不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第16話 欲望の「温泉」

 

 

悪を裁く

 

男の温泉

 

 

ユックリシテイッテネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月の連休―――世間一般では連休ではないが、聖祥小学校の創立記念日故に俺たちは連休となっている。土日と合わせて三連休である。

 宿題がいっぱい出されたが、俺には薄い壁。小さい障害だ。今夜にでも宿題を終わらせて、休みを満喫する。

 

(最近は色々あったからなぁ………休むんだ。精神的にも)

 

「―――以上だ。少し休みが長くなるが、だらけないようにな」

「「「「おつかれさまでしたーーー!」」」」

 

 姫様のHRも終わり、俺は颯爽と教室を後にした。下手にちんたらとしてると大魔王なのはやバーニング・アリサなどに捕まる可能性があるからだ。

 なんだか目を輝かせていたしな………。触らぬ神に祟りなし、だ。

 

「あ、裕「おーい、なのはー!」」

 

 案の定、俺に声をかけようとしたなのは。だが、一歩遅く霧谷が間に入る。今だけはお前に感謝する。

 そのまま俺は廊下を走―――ると姫様からアイアンクローをもらうので、競歩程度に急ぎながら歩く。下駄箱まで無事に辿り着き、校庭を横断して校門をくぐる。

 ここまでくれば週末の連休は安寧だ。ケータイ? 大丈夫だ。電源を切っておけば問題ない。

 

「金よーし! 予約券よーし! 諏訪子の分もよーし!」

 

 今日は新作のゲームの発売日。P○Pならぬ、PFPというハードが存在して、そのソフトだ。

 本当は諏訪子に頼もうと思ってたんだが、あの幼女。見たいドラマがあるからといって、プールでの一件で俺が取得した罰ゲームをここで使いやがった。

 

「まぁいい、早く帰ってやらなければな! 七龍伝説!」

 

 ネットでの評価も他と大差を付けて圧倒的に高い。

 舞台は近未来の東京で、異世界からやってきた7頭の龍を退治するストーリーだ。主人公たちは異能に目覚めた男女で、自分の好きなようにカスタマイズできるのが特徴だ。

 1人でも遊べるが、数人で協力して遊ぶことも出来る。

 

「よっしゃー!」

 

 いつもなら中古で買えるまで待てば………というスタンスだったが、こればっかりは無理だった。一目見た瞬間に買わなければ、と思った程だ。

 子供の身にゲームソフトというのは中々大きい買い物だ。小遣いをこつこつ貯めるという苦行もこれでようやく終わる。

 

 

 

 

 

 

 諏訪子の分もいっしょに買い、スキップしながら家に帰れば咲夜さんと母さん、ついでに諏訪子が荷造りをしていた。

 

 夜逃げの準備?

 

「違いますよ。明日からの温泉旅行の準備です」

「あぁ、温泉旅行か。行ってらっしゃい」

「何を言っているんです?」

「え?」

「裕也様も行くのですよ」

 

 4月。連休。温泉………ジュエルシード?

 

「パスで」

「ないです。第一、家に1人で残っていてどうするんですか? 食事とかもありますし」

「最近はコンビニでも十分なものが………」

「ダメです。私がいるうちは偏った食事はさせません」

「えー」

「それに、今の裕也様にはお金がないのではありませんか?」

 

 うぐぅ。確かにゲームソフトを買ってしまったから、財布のHPは残り少ない。

 1食くらいなら大丈夫だとは思うが………もやしでも買って繋げばいけるか? 買い置きのカップ麺も確か数個あったはず。いざとなれば、サバイバルリュックの非常食を食えば………。

 あれ? 大丈夫じゃね?

 

「裕也様。買い置きのカップ麺は諏訪子様が食べました。サバイバルリュックの非常食もこの前、勝手に裕也様が食べましたよね?」

 

 まぁでも、ジュエルシードが必ず発動するって決まった訳じゃないし。なのはたちもいないなら、のんびりできる、か?

 ひとりでおるすばんできるかな? は却下されてしまったので、仕方なく付いていくことにした。

 さーて、七龍やるぞー。非常食? 覚えてないけどアレはマズかった。覚えてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と思ってた俺を殴ってやりたい」

 

 あながち予想通りで泣けてくるよ。

 

「どうしたの? 裕也くん」

 

 うちには車がない。バスとか電車で行くのかなっと思っていたら、うちの目の前に止まった車が3台。中から顔を出したのは、なのはやアリサたちだった。

 どうやら高町家は全員。それにアリサとすずか。すずかの姉とメイド2人と、原作通りの人たちが集まっていた。そこに俺と母さんと諏訪子、そして珍しく咲夜さんが混ざることになった。

 

「うんにゃ。突然のことで理解が追いついていないだけだ」

「だらしないわねー」

「うっせ」

 

 諏訪子を除いた俺たち子供組みは士郎さんが運転する車に。すずかの姉“忍”さんが運転する車には恭也さんとファリンさん。ノエルさんが運転する車には、母さんと諏訪子と咲夜さんが乗っている。俺がいる車には人が多いので、荷物は他の2台に分けて乗せている。

 

「というか暇でござる。1人でPFPやってていい? おれTUEEEE! していい?」

「あ、じゃあトランプやらない? 私、持ってきたんだ」

 

 すずかが取り出したトランプ。それを使って何をするかで大貧民をすることにした。と、ここでメールが。諏訪子?

 

『わたし、TUEEEEEEEE!!』

 

 と、共に添付された画像にはボスと思われる龍が倒れているゲーム画面の絵。昨日買った七龍のゲームだ。

 

「………………」

「どうしたのよ? あんた」

「いや、ちょっと、どう表現したらいいのか分からなくてな………まぁいい」

 

『ハッ! バカめ! 俺はこっちで仲良くトランプだ! そっちは1人で無双して宿に着いたら手伝ってください!』

 

 送信。

 着信。

 

『その時の気分による。あ、ネタバレするt』

 

――パタンッ

 

 メールを全文みないでケータイを閉じた。俺が進んでいないからってネタバレ文を送ってくるとは………。卑劣な奴だ。俺から楽しみを奪うことを許さん!

 

「じゃ、始めるわよ」

 

 とか何とかやってるうちにカードが配られていた。

 今更だが、こいつらは車酔いとか大丈夫なのか? 俺は酔い止めを事前に飲んでるから大丈夫だが。

 

「カード交換はあり?」

「もちろんよ」

「イレブンバックはありなの?」

「いれぶんばっくってなに?」

「すずかは知らないのね。じゃあ、無しで」

「おk。8流しでジョーカーに勝てるのはハートの3?」

「スペードでしょ?」

「あれ? クローバーじゃなかったっけ?」

 

 地方によってローカルルールがあったりするけど、同じ市内でここまでルールがバラバラというのも珍しい。

 細かなルールを統一させて、いざ勝負!

 

 

 

― 時間経過 ―

 

 

 

「バカな………」

 

 4人なので、ランクは平民を抜いた大富豪からの4ランク。そして、俺は大貧民。つまり、最下位である。

 

「お前ら結託して俺をいじめてね?」

 

 俺ほとんどパスしか言ってなかったよ。余裕で勝てるとか考えて最初にあまりカードを出さなかった所為かもしれないが。後半は本気で何もできなかった。

 

「アリサはともかく、のほほんしてるすずかやぽわぽわななのはにまで負けるとは………」

「失礼なの!」

「私、のほほんしてるかなぁ」

 

 大富豪のアリサとカードを交換し、2回戦目。大貧民から勝ち上がるのは厳しいが、ここは一気に革命を起こして勝ちを引き摺り下ろしてやる。

 

「下克上ルールは?」

「ありよ」

 

 ふははは。すぐにその玉座から引き摺り下ろしてやるぞ! アリサ!

 さぁ、成り上がってやろうじゃないか!

 

 

 

― 時間経過 ―

 

 

 

「あんた……弱いわね」

「うぐぅ」

 

 大貧民からババ抜きやポーカーなど、ゲームを変えて挑戦したが、何故か俺はいつもビリだった。おかしい。やっぱ、お前ら結託してるだろ。実は裏で繋がってねぇか?

 と、またメールだ。

 

『裕也、YOEEEEEEEEEE!!』

 

「おい、誰だ? 諏訪子のバカに伝えやがったの」

「あたしよ」

「てめぇか! アリサァァ!」

「だってねぇ?」

 

 メールに返信を打ってたら、また届いた。

 

『m9(^Д ^)プギャー』

 

「うぜぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐあーーーーーー!!」

 

 車から降りて伸びをする。バキバキと体の節々が音を鳴らす。

 結構、長い時間車の中にいたのは確かなようで、都会から離れた田舎にやってきました。緑が豊かというか………緑しかねぇ。豊かすぎる。

 

「さ、荷物持って! 皆、行くよ!」

 

 さて、部屋割りは家族ごとかなーと思っていたが、そうではないらしい。

 まず、小部屋組みが恭也さんと忍さん。高町夫妻。中部屋が母さんと咲夜さんとノエルさんとファリンさん。そして余った子供たちは全員でもう1つの中部屋。

 

 ふむ、何かおかしくないかな?

 

 誰も何も疑問に思わないけど、俺くらいの年頃の場合って気にするのがおかしいのかな? でもさ、女子4人に対して男1人ってないと思うんだがなー。

 士郎さんや恭也さんの方をちらっと見るが、特に変わりはない。いいのですか? あなたの娘さんと一緒の部屋に男がいるのですが。子供ですけど。

 

「じゃ、さっそく温泉に行くわよー!」

「「「おー!」」」

 

 アリサの声に、なのはたちが答える。元気だなぁ。

 

「およ? どうしたの? 裕也」

「諏訪子………俺、もう、疲れてきた」

「じゃあ、温泉だね。心の洗濯をしたら疲れも吹っ飛ぶよ」

「そうね………吹っ飛びたいね」

 

 現実吹っ飛ばして、夢の世界に逝きたいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ところかわって男湯

 

「おぉ、ぉぉぉ…………」

「温泉はいいねぇ」

 

 士郎さん、恭也さんと一緒に今は男湯だ。ユーノも救出して男湯に放り込んである。たぶん、俺が連れ出さなければ女湯に連れてかれたことだろう。

 ホッとした顔をしてるフェレットを俺は忘れない。

 

 しかし、温泉はいいねぇ。同じ風呂なのに、家で入る風呂とは桁違いだ。

 お、向こうは露天ですかー。露天もいいですねー。

 

 

「HA-HA-HA-!」

「ヌゥン!!」

 

 

 当然ながら、俺たち以外にも客はいる。今だと外人のマッチョたちが数人入っている。軍人なのかは知らないが、全身傷だらけのマッチョマンたちだ。

 寂れた―――という訳ではないが、山奥にあるこの温泉宿では珍しいのではないかな。もっと有名な観光地とかならまだ分かるが………どちらにしても珍しいな。

 しかし、すげー筋肉だ。筋肉わっしょい! 筋肉わっしょい!

 

「un? ドウシター? ジャパニーズボーイ!」

 

 じっと見てたらこっちに気づいたようで、話しかけてきた。カタコトながら日本語がしゃべれるのか。ゆっくりしゃべれば通じるかな?

 

「いやー、良い体ですなー」

「HAHAHA! サンキュー、ボーイもグッドボディ!」

 

 ヌゥンッと自分の筋肉をアピールするポーズをする外人さん。それを俺にもやれと言ってくる。子供の体でやってもなぁ………まぁ同年代の奴らよりかは多少鍛えているが、それだけだし。

 

「ぬぅん!」

「「オー! ブラボー!」」

 

 だがこのノリに乗らなければならない!

 

「はははっ、これは俺たちもやらないとな、恭也」

「はぁ………」

 

 俺と外人さんの不思議空間に自ら飛び込んできた士郎さんと恭也さん。2人ともムキムキという訳ではないが、引き締まった立派な体をしている。ついでに下の息子もご立派です。

 俺もあと数年したら立派になるかなぁ………。

 

「オー、グッドボディ……アンド、ナイスマグナム、デスネー」

「はははっ、さんきゅー」

 

 気づけば男湯は地獄と―――ムキムキマッチョが揃うむさ苦しい風呂場と化していた。しかも、全員が温泉に入らずにマッパでポージングをしているという悪夢。

 どうしてこうなったし。

 

 ところで士郎さん。念入りにポージングを教えてもらってますが、何のために?

 

 

「BOSS」

 

 

 と、どこからか全身泡だらけの外人が入ってきた。どんだけ念入りに洗えばいいんだってくらいに泡だらけだ。

 

「The criminal had a motion(犯人に動きあり)!」

「――OK」

 

 なんだ、あの泡だらけの外人さんが入ってきてから、空気が変わったぞ?

 士郎さんたちも空気が変わったのを感じたらしく、彼らに聞いてみることにした。

 

 

 

 

「なるほど、盗撮と覗きか」

 

 洗い場の端の方に2人の男がいる。目立たないように縮こまり、何かをしているが体を洗ってるようには見えない。

 そこで怪しいと思い、外国人の1人が偵察したところ、機械を使って何かの作業をしているのが見えたという。

 それと同時に今この場にいないメンバーから、怪しい動きをした連中が温泉の裏に回るのを見たとの報告もあったそうだ。

 

「ここらへんって何かありましたっけ?」

「いや、何もないよ。あるのは山と川くらいかな」

 

 外人さんのメンバーが怪しい連中を尾行している。十中八九、覗きの実行犯と考えて問題ないだろう。

 

「裏に回ってるってことは、露天風呂を標的としてるのかもしれんな」

「確か、露天風呂の先は崖じゃなかったか?」

 

 そういえば、ここの宿に来るまでにけっこう山を登ってましたね。

 

「そうだが………崖を登るんじゃないかな?」

 

 泡だらけの外人さんに温泉の裏へと回った連中について聞く。というか、まだ流してなかったのね。

 で、怪しげな連中について。人数は3人。全員ともリュックを背負ってはいるが、到底、山登りをするような格好ではなかったと。というか山登るなら別な場所登れよな、って話か。

 

「ふむ………怪しいですな」

「だね」

「だが、どうする? 力づくで抑えたところで効果はあるのか?」

 

 確かに恭也さんの言う通り、こういったことをする奴らは口が上手い。さすがに覗き班は言い訳はできないと思うが、盗撮班は逃げられる可能性がある。

 

 

―――ヒュッ

 

 

「ん? ボール?」

 

 空いてた窓から黒いボールが入ってきた。真っ黒のボールなんて誰が?

 

「ドーヤラ、外ノ連中ハ、黒ダ」

 

 外人さんがこれは暗号だと教えてくれた。

 黒いボール。クロ―――外の怪しい連中は覗き犯である可能性が高い、と。

 なるほど、外で尾行してたグループからの伝言か。

 

「となると、現行犯で捕まえるくらいしかないかー」

 

 何度もここに来たことがあるという士郎さんからだいたいの配置を聞いて頭に入れる。盗撮犯と覗き犯を捕まえるために二手に分かれて行動だ。

 

 

「BOSS」

 

 

 すると、脱衣所からまた別の外人が入ってきた。手にはビデオカメラと何かのコード。もしかして、あそこの2人組の荷物ですか?

 動くのが早いな。ホントにどっかの軍人さんかなぁ。

 

「The criminal's personal belongings were got. This is a thing for a sneak photo.(犯人のブツをゲット。盗撮用の物だった)」

 

 どうやって探し当てたのかは不明だが、やはりあの2人組の荷物らしい。そしたら出てくるわ出てくるわ、動かぬ証拠。いいのかな? これ。まぁいいか。悪いのはあいつらです。

 

「これで奴らは完全に黒になった。憂いはないな」

「あぁ。これで現行犯で捕まえることができる」

「では行きますか。すべては温泉のためにぃ!」

「「「「オンセンノタメニーーーー!」」」」

 

 最初から騒いでいたためか、今の叫び声にも端の男たちは見向きもしなかった。

 

「ノリの良い人たちだなぁ」

「君もだよ」

 

 そんな士郎さんの声は聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして何故か俺は外にいる。

 

「そろそろ崖に出る。注意してくれ」

「「「イエッサー」」」

 

 うん。覗き犯を捕まえるためのチームにいるんだ。何故か。俺も。

 露天風呂の柵を乗り越えて、鬱蒼と生い茂る森林を踏みしめているところだ。先頭を往くのは恭也さん。そして外人さんと俺が続いている感じ。

 士郎さんとボスと呼ばれてた外人さんは中で盗撮犯を捕まえるグループだ。

 ちなみに全員腰にタオルを巻いているだけの姿である。一部の外人さんはタオルが小さくて巻けなかったからといって、首に巻いている。首に巻いたタオルに何の意味があるのかは分からない。彼の息子はぶーらぶら。

 覗きに行く訳ではないが、ある意味で女湯側に行くのだ。こんな格好でよいのか? 下手に見つかったら死ぬんじゃね?

 今女湯に入ってるメンバーは皆、揃いも揃って戦闘能力高い人ですよ?

 

「っと、崖に出たな」

 

 男湯と女湯を仕切る柵というか壁は崖のところまで続いている。なので、向こう側にいくにはこの崖をなんとかしてクリアしないとならない。壁を登るなんてしたら女性陣に見つかるのは間違いない。そして見つかった瞬間=死だ。

 

「ヘイ、キョーヤ」

 

 恭也さんが外人さんと話している間に、もう一度崖を見る。

 崖はけっこう高い。土砂崩れだか何か起きたのか、抉り取られたかのように突然地面がなくなっている。

 

(ロープか何かあれば、一応降りれる、か?)

 

 タオルくらいしか身につけてない俺たちにそんなものがある訳ない。かといって壁を登るなんて論外だしな。

 どうやって行くのか………。

 

「よし。では、いくぞ」

 

 

 とか考えてたら、身投げみたいに恭也さんが飛び降りた。

 

 

「うぇぇ!?」

 

 俺の下で崖から生えてる木などを上手く使って颯爽と跳び降りてく恭也さんが見えた。時には木を、時には壁を蹴って、物凄い勢いで降りていく。

 そして迷うことなく恭也さんに続く外人さん。それで何故問題なく降りれるんだろうか。ここ、斜面じゃなくて崖だよ?

 なんだろ、その身体スペックの高さは明らかに人としておかしくないかな?

 

 あ、俺? 親切な外人さんといっしょに降りたよ。俺は一般人だからな。あんな芸当できん。

 

 

 

 

 

「―――よし、これで全員だな」

 

 中腹当たりで集まっていた外人さんの残りのメンバーと合流。ようやく、作戦が始まるそうだが………このメンバーで逃げられる犯人とかは考えたくない。

 

「犯人たちは今もなお崖を登っている。彼がいうにはその中の1人が妙に手練との報告を受けた」

 

 薄暗い森の中、タオル1枚の男たちが揃って真剣な顔で話し合いをしている。俺の中の常識がガラガラと崩れていく。おかしいはずなのにおかしいと思えない不思議。

 ところで、恭也さんが完全に外人さんたちのリーダーになっています。ホント、なのはが絡むと恭也さんは何でもやるよね。

 

「それは俺が相手するので、皆には残りの奴らの捕獲と証拠の物を押さえて欲しい」

「「「「「イエッサー!」」」」」

 

 戦闘狂の血でも騒いだのか、恭也さんの顔に怒りとも狂気とも取れるような表情が見えた。刀も何も、タオル1枚しか身につけてない状況だけど。

 

「では、行くぞ!」

 

 細かい動き方をやチーム編成などを取り決めて、いざ出陣。

 

「全ては温泉のために!」

「「「「「スベテハオンセンノタメニィ!」」」」」

 

 何だかんだ言って、恭也さんも好きなようだ。ノリノリじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 

 盗撮犯を捕まえるグループにまた1つのボールが届いた。色は赤。

 

「それは?」

「彼ラガ、作戦ヲ始メタヨウダ」

「なるほど。では、こちらも動きますか」

「Yes」

 

 ちなみに、このボール。裕也がいる場所から遠投されているのである。その場にいた彼が驚きの声をあげたとしても不思議ではない。

 

「αハ、ゲートカラ。βハ、グシャヲ、抑エル!」

「「「「イエッサー!」」」」

 

 αは逃げられないようにゲート―――つまり出入り口側から向かって追い出すチーム。βは露天風呂で待ち伏せし、のこのことやってきた奴らを捕えるチーム。

 人数は少ないとはいえ、彼らには慣れない浴場という場所だ。足下にも注意しなければならないし、いつもの頼れる防具もない状況だ。

 とはいえ、素人程度に負けるとは思っていない。

 

「ヘイ、シロー」

「行きましょう」

 

 

 

 

 

 

―――バシャッ

 

 宙を舞った桶が弧を描き、例の2人組みへと落ちた。

 

「「つめてぇっ!?」」

「オー、ソーリー」

 

 そこに息子をぶら下げたままの外人が謝りながら近づく。さり気なく出口を塞いで、仮に逃げられたとしても奥の露天風呂へと続く道しか空いてないようにしている。

 

「ソーリーじゃねぇよ! てめぇ!」

「ホワッツ?」

「あぁん!?」

 

 そこに唯一の日本人である士郎が前に出た。

 

「彼は聞きたいことがあるそうだ」

「あんだよ?」

「君が持っているソレ。ここに必要なものかい?」

「な、あ………」

 

 そこで男も気付いた。自分が、今まで何をしていたのか。そして、今もなお手に持っているものが何かを。

 

「Yes、教エテ、クレマセンカ?」

 

 バキバキと指を鳴らして、外人ズが立ち塞がる。

 

「なんだよ………」

「く、くそっ!」

 

 男は言い訳を考えていたが、良いのが思い浮かばなかったのだろう。おもむろに石鹸を取り出すと、それを外人ズに向けて投げた。

 

「Oh, No!」

 

 床を滑る石鹸たちを避けた外人ズ。だが、石鹸が通った道は滑りやすく、彼らはその場で転倒してしまった。

 

「おい!?」

 

 男はタオルは持たず、持っていたビデオカメラ。そして何かの機材が入ったと思われる浴室用品を入れるカバンを持って逃走。連れの男も相棒が逃げたと知って、すぐに追いかけていった。

 

「大丈夫かい?」

「No Problem(問題ない)」

 

 予想外の反撃を受けたものの、概ね作戦通りだ。男たちは露天風呂へと続く道を逃げていった。

 その先に待ち受けているものがいることを知らずに。

 

「では、私たちも行こうか」

「Yes」

 

 どこからともなく、男の醜い悲鳴が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。

 

「Now, I will begin a festival!(さぁ、祭りを始めようか!)」

 

 だって、地獄はこれから始まるのだから―――

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「The target was discovered(目標、発見!)」

 

 順調に崖登りをするマッパの男たち。外人さんの1人がライフルのスコープで標的を発見したと報告した。どうやら、大分近くまで来たようである。

 

「中々進軍速度が速いな」

 

 奴らは既に崖を登りきるかどうかというところまで上がっている。俺もスコープを借りて見させてもらったが、向こうはちゃんとした山登りの装備で登っていた。格好こそアレだが、一応装備は整えていたみたい。

 こっちは装備も格好も整ってないがな。

 

「なのはが入ってるのに、覗かせん! もう少し速度をあげる! ついて来れる奴だけついてこい!」

「「「イエッサー!!」」」

 

 え? まだ速度上がるんですか? とか思ってたら恭也さんが物凄い勢いで山を蹴り登っていく。そして数人の外人さんも続いていく。

 ところで俺の中の常識が息をしていないんだが、どうしたらいい? 蘇生させるべきか?

 

「ヘイ、ユーヤ」

「おk、おk」

 

 俺を運んでくれている外人さんも人外スペックを持つ1人だったようだ。大丈夫、覚悟はした。問題ないよ。

 

「GO! GO! GO!」

 

 ムキムキマッチョが走る。恭也さんに続いて崖を蹴り登っていく。重力を背中に感じるとか滅多に感じられない体験をしつつ、俺たちは崖を登りきった。

 地面に立って重力を感じられる。素晴らしい。

 

「なんだ? って、うわっ!? へ、変態だー!!」

「うぉぉぉっ!!?」

 

 ちょうど向こうが登りきったと同時に俺たちも辿りついた。まぁ確かに田舎で回りに何もないとはいえ、タオル1枚で………そのタオルすら付けてない外人もいるけど、タオル1枚の男たちだ。変態と言われても過言ではない。

 しかし、だ。

 

「お前たちには言われたくないぞ」

 

 覗きをしようとしている連中には言われたくないな。

 

「さて」

「あ、おい!」

 

 目の前の1人から背負ってるリュックを奪い、逆さにして中身を出す。そしたら出てくるわビデオカメラやら電池ならスコープやらと。

 

「覚悟は出来たか?」

 

 そこに割り込むように立つ男が1人。

 

「覚悟、ね。お前たちを全員ここで倒せば問題ないだろう?」

「ほぅ」

 

 背負ってたリュックを放り投げ、身を軽くして構える。彼が例の手練の男と思われる。構え方からして素人ではない。

 

「お前がそうか………果たして、そう上手くいくかな?」

 

 恭也さんは例の男とバトル。あの男の人も中々の手練のようだが、恭也さんには敵わない。

 だから、こっちは問題ない。

 

「「「Yeah!! Let’s Party!!!」」」

 

 外人ズは残りの男たちを捕えるために駆けだした。外人さんたちに囲まれていた俺は、彼らの息子が揺れるのを見ていた。見たくて見ていたのではない。大人と子供の体格差故に、どうしても視界に入ってしまうのだ。

 

「Oh……Let’s Party……」

 

 男たちが逃げる。外人ズが追いかける。息子は揺れる。

 そんなわけで、俺の周りから外人さんはいなくなった。近くで恭也さんが人外バトルを繰り広げているが、俺の目には映らない。

 

「ふぅ、俺は証拠の物でも回収しておくか」

 

 外人ズに囲まれていた所為か、先ほどまでは熱かった。それもなくなると、今はやや寒い。かといって、近くの温泉は女湯だ。向かった瞬間に恭也さんが殺しにくる。

 

「くしゅんっ」

 

 更に着るものもなし。退路は崖で俺の力で降りることはほぼ不可能。

 飛翔魔法は使えるから方法はあると言えばあるが、ここにいるのは俺だけではないのだ。

 

「ふはははは! 中々やるようだな! 変態!」

「貴様こそな! 変態にしておくには惜しいな!」

 

 彼らの放り投げたリュックは回収した。ざっと見たが、証拠の物としては問題ないはずだ。これで俺のやることはなくなった。

 仕方ないので、変態と変態の人外バトルでも観察してようか。

 

「HA-HA-HA-! ミ・ナ・ゴ・ロ・シ・ダー!」

「イッテヨーシ!!」

 

 遠方から奇怪な言葉と男たちの悲鳴が聞こえてくる。

 

「あー、平和だなー」

 

 俺は現実逃避をした。

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして人外バトルは恭也さんの勝利終わった。外人ズも逃げた2人を捕えたようで戻ってきた。何故か2人は裸にされてぐったりとしていたが、俺は見ないフリをした。数人の外人さんがすごい肌ツヤ良かったけど、俺は気づかないフリをした。

 

「父さんたちと合流するか」

「OK」

 

 無事に犯人も捕まえたことだし、ここに長居はしたくない。色々な意味で危険だ。

 

 

「ねぇ、何か声聞こえない?」

 

 

 おっと、これはなのはの声か?

 恭也さんにも聞こえたようで、早々に撤退を開始する。どこから帰るって? そりゃもちろん来た道からに決まっている。

 

「おい、おい! バカヤメロ! そっちは崖だぞ!?」

「HAHAHA!」

 

 恭也さんを筆頭に、外人ズが飛び降りていく。俺はもう慣れたが、外人ズに捕まった男たちは慣れていない。

 

 

「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」」

 

 

 哀れな男たちの悲鳴が辺りに木霊する。

 

 

 

 

 

「悲鳴?」

「どうしたの? なのは」

「うーん、誰かいたような気がしたんだけど………」

「覗き?」

「ううん、誰もいないみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、士郎さんたちと合流。向こうは早々に決着がついたそうだ。こっちは人外バトルが勃発していたというのに。なんという格差。

 そして傍らで粉々になったビデオカメラのことを聞くと、

 

「シローノ、娘ガ、イタヨウダ」

 

 なるほど。それならば仕方が無いね。

 そして、あれは何をやってるんだ?

 

「そうそう。筋がいいね、キミは」

「HA!」

 

 士郎さんを囲むように数人の外人さんが、水切り? みたいに手を思いっきり振っている。それらを繰り返す際に触れていない水面が割れてるように見えるのは、俺の目がおかしくなったのかな。

 

「あれ、何してるんです?」

 

 近くにいた恭也さんに聞いてみると、手刀と貫手の練習をしているそうだ。恐らく、この粉々になったビデオカメラが原因だな。

 だって外人ズが士郎さんのこと「ジャパニーズニンジャー」とか言ってるもの。

 

「ヘイ、シロー。ミテクレ」

 

 1人の外人さんが木の棒を放り投げる。棒と言っても、外人さんの二の腕くらい太い奴だ。

 

「HA!」

 

―――ズンッ

 

「大したものだ。すごいぞ」

 

 真っ直ぐに伸ばした手で一直線に棒を貫く。無駄な破壊はせず、必要最小限の範囲だけに集中して貫く手法―――貫手だ。

 将来、あれと同じことをなのはがするようになったら、恐怖そのものだ。

 

 

 

 

『裕也くん。これでもう逃げられないね』

 

 貫手で俺の足に穴をあけるなのは。ぺろりと手についた血を舐めて近づいてくる。

 

『さぁ、“お話”しよう』

『や、やめろ! こっちに来るなぁ!!』

 

―――ズンッ

 

 自分の体の中になのはの手が突っ込まれた。

 それが俺が最後に聞いた音。そして、目の前に見える極上の笑みを浮かべたなのはの顔が、最後に見た映像だった。

 

 

 

 

「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「うぉっ!? どうしたんだ?」

「あぁ、いえ、ちょっと未来を考えたら恐怖が………」

 

 あの未来は来させてはいけない。恭也さんになのはにはあれらを教えないでくれっと伝えておいた。

 手刀はまだいい。だが、貫手はマズ―――

 

「ヘイ、シロー! 切レタヨ!」

「オーケー」

 

 いや、だめだ。手刀もマズい。

 なんで、手でぶっとい棒が綺麗に切れるんだ? おかしいだろ。

 

「何を言いたいのかは知らんが、なのははどちらも使えるぞ?」

 

 ( ゚ω゚ )

 

 


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