星と雷
二人の少女が出会う
語られぬ者は退出を
今日、もう一人の主人公―――フェイトが現れる。
『諏訪子―――準備はいいか?』
『ばっちしだよ!』
『じゃあ、行くか―――』
誰が張ったのかは分からないが、既に辺りは広域結界に包まれている。俺はバリアジャケットを纏って仮面をつける。視線が切り替わり、一軒の屋敷が見える。
先ほどジュエルシードの反応があったことを諏訪子から聞いた。
ならば、そこにいるはずだ。
――数時間前。
「………なんだって?」
『もぅ~、だから、今日すずかちゃんの家に遊びに行くんだけど、裕也くんも来ない?』
電話の先のなのはは俺が話をきちんと聞いていなかったからかご立腹である。今日は休日なのだから、昼過ぎまで寝る予定だったところを叩き起こされたのだ。まだ頭は起きていない。
しかし、それもなのはの言葉で急激に醒めた。
『どうする?』
「ん~、悪いがパスするわ.また誘ってくれ」
『そう………分かったの。じゃあ、また学校で』
――プツンッ
「……………………そうか、今日か」
曖昧になってきた原作の記憶だが、今日の日は覚えている。なのはとフェイトが出会う日だ。
「―――何もなければいいが」
なのはから今日のことを聞き、フェイトのことを思い出してから―――頭の中で警鐘がなる。
(嫌な予感がするな………)
何があっても動けるようにとなのはに付き添うのではなく、影から見守る形を取った。自由に動き、あらゆることに対応するために。
自分でも色々と矛盾があるのは理解している。深く関わるつもりはないと言いつつ、正体を隠して関わり、あまつさえなのはには接近し過ぎている節もある。
原作の流れを重視しつつも、自分でその流れを壊してきているのも事実。
(何がしたいのかなぁ………俺)
自分でも良く分かっていない。だが、なのはの無事を願っているのは事実だ。
――ところかわって、カオス部屋。
部屋の中に一人でいると、どうにも嫌な予感が拭えない。なので、魔法の練習―――は、後日として、何か武器になるものや戦いになった場合の対処法などが載った本などはないかと、探しにきた。
こんな場所を咲夜さんに見つかったらまたお説教だろうな。
「っと、おや? ここらへんはカオスじゃないな」
「そうね~きちんと整頓されてるなんて、この部屋からしたら異常じゃない?」
本ばかりが集まった一角。そういえば、前に来たときもやたらと本が集まってる場所があったが………ここはそことは比較にならない程に本があった。
また、本たちが本棚ではなく色々なモノ―――それこそ箱や物置のような場所に整頓されて置かれていた。カオス部屋にふさわしくない光景である。
「あら、最近はよく来るわね」
「ぬわぁ! ごめんなさい!?」
背後からの声に咲夜さんかと思いきや、そこにいたのは小柄な少女だった。いや、シャボン玉のような大きな水玉に腰掛けて浮いている―――少女? だった。
遠い異世界ではZUN帽とも呼ばれる独特の形をした帽子を被り、紫の長い髪をリボンで束ねた姿。白を基調とした長いスカートに、病的なまでに白い肌。
「…………知り合い?」
「知らないよ」
「どちらさま?」
その姿に、知っている名を思い出すが、慌てて隠して名を尋ねる。
「初めまして。私はパチュリー・ノーレッジ。この空間を安定化させている者よ」
「………はい?」
前半は予想通り。だが、後半は予想外の言葉だった。空間を安定化?
「そして後ろの咲夜がこの空間を拡大化しているのよ」
「へ?」
「はい、その通りです」
ニコリッと綺麗な笑顔。
オレ、\(^o^)/オワタ。
◆
「なるほど。つまり、出られないと」
「まぁ端的に言えばそうね」
咲夜さんに簀巻きにされて、逆さまにぶら下げられている。ナイフを使われなかっただけマシなのだろうか………ポジティブに考えよう。うん。
指でパチンッと短い動作で俺の目の前に彼女と同じシャボン玉を作り出した。その間、一秒未満。
「「おぉ」」
諏訪子も驚く速さであった。
ちなみにシャボン玉と思って突っ込むと、意外と弾力があって「あぁぁぁうぅぅぅぅ」弾かれる。もう一度指を弾いてパチュリーさんはシャボン玉を消した。
「はい。紅茶が入りました」
咲夜さんが淹れてくれた紅茶(ただし俺と諏訪子はオレンジジュース)をそれぞれの人の前に置く。瀟洒だな。
ところで、俺はまだ簀巻きのままなのだが………このまま飲めと申すのだろうか。よし、がんばってみるか。ぽじてぃぶぽじてぃぶ。
「しかし、封印と、いわれて、もなぁ」
「ま、あてにはしてないわ。こっちも気長にやってることだし」
「ずずっ………基本、親父が持ってくるもので構成されてるからなーここは」
パチュリーさんたちはこの部屋に閉じ込められているのだという。【幻想郷】という場所に転移しようとしたところ、何故かこの部屋に辿り着いてしまった。おまけに人外を外に出さない結界付きというから始末におけない。
【幻想郷】にいる妖怪賢者となんとか連絡を取り、協力を仰いでみたけど徒労に終わった。彼女の手を使ってもこの部屋の結界は抜けられなかった。
(幻想郷の賢者ってあのスキマかなぁ………そういえば、いつかのカオス部屋にいたようないなかったような)
「てか、咲夜さんもそっち側というか、パチュリーさん側の人だったんだね」
「えぇ、どういう訳か私は素通りできましたので。出た先が影月家だったのは驚きましたけど」
でしょうね。よく分からない空間に転移して、外に出たと思ったら家の中の一室だったとかね。その後普通に影月家でメイドとして過ごすのもすごいが、それを許す母さんもすごいなと思う。
そろそろ俺の中の常識が大変なことになってきているのだが、誰か助けて欲しい。そう思ったら、何故か頭の中に緑髪の巫女さんが出てきて「常識にとらわれてはいけない!」って言ってきた。
「てかそもそもこの部屋が結界とかで覆われてるなら、何故出入りできるんだ?」
普通、結界ってのは出入りを禁止するために設けるものだと思うのだが………人外な人たちはきちんと結界に反応して閉じ込められているから間違いではないのか?
というか、諏訪子は問題ないよな? 入ったはいいけど出られませんでしたとかは無しだぜ?
「知らないわ。むしろ、私が教えて欲しいわ」
目下、調べ中ということだった。
「そうそう、覚えているかどうかは知らないけど、以前あなたが行こうとした地下室は覚えてる?」
「地下室?…………あぁ」
「思い出したみたいね。あそこにはレミィの妹がいるから気を付けなさい」
「妹………」
(ってことは、フランドールだっけか? あぶねー。俺死ぬところだったじゃん)
「お? 妹ってことは姉もいるのか?」
「ぅん? あら、一度会ってたはずよ」
「え?」
「覚えてないかしら? 棺で寝てたところを起こされたって言ってたけど」
「棺………………あぁ!」
そういえば、そんなものを開けたような気がする。
「いたなー………そうか、あれが姉かぁ」
「あれが姉よ」
レミリア………だったよな? 言われればそうっぽいような気がしなくもないが………ふむ、なるほど。
「はぁ~………って、どうした?諏訪子」
「ん~、幻想郷か………本体はもう行ったのかなぁって」
「なんだ? お前も幻想郷に行く予定だったのか?」
知ってたけど。
「そうなの?」
「そうだよ」
諏訪子はまだこちらの世界にいるつもりだったが、相方の神が幻想郷に行くことを決意。今は、その準備をしているとのこと。その最中に分神体である目の前の諏訪子は、新たな存在に生まれ変わってしまったが。
(しかし、時期的にパチュリーたち紅魔組みがこれから幻想入りなら諏訪子たちはまだのはず)
場所は長野だと思うが、守矢神社はあっただろうか。洩矢神社ならあるだろうが。行こうと思えば行ける、と思う。諏訪子の言う相手の神―――“八坂神奈子”もいる………と思う。
というか、諏訪子なら単体でも飛んでいけるのでは、という疑問が浮かぶ。それを行わないということは、何かしらの問題があるか、会えない理由があるか。それとも、距離的な制限でもあるのだろうか。
(あれ? いつのまにリリカルから妖怪退治の世界に切り替わったんだ?)
色々おかしく感じるところはあるが、気にしないでおく。
「“洩矢諏訪子”ね。向こうにあなたの本体がいたら伝えておいてあげるわ」
「お、優しいねぇ魔女さん」
「魔女の気まぐれよ」
それで、今日はどうしたの? と魔女は続けた。すっかり忘れていたが、今日きた目的は別にあったのだ。
「それと、そろそろ下ろしてくれませんか?」
「ダメです」
お仕置きはまだ終わりそうになかった。
それからしばらくして、冒頭へと戻る。
「あそこか!」
でかい屋敷―――すずか邸の近くの森。そこから頭を突き出した猫がいた。隣の屋敷が猫の家に見えるくらいにでかい猫が。
そして、猫に迫る黄色い弾丸―――
その先に一人の少女が見えた。
――バチッ
弾丸は猫に当たることはなく、蒼黒いシールドが防いだ。そこにいたのは、
「ふはははははは!」
バリアジャケットを着て高笑いする霧谷と、
「……………」
俺でも分かるくらいの物凄い嫌な顔をしたなのはがいた。
『諏訪子。変身はばっちりか?』
『ばっちりだよ』
『最悪、介入する。その時は戦闘になるから頼むぞ』
『おっけ~』
なのはのためにも、フェイトのためにも、変な行動するようなら邪魔をさせてもらうぞ! 霧谷!
「魔導師………二人………」
無表情になのはたちを見下ろす金色の少女―――フェイト。対して、見上げるなのはの視線は、かなり鋭く視線だけで人が殺せるのではという程に憎悪に満ちた目で見ていた―――霧谷を。
「な、なのは……落ち着いて。ね?」
「だいじょうぶだよ………ゆーのくん。なのは、おちついてるよぉ」
「なんか黒いの出てるから!? 変なエコーもかかってるから!」
黒い笑みで突然現れたフェイトではなく、霧谷を睨みつけるなのは。出来るならば、この場から今すぐ消えたいと思っているユーノと共にこれから始まるであろう戦闘の準備を始めた。
「うふふ………どうしようかなぁ」
「やめて! なのは! その笑顔ヤメテ!」
自分の後ろでそんなことが起こってるのは露知らず。
「ぬるいなぁ………そんなもんか? お前の実力は!」
二人の間を邪魔するように霧谷はその場にいた。フェイトを正面から捉え、己のデバイスである大剣でフェイトに突きつける。
「……………」
「はっ!」
霧谷の挑発など無視してフェイトが先に動き、少し遅れてから霧谷も動く。こと、速さに関してはフェイトが上である。
―――ブォンッ!
デバイス―――ではなく、逆の手に握られた武器から破壊の光が空を焦がす。
「さすがに速いな!」
だが、その光はフェイトを捕えることは出来ずに、ただ虚空を貫いた。
フェイトは先ほどの一撃から霧谷の攻撃力を危険域まであげ、警戒を強める。
(速さでは上。でも、一撃の威力は向こうが上!)
先ほど見せた一撃でも分かるように、攻撃力の一点は霧谷が勝っている。フェイトは己の得意とする速さで持って相手を翻弄し、攻撃を躱し、隙を見つけては攻撃するヒットアンドアウェイの態勢を取った。
「はああああああああああああっ!!」
デバイスのバルディッシュを鎌状にして振り上げ、己は回転しながら接近し、衝撃の威力を上げる。
「ぬるいぜ!」
が、それも全方位に展開したバリアーで防がれる―――瞬間に高速移動の魔法をかけて反対側に駆け抜ける。
得てして、目の届かぬところは障壁というのは弱くなってしまうもの。それを考えての行動だが―――
「はっはっは!」
どうやら自分の莫大な魔力を良いことに、かなり厚いバリアーを作ったようである。背後に側面にと一撃を喰らわせるものの無駄に終わっていた。
「最強の俺には無意味だ!」
「くっ!」
霧谷が反撃を行わずに、ただただ攻撃を受け続けているのは余裕からくるものか、それとも何かしらの作戦があるのだろうか。
「どうしよう………」
どこからか突然現れた霧谷のおかげで、フェイトは霧谷と一騎討ちを始めてしまった。心情的になのははフェイト側について、霧谷を撃ち落としたいところだが。
「なのは。気持ちは分かるけど、一応味方みたいだし」
「ユーノくん。ダメなの。あいつは許せないの」
「なのは。気持ちは分かるから、落ち着いて! なんか、さっきから黒いオーラが出てるから!? 怖いよ!!」
一度は引っ込んだはずの黒いオーラが再び表れる。にっこり笑ってるはずなのに、妙な威圧感がユーノを襲う。何故か脳裏に大魔王という言葉が浮かんだが、懸命に飲みこんだ。
今、その言葉を発したら自分はとてつもなく後悔することになるだろう、と本能的に察した。
(とはいえ、なのはの気持ちも分かるしな………)
ユーノも霧谷には良いイメージを持っていなかった。初見でいきなり淫獣呼ばわりして殺そうとしてきたのだから、当然ではある。あの場になのはがいなければユーノの冒険はここで終わっていたことだろう。
更に言えば、なのはに対して呪いに近い何かの術を行使したことだ。異世界の術故に解呪など出来ず、なのは自身に自力で頼むことくらいしか出来なかったのだ。あの時のことを思うと、今でも悔やまれる。
下手したら廃人になっていたかもしれない術を平気で行使したのだ。
(ただ、彼のあの力! とてもレアスキルという言葉だけでは説明がつかない)
初めて会った時には既に魔導師でいた霧谷という男。魔力物質化というレアスキルを持ちながら、ランクはSSとかなりの規格外。
とても魔法を知らない世界の住人とは思えない。
(いや、そもそも何故彼は“この世界”で“魔導師”になれたのだ?)
ミッドチルダはおろか、近くの管理世界も干渉できない管理外世界だ。魔導師どころか魔法という言葉さえ無いこの世界で、何故彼は魔導師としていられたのか。
(少し、彼について調べる必要があるかもしれない………!)
大きすぎる力は頼もしい限りだが、時としてそれは危険なモノとなる。
「ユーノくん?」
「え? あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「もう」
そんな2人の上空でフェイトと霧谷はバトルを続けていた。誰がどうみても劣勢はフェイトの方だった。
黙って攻撃を受け続けていた霧谷はついに攻勢に出たのだ。霧谷のバリアーを崩すことができないフェイトは圧倒的な物量で攻める霧谷に少しずつと機動力を削られ、ついには周囲を剣で囲まれるようになってしまった。
まだそれなりの広さは確保できているので、飛んでくる剣を避けることは出来る。だが、それもどれだけ持つことか。
「どうする? 少しずつと範囲が狭くなっていくぞ? ここらで降参した方がいいんじゃねぇか?」
「……………」
じわじわと嬲るように周囲に展開している剣を一本ずつ投擲する霧谷。ついでに少しずつとフェイトが動ける空間を削り取っていく。
「私はあの子の手伝いならするけど、あいつの手伝いは絶対にしない」
「なのは………」
「それより、今のうちにジュエルシードを封印するの」
「あ。そ、それもそうだね」
「ユーノくん。忘れちゃダメだよ。最優先事項でしょ?」
忘れる原因となったのが隣の魔法少女だとは言わないでおくユーノであった。
2人は上空のことは一旦忘れて、元凶となったジュエルシードの封印作業に入った。
一方のその頃、
「霧谷ェ………」
『どうするの? 裕也』
『………出るぞ』
高笑いしながらフェイトと争う霧谷。魔力物質化で宝具と思われる武器を投影し、フェイトに向けて放っている。
(直撃させていないのは殺してしまう可能性があるからなんだろうな)
と思っていたが、高笑いと聞こえるセリフから、ただ単に嫌みったらしく嬲ってるだけではないかと思えてきた。
周囲を囲まれて機動力を削られたフェイトでは、あれらを一斉に放たれれば一たまりもないだろう。フェイトとてそれを理解している―――と思われる。
彼女の動きは素人の動きではなく、玄人の動きだったからだ。
だからこそ、頓着状態に持ち込んだ霧谷の考えが読めないでいるだろう。何故、一気に攻めてこないのか。何故投擲する武器は1個ずつなのか。
(しかし、あれで好かれようと思ってるのか? それとも別の思惑が?)
霧谷はチート能力を持つ典型的な転生者。主人公組みに積極的に接触して、自分を好かれさせようとしている、と思っていたが………意図が読めない。
俺も霧谷のことを言えないが、意味が分からな過ぎる。
「ほら、後ろを爆発させるぞ」
――ドォンッ!
過去の時代、または未来の時代において数多の伝説を残したであろう武器たちが、霧谷の指一つで爆発霧散させられていく。あれらは魔力で作った偽者とは言え、あまり良い気はしないな。
「くぁっ!?」
「くくく! そろそろ限界が近いか? 今なら優しく抱きしめてやるぞ?」
「………誰が!」
シールドなどで防ごうにも一面しか守れないのでは意味がないし、シールドでも軽減くらいしか出来ていないみたいだ。なら、全面を守れるバリアを張ればいい。とはいえ、魔力も無限ではない。我慢比べではフェイトが先に負けるだろう。
(しかし、奴のあの武器は質量兵器に入らないのだろうか……まぁいい)
『あの男の邪魔をするぞ』
『戦じゃ~!』
なるべく干渉しないようにと考えていたが、もうこれ以上は我慢できない。原作通りに動いて欲しいと思ったが、もう無理だ。
このままではなのはとフェイトが出会う前に終わってしまうだろう。この後も出会うことはあるだろうが、今後も俺の予想通りに動くとは限らない。
この世界には霧谷がいるのだから。
(それに―――)
女が傷つけられてるのを黙って見てるほど男を止めてないしな!
(2人のためにもこの場を潰させる訳にはいかない!)
さぁ、物語に介入だ!