不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第07話 鍛錬する「魔法少女」

 

 

 

 

強くなる

 

あの人を守るために

 

 

今度は私の番だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 眠い目を擦りながら学校に行ったら、休み時間になのはに呼び出された。

 

「裕也くん。お話があるから屋上にきてね」

 

 と。

 “お話”であることを切に願う。“O・HA・NA・SI”ではないよな? というか、まだ魔王に目覚めては………いない、はず。

 勢いに押されて頷いてしまったので行かないとならんが………何故なのはは先に行ったのだろうか。同じクラスなんだから、いっしょに行けばいいのに。

 

「…………………………」

 

 不安で心が潰れそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、屋上。

 この学校は規律が緩くて、授業の合間の短い休み時間でも屋上に出られたりする。当然、柵などで落下対策などはしている。

 私立校だからというのもあるが、それでも自由に出入り出来るのは生徒からすればありがたいと思うし、学校側もよく許してると思う。

 

(鬼が出るか蛇が出るk………あ、魔王か)

 

 扉の先に待ってるのが鬼や蛇の方がどれだけ嬉しかったことか。とはいえ、逃げることは許されぬ。いやそもそも逃げられる訳がない。

 

 

― 地の果てまでも追いかけて、○すよ? ―

 

 

 何故か血塗れのなのはがレイジングハートを片手に待ち構えている姿を幻視した。それでレイジングハートが「death or die?」って聞いてくるのを幻聴した。

 好きな方を選べって、どちらも同じじゃないですかー!

 

「おk。落ち着いた。逝こう」

 

 扉を開けた先、目の前に未来の魔王様が―――まるでこれから戦場に向かうかのような顔でいらっしゃいました。

 一瞬の邂逅で、俺の脳裏に人生の再放送が始まる。

 

――ビュワッ

 

「白か」

 

 しかし、いたずら好きな風さんがちょっと通ったらそれも終了した。素敵な白があいさつをしてくれたので、思わず心のアルバムに保存してしまった俺は悪くない。男の悲しい性やな。

 打って変わって、目の前の魔王様は顔を赤くしてスカートを抑えていた。

 

「…………………みた?」

「見てない」

「……………何色だった?」

「白」

 

 やっぱりみてたのーーー! と怒られた。HAHAHA、ポカポカ殴られたけど微笑ましいね。あぁ、そういえば昔もこうやってたかなぁ。懐かしいなぁ。いつ以来だ? なのはがこうして甘えて(?)くるのは………。

 

 

 

 

「で、落ち着いたか?」

「うん。ごめんね」

「ん~、気にするなよ」

 

 休み時間は短い。そろそろ戻らないとチャイムが鳴ってしまうだろうが、どうも立ち上がれる雰囲気ではない。空気は読みますよ、俺。“からき”って読むんですね、分かってます。

 

「あー………」

「………久しぶり、だね。こうやって裕也くんと話すの」

「そうだなー。なんだかんだで学校では顔を合わせてたけど、話すことはなかったな」

「…………」

「…………」

 

 なんだろう。微妙な雰囲気の沈黙が間に流れている。

 確かに、一つ屋根の下に暮らしていた時が終わってから、なのはと話すことはなかった。なんか、こう、距離が出来たというか、壁ではなく離れていったというか………。

 なのはとの距離感がつかめなくなって、どう接したらいいか分からなくなった。だから、受け身の体勢でいたんだな。それで、気づいたら何故か避けられる現状になっていた。

 

(本来なら俺から動かないとならないのに、なのはに動かせてしまったな………)

 

 別に避けられていても問題はなかった。なのはがいじめられているとか、そういった背景はなかったし、特にこれといった問題はなかったから。友人たちの関係も良好のようだし、大人になれば消えてしまう友人の一人だったんだな、と考えていた。

 もしくは、これが世界の修正力か、と。何が原因だったかは知らないが、俺は原作に関わるなということではないか、と考えていた。

 

「…………なさい」

「ん?」

「ごめん………なさい………」

 

 何故かなのはが泣きながら謝ってきた。

 

「え? ちょ、おぉ!? 落ち着け!?」

「ごめん、なさい」

 

 どうすることもできず、俺にしがみついて泣くなのは。どうにもできなかったので、なのはの頭を撫でた。あぁ、昔もこうやって撫でた記憶があるなぁ。

 自然と笑みが零れてきた。

 そしてなのはは泣きながら零してくれた。

 

―――今まで忘れていてごめん、と。

 

 このままだと埒が明かないので、なのはを落ち着かせて話を聞くことにした。同時にチャイムが鳴ったが、全てを諦めた。

 だって、ここでチャイムが鳴ったから続きは後でね! とか言えない。言える雰囲気ではないよ。そんなことをしたら魔王の砲撃が俺を貫くだろう。何故か先が視えた。

 ピンクが、ピンクが俺を貫く!

 

「………ぐすっ」

「いい加減に泣き止みなさい。お兄さんは、なのはの笑顔が好きよ」

 

 まだ目に涙は浮かんでいるが、なのははポツポツと話してくれた。

 何故かは知らないが、昨日までなのはは俺のことを忘れていたという。忘れていたというより、他人と思っていたというのだ。

 過去に自分の家ではないどこかで暮らしていた記憶はあるが、霞がかかったように曖昧で思い出すことができなかった。夢の中ではいつも会えたらしく、母親に部屋に篭って寝ていたいとかってニート宣言もしてたとか言うし。

 

「そんなこと言ったのか………怒られただろ?」

「………うん」

 

 桃子さんがそんなことを許すとは思えないしな。その分、多く寝ようとして休日はほとんど部屋に篭っていたとかいうと笑えない。

 

(なるほど。道理で休日に公園とかにいないわけだな)

 

「てかまぁ、忘れてたのを思い出したからって泣きながら謝らなくても………」

「だ、だってぇ」

「あ~ほらほら。泣かない泣かない」

 

 まぁよくは分からないが、“O・HA・NA・SI”でなくて良かった。ビクビクしながら屋上まで来てたけど、俺の考えすぎだったんだな。

 良かった良かった。魔王はまだ顕現していないようだ。

 

「だから、ごめんなさい。それと、また一緒に遊んでくれる?」

「あぁ、いいぞ」

「それとね! 私、魔法少女になったんだよ!」

「ふ~ん」

 

 これで元通り、と。

 ん? 何か、今変なこと言わなかったか?

 

「あ、信じてないね。レイジングハート」

『Hello、YUYA』

 

 胸元から赤い宝石を取り出して、綺麗な笑顔で俺に見せる。うん、確かにレイジングハートさんだね。しゃべったし。それと、男の前で胸元を開けるのはどうかと思うよ。まだ子供だけど。ぺったんこだけど。ぺったんこだけど。

 

「あ、驚いてる! すごいでしょ~、私、魔法少女なんだよ」

「………あ、あぁ、そうね。すごいね………魔砲少女か」

 

 誤字ではあらず。

 しかしまさか、ここでカミングアウトされるとは予想外だったよ。あなた、確か親友たちにも話さなかったよね?

 

「おk。宝石が「レイジングハートだよ」………レイジングハートがしゃべったのは良しとしよう。お前が魔砲少女というのも半分は信じた」

「半分だけ~?」

 

 実際、昨日こっそり見に行ったのでその瞬間にはかち合ってたりする。もちろん、信じてはいるが………常識的に考えて口では否定をしておく。

 

「だってなぁ………いきなり、“私、魔砲少女です”って言われてまるまる信じる奴はいるか?」

「むー、それとなんか字が違うような気がする。魔法少女だよ?」

「あぁ、魔砲少女だろ?」

「むー」

 

 小動物みたいに頬膨らませて可愛いねぇ。

 

「ぽひゅ」

 

 膨らませた頬を押しつぶしたら、変な声をあげたなのは。思いっきり笑ったら、殴られた。てか、的確に急所を突いてきて地味に痛い。

 あっれぇ? なのはさんってこんな戦闘力高かったっけ?

 原作では運動音痴さんではなかったか? 足捌きとか腕の突きとか、さっきのは運動音痴のレベルではなく、達人の一撃だったぞ。最初のぽかぽかと全然レベルが違う。

 てか、すごく痛い。

 

「………なんか、こぶしが、するどくね?」

「あ、私もね! お兄ちゃんたちに混ざってお父さんに体術を教えてもらってるの」

 

 なん………だと………。

 剣術を教えてもらうつもりだったらしいが、まずは基礎からということで、簡単な護身術を教えてもらっているらしい。戦闘民族高町の血を受け継いでいるのは確かなようで、才能はあると言われたとか。

 なんでそんなことをやり始めたのかと聞いたが、教えてはくれなかった。小学校にあがってから続けているようで、もうかれこれ2年以上は続いているのか。

 

(えぇ~………これヤバくね?)

 

 将来的な意味で。魔王化的な意味で。

 ちょっとしつこく理由を尋ねたが、秘密と答えは変わらぬまま。片目瞑って口元に指とか、ちくしょう。どうあっても俺には教えないつもりのようだ。

 これから戦うであろうフェイトやヴィータの無事を祈る。死なないでくれ。いやまじで。

 

「でだ。話を戻そう」

「うん」

 

 この話は俺の肉体的にも精神的にもよろしくないのでな。現実逃避かもしれないが、喜々として説明するなのはの言葉を聞く勇気は無い。

 

「魔砲少女になったとか言うが、普通は言っちゃダメなんじゃない?」

「やっぱり、そうなのかな?」

「だと思うけどな」

「でも、裕也くんだから大丈夫だよ」

「………………」

「……………?」

 

 んー、おや? 大丈夫と言われたけど、大丈夫な要素が見当たらないな。

 

「その心は?」

「だって、裕也くんだもん」

 

 意味が分からない。俺だから?

 俺が魔導師になったのを知ってる―――訳はないよな?

 

「ちなみにこのこと知ってるのは?」

「裕也くんだけだよ?」

 

 じゃあ、まぁいいか? とりあえず、他言無用というのを押しておく。

 

「そういや、魔砲少女になったなら―――こう、使い魔的な小動物はいないのか?」

「あ、いるよ! ユーノくんって言ってね………」

 

 既になのはの中ではユーノは使い魔(ペット)になってるようだ。まぁ言われりゃそうだよな。この段階では、まだユーノが人間ってことを知らないし。

 

(まだ見ぬユーノよ………ペットとして逞しく生きてくれ)

 

 やっぱり使い魔(ペット)は必要だよね、とか同意を求められた。ごめんな、ユーノ。俺はお前のことを知らないことになっているから、頷くことしかできないんだ。

 事細かにその時の説明をしてくれるんだが………あんまり他人には言うなよ?

 

「帰りにフェレットの飼い方の本借りていかないと………」

「うん。がんばれ」

「うん!」

 

 そろそろ授業が終わるので、俺たちは休み時間になったら戻ることにした。その前に俺は職員室に寄って、保健室で倒れて寝ていたことを報告した。もちろん、嘘だ。ちなみに、なのはは俺の看病でつきっきりだったと言った。もちろん嘘だ。

 

「ジュエルシードか………」

 

 帰り際にジュエルシードの実物を見せてもらい、これは危ないものだから見つけても近づかないようにと言われた。もし見つけたら連絡をくれとも言われ、ケータイの番号を交換した。

 

「なのはの嫁も来てるのかなぁ………」

 

 ふと窓から見た空は清々しく澄んでいた。

 ちなみにデバイスの諏訪子さんは家で留守番だ。姿を隠すことができないから持ち歩くことはできず、まぁ危険もないだろうということで納得してもらった。

 

「ん? そういえば、ユーノは出てきたけど、霧谷のことは出てこなかったな」

 

 話的に出てきても良かったと思ったが、霧谷の“き”の字も出てこなかったな………これは、黙って察するべきか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放課後である」

 

 なのはと一緒に前の時間をぶっちしたおかげで、クラスの連中からからかわれたが軽く流しておいた。

 なのはの方はというと、アリサとすずかの二人に詰め寄られていた。苦笑いを浮かべながら後ずさり、やがて教室の隅へと追いやられていた。その後のことは知らない。猫のような鳴き声が聞こえたような気もしたが、俺は知らない。

 

「そんなこともあったが、今は放課後である」

 

 納得のいっていないアリサもすずかもなのはも皆が帰った教室。校庭では元気な奴らがまだ遊んでいる。なのに、何故俺はここにいるかって?

 

「担任の姫様から授業をぶっちした罰を喰らってるのさ!」

 

 授業をサボったのがバレたのはまぁいいとして。何故俺だけが喰らっているのかを知りたい。なのはは? 奴も同罪じゃないの? 女尊男卑ってヒドくね? 異議を申し立てる前にチョークレーザーが俺の額を貫いたことをここに記す。

 

『いったい、誰に向かって言ってるのだい?』

 

 ついでにスカさんにも報告をしている。昨日初めてユニゾンしたけど、その結果報告をまだしてなかったからね。ちょうど人もいないので、これ幸いにとスカさんと連絡をしている。

 

『まぁ現状は分かったよ。今度は戦闘でもやってみてくれたまえ』

「機会があったらね」

『クックック、ジュエルシードがバラまかれたのなら嫌でも起こるさ』

「嫌だなぁ」

『クックック』

 

 何故そんなことを知っているのかって言われたので、霧谷の名を出しておいた。適当に濁してもスカさんのことだから、絶対真実を突き止めるだろうなぁと思ったので、なのはから聞いた言葉を曲解させて霧谷に置き換えて説明した。

 霧谷よ………悪いとは思った。少しだけな。ついでに霧谷のことを調べてもらえたらなーと思って伝えておいた。

 

『あぁ、もしジュエルシードを手に入れることが出来たら私のところに持ってきてくれたまえ』

「メンドイなー、なんで?」

『諏訪子くんのパワーアップに使えるかもしれない。あれはあのままでは危険な代物だが、篭った魔力だけならば無害だからね。それにロストロギアには相応の使い方があるのだよ』

「ふむ。それはそれで興味がある。機会があれば手に入れておくよ」

『頼んだよ』

 

 次に来る時は翠屋でケーキを買ってくるように言われた。そういえば、俺が拉致されたときも食っていましたね。あなた。何気に常連になっていることに驚いたよ。

 

 

「ゆうや~」

 

 

 ふと見れば、窓の外から見慣れた姿が―――

 

「諏訪子?」

「やっほーい。ここが裕也の学校?」

「おいおい、なんでここにいるんだ? 誰にも見られて………てか、空飛んでた?」

「飛んでたよ。私を誰だと思っているの?」

 

 魔改造された元神様―――とは言えず。

 

「―――優秀なデバイス一歩手前」

「なんか微妙なこと言われた!」

 

 ここまで自由に動くデバイスも珍しいことだろうな、と諏訪子を見て思った。

 空を飛んでたけど問題ないというのは、どうやら諏訪子単体ならば存在力を意識して下げることが出来るという。元神故の力だとか。

 存在力を下げれば、普通の人間には知覚されることはなく、こうして空を飛ぶ幼女がいたとしても気付かれないという結果だ。

 

「なるほど。で、どうした?」

「例の石………ジュエルシードだっけ? その反応があったよ」

 

 諏訪子と俺は昨日の段階で既にジュエルシードの本物を見てる。その波長というか反応を諏訪子には覚えておいてもらい、似たような反応があった場合知らせてくれるよう頼んでおいた。

 まさか昨日の今日で起こるとは思ってなかったが。

 

「ふむ」

 

 場所は? と聞くと、あっちと答えてくれた。その方角には何があったか―――と考えて、すぐに思い出した。

 

(神社……………あぁ、なんかあったなぁ)

 

 初めて現世生物を取り込んだとか何とかじゃなかっただろうか。

 

―――タタッタッタタッタッタン♪

 

 配管工のおじさんががんばるゲームのBGMが鳴り響く。俺の携帯だった。

 

「おっと、なのはからだ。なになに………」

 

 

『神社にジュエルシードがあるみたいだから、近づかないでね!』

 

 

「―――どうやら、なのはが向かってるみたいだな」

 

 とすると、必然的に霧谷もいるだろう。戦力的には問題ないだろうし、なのはの経験にもなる。こっちは放っておいても問題ないな。

 

「なのはって昨日の子?」

「あぁ」

「ふ~ん………あ、じゃあさ、向こう側の奴はどうする?」

「向こう側?」

 

 神社とは反対側をまた指差す諏訪子。どうやら二箇所で発生しているらしい。

 なのは………は気づいていないだろう。気づいていたら、先ほどのメールで伝えてくるはず。霧谷と別行動………な訳がないよな。あの霧谷だ。

 

「反応を感じ取れるってことは、活性化してるってことだよな」

「たぶんね~」

「………戦いたい?」

「元軍神の血が騒ぐぜ~」

 

 神って血が流れてるのか? あ、でも怪我とかしてたら流血の描写はあるよな。ただ目の前のデバイスはどうなのだろうか。リィンフォースも流血とかしてたっけ?

 

「元祟り神じゃなかったか?」

「戦も好きだよ~」

「結界の準備は?」

「ウーノに用意してもらった!」

 

 今後のためにも、戦闘には慣れておかないとな。いっちょ、おっぱじめるか!

 

 


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