なメイドはやることが違った。考えることもズレていた。

 話が逸れた。

 

「はやてくんはこの歳で1人暮らしをしている。だから連れて来た」

「うん。1つ言っていいか?」

「なんだ?」

 

 親父の後ろに移動して、手には諏訪子から渡されたハリセン。

 

「だからといって、勝手に連れてきちゃダメだろがー!」

 

 親父の後頭部目掛けて一閃。小気味良い音が響いた。

 

「んでもってさりげなくハリセン渡すなー!」

「わひゃっ!?」

 

 返しの一撃で諏訪子にも一閃。なんでハリセンだよ!? なんで持ってるんだよ!? ついつい使っちゃったじゃんか!

 

「今のはナイスアシストって褒めるところでしょ!? 何で私叩かれたの!?」

「うっさい! このダメダメ幼女が!」

「ふむ。兄妹喧嘩よさんか。しかし、もう1人くらい欲しいところだな」

「「兄妹じゃない!」」

 

 俺と諏訪子が言い争いをしていると親父が今度は妹が欲しいとか呟いた。頑張るのはいいが、俺たちのいないところで頑張ってくれよ。精神的に悪いから。

 

「えっと………やっぱり、うちは迷惑やないんか?」

「そうね。はやてちゃんは2階への移動は厳しそうだから、1階の私と同じ部屋でいい?」

「へ?」

「ごめんなさいね。後は裕ちゃんと諏訪ちゃんの部屋か、咲ちゃんの部屋になっちゃうの」

「いやいや、そうやなくて………」

「そうよね。やっぱり、同じ年頃の子と同じ部屋がいいわよね………あの部屋に3人も入るかしら?」

「か、会話が成立してへん! だ、誰かー!」

 

 むっ、はやてがSOSを出している。母さんを相手にまともに会話しようとしても素人では難しいからな。仕方があるまい。

 

「ヘイ、母さん。はやてが困ってるみたいだが、何をした?」

「あら、裕ちゃん。はやちゃんを裕ちゃんたちの部屋に入れたいのだけど、大丈夫かしら?」

「んー、ベッドを取っ払えば3人で雑魚寝って感じでスペースは大丈夫かと。私物が増えたら分からん」

 

 俺も諏訪子も私物と言えるものは少ない。精々が服とか机とかそういった物だろうか。マンガとかは親父の書室で、ゲーム機などは居間に置いてあるので部屋にはない。時々泊まりに来るなのはも俺の部屋だし、寝る分には問題ないが………。

 

「ただ2階だよ?」

 

 はやては車椅子で移動していたし、自己紹介の時にも足が動かない旨を聞いた。うちは階段しかないので、2階への移動は足が不自由だと厳しいのではないだろうか。

 

「移動の時は裕ちゃんが抱っこすればいいのよ」

「………」

「………」

「ね♪」

 

 サムズアップして笑みを浮かべる我が母。ダメだ。母さんの中では既に決定事項として組み込まれている。これを覆すのは容易ではないぞ。

 

「でm「あなた~」いd「任せろぉ!」むr………って、行動早いな! ちくしょう!」

 

 親父が神速で2階に駆けて行った。行き先は聞かずとも分かる。俺の部屋だろう。さっき、自分で言ったしな。

 

 ベッドを取っ払えば………と。

 

 そして直後に聞こえる何かの破砕音。続く高笑い。

 

「あー、これはやっちゃったね」

「やっちゃったなー」

「え? 何? 何が起こったんや?」

 

 笑みを浮かべる母。聞こえる親父の高笑い。全てを諦めた俺と含み笑いをしつつ俺を慰める諏訪子。はやては訳が分からず、答えを求めて周囲をひっきりなしに確認していた。しかし、彼女に答える者はいなかった。

 

「晩御飯が出来ましたよ―――どうしました? 裕也様」

「………うん。後片付けが大変だなーと」

 

 どうせ親父が後のことなんか考えずにベッドを粉砕したのだろう。せめてベッドの上の布団一式を外してから粉砕して欲しかった。木屑とかを取り除くの面倒だなー。

 

 そんなこんなで微妙な空気になってしまったが、八神はやての歓迎会は無事に開始された。

 

 


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