不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第14話 「辛」と幸

 

 

 

 

似ているだろ?

 

辛と幸の文字は

 

 

つまり、そうゆうことだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴市から外れた場所に超巨大なプールが出来たという。流れるプールから室内の温水プール。深さも様々あり、大小様々なプールがある。更には温泉やら休憩室やらと他にも色々な施設が十分ある場所だった。

 いつか行って見たいなぁとは思っていたが、施設が色々と詰まってるだけに中々高い。一般庶民ではちょっと手が出せないくらいに。

 なので、諦めていたのだが………。

 

「………何故、俺はここにいるのか」

 

 俺は今その噂の巨大なプールに来ていた。ポツンッと独り、他のメンバーを待っているが、来る気配がない。

 

「女性陣は遅いなぁ、ユーノ」

 

 小さくキュッと鳴くユーノ。俺とユーノを除いて唯一の男であった恭也さんは、ここのプールでバイトをしているそうだ。途中までは一緒だったが、今はバイトの仕事中だ。

 しかしここまで遅いと不安になってくる。

 

「女性陣が遅いのか、俺が待ち合わせ場所を間違えたのか。むぅ」

 

 独りってのは寂しいなぁ。相棒の諏訪子もいないし、なのはも元凶のアリサもまだいない。

 

「ユーノ。俺が寂しくて死んだらなのはたちには、俺は星になってお前たちを見守ってるよって伝えておいてくれ」

 

 立ちっぱなしは疲れたので、座る。座ったら横になりたくなったので、そのまま転がる。何故か慌てるユーノの姿があったが、

 

(あ、やべ、ねむい)

 

 まだ春の季節だが、今日は夏のような暑さになる予定だとか。まだ時間帯は早いためか、今はちょうど良い気温。寝るには最高だな。

 こんな日にプールとはなんとも都合が良い。

 あー、ねむい。

 

 

「ゆ、ゆうやくん!」

 

 

「んあ?」

 

 うとうとしてたところでなのはが慌ててやってきた。白っぽいピンクの水着で………って、なのははホントにピンク好きだなぁ。

 

『コラー。そこー。プールサイドは走らない』

「にゃぁぁぁぁ!! ごめんなさい!」

 

 プールの監視員をしている恭也さんからの注意が入った。まぁ確かに、プール入る前で体は濡れてないとはいえ、走るのは危ない。

 

「裕也くん! 大丈夫!? 何もない!?」

「なにがなにがなにがなにが」

 

 俺の首をがくんがくんとさせながら大丈夫かと聞いてくるが、今のこの状況が大丈夫じゃない。

 

「なのは、落ち着きなさい。裕也の首が取れるわよ」

「にゃああ! ご、ごめんね!」

 

 慌ててパッと離れるなのは。アリサたちも少し遅れながらやっと来た。

 

「お待たせ~」

「やっほーい」

「おせーぞ。待ち合わせ場所間違えてたのかと思ってたぞ」

「ぬっふっふ、その前に言うことがあるんじゃない? 裕也」

 

 うふーんとか言いながらポージングをする諏訪子。家で見せに来た時はどこで手に入れたのか胸のところに「すわこ」と書かれたスクール水着だった。しかも旧型。

 体型が体型なだけに、スク水でも違和感がない辺り、諏訪子は幼女であった。が、今はスク水ではなく、なのはたちと同じ普通の蒼いワンピースの水着だった。

 この幼女。当初は幼女の癖に布地の少ないスリングショットの水着を買おうとしていたのだ。幼女の癖に。さすがに止めたというか、合うサイズがなかったので止めていた。

 

「どう?」

「おー、似合ってる似合ってる」

「心が篭ってなーい!」

 

 貴様にはこの程度で十分だ。

 

「ねぇねぇ、私はー?」

「白か薄いピンクか、しかし好きだなぁピンク……(いつかの色も白だったし)よく似合ってるぞ」

「えへへ」

 

 ただし、こっそりと耳元で“今、変なこと考えなかった?”って囁くのは止めて欲しい。心臓に悪いから。ほら、ユーノも怯えているじゃないか。

 少しずつと魔王化が進んできているような気がする。

 

「あら、私たちには何もない?」

「ゆ、裕也くん………」

「アリサもすずかも似合ってるぞ」

 

 アリサは赤。すずかは薄い紫と。こちらはツーピースタイプだ。

 

「水着って本人の色が出るよなぁ」

 

 美由希さんと俺は黒。すずかのお姉さんも紫系で、すずかの家のメイドさんは白である。確か恭也さんも黒だったような気がする。

 こんな人数いるのに、誰も柄物がいないというのもある意味凄いと思う。

 

「しかし、だ」

 

 9人もいるのに男が俺だけというハーレム。まぁ半数が子供だからそこまで視線は多くないかなぁと思ったけど、それほどでもない。

 

「どしたの?」

「なんか、むっちゃくちゃ視線が突き刺さる」

 

 周囲の視線を独り占め。やったね!

 できれば俺もそっちでパルパルしていたかった。今からでも間に合うかな? え? だめ?

 (´・ω・`)

 

「腕とか組んでそこらへん歩いてくる?」

 

 すすっと諏訪子が腕を組んでくる。子供2人が腕組んで歩いていたところで、微笑ましいものにしか見えないだろうが。それで嫉妬を飛ばしてくる奴がいたら、まずは通報しろ。それかベアードさまを呼べ。

 

「誰が1人と言った?」

「あーーーーーーー!!」

 

 後方からの大声。振り向けば、なのはがこちらを指差して固まっていた。

 

「諏訪子ちゃんずるいの!」

「反対側が空いてるよ?」

「あ、じゃあこっち側私のー」

「なんでや」

 

 今のこの場に恭也さんがいなくて良かった。きっといたら、シスコンパワーが有頂天になって、俺は死んでいただろう。絶対。

 左に諏訪子。右になのはに引っ付かれている状態。ふと目に入ったアリサはにんまりとすごい笑みを浮かべていた。あれは俺にとってプラスにならない笑みだ。

 

「おやおや、モテモテだねぇ裕也くんは」

「助けてください美由希さん」

「え? これで前後をアリサちゃんとすずかちゃんに抱きつかれたら、だって?」

「言ってないし! そんなこと言ってないし!」

 

 右側の腕につねられたような痛みが―――って、抓られてる。

 

「なのはさん?」

「むぅ~………」

「あらあら、お困りのようね? 裕也」

「おいばか近づくな。死ぬぞ。俺が」

 

 こうゆうのは恥ずかしがって自ら動かないすずかも、今はメイドさんに捕まって俺の後ろから接近中だ。アリサはアリサで俺が辿る未来が皆間見えたのか、笑みを深めて接近中。そしてなのはが祟り神化しつつあり、全ての元凶の諏訪子はゲラゲラ笑っていた。

 振りほどこうにも両腕はしっかりホールドされ、接近する敵性生命体を退かせる方法が見当たらない。

 

「もしアリサちゃんたちに抱きつかれたら、“お話”しようね?」

 

 魔王が俺の隣で監視しておる。逃げようにも両側の二人は動こうとしない。俺にどうしろと言うのだろうか。

 

(このままだと、死ぬ!?)

 

 走馬灯が流れ、思い出の中のどこかの爺さんが“グッドエッチ”とサムズアップしていたのを見た。それを言うならば、グッドラックでは? どうでもいいことだ。もっとためになることをくれ。

 

(目を、背けるな!)

 

 頼れるのは自分だけだ!

 どうしたらいいものかと考えたところで、目の前にプールが映った。これしかない!

 

「緊急回避ぃぃぃ!!」

「にゃあ!?」

「わっ!」

 

 2人を剥がせないなら、そのまま引っ張ってプールに飛び込んだ。後ろから恭也さんの注意する声が聞こえたが、バレてはいないようだ。

 

 まぁ、とりあえず。泳ぎますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と諏訪子、なのはとすずかの4人は流れるプールをぐるぐると回っていた。泳げないアリサはメイドさんの1人“ファリン”さんに教わりながら、練習中。そろそろ休憩に入ると思うから戻るつもりだ。

 

「あー、暑い日にプールは最高だなー」

「だね~」

 

 さすがに諏訪子は泳ぎが得意というか水が得意というか、本気を出せばこの中の誰よりも速いのではないかと思うくらいに上手かった。

 そして、それに普通に付いて行くすずかも上手かった。

 

「でも、あまり人がいないね」

「そうだね。これならイルカの浮き輪は持って来ても良かったかもね」

 

 人が多そうだからといって置いてきたイルカの浮き輪。しかし、来てみればそこまで混んでいなかった。というか、施設がデカいので、人が多少きても混雑しないというつくりだ。

 ちらほらと動物型の浮き輪を使ってる人はいる。あれを見ると乗りたくなるよなー。

 

「…………」

「……なに? どうかしたの?」

「いや………」

 

 ふと疑問に思ったので聞いてみる。

 

「なのはって運動全般苦手だったよな? でも、泳げるんだな」

「ふふん。それは昔の私。今の私は違うんだよ」

「なのはちゃん、最近は運動得意になってきたよね」

 

 まぁ護身術だか護衛術だか分からないけど、家の道場でがんばってるもんな。運動音痴も治るわな。そりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサたちと合流。ファリンさん曰く、飲み込みが早くて大分泳げるようになったそうだ。

 

「じゃあ午後はいっしょに遊べるね! アリサちゃん」

「そうね。まだ浮き輪は必要かもしれないけど」

 

 まぁそれはさておき。

 昼飯を食べる前に、やることがあった。

 

 

 

「裕也。約束は覚えてる?」

「あぁ、もちろんだ」

 

 場所は簡易レース場。ここでは複数の人たちで50mのレースが行える場所だ。俺と諏訪子はそこに並び、賭けを行っている。ちなみにその横ではすずかと美由希さんが並んでいる。

 事の発端は諏訪子。一度思いっきり泳ぎたいと言い出して、レースできる場所があるよと美由希さん。じゃあ、勝負するかと諏訪子の言葉についつい乗ってしまった。

 その言葉になのはが反応したが、レース場が他の人たちで埋まってしまったので諦めたようだ。

 

 ちなみに、だ。

 

「負けた方が1つなんでも言うことを聞く、だろ」

「にひひ」

 

 諏訪子は泳ぎが上手い。それはもちろん承知の上。最初はハンデが必要じゃない? とか言われたが当然断った。

 男、裕也。幼女にナメられてたまるものか! 別にハンデもらって負けたら俺の心が折れそうとか思った訳ではない!

 それに、“上手い”というだけでレースが勝てるとは思ってない。

 

「ふっふっふ」

 

 よほど自信があるのか諏訪子は先ほどから笑みを浮かべている。更にその隣では静かにすずかと美由希さんが燃えていた。

 残りのファリンさんやなのはたちは応援中だ。

 

「位置について、よ~い」

 

 俺と諏訪子。美由希さんとすずか、その他の参加者がスタートの合図を待つ。

 レース場に静寂が降り―――

 

「ドンッ!」

 

 

――ジャボンッ

 

 

 スタートはほぼ同時。

 

(さて、ここからだ)

 

 泳法で一番速いモノといえば、やはりクロールだろう。そして、クロールと一言に言っても、泳ぎ方は様々だ。手の動かし方、足の動かし方。腕の引き方、足の向き。実はこっそりと調べていたりする。

 

(夏にいつかプールに行くと思って研究していたが、まさかこんなにも早くお披露目するとは)

 

 諏訪子のことは考えず、とりあえず俺は最速のペースでゴールを目指す。無茶は無しと言ったが、諏訪子のことだ。負けたら何をしでかすか分からない。

 

(この勝負、負けられない!)

 

 

 

 

 

 と、意気込みは良かったのだが、

 

「さ~て、どうしようかなぁ」

「ぐぬぬ………」

 

 結果は俺の負け。ギリギリの僅差勝ちとかじゃなくて、圧倒的な差を見せ付けられて負けた。ゴールしたと思ったら幼女が上から見下ろしてやがった。ちくせう。

 ぐぅの根も出ない程に完敗だ。最近忘れがちだけど、目の前の幼女は神なんだよな。元がつくけど。改めて知った。ちくせう。

 

「諏訪子ちゃん、速いね~」

「あはははは!」

「笑いすぎだよぉ、アリサちゃん」

「ははは、まぁがんばれ」

 

 昼飯の最中もアリサにはレースのことで笑われた。罰ゲームもとい、言うことを聞く件だが、

 

 

 

 

「歌ね~」

 

 何故かプールにくっついてるお立ち台もといステージ。カラオケ店と同じく自分で選んだ歌をあそこで歌うことが出来るらしい。しかも無料だ。

 さらにスポットライトやら何やらと豪華かつ、爆音で流せるというプールに必要はない装備付き。

 ここ、プールだよな?

 

「おぉ、スモークまでたけるってよ」

「はぅぅ」

「あ、歌ってる最中はバックスクリーンに映るみたいだな。あれか。でけぇ」

「はぅぅ」

「………あうあう?」

「はぅぅ」

 

 隣に立つ相方へと会話のボールを投げてるけど、中々返ってこない。というか、向こうは受け取ってないみたい。キャッチボールやろうぜ。

 

「はぁ」

 

 隣にいるのはすずか。耳まで赤く、恥ずかしがっているのは誰の目にも見えて分かる。だが、彼女もあそこに立つことになってるのだ。

 美由希さんとの勝負に負け、アリサが「敗者は黙って言うことを聞く!」と強権を発動。勝者は美由希さんであってアリサではないのだが、誰も突っ込まないのでそのままにしておいた。これがカリスマの成せる技か。

 まぁつまるところ、俺とすずかが仲良くあそこに立つことが罰ゲームなのだ。

 

「さて、何を歌う? 特に指定は無いから好きなのを歌って良いみたいだが」

「うぅぅ~」

 

 まだステージにも立ってないのに、すずかの顔は真っ赤である。この調子でステージに立ったら倒れるのではないだろうか。

 

「………緊張するには早くないかね」

「すずか。そんなんでステージに立てるの?」

「立たなきゃいけないの?」

「当たり前でしょ!」

「………でも、いいなぁ」

 

 1人だけ不満そうな顔をしていたので、代わりにステージに立つかを聞いたが「そうじゃないのぉ」とか言われて断られた。

 うむ、女心は分からんな。

 

「鈍いな~裕也は」

「何がだ?」

「なんもー。あ、それと私の罰ゲームはこれとは別だからね」

「――――ホワイ?」

「だってぇ、裕也があそこで歌ったところで私には何の得もないじゃない」

「あれ? じゃあ俺は別に立たなくてもいい?」

「何を言ってるの? あんたは」

 

 ですよねー。

 アリサという暴君の前では何もかもが平伏す。最早、勝ちとか負けとかではない。アリサが決めたのなら、それが全てとなってしまうのだ。

 

「ま、こっちは期待しておいて」

 

 ここで文句を言ったところで口では勝てないことは経験上知っている。なので、俺が取る選択肢は肯定してスルー。口喧嘩………というか、変に突っかかって更に条件を悪くされても困るし。

 なにより、時間稼ぎしても突破口が見えない。

 

「お二人さん、登録してきたよ~」

「うわぁ、美由希さんがこうゆうときだけ行動早い」

「失敬な!」

 

 本人が行っていないのに登録されてるとかどうなのだろうか。まぁ、カラオケみたいに歌うだけだからそこまで厳しくはないのか。

 

「んじゃ、まぁ、行きますか」

「う、うん。よ、よろしくお願いします」

「落ち着けすずか」

「はぅぅ」

 

 

 

 

 


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