始めたからには目指す
ただただ昇る
―――頂へ
ついにやってきてしまった今日。
今日は、サッカーチーム“翠屋JFC”の試合日であった。
「きたぜきたぜきたぜきたぜええええええええええええええええええ!!!」
「ヒャッハー! MI・NA・GO・RO・死・DA-!!!!」
若干名、テンションがおかしいのも試合日だからだ。そう考えることにした。いつもおかしかったが、今日はそれ以上におかしいのも、今日が試合日だからだ。
「すいません。試合開始前はだいたいこんな感じなんです」
手馴れたマネージャーさんがそこにいた。彼女曰く、相手が前回の試合で大敗を記したチームだから、というのもあるらしい。
それも踏まえても………。
「「「「「ヒャッハー!!」」」」」
おかしすぎるだろ。
こいつらは一体どこの世紀末に出てくる奴らだ?
「エース! ここで気合の入る言葉を一つ!」
「「「おねっしゃす!!」」」
「はぁ………」
ジュエルシードの反応がないときなど、時間が空いた時は積極的に練習には出ていた。不本意ながら背負ってしまった【エース】の名に負けないように、と。
「あー、バカどもよ。やる気は十分のようだから、ただ一つだけ――――勝ちにいくぞ」
「「「「「よっしゃあああああああああ!!!」」」」」
試合場所はいつもの河原近くのグラウンド。参加者、見学者など続々と人が集まりつつあるその場所は、いつも見慣れたはずの風景を一変させていた。
そして、その風景の中に見慣れた顔が幾つか。
「裕也く~ん」
ぶんぶんっと観客席からではなく、何故かチームのベンチから手を振る姿があった。言わずもがな、なのはとその親友たちだ。幸いというか、霧谷の姿は見えず、他にはおかしなところはないな………と思ったが、もう一つあった。
「……………」
「やっほーい」
何故かその中に咲夜さんの姿も見えた。その隣には諏訪子までいるし。
「あっれぇ~? おっかしいなー」
咲夜さんにはおろか、家族にも言ってない。今日が試合だということは。サッカーチームに入ってることは伝えているが………。
「なんでいるんだろう?」
メイド姿で浮いてるはずなのに、アリサやすずかの近くにいる所為か違和感が激しくない。違和感仕事しろ。
まぁあの人に関しては色々と不思議があるから、今更一つくらいの不思議が増えたところで問題は………ないのか?
隣の幼女はどこにいても違和感はないから知らん。
「裕也」
「おぅ」
まぁ、今は試合に集中だ。
―――ピィィィィィィィィ!!
試合開始のホイッスルが鳴る。
まずはこちらが攻撃側。とりあえず、すべきことは攻撃だ。攻撃こそが最大の防御なり、というしな。
「一に攻撃、二に攻撃、三四も攻撃で、五に攻撃」
「攻撃しかねぇぞ」
「友達はボールと言うしな! とりあえず蹴ればいい!」
「逆だよ、それ」
「そうだぞ、相手はボールの間違いだ。蹴り倒せ。ボールを間に挟めば問題ない」
「問題あるよ」
殺意がギラギラと見え隠れ………隠れてねぇや。そんなチームメンバーに突っ込みが追いつかない。突っ込み役が圧倒的に足りていない。
「とりあえず、ボール持ったら前に突き進むでいいんじゃね?」
「「「それだ!!」」」
「てめぇら、試合中だぞ!」
前の二人からパスがこちらに届く。それを受け取り、ドリブルとパスで繋いでいく。先に進むは二人。相手側のコートなので敵側は総勢で防ごうと迫ってくる。
強豪チームというだけあって、その守備力は高いのが目に見えて分かる。各々が自分のすべきことを忠実に守り、こちらの攻撃を防ぎ、あわよくば攻守の逆転を狙っているのが見える。
「ま、俺たちがそこらの普通の奴ならば、ここで終わってただろう」
「しかし、俺たちは違う」
「見せてやるぜ! 翠屋JFCをな!」
ちょっとした悪ふざけから生まれた俺のアイデアと熟練の技術を持つ士郎さんの的確なアドバイスから誕生した“技”とも言うべきモノが幾つかあった。
「捕えられるか! この俺を!」
ある者は跳躍で人を飛び越え、またある者は反復横跳びを高速で行い、まるで4人いるかのように見せている。またある者は強力なシュートで人を吹き飛ばしていく。
俺も最初は無理だと思った。だけど何故か士郎さんはノリノリだった。そして冗談を実現させたメンバーに唖然とした。
自分で案を出しておいてなんだが、途中で何度も俺はサッカーをやってるのか格闘技をやってるのか分からなくなったのは内緒だ。
「ぬっ」
パスを繋いで、相手側のコートの半分を過ぎたところで快調だった足が鈍ってきた。相手側に人が増えたというのもあるが、
「どっせい!」
「ぐはっ!?」
並大抵の攻撃では吹き飛ばないチームメンバーが吹き飛んだ。
「させん!」
奪われたボールを即座に奪い返す。ここまで好調だった足が、完全に止まってしまった。相手は例の10番だ。
(ちっ、こいつ―――うまい!)
なんとかボールを奪われないようにとしているが、中々先へと進ませてはくれない。狙うべきゴールから離れる一方でこのままだと外に押し出されてしまうだろう。
どうやら俺らと同じく少々人というカテゴリーから外れてしまった者が多少なりともいるようである。
(ここらが潮時か―――)
アイコンタクトで仲間に合図を送る。このまま時間を潰すよりかは、入らなくてもシュートを決めてしまった方がいいだろう。
「しっ!」
体を斜めにして、相手に邪魔されないように自分の裏からボールを蹴る。一旦、仲間へとパスして敵側の視線を集める。すぐにボールを蹴り戻してもらい、その隙に俺に付きまとっていた相手から逃れ、即座にとシュートを放つ。
距離的には厳しいし、キーパーは真正面だ。防がれるのは当たり前だ。入ったなら儲け物。
「いっけええええ!」
それらすら捻じ伏せるように、全力でシュートを蹴る。伊達に毎日鍛えている訳ではない。
――ドゴォッ!
ややカーブを描きながら、まっすぐにゴールへと向かい―――
「っ! のっ!」
ゴールキーパーがバレーボールのように場外へと弾き飛ばした。もし、受け止めようとしていたならキーパーごとゴールの中へと吹き飛ばしていただろう。それだけの威力で蹴ったつもりだ。
「惜しかったな」
「あぁ、キーパーごと吹き飛ばす勢いだったんだが、上手い具合に弾かれた」
「いまので警戒して攻撃の手が緩めばいいがな」
だが、それはないだろう。相手チームの目からは戦意が消えていない。予想していた通りだが、この勝負。かなりの激戦になりそうだ。
「ところで、10番以外に警戒が必要な相手はいたか?」
「2~3人いた。だが、やはり10番が突出してるチームだな」
確かに相手は強い。強豪チームと呼ばれるだけはあるが、一番強い10番が一人で活躍しているだけのようなもの。もちろん、他のヤツラとて使えない訳ではない。これはサッカーなのだから。一人が引っ張ったところで、チームには勝てないだろう。
「なら、当初の案通りに行くか」
「「了解」」
さて、様子見はおしまいだ。本領発揮といこうか。
「攻撃こそが最大の防御なり―――見せてやろうぜ、俺たちの力を」
攻撃と防御、二つに力を裂くから中途半端になる。ならば、いっそのこと防御は捨てる。全ての力を攻撃に傾けるというのが作戦だ。
1点取られたら2点取る。5点取られたら10点取る。より多く点を取ればいい。
Side Story
「わぁ、すごい………」
「あの7番、すごいね」
「ね!」
7番の背番号を背負って動いているのは、影月裕也くん。お父さんが言うには、指示することがないくらいにとても上手い選手と。
ここからでは何を言っているのかは聞こえないけど、皆に色々と指示を出している姿が見えます。
≪ねぇ、なのは。これってこっちの世界のスポーツなんだよね≫
≪そうだよ。サッカーって言うんだ≫
――ドゴッ!
――ドガッ!
――ドンッ!
瞬きのような一瞬、その一瞬の間に相手選手から強いシュートが蹴られ、それを裕也くんが即座に蹴り返した。蹴り返されたボールを相手選手は上空に蹴り上げ―――
「「おおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」
裕也くんと相手選手がボールが落ちてくる前に上空で蹴り合う。一瞬の均衡の後、裕也くんが勝って、ボールが地面に叩き落されたの。
≪なんか………激しいスポーツだね≫
≪にゃはは………これは特別だと思うの≫
普通に蹴ったボールが地面につかずに浮いたまま数十メートルも跳ぶのもすごいけど、それを平然と返しているみんながすごい。
「裕也! パスパース!」
―――ドゴォッ!
裕也くんが仲間の1人にパスを送るけど、送る際に蹴った音がおかしい。あ、巻き込まれた人が撥ねられたの。それでもボールはブレずにきちんと仲間に届いた。
≪ねぇねぇ、なのは。この人たちさ、身体強化とかしてないよね?≫
≪う、うん。してない………はず≫
「おらぁっ!」
――ドゴッ!
「甘いっ!」
――ドゴッ!
「てめぇがな!」
――ドンッ!
シュートが放たれ、それを相手チームが蹴り返して、更に追いついた裕也くんが割り込んで蹴り返したの。その間、ボールは地面に付いていない………と、思う。
≪あ、跳んだ≫
ゴールキーパーが裕也くんのシュートに弾かれて、上に跳んだ。でも、くるりと曲芸師みたいに上手く地面に着地できるから問題は………ないのかな?
点が入ったので忙しく動いていたフィールドの人たちも動きが止まる。
「よっしゃあああぁぁぁぁぁっ!!」
裕也くんの声にチームメンバーたちが歓声を上げる。
「ふぅ」
息することを思い出したように息を吐いた。大きく深呼吸して呼吸を整える。
「はぁ………なんか、見てる方も疲れる試合ね」
「ねぇ。でも、これで1点入ったね!」
どうやらアリサちゃんやすずかちゃんも私と同じような状態だったみたい。確かに、息をすることも忘れるほどに忙しい試合なの。
(人が跳ぶところ、見慣れちゃったなぁ………)
試合中、度々人が跳ぶ場面が多かった。感覚がマヒしてきたみたいで、今はなんとも思えない自分がいた。
―――ピィィィィィィィィ!!
試合が再開―――と同時にボールの姿が消えたの。
「止められるかぁぁ!?」
今日の数あるシュートの中でも一番強烈な一撃が蹴られた。これを1人であいてするのは難しそう。
「「「もちろんだぁぁぁぁぁ!!!」」」
チームメンバーが出した答えは3人で相手することだった。1本の矢は簡単に折れても、3本集まれば折れ難いという話の通り、3人同時に蹴るみたい。
「「「わぁ」」」
私たちの言葉も重なる。よくあの小さいボールを3人同時に蹴れるなぁ。
「あ」
再びボールが人に当たり、空中に投げ出された。それに追いついて跳びあがったのは、裕也くんと、裕也くんをマークしてた相手の10番。
「吹き!」
「飛べ!」
――ドガァッ!!
空中でボールを挟んで裕也くんと相手選手が再びぶつかり合う。
≪なんかこんなの、なのはの部屋のマンガで見たような記憶があるよ≫
≪わたしも………あれって、現実でも出来るんだね≫
そのうち燃えるシュートとかやりそうで怖い。またできても不思議に思えないから更に怖い。
(アリサちゃんもすずかちゃんも最初は驚いてたけど、もう慣れたみたいなの)
「あぁ!?」
「抜かれた!」
今度は裕也くんが相手に競り負け、相手選手がそのままボールを持って進んでいくのが見えた。このままじゃ………。
「あれ?」
「あぁ! 誰か止めてー!」
裕也くんも含めて三人の選手が前へと進んでいきます。ボールからどんどん離れていってしまうけど………裕也くんは振り返らずにどんどん進んでいきます。でも、裕也くんは楽しそうに笑ってるのが見えました。
チームメンバーの人たちも邪魔をするだけで、積極的にボールを奪おうとしている訳ではないみたい。
「「あぁ!?」」
ついにシュートが蹴られ、自陣のゴールへとボールが飛びます。でも、
「キーパーすごい!」
「やったー!」
裕也くんのチームのキーパーがちゃんとボールを止めました。相手チームのキーパーみたいに弾くのではなく、きちんと受け止めて、
「裕也ぁぁぁぁっ!!」
間髪いれずに思いっきりボールを蹴り上げました。なるほど、裕也くんはキーパーがちゃんとボールを止めてくれるって信じてたから………。
(なんか、いいなぁ………)
言葉にしなくてもお互いが分かり合えている。その絆が、とても羨ましい………。
「かっこいいなぁ………」
Side Out
――ピィィィィィィィィィィィ!!
試合終了のホイッスルが鳴り響く、得点ボードを見れば、
(2対1か………)
試合結果は2点取得でこっちが勝利。相手に得点を許さず、圧勝するつもりだったが、残念ながら1点許してしまった。
こちらが攻撃特化に動いたと分かれば、向こうも攻撃に全てを割いて動いてきたのだ。状況を見て柔軟に動けるのがこのチームの強みなのだろう。さすがは、強豪と言われるだけはあるチームだった。
「2対1で、翠屋JFCの勝利―!」
「「「「ありがとうございましたー!!」」」」
試合が終わった後は礼。そして、お互いに笑い合う。次は負けないぞ、いつでも相手になる、そういって笑いあう。
自然と笑みが零れてくる。無理やり引っ張られた時はすぐ止めようかと思ったけど………。
「………………」
悪くないな。
そう思えるものが目の前にあった。
「皆! 今日はよくできたぞ! 練習通りに動けたな! すごかったぞ!」
士郎さんからもお褒めの言葉をもらう。子供のように、まるで自分のことのように喜んでいる姿に、不思議と俺たちも嬉しくなる。
ただこれがホントにサッカーに分類していいものかどうかの疑問はあるが、今は勝利の美酒に酔いしれようか。
「よし! じゃあ、勝ったお祝いに飯でも食うかー!」
「「「おーーー!」」」
他の仲間に聞いたところ、どうやら試合の後に翠屋に行くのはいつものことらしい。ま、ただ飯は美味いよな?
◆
「あ、裕也」
「ぅん?」
飯を食っていると、チームのキーパーが話しかけてきた。
「お疲れ。最後のシュート、よく止めたな」
「お疲れさん。1点許しちゃったけどね。10番はやっぱり強かったね」
時間ギリギリの最後。なんとか延長戦に持ち込ませようと一点集中の攻撃をしてきた。あそこで点を奪われたら、延長戦になり、スタミナでうちらは負けてたかもしれない。
最後の方は疲労困憊で皆が皆、気力だけで動いていたようなものだったし。
「で、どした?」
「うん。ちょっと相談があるんだけど………」
「ふむ」
精神年齢が成熟しているせいか、よく同級生たちからは相談事を持ちかけられる。なので、今回のこれも珍しいことではない。
それとなく頷いて、了承の意を伝えた。
「実は、女の子に贈り物をしたいんだけど………こうゆうのって喜ばれるかな?」
そっとポケットから取り出したのは蒼い石―――ジュエルシードだった。
小三なのにませてるなぁとか思っていたらのまさかである。お茶を噴いてしまった俺は悪くない。
「げほっげほっ! すまん―――で、それは拾いもんか?」
「ん。やっぱり、分かる?」
「まぁな。贈り物ね―――あいつか?」
視線を向けた先にはこのチームの唯一の女性であるマネージャーがいた。
「う、うん………」
「ふむ。綺麗とはいえ拾った石よりも、きちんとした物の方がいいと思うぞ。俺は」
「きちんとした物か………」
大人ならすぐにあれやこれやと幾つか思いつくものだろうが、小三だと金銭面で色々と制限が生まれてしまう。
「女性が好きそうで欲しがるものといえば………例えば、花とか人形とか、な」
「う~ん」
「今だったら高台はどうだ? あそこは女性に人気スポットらしいからな。金もかからんから、お手軽だし」
「そうゆうのでも、いいのかな?」
「物をあげる必要は無い。こうゆうのは気持ちだろ? 綺麗な花が咲いている場所に案内する、それだけでもいいんだよ。気持ちが篭ってれば」
「気持ちか………」
それっぽいことを言って、相手の思考を誘導する。そこ、あくどいとか言わない。ジュエルシードを持っているよりかはいいだろ?
「分かった。ありがとう。考えてみるよ」
「おぅ」
その後、石はもういらないらしく外に出て捨ててきたようだ。すぐに戻ってきたことから、近くだと判断する。
「……………………さて、こんなところで手に入ったっけか? ジュエルシード」
とりあえずは、なのはにメールだな。動けるならそのまま回収してもらい、無理ならなんとか俺が抜け出して回収しよう。早くしなければ、猫や犬に持っていかれる可能性もないとは言えない。
『翠屋の近くにジュエルシードが!?』
送信。
『え? なに?』
着信。
これじゃ伝わらなかったか。
『実はかくかくしかじかで翠屋の近くにポイしてきたんだ』
送信。
『まるまるうまうまなんだね。なるほど、よく分からないの』
着信。
ボケの返しとしてはいいが、伝わらなかったか。仕方が無い。俺が回収するか。
「よーし、じゃあそろそろお開きかな?」
どうやって店から出ようか考えていたところで士郎さんの声が響く。どうやら解散のようで、皆が立ち上がる。ちょうどいいな。これに乗じて回収して、ついでになのはと合流しよう。
「じゃあ、皆。今日はしっかり休むように! お疲れ!」
「「「ありがとうございましたー!」」」
店の前にいったん集まり、締めのあいさつ。士郎さんは店に戻り、皆は解散。さて―――
「裕也くん」
「ん?」
物陰からこっそりと顔を出して手招きするなのはの姿がいた。その肩にはユーノがきっちりと居座り、手にはジュエルシードを握っていた。
「何をしているんだ?」
「うっ。だって、お父さんの前でジュエルシードのこととか言えないもん」
「普通はただの石に見えるから問題ないと思うがな」
既に見つけてたなら話は早い。俺はもう用済みだな。
「えっと、封印を………」
「おいおい、ここでするつもりか?」
とはいえ、結界を張れば問題ないのか?
「あ、そうか。えっと、どうしようか」
――キュッ
フェレットが一鳴き。
「なるほど。じゃあ、裕也くんも来て」
「はい?」
ユーノと念話で何かを話したのは分かったが、何を話したのかはさっぱり。最初の時みたいに広域念話だったら俺にも聞こえただろうが、私情の会話をそんな広域にだだ漏れはさせないよな、普通。
「あ、えっとね。私の部屋でジュエルシードを封印するの」
「ふんふん。そこに俺の必要性は?」
「ないよ」
「なんで俺が行くの?」
「来たくないの………?」
質問に答えが返ってこない上に、そこで泣き顔ってずるくね? ほら、フェレットという名のユーノも呆れたような顔してるぜ?
表情の区別なんかつかないけど。
「……………」
ぎゅって掴まれたら、もう、逃げられない。
◆
特に意味もなく、なのはの部屋にお邪魔をし、ジュエルシードを封印した。俺がいる意味はない。封印だけなら変身する必要はなく、レイジングハートを杖にして行っていた。俺がいる意味はホントにない。目の前でくるくる回りながらリリカルマジカルは感動ものだったが、俺がここに存在する意味はない。ちなみに結界は張っていた。ホントに俺がここにいる意味がない。
ところで、ユーノ。肩から降りてたユーノくん。お前の位置からだったら、なのはのスカートの下、見えてたんじゃね? まぁ不問にしておくか。
封印した後はゲームで遊んで―――全敗を記録した。格ゲーでは開始と同時にコンボを決められ、俺のキャラが地面に落ちてきたときには“K.O”の文字が画面に表れた。落ちものパズルでは、隣でものすごい勢いでパズルが落ちていくのを見ていた。んで、ものすごい勢いで消えて、俺のところに増えていく。他にもアクションとかパーティゲームとか、全てのジャンルにおいて、なのはに負けたことを記す。
全力全壊で相手するよってなのはの言葉通りに、俺は全壊だ。手加減? この悪魔がそんなことする訳ないだろ?
「あかん。泣きそう」
「にゃはは」
「殴りたい、その笑顔」
「えぇー!?」
人を散々フルボッコにしおって………。くそっ、悔しいなぁ。俺が弱いのか、なのはが強いのか………。くそぉ。
「あ、それとね。今日、裕也くんちに泊まってもいいかな?」
「んあ~、母さんに聞かないとならんが、たぶん問題ないぞ」
記憶が戻ってから、というのもおかしな話だが、あれからちょくちょくとなのはは泊まりにくることがある。もちろん、両方の家族に許可を求めてからだ。たまに俺が(強制的に)なのはの家に泊まり(という名の拉致監禁)する時があるが。それはまた別の話。その際、恭也さんと士郎さんの顔は笑顔だけど笑顔ではない。
母さんも母さんで昔みたいで嬉しいわぁと言ってるし。桃子さんも桃子さんで感謝していたみたいだし。
問題はデバイスの諏訪子だったが、正規のデバイスでないおかげかなのは―――特にレイジングハートにバレることがなかったのは嬉しい誤算だった。
「おかえりなさいませ。裕也様。なのは様」
「おかえり~」
「お邪魔します」
「ただいま………って、なんじゃこりゃ!?」
家に帰れば、皆がリビングに集まっていた。そこではテレビに映る俺の姿があった。
「何って今日の試合映像です」
「いつ撮ってたの!?」
「私がんばった!」
「わ~………」
腕をあげる諏訪子。ドヤ顔を殴り倒したい。
時々画像が変わるのは、どうやら咲夜さんと諏訪子の二人で撮っていたためのようだ。映像編集までしているとは………瀟洒すぎる!
原作ではカメラに写真撮られると魂が取られるとか思ってたはずなのに。
「もう~教えてくれれば母さんも応援に行ったのよ?」
「咲夜さんにも言ってないはずだけどね………俺」
「情報源は私である!」
「お前か諏訪子!」
だが待って欲しい。俺は諏訪子にも言っていないぞ。
「この前おつかいに行った時におばちゃんから聞いた」
「おばちゃんェ………」
「で。行こうとしたら咲夜に見つかってね」
「問い質しましたら素直に答えてくれましたので」
「まぁいいけどね」
なのはも混ざってリビングで鑑賞会が始まった。俺はそんなもの見たくなかったので、部屋に閉じこもっていた。
ちなみに母さんは試合の時は知り合いの家に遊びに行っていなかったそうだ。
そして、当たり前のように俺の部屋に置いてあるなのはが使うであろう布団一式。狭いとはあ思わないが、小学生が三人寝るには少々厳しい部屋。
「まぁいいか」
たまにはこういった日があってもいいよな。