不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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番外編 もしもなのはたちが………

 

 

不意に人は境を越えてしまう

 

 

そこは、どこかが違う世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。いつものように学校へと向かうと、そこで異変が起こっていた。

 

「おはようございます。今日は遅かったですね」

 

 アリサとすずかと一緒にいたのはなのはではなく、なのはにそっくりな人(・・・・・・・・・・)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、おはよう?」

「どうかしましたか?」

「ん。いや………」

 

 なのはにそっくりではあるが、髪は短く、瞳の色も青色と違う。首からぶらさげているレイジングハートの代わりに紫のデバイスと思われる宝石があった。

 なのはを白と例えるならば、こちらは黒だろうか。

 

「あ、裕也。今日はシュテルんとこに集まる予定だけど、当然来るわよね?」

 

 シュテル………なのはじゃなくて、“シュテル”というのか。まったくの別人………ではないな。まるで姉妹の誰かに入れ替わったかのような違和感を覚えているのは、俺だけのようである。アリサもすずかもシュテルがここにいて当然と思い、違和感など感じていない。

 

「裕也?」

「ん? あぁ。ちょっとボーッとしてた」

「大丈夫?」

「ユウヤ。昨日はちゃんと寝ましたか?」

「お、おぅ」

 

 なんだろ。物凄く丁寧ななのはとか違和感バリバリなのだが………。

 

「そういえば―――」

 

 フェイトとアリシアがいないな、と呟こうとしたら教室のドアが勢い良く開いた。

 

「おっはよーーー!」

 

 そこにいたのはなのはと同じく、フェイトそっくりの誰かさんだった。

 髪は金から水色に変わり、先端部分は更に色が濃くなっている。瞳もより赤みが増して、どこかツリ目気味だ。リボンの色など細かいところが微妙に違う。更に違和感を推しているのが、彼女から漂うアホの子の雰囲気だろう。

 

「レヴィ。もうちょっと早く来れないのですか?」

「そうよ。いっつも時間ギリギリじゃない」

 

 彼女の名前は“レヴィ”というらしい。やはり、別人だ。それにしても彼女1人で、姉の姿が見えない。なのは、フェイトとそっくりさんがここまで揃ったのだから、アリシアのそっくりさんもいても良いような気がするが………。

 

 結局、教室に入ってきたのはレヴィが最後だった。見渡せば、アリシアの席はなく―――誰もそのことに気付いていなかった。

 

(アリシアが………いない?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感を抱いたままの体育の時間。

 

「………………………………」

 

 俺は再び異変にぶつかった。

 

「今日は様子がおかしいですね。本当に体調は大丈夫ですか?」

「ゆーや。体悪いのか?」

「いや、大丈夫だ………」

 

 俺は校庭に集まっているクラスメイトたちを見て、周りにいるシュテルたちに気付かれないようにため息をついた。

 

(なんで霊夢たちがいるんだよ!?)

 

 そこにいたのは多種多様なクラスメイトたちだ。俺やシュテルたちは体操着に着替えているのに、何故か一部の人間は巫女服だったりドレスだったりとフリーダムな衣装を身に纏っている。それでいて誰も突っ込まないのだから気がおかしくなりそうである。

 明らかに小学生じゃないだろうという人たちが混ざってることや、角やら尻尾やらと人間には無いものが付いていることも、俺の胃をキリキリと締め上げている要因だ。

 

「………俺、今日にでも死ぬかもしれない」

 

 たぶん、ストレス過多とかで。

 

「しゅ、シュテるーん! ゆーやが今日死んじゃうってー!」

「馬鹿なこと言っていないで、体調が悪いならば保健室に行きなさい」

 

 大丈夫。まだ大丈夫。むしろ、体育で暴れないと午後は死ぬと思う。なので、出させてください。

 そう心で呟くと、シュテルたちを置いて俺は他のクラスメイトたちのところに突っ込んだ。

 

「おーっす、裕也。今日はサッカーだってよ」

「俺よ、必殺シュートを編み出したんだ。効果は相手が死ぬ」

「まさに必殺!」

 

 何も変わってないお前たちの傍にいると、落ち着くな。普段ならばうるさい黙れと言ってるところだが、今は何だか嬉しい気分である。

 俺が友人たち(バカども)の周りにいて癒されるなんてことは今日が最初で最後ではなかろうか。

 

「始めるぞー!」

 

 教師の声に自由に行動していた生徒(?)たちが集まり出した。

 

 

 

 

 

 

「いきなりかー」

「強敵だな」

 

 クラスメイトを4つに分けての総当たり戦で進めていく。試合時間は休憩なしの15分で、試合をしないチームメンバーは自由行動が許されていた。

 端で練習するも良し。試合中のチームを応援するも良し。ただし、校庭からは出ないように、と言われた。

 

「さて、どうやって攻めるか」

「試合時間は短いからな。最初っから飛ばしていこう」

 

 俺は初っ端から試合するチーム。相手は今日初めてみるクラスメイトを含めたチームである。赤い巫女服の霊夢を筆頭に、魔女服の魔理沙、日傘を差した人が2人いて、緑髪の方が幽香で、金髪の方が八雲の紫である。更には酒を飲んでいる萃香もいた。さすがに萃香の飲酒は止めてもいいと思うが、教師は動かない。誰がどうみてもあれ、酔ってるぞ。

 残りのメンバーは知ってる人だったが、大半が初対面である。チームメンバーの話を信じるならば、彼女たちは強敵らしい。

 

「何も考えるな何も考えるな何も考えるな」

「どうした? 裕也」

「ちょっと自己暗示してる」

「………そうか」

 

 霊夢も魔理沙も幽香もいないと思い込む。彼女たちは見知ったクラスメイトであり、ちょっとだけ霊夢たちに似ているだけだと信じ込む。角とか尻尾とかそんなモノはないんだ。ないんだ!

 

「……………よし」

 

 閉じてた目を開き、俺の日常を思い描いた―――が、それも儚く砕け散った。ゴールキーパーの紫さんが、なんか光り輝く結界みたいなものをゴールに張っていたからだ。

 

「おいぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 あれはズルではないのか!? 結界っぽいモノ………って、結界だよな!? あれじゃゴールできないんじゃね!?

 

「さっそく、結界を張ってきたな………」

「あぁ。あいつの結界は強力だからな………俺たちも本気でかからないとゴールできないぜ」

 

 何故だかチームメンバーたちは納得の様子。ズルではないのか? というかあの光り輝く壁を見て結界と言ってたこともそうだけど、あの不可思議な現象を引き起こした紫さんに思うとこはないのだろうか。超能力とかでは片付けられないよな?

 

 あと本気でかかればお前たちは紫さんの結界を抜けられるのか? これは本気(マジ)で聞きたい。

 

 

―――ピィィィィィィィィィィィッ!

 

 

 審判役のクラスメイトが試合開始のホイッスルを鳴らす。バカなことをしてるだけで時間が過ぎてしまった。作戦も何も決めてないぞ!

 

「おっしゃ! 開幕マスタースパークだぜ!」

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

 こちらの気持ちなど知らぬとばかりに、始まった瞬間に魔理沙から金色の砲撃がボールを持つチームメンバーに向かって飛んだ。

 

「何してんの!?」

 

「甘いぜ! マスパ返し!!」

 

「そして、何平然と返してるの!?」

 

 金色の砲撃に向かってボールを蹴り上げるチームメンバー。宣言通りにマスタースパークを放った魔理沙へと返した。どういった原理になってるんだろうか。

 

「行くぞ! 裕也! サッカーでは負けられねぇぞ!」

「お、おぅ………」

 

 呆然としていたが、それは許されないようである。確かにサッカーをしている者として、ここは勝っておきたいところである。

 

 

――幻想「花鳥風月、嘯風弄月」

 

 

 魔理沙とは違う全包囲に向けての砲撃と弾幕が放たれた。それこそ敵味方問わずの攻撃である。

 

「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」

 

 大小様々な黄色い弾が流れ、巨大な赤い華が咲き乱れる。俺たちの進む先を邪魔し、スピードを殺してくる。今のところ当たった者はいないが、当たれば当然………

 

「おばあっ!?」

 

 あぁなって吹き飛ぶ。

 

「………ちっ」

 

 なんか俺に恨みでもあるのだろうか。幽香さんが俺を見ながら舌打ちをしていたぞ。

 

「裕也!」

「うおっ!?」

 

 余所見していたらチームメンバーからボールが回ってきた。仕方が無い、今は試合にしゅう………ちゅう………。

 

(ん? ボールが俺のところ?)

 

 やべぇ。ボールが俺に回ってきた。

 

 狙 わ れ る !

 

「と思ってたらきたよ!?」

「にゃははは。行かせないよ」

 

 酒を飲んでいたはずの萃香が両手を横に広げながらピコピコと走ってきた。ふざけた走り方の癖に本気で走ってる俺よりも速いのだから納得いかない。

 

 

――酔神「鬼縛りの術」

 

 

 さっくりと追い抜かして、反転。鎖を振り回して、投げ飛ばしてきた。初撃は右へ躱したが、生きてる蛇のように蠢いてしつこく追ってきた。

 

「させるかっ!」

 

 後ろから追ってきたチームメンバーが鎖を踏むという高等テクニックを用いて、自ら萃香の鎖に絡まってくれた。おかげで、俺はフリーに動くことが出来る。

 

「行けっ! 裕也!」

「おぅ!」

「きっこーしばり~」

「って、そこはらめぇぇぇ!!」

 

 振り向きたかったが、男の亀甲縛りなど見たくはなかったので、振り返らずに返事をした。どんな状態になってるのかは分からないが、萃香に捕まらなくて本当に良かった。

 

「あとは、霊夢ひとっとぉっ!?」

 

 突然横の空間から沸いて出てきたのはその霊夢だった。危うくボールが奪われるところだったがセーフ。

 

「ちっ、相変わらず面倒なヤツね」

 

 亜空穴で瞬間移動のようにテレポートしてくるヤツには言われたくはない。それを言ったら紫さんも同じだがな。

 

「でも残念ね」

「え?」

 

 

――夢符「封魔陣」

 

 

 霊夢も抜き、残るは紫さんの結界をぶち破るだけ―――その瞬間に足下にあった地面の感覚が消えた。

 

「はい、確保っと」

「おぉぉぉっ!?」

 

 俺を中心に四方には青く光る壁があった。紫さんの結界と同じようなものだろう。つまり、霊夢の結界に閉じ込められた?

 ご丁寧にボールだけ外にあるのがまたいやらしい。

 

「これはアリなんですかぶはっ!?」

 

 霊夢に抗議をしようと思って叫んだら、激しく吹っ飛んだ。霊夢が怒ったのだろうか………だとしたら、理不尽過ぎる!?

 

「シュテル………私の結界をたやすく吹き飛ばすなんて、さすが力だけ(・・・)は一丁前ね」

 

 だが、どうやら違っていた。俺を吹き飛ばしてくれたのは、フィールドの外からレイジングハート………のそっくりなデバイスを掲げるシュテルだった。

 

「レイム。前にも言ったはずですよ? ユウヤを拘束していいのは私だけです」

「それはちょっとおかしくね!?」

「えぇその通り。彼を拘束する権利は私たちにもありますわ」

「ねぇよ! 何言ってるの!? 紫さん!」

「良いでしょう。ここで誰が彼を拘束するのが相応しいか決めましょうか」

「いや待てよ! 落ち着けよ! なんで拘束することが前提なんだよ!?」

 

 霊夢の横に立つ紫さんと対峙するようにデバイスを構えるシュテル。味方として隣にいたレヴィを強制参加させて、これで2対2である。

 そして、両者の間に俺の意思がまったく無いことが問題だ。

 

「そうよね。おかしいわよね?」

「あぁ、そう思ってくれる………」

 

 そっと背後から優しく声をかけられた誰かに同意する。どうやら俺と同じ考えの人がいてくれたようである。

 

「……………幽香さん」

 

 振り向いた先にいたのは綺麗な笑顔を浮かべた幽香さんだった。

 

「じゃ、戦いましょうか」

「それもおかしくね?」

 

 肩におかれた手が逃がさないとばかりに自己主張する。痛い痛い痛い!

 

 あぁ、ここに………この世界に俺の日常はないんだな………。

 

「きっとこれは夢だな。さっさと起きよう………」

 

 俺の目の前―――俺と幽香さんの間から金色の光が溢れ出す。そう、魔理沙のマスタースパークに似た光である。

 

「零距離かー痛そうだなー」

 

 それが、俺の最期の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 飛び起きる。周囲を確認すると、そこは俺の部屋だった。外はまだ暗く、早朝と言うにしては早過ぎる時間だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁぁぁぁ………夢か」

 

 まだ夏にもなっていないのに、寝巻きは汗にびっしょりと濡れていた。リアル過ぎる鮮明な夢を思い出して、また身震いする。

 

「いやぁ、夢で良かった………」

 

 ほっと一息。

 

「………ぬぅ。うるさい」

 

 もぞもぞと動く周囲の布団。そこで俺はここで1人で寝ていないことに気付いた。

 

「わりぃ。ちょっと夢見が……わる、く……て………」

「まったく貴様は………まだ、夜ではないか。我を起こした罪は重いぞ」

 

 もぞもぞと起き出した姿ははやてではなく、はやてにそっくりな人物だった。髪は銀。瞳は緑でトレードマークの×印の髪飾りの色も違っていた。

 

「なんだ? 我の顔に何かついておるか?」

「いや………髪飾り、寝る時は外した方がよくないか?」

「む? ぬぅ、付けたままだったか………礼を言うぞ」

 

「どうかしたんですかぁ………でぃあーちぇ……」

 

 もぞもぞともう1つの布団が蠢き出した。中から顔出したのは諏訪子かと思ったが、違う人物だった。

 

「むっ。気にするな、ユーリ。裕也の馬鹿が騒いでただけだ」

「そうなんですかぁ」

 

 諏訪子よりも長い金の髪の少女。先ほどのはやてそっくりなのは“ディアーチェ”で、こっちの半分寝ているかのような少女が“ユーリ”と。

 あれ? 諏訪子はどこにいった?

 

「くかー」

「諏訪子の奴は起きてないのか………図太い奴だ」

 

 ディアーチェたちとは反対側にもう1つ、布団の山があった。そこには見覚えのある顔が転がっていた。

 

「あふ、我は寝るぞ」

「お、おぅ………すまんな」

 

 俺ももう1度布団に入った。汗に濡れた寝巻きなど気にせず、次に起きた時には日常に………いつもの日々に戻ってることを祈って―――

 

 

 

 

 

 

 

「くすくす」

 

 

 

 

 

 

 

 眠りに落ちる前に、どこかで聞いたような誰かの声を聞こえた気がした。

 

 

 




エイプリルフールという訳で嘘予告的なモノをやろうかなぁと思ったら、IF話っぽくなってしまった。
というか、IF話ですね。

まぁほらエイプリルフールだしね。うん。


許して!

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