不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第12話 「運命」の名を冠する者 後

不器用な転生者

第十二話 「運命」の名を冠する者 後編

 

筆者 Fat

 

 

 

飲み込む破壊の光

 

切り裂く破壊の光

 

 

全てを祟る闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――土着神「宝永四年の赤蛙」

 

 

 赤いオーラが溢れ、それらが左右で形を作る。薄くぼやけ、ところどころに歪みが見えたりするが、それらは確かに俺と同じ姿を取っていた。

 俺がまず先に動き出すと、後ろの2体の裕也も追随するように動き出す。

 

 

「くっそがぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 見慣れた剣―――Fateのアーチャーが使っていた白黒で対となってる剣を霧谷は両手に持ち、突進してくる。

 

≪私は右から行くわ≫

≪了解した≫

 

 フェイトの時みたいに周囲に武器を展開されては困るので、先にこちらから奴に接近した。そのおかげか、奴は判断を変えたようだ。

 対して俺は鉄の輪を作り、両手に持つ。遅れて追随する裕也も赤い鉄の輪を作り、同じように構えている。

 

 

「約束された勝利の剣(エクスカリバー)ーーー!!!」

 

 

 生まれながらにして強大な力を持つ霧谷のことだ。特訓や鍛錬などしてこなかったのだろう。自分の強大な力と物量で押し潰すようなことをするのも、それしか出来ないからだろう。

 それだけでも問題はなかった。ジュエルシードの暴走体はもちろん、対人戦でも1対1ならば、ほぼ負けることはないだろう。

 だが、それも敵が変われば変わる。

 例えば、1人から2人になったら? 例えば、そのうち1人が戦闘に慣れた熟練ならば?

 

『裕也!』

『大丈夫だ。視えて(・・・)いる』

 

 破壊の光が目の前に展開されても、俺にはよく視えていた。恐怖を感じるかと思ったが、不思議と何も感じない。幽香との戦いではただの拳でさえ恐怖したというのに。

 

 

――あぁ、誰かが言ってたなぁ。

 

 

 紙一重で躱すと余波で吹き飛ばされる可能性もあったので、少しだけ距離を取って避ける。

 横を通り過ぎる際に鉄の輪で切り刻む。バリアジャケットに防がれてしまったが、攻撃は一度ではない。タイミングをずらして、他の裕也がまったく同じ箇所を攻撃していた。

 同じ箇所に何度も何度も攻撃を行えば届く攻撃になる。塵も積もれば何とやらだ。

 

「ぐっ!?」

「お前は武器は怖いが、使い手がこうでは恐怖も感じんな」

「な、んだとぉぉぉぉぉ!?」

 

 霧谷から距離を取り、上から見下ろす。

 

「モブの癖に! 俺を見下すなぁぁぁああ!!!」

 

 怒鳴りながら飛び掛ろうとする霧谷。しかし、誰か1人を忘れていないか?

 

「敵は俺だけではないぞ?」

「約束された(エクス)―――っ!?」

 

 今まさに攻撃しようとした霧谷の背後に舞い降りる影―――

 

 

「がら空きよ!」

 

 

 それはアリシア。正規の訓練かどうかは知らないが、戦闘訓練は受けていたのだろう。俺たちとは違って動きに無駄がないのが見える。

 死角から急接近。一閃。そして流れるように移動して、また一閃。今度は防がれてしまったが、この一連の動作が1枚の絵画のように綺麗だった。

 

「がっ! くっそ!!」

 

 だが霧谷はあくまでも標的は俺だと言わんばかりに、その視線は俺を睨んでいた。自分のすぐ近くにいるアリシアよりも、距離の離れた俺へと向けて攻撃を放ってきた。

 

「―――勝利の剣(カリバー)ァァァァァ!!」

 

 再びの破壊の光。

 

「たやすい」

 

 それはただ虚空を切り裂くのみに終わった。

 

「くっそ! ちょこまかと!」

 

 パチュリーさんたちに言われた通り、俺は徹底して回避を選択している。大した訓練もしていない人間なのだから、あれもこれもと考えて動くことは出来ない。

 

 

―――だから、あなたはまず回避することを考えなさい。

 

 

 回避しながら攻撃でもなく、防御しながら回避でもなく、ただただ回避する。避けて躱して動き回る。相手も素人なのだから、隙を探すのは攻撃を回避してからでも遅くないと言われた。

 

 

―――避けてればいつかは攻撃のチャンスも来るわ

 

 

 相手の攻撃を回避する。どんな強力な一撃でも当たらなければ恐くはない。そして生まれた隙を付き、確実に相手の体力を減らしていく。

 長期戦になりそうなので、心配なのは俺の魔力だが―――

 

「氷・龍・一・滅!」

 

 そこは奇妙な言葉を発しながら切り刻むアリシアがカバーしてくれる。あとは、俺が潰れる前に終わることを祈るのみ。

 

「―――双牙!」

 

 アリシアの大剣が振り下ろされたと思ったら、すぐに振り上げられて2度目の斬撃を行った。

 後日に聞いたことだが、ミッドにいた時から地球の―――というか、日本のマンガやゲームに出会い、激しく感化されたという。読めなかった漢字などを調べるうちに好きになり、自分の扱う技にまであてはめちゃう好きっぷり。

 デバイスの応答にも徹底させている程だ

 

 試しにどの漢字が好きか聞いてみた。

 

「靁。フェイトみたいじゃん」

 

 それを聞いたフェイトは大変驚いたそうだ。

 

 

 

―閑話休題―

 

 

 

『俺の攻撃は全くと言っていいほど、通っていないなぁ』

『ヒットはしてるんだけどねー、純粋に攻撃力が足りてないみたい』

 

 俺の攻撃力がどこまであるのかは分からないが、霧谷の防御力が高くて通らない。バリアーやシールドなど張られたら完全に無効化される。

 精々が、アリシアの援護として霧谷の邪魔をする程度だ。必要以上に霧谷はこっちを敵視してくれてるので、それも楽に行える。

 

『呪え、祟れ、厄と成せ』

 

 

――土着神の祟り

 

 

 赤い分身を破裂させ、溢れ出した黒い霧を霧谷へと押し付ける。

 

「なんだ!? これは!?」

「なに?」

 

 アリシアも攻撃の手を引いて一歩退く。

 2つの黒い霧は霧谷に取り付くと、合体し大きくなった。霧谷の体を覆うほどになり、常に付き纏う。しかし、霧谷自身には何の変哲もないように見えるが………。

 

『どんな感じ?』

『祟り神の呪いだよ。何の効果が出てるかは知らないけど、バッドステータスは確実』

 

 しかし予想に反して効果が薄いという。分神体ということと、デバイス化の所為かもと本人談。何の効果かは分からないが、バッドステータスならチャンスであるのは確実。

 

≪アリシア! 黒い霧は気にするな! お前には害はない≫

『だよな?』

『そうだよ。あれはあいつにしか効果はないよ。そうゆう風にしたし』

≪ふふ、面白い戦い方ね。分かったわ≫

 

 念話でアリシアに害はないことを伝える。諏訪子に確認も取ったし、問題はないだろう。

 

 

――古の鉄輪

 

 

 俺は再び両手に武器―――鉄の輪を持ち、霧谷へと接近する。その場に止まっていれば、周囲に武器を設置されてしまうからだ。かといって距離を取れば、宝具の雨が炸裂する。

 なので近距離から中距離を行ったり来たりしながら相手の判断を鈍らせる。

 

「くそっ! って、なんだ!? 投影ができない!?」

 

 黒い霧に纏わりつかれている霧谷。応戦しようとしたみたいだが、どうやらうまく武器を投影することができないようだ。

 魔法が使えないのかと思ったが、現に今も空を飛んでいる。飛翔魔法は行えているから、単に投影―――魔力物質化のみ出来ないだけかもしれない。

 

『よく分からんが、今がチャンスだな!』

 

 

――源符「諏訪清水」

 

 

 突き出した手から水が勢いよく噴出する。反動で若干後ろに押されたが、構わず進攻する。

 

「ぷわっ!?」

 

 水の攻撃が終わると同時に霧谷へと攻撃を仕掛ける。チャクラムよろしく、鉄の輪を片手でぐるぐると回して、連続して相手に攻撃する。最後に脚で蹴るものの、やはり霧谷の防御は強固である。

 

「五月雨・斬刃っ!!」

「ぐぅっ!!?」

 

 対してアリシアの攻撃はよく通っている。それだけ攻撃力が高いのか、上手い具合に隙を付いているのか。

 男として少々思うところが無い訳でもないが、こればかりは仕方があるまい。

 それとは別に、アリシアも霧谷も技名を発しないと攻撃できないのだろうか? いやそういえば、なのはも叫んでたような気がする。フェイトは………どうだったかなぁ。

 俺はシステム的に言葉にしないとならんけど。

 

(さて、向こうはどうなってるか)

 

 視線の向こう―――なのはとフェイトたちの戦闘はどうなっているかと見れば………フェイトが、負けてる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の勝ち………なの!」

「はぁ………はぁ………」

 

 惨劇の後のような幾つものクレーターの中央に、フェイトとなのはの2人はいた。

 互いにボロボロの体を杖で支え、なんとか立っているなのはと座り込んでしまっているフェイト。ジュエルシードはなのはの手にあることから、2人の勝負はなのはの勝ちだったのだろう。

 しかし何をやればここまでの惨劇が生み出されるのだろうか。

 

「みゃあっ」

「きゅ、キューッ!?」

 

 肝心の猫はというと、何が起こったのか分からず元気に飛び回っていた。ユーノを銜えて。まるで玩具を手に入れた子供のようだ。食われないかが心配である。

 望む結果としては違ってしまったが、俺の目的は達成された。

 

(猫も無事で、なのはもフェイトも一応は無事―――なら、次は逃がさないとな)

 

 満身創痍の今のフェイトでは、いかにアリシアと言えどなのはと霧谷から逃げるのは厳しいことだろう。

 今のフェイトたちとなのはなら話し合えば、お互いに理解が得られると思う―――が、今は退いておく。霧谷が何を言ってくるか分からんしな。

 

 

――コンデンスドバブル

 

 

 なのはとフェイトを囲むように無数の泡を作る。

 最近分かったことだが、スペカを短時間で何枚も使うことはできない。同時使用はもちろん、1枚使ったら2~5秒以上は空けないと次のは使えない。スペカによって空ける時間は違うみたいだが、これを破ると痛みとして警告が走るという仕組みらしい。

 スカさん曰く、

 

「天才の私でも分からないことはある」

 

 とのこと。使えない。

 

 

――スタティックグリーン

 

 

 念のため10秒は時間を置き、2枚目を行使。電気の球を作って二人の間―――先ほど作った泡へと接触させる。

 

「邪魔するなぁぁぁ!! アリシアァァァァァ!!!」

「フェイトを傷つけたんだから、死んで償え!! この下衆が!!」

『うるさい奴だね。裕也!』

『あぁ』

 

 だけど、パチュリーに教わったスペカと諏訪子が元から持っていたスペカ。これらは重複可能なようである。

 

 

――土着神「手長足長さま」

 

 

 俺の四方から七色の光線が出現し、霧谷へと飛ぶ。しかも、この光線。諏訪子の意思である程度の操作ができるようなのだ。あくまでも、“ある程度”なのだが。

 

「くそっ!」

「アズラエル! モード:鎌、変更!」

『承知』

 

 アリシアは大剣から形を変えて、フェイトと同じくデバイスを鎌の形状に変えた。フェイトの方はスマートに収めて機能を重視させた感じだが、アリシアのは見た目はごつくて扱いずらそうだ。

 

≪トドメは私が貰うわよ!≫

≪お好きに≫

 

 光線の合間を縫ってアリシアが攻撃する。出会って数分だが、俺たちは中々良いコンビネーションではないだろうか。と言っても、向こうがこちらに合わせているだけだろうっぽいが。

 

 

「䨮・封・鳴・血!」

 

 

「―――3回、か?」

 

 一度の攻撃で見えた斬撃はおよそ3回。間違ってなければ、首と胸と腹へと三段攻撃だ。非殺傷設定とはいえ、殺しに来ているぞ。

 

「がぐっ!?」

 

 霧谷がアリシアに翻弄、もとい殲滅されている間に電気の球は泡へと到達。科学反応を起こし、泡を霧へと変化させた。

 

「にゃっ!?」

「うっ!」

 

 2人の姿をかき消し、霧が充満する。近くに火種でもあったら大変なことになるが、それらしい気配はない。そもそも、魔力で作り出したものが果たして科学と同じ結果を齎すかは不明だが。

 まぁ魔力で作った火があったら起こると思うが。

 

≪アリシア!≫

 

 霧谷の横目に霧の中へと飛ぶ。アリシアも意図が分かったのか続いてくるのを気配で悟る。幸いにも俺には相手の魔力をオーラとして視れる眼がある。普通ならば何も見えない霧の中でも、俺には二人の位置が手に取るように分かるのだ。

 魔力で作った水で霧にした所為か、少々見難いがな!

 

≪アリシア! 掴まれ!≫

≪え? うん!≫

 

 霧の中では俺はともかく、アリシアは見えないだろうから片腕で引っ張る。そのままフェイト―――と思われる1人を掻っ攫う。

 

「きゃっ!?」

 

(ビンゴ!)

 

 これで間違ってたらどうしようかと思ったが、そんなことはなかった。

 

≪離れるぞ。転移の準備をしろ≫

≪あ、はい!≫

 

「え? あ、待って!」

 

 2人を連れてある程度距離を取る。何かを言いかけるなのはの姿があったが、その言葉は届く前に転移が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ありがとうございます」

「気にするな。こちらにも理由があったからな」

「理由?」

 

 無事に転移が行え、転移した先は生活感溢れる部屋だった。まさかとは思ったが、どうやらフェイトたちの部屋に転移してきたようである。

 

「とりあえず、見ず知らずの男をいきなり部屋にあげるのはどうかと思うぞ」

「う。あ、あの時は……その………切羽詰ってしまいまして………」

「切羽詰ってたからって、部屋の中ってのは………」

 

 3人とも先ほどまで外にいたのだ。もちろん、靴は履いたままだ。フローリングの床だから雑巾などで拭けば大丈夫だろう。

 

「そのうっかりは直した方がいいぞ」

「…………はい」

 

 姉と俺に言われてしょぼんとするフェイト。心なしかツインテールもしょんぼりとしている気がする。

 

「さて」

 

 回復魔法なぞ使えないのでフェイトは休ませておき、怪我の治療は俺がやることにした。ここまで来たなら最後まで面倒みていけ、と姉の言葉。大邪神には逆らえぬ。

 当の本人は「報告が~」とか何とか言って部屋の奥へと消えてしまった。何をしてるかは知らないが、出てこようともしない。

 仮にも妹を見ず知らずの男に任せるのはどうなのだろうか。それを黙って受け入れてる妹もどうなのだろうか。黙々と受け入れてる俺もどうなんだ?

 

『役得?』

『知らねぇよ』

 

 俺はまだ霧谷を殺そうとしたアリシアを忘れていない。下手をすれば、あれがこちらに向けられる可能性もあるのだ。

 

(死にたくないでござる)

 

 関わらないのが1番だが、大邪神に逆らっても結果は同じ。何この詰みゲー。

 

「……………っ」

 

 治療されてるフェイトは人形のように黙ってはいるが、そわそわとしながら姉の消えた先を見たり俺を見たと思ったらぐるんと別の方を見たりと、忙しない。

 

「見ず知らずの男に触れられてるので落ち着かないだろうが、そろそろ落ち着け」

「あっと………うぅ、その………はい」

 

 何回も爆発に巻き込まれていたせいか、ほぼ全身を火傷していた。切り傷も見えるが、そこまでひどくないのがせめてもの救いか。ぶつくさ言ってたところで事態は進行しないので、治療を始める。

 

「――治療の道具が少ないな」

「すいません………」

 

 魔法文化の無い世界だ。自分と同じ魔導師がいるとは思わず、すぐにジュエルシードも集められると思っていたという。

 しかし、蓋を開けてみれば自分と同じ魔導師は2人―――俺も混ぜれば3人もいた。そのうち1人は見たこともない武器を爆発させるというおかしな戦法を取ってきて、完全に支配権を握られてしまった。

 

「しかし、次は負けません」

 

 俺もそう思う。霧谷の攻撃は言わば、初見殺し。技術や速さなどは上のフェイトに同じ手は使えないだろう。

 

(やはり、問題はなのはか………)

 

 霧谷との戦闘で手傷を負っていたとはいえ、まさかなのはに負けるとは思ってもいなかった。アリシアしか見ていないが、フェイトも同じく戦闘訓練は受けていたのだろう。

 対して、なのははほぼ素人だ。最近になって実家の道場で鍛錬をしているようだが………。

 ので、そこを本人に聞いてみることにした。

 

「あの白い魔導師―――彼女とはどうだった?」

「―――強かったです」

 

 油断はなかった。初手は遠距離からの砲撃で、しばらくはそれが続いた。悔しいことに遠距離戦では相手が上で、遠距離戦を得意とする魔導師と判断し、近接距離に移動―――したら、今度は近接戦ではほぼ互角な上に、相手のデバイスを使わない格闘に翻弄され、気付いたら蓄積されたダメージが―――

 

「そして落とされた、と」

「…………はい」

 

 接近すれば体術で。離れれば一撃必殺の砲撃。ただ、霧谷の時と同じく戦闘経験は少なく感じ、回避と攻撃を繰り返して場を繋いでいた。なのはもまた攻撃と回避を繰り返して応戦していた。が、フェイトの見立てでは防御も堅牢なものだったという。今はまだフェイトでもぶち抜けるが、今後はどうなることか、と末恐ろしいことを呟いていた。

 

(攻撃・防御・回避。全てが完璧に揃った魔王が生まれるのか………オワタ)

 

 どこで選択肢を間違えたのだろうか。うろ覚えだが、原作ではもう少し控えめというか、攻撃には消極的だったような気もするが………そうでないかもしれない。原作も結構、攻撃に攻撃を重ねていたかも。

 しかし、フェイトを黙らせるほどの体術の使い手か………本格的になのはが戦闘民族に目覚め始めている。此度の魔王はどこまで強くなるというのか。

 

『あの娘、強いんだね』

『俺も驚きだ。というか、今砲撃って言ったよな?』

『言ってたねぇ』

 

 なんだかんだでなのはとは一緒にジュエルシードを集めている。が、戦ってるところを見たことがない。正確には砲撃を撃つところを、だ。砲撃を使い始めたのはもう少し後だったような気がしたのだが………。もう使い始めているとは。

 というか、砲撃でもないとあの惨状は生み出せないか。

 

「あ、名前………まだ、でしたよね? 私はフェイト・テスタロッサです」

「俺は―――クロだ」

「クロ、さん?」

 

 アリシアに名乗ったクロという偽名。咄嗟に思いつかなかったので、自分の服の色を言っただけだが………まぁ問題はあるまい。

 

『黒の死神ってどこいったの?』

『時空の彼方。もしくは次元世界の狭間に吸い込まれた』

 

 以前考えたものなど、痛すぎて言うことすら出来なかったよ。あの頃の俺は若かったのだ。精神的に。

 

「とりあえずは怪我の治療だな。ここにある道具では今の君の怪我を治すには不十分だ」

 

 死ぬことはないと思う。フェイトの母親―――プレシアにしても今彼女が死んでは困るはずだ。というか、アリシアが生存しているならプレシアの性格も原作とは違う可能性が高い。

 

(なら、時の庭園だったっけ? 戻っても問題はなくね?)

 

「………今更だが、親とかはいないのか?」

「うっ。母さんはちょっと………」

「“今は”いないわ」

 

 戻ってきたアリシアが言う。“今は”ということは、いはするのだが会えないということだろうか。

 

「………とはいえ、この怪我を放っておくのはどうかと思うぞ? どこか治療できる場所や道具の入手など目処はあるのか?」

「うぅ………」

「あー……」

「………………」

 

 ないのかよ。何で戻らないの? てか、戻れないの?

 理由は分からないが、2人とも今は退けないらしい。とはいえ、この怪我を放っておくわけにはいくまい。火傷の放置は意外と怖いのだ。

 

「最悪、この世界の医療機関に頼るのも手だが」

「あっと、ね」

「その………まだ、戸籍が……ないから、実質、私たちはここにはいないことになってたりするの」

 

 なん………だと………。

 戸籍がないということは、病院とか無理じゃね?

 

「こ、ここの部屋は母さんがちゃんと戸籍作って借りてるところだから問題ないの! だけど」

「私とフェイトの分はまだ。それと、長期間いるつもりはなかったからね」

 

 まぁ確かに。フェイトたちからすれば、ここは魔法が無い管理外世界。長居する理由はあまりないか。

 とはいえなー。

 

 このまま、はいじゃあさようなら。残念だったねぇ。

 

 はないしなー。

 

「………ふぅ。仕方が無い」

 

 となるととれる選択肢は1つだけ。

 俺は紙とペンを借り、住所と名前を書く。この世界の地理を知っているかは怪しいところだが、まぁ同じ市内だ。辿り着くことは可能だろう。

 

「ここに行け」

「………? ここは?」

「俺と同じ魔導師が住んでいる場所だ。彼に治療の道具を借りろ。俺の名を出せば問題ない」

「あなたは何者なの?」

「それは今必要なことか?」

「―――――」

「―――俺はある理由でこの世界に来ている魔導師だ」

「ある理由………」

「ジュエルシードだったか? それではない。俺が探しているのは―――“闇の書”だ」

 

 なんか変な警戒を与えてしまったみたいだが、仕方あるまい。咄嗟の誤魔化しなど俺にはできん。

 

『なに? 闇の書って?』

『今考えた』

 

 今考えたというより、思いついたのがそれだった。今から数ヵ月後に出現―――は、もうしてるのかな? 呪いを付加されてしまった魔導書。

 理由を不透明にするより、はっきりとさせておいた方が疑われることはないだろう。と思っての行動だったがどうだろうか。余計に警戒を強めてしまったか?

 

「闇の書………あんな危険なもの、探してどうするの?」

「ううん。それよりも、この町にあるの?」

「………………」

 

『裕也、裕也。なんか存在するみたいな返しだよ?』

『だだ、だいじょうぶだ。も、もんだいない』

 

(まだ封印状態だから、見つけようとしても見つからないはず)

 

 とりあえず、沈黙はマズいと判断して理由を適当に考える。

 

「―――危険は承知。だが、そろそろ負の連鎖は終わらせないと、な」

「………あなた一人じゃ無理よ。あれは、魔導師1人でどうにかできる代物じゃないわ」

 

 知っている。むしろ、あれに1人で立ち向かうとかどうあっても思えない。そう考えると、クロノの父さんはすげぇな。尊敬するよ。会ったことはないけど。

 

「ふむ。古来より、能力を上げる方法は2つある。1つは千日の鍛と万日の錬を積むこと。もう1つは、代償を捧げ対価として力を求めること。例えば、神や悪魔などと呼ばれる超上の存在と契約すればいい」

「………?」

「分からんか? 命を対価として捧げれば魔導師1人であろうと闇の書を上回る力は得られるだろう?」

 

 ただその割にはメガ○テとか威力が低かったりするのあるよな。ある意味命をかけてる技なんだから、もうちょっと威力高くてもいいんじゃね?

 ゲームの話だろって言われたらそれまでだけどさー。

 

『嘘も方便とは昔の偉い人はよく言ったな』

『意味合いは違うと思うけどねー』

 

「な! 死ぬつもりなの!? そこまでして闇の書を滅ぼしたいの!?」

「滅ぼす? 何か勘違いしていないか? 俺は“負の連鎖を断ち切る”と言った。闇の書を滅ぼす訳ではない」

 

 正確には闇の書のバグを取り除くが正しい。まぁその方法なんて皆目見当もついていないんだがな。見切り発車もいいところである。

 

『ぶふっ』

『笑うなよ』

「………あなた、長生きしないわよ」

「だろうな」

「えっと、その、ごめんなさい。なんか、聞いちゃいけないことを聞いたみたいで」

「気にするな」

 

 全てでたらめ………ではないが、半分以上は嘘と思っていて欲しい。望む未来ではあるが、その未来への行き方が分からないのが現状だ。

 なんとかしたいと思ってるが、一歩も進めてない状態でタイムリミットは迫ってきている。

 

『裕也は100%ノリでできてるよね』

『うっせ』

 

「あの………私たちのすること、ジュエルシードを集めることが終わったら、手伝ってもいいですか?」

 

 今回のお礼もしたいし、とか小さく呟いているが………うーん、どうしたものか。

 別に俺に付き合わなくても、話的に関わってくると思うしな。

 

「そうね。1人でやるより3人で探した方が早く見つかるわよ?」

「却下だ。自分たちで言っていただろ? 危険な代物だと」

 

 ここは話通りに動いてもらうことにしよう。つまり、なのはたちと行動してくれ、だ。

 

『裕也のでたらめがホントになったら、私は思いっきり笑ってあげるよ』

 

 いらんお世話だ、とは言えないな。数ヵ月後を待っててくれ。そして、笑わば笑え。このダメカエルが。

 

「でも………」

「今回はたまたま近くにいたから駆けつけただけだ。俺は俺のやるべきことを。お前たちは自分たちのやるべきことをやっておけ。それが終わったら―――」

 

 “早々に親の元へ帰れ”

 

 と言いたいけど、できれば残ってなのはと友達になってやって欲しい。出会った以上、俺が干渉しなくても友達になるとは思うけど。

 

(なのはのことをどうしようか。2人と合わせたいが………今は無理かなー)

 

 とりあえず、今日は帰って情報整理だな。色々と予想外のことが起こっていて頭が混乱している。沸騰しそうだ。

 

「ではな。治療はしっかりしておけ」

「あ、この住所の人って?」

「そこに住んでる奴は巻き込まれて魔導師になったこの世界の住人だ。信用できる人間だ」

 

 自分で言うのもなんだが。

 

「今はこれで納得しておけ」

「…………むぅ」

「影月………裕也…………」

 

 書いたのはもちろん俺の住所と俺の本当の名前だ。アリシアに説明した理由も事実であるし。

 

『こうして関わるなら最初から変装なんてする必要なかったんじゃない?』

『俺もこうして関わるとか予想すらしてなかったよ』

 

 それに今のフェイトをほっとけるほど人間ができていない。仕方が無いことだ。甘いなら甘いと笑えばいい。

 なのはの時も似たような展開じゃなかったかな? あれ? もしかして成長してない?

 

『あはははははははははははは』

『ぬっころす!』

「でも………」

「でもも案山子もない。その怪我では次も白い魔導師には勝てないぞ」

「うっ」

「それに火傷を放置するとぶくぶくに醜く膨れ上がってだな………」

「いや、聞きたくない!」

「でも、迷惑じゃないかしら………」

「そこは………気にするな」

 

 渋々とだが、二人は頷いてくれた。

 

「ではな」

 

 フェイトの部屋から出ると、既に外は夕方から夜へと変わる時間。少し離れたところで変装を解き、クロから裕也へと戻る。

 

「はぁぁぁぁぁぁああああああああ………」

「疲れてるねぇ」

「まったくだ………てか、あー。フェイトたちに頼むこと忘れてた」

「頼むこと?」

「んー、何故ジュエルシードを集めているか。俺の勘では、後ろに誰かいるのではないかと思ってな。会わせてもらえないかなぁと」

 

 恐らく、というか原作通りに姿を見せていないプレシアがバックにいるはずだ。何故表に出れず、何故2人は戻れないのかは知らないが。

 頭が混乱してて、下手なことを言うまえにさっさと退散したかったって気持ちが強くて忘れていた。まぁ、次に会った時でいいか。

 

「どした?」

「ん~、あの娘たちのこと。気に入ったのかなぁと。やけに気にしてるし」

「ほっとけ」

 

 気にならないとは言わないけど、諏訪子が思っているようなことではないからな。

 

「とりあえず、帰るか」

「そうね」

 

 諏訪子とともに、俺は帰路を急いだ。霧谷との戦闘やら何だかんだで体が疲れていた。俺も自分の傷の手当をせにゃならん。

 てか、もう原作ってなんだっけ? だよ。自業自得ではあるけどさー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

「なのは! 無事k………って、いねぇ」

 

 霧が晴れた頃には既になのはの姿は消えていた。

 

「まったく、恥ずかしがりやなんだから。まぁいい。次に学校で会った時にでも感謝されるだろうしな」

 

 少し離れた物陰でなのはは隠れて霧谷が消えるのを待っていた。

 

「早く消えてほしいの。なんでいつまでもいるのかな?」

「なのは………別に隠れる必要h」

「なんならユーノくんを送り込もうか? 転送魔法で一発なの」

「ごめんなさい」

 

 その後も一人で笑ったり唸ったりして満足したのか、霧谷はどこかへと行ってしまった。

 

「ふぅ………あ、早くすずかちゃんたちのところに戻らないと」

 

 元凶となった猫をかかえ、なのははユーノと共に戻っていった。

 

Side Out

 

 

 


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