では、どうぞ。
そんなことがあって何週間か過ぎた。あれから、勇者部の女性からの目線が変わった。帰りは積極的に一緒に帰ろうと言ってくるし、休日はどこかに出かけないかと聞かれたり(所謂デート)兎に角忙しかった。
まあ、俺はいつも通りに過ごすけど。まあ、俺が惚れさせることが、彼女達の今の目標だ。
因みに、あの話しは聞いてないことにしている。
モテる男も辛いね。
そんなこんなで12月。
とある日、クリスマスまで残り二週間ほどのある日。
休日であるこの日は勇者部としての活動を午前中行い、お昼に勇者部部室に皆で集まっていた。(久尾は学校のお仕事で今日は来ない)だが、俺はここで違和感に気が付く。そう、皆、それぞれ弁当箱を持ってきているのだが、それぞれ一つ多い。俺も弁当は用意している。勿論手作りだ。だが、この展開からして、皆が持っている余計な弁当箱は…
「き、輝積…あの、べ、弁当、余計に作って来たからあげる」
「お、おう。ありがとう」
まあ、そうなる。夏凜は顔を真っ赤にしていた。夏凜のお弁当箱は赤色の可愛らしい小さな弁当箱だ。
「ちょ!夏凜!抜け駆けは許さないわよ!」
風先輩がそう言っているが、貰ってしまった物、特にお弁当などは仕方がない。
「それじゃあ、私も」
そう言われて友奈が弁当箱を渡してくる。
まあ、有りがたいことではある。普通の場合。友奈の弁当箱も小さめだ。だが、何故か質量がある感じがする。何を入れればこうなる?
「あ、ありが…」
「きっきー~私からもあげる~」
お礼を言う前に園子からも弁当を貰う。
園子のお弁当箱…ってか、なんか高級感溢れる弁当箱なんですけど!?
「あーもう!輝積!私からもあげるわ!」
投げやりな感じで風先輩からも貰う。風先輩の弁当箱は…銀色の保温が効くやつだ。
「わ、私からも…」
今度は樹ちゃん。少し小さめのお弁当箱だ。彼女らしい可愛らしいお弁当箱だ。
「今度は私!」
活発系女子の一人である銀からも貰う。いや普通の弁当箱だ。黒色の良く見かける弁当箱だ。
「ふふふ、勝ったわね…」
何故か勝利発言している東郷さん。何が勝ったの!?てか、この展開からしてやばそうなんですけど!?
東郷さんが取り出したのは…重箱だ。
おかしいだろ!
弁当箱が重箱とか!お正月か!生徒会にいる変態秘書か!
「愛情を詰め込んだわ」
それは、愛情ではなく、具を詰め込んだんだよ!いや、愛情もあるとは思う。でも、それはおかしいだろ!
てか、どこから重箱出した!?東郷さん、来るとき鞄以外持ってなかったよね!?しかも、サイズ的に鞄に入らないよね!?
「ま、負けた…」
風先輩!?何が負けたんですか!?庶民的に言ったら風先輩の圧勝ですよ!!
「か、完敗した…」
樹ちゃん!?いやいや、世の中量より質って言うよ!
「さ、流石、わっしー…」
流石も何も無いよ!!
「確かに…凄いよ!須美!!」
凄くない!普通の男子なら喜ぶよ!でも、自分の弁当があって、更には女の子七人からお弁当を貰う…俺はどんだけハングリーなんだよ!(まあ、ハングリーですけど…)
取り合えずお弁当を食べる。
まず、最初に手をつけ…
な、悩む…この場合、最初に手をつけた弁当箱によっては、好感度が…
うーん…
「あれ?輝積君、食べないの?」
「いや、食べるよ。でもここまで多くお弁当があるとどれから手をつければいいか迷うんだよ」
「ふふふ、そんなこともあろうと、じゃーん!クジを作って来たのだ!!」
風先輩の手元には割り箸に番号が書かれた割り箸、更には赤い色の付いた割り箸、合計8本。いや、これ、王さまゲームのやつですよね?たまたまですよね?
赤い色の付いた割り箸を除外してそれぞれクジを引く。誰が一番か…
「あ、私だ!」
風先輩が一番のようだ。
良かった…なんか安心した。
風先輩のお弁当箱を開けてみる。卵焼きは定番として、タコさんウインナーなど、色とりどりで、食欲が湧く。
「いただきます」
そして、卵焼きを口に運ぶ。お弁当といえば卵焼きは定番。更には卵焼きによってその女性がわかると言われるほどの定番である。
「どう?美味しい?」
「うん…美味しい」
いや、美味しい。率直な感想だ。ガッツポーズをする風先輩。いや、もっと女の子ぽくして貰えば可愛いのに。まあ、それが風先輩のいいところだ。
兎に角、このままゆっくりとお弁当を食べていたら日が暮れる。急いで風先輩のお弁当を食べ終わる。
「は、早!」
風先輩がそう言っているが、仕方がない。時間がないのだ。(主に東郷さんのお弁当の攻略に)
「風先輩、美味しかったです」
「あ、ありがとう…」
顔を真っ赤にする風先輩。おいおい、先輩のメンツ大丈夫か?
「そ、それじゃあ、次、私…」
自信無さげな樹ちゃん。確か樹ちゃんは料理が苦手なんだっけ?けど作ってくれたんだ。ありがたく思わないと。
小さなお弁当箱を開ける。やはり、定番の卵焼き、それに、ごはんと野菜が少々。うん、苦手でも頑張った方だ。
「いただきます」
卵焼きを口に運ぶ。うん、よく頑張った。美味しい。
「その…美味しいですか?」
「美味しいよ」
そう言える。比べる訳ではないが、風先輩よりは味は薄めだ。だけど、美味しい。本当によく頑張った。
卵焼きを味わった後、急いで樹ちゃんの作ってくれたお弁当を食べ終わる。
「き、輝積さん…よく噛んで食べた方が…」
「大丈夫。最低30回は高速で噛んでるから」
「普通に噛んでるように見えるんだけど…」
「ご馳走さま、樹ちゃん、美味しかったよ」
「聞きなさいよ…」
樹ちゃんは顔が真っ赤だ。
夏凜の突っ込みを無視して、次のお弁当…
「ま、まあ、不味かったら、残してもいいから…」
夏凜だ。夏凜のお弁当箱…さっきも思った通り、可愛らしい。てか、良くみるとリンゴの形をしている。いや~夏凜の可愛いポイント発見ですな。
お弁当箱を開けてみる。卵焼きは定番。鮭に、少しの野菜、栄養価をきちんと考えられたお弁当だ。
「いただきます」
やはり、卵焼きは最初。うん?しょっぱいかな?けど、なんか、夏凜らしい。他は少し味が薄めだ。うん、普通に美味しい。
「ど、どう?」
「うん。美味しいよ」
「よ、良かった…」
深く息を吐く夏凜。いや、本当に美味しいから安心してもいい。
また高速で食べ終わる。いや、ちゃんと噛んでるよ。この噛むスピードは神の領域なだけです。
「ご馳走さま」
「お、お粗末様…です」
終始赤かった夏凜。次のお弁当は…
「はーい!私のお弁当だよ!」
銀のお弁当だ。黒色のお弁当箱。よくサラリーマンとかが持っていそうなお弁当箱だ。
「いただきます」
お弁当箱を開けてみると、やはり卵焼きはある。だが、これは…海苔弁なのだ。黒色で、オカズもしっかりしている。てか、海苔の黒のおかげか、オカズが綺麗に見える。
やはり、卵焼きから食べる。うん、家庭的で美味しい。
「お、美味しい?」
「美味しいよ」
「良かった~」
夏凜や風先輩と違って顔が真っ赤になることはないが、俺が美味しいって言った瞬間の笑顔はとても可愛らしかった。
まあ、急いで食べないといけないので、銀には失礼だが、早めに食べ進み、食べ終わる。
「ご馳走さま」
「お粗末様~」
終始嬉しそうな銀。
「はい!次は私です!」
次のお弁当は…友奈だ。うん、あのお弁当だよな。質量がおかしいお弁当箱。
俺は恐る恐る開けてみる。
一面肉。しかもぎっしりと。
「いや~、輝積君って男の子だからさ、肉の方がいいと思って…」
いやいや!!肉が好きなのあんたなんじゃないの!?てか、ごはんが無いし!!
まあ、胃もたれを覚悟して食べてみよう。
「いただきます…」
箸で肉を掴み口に運ぶ。うん。肉。
「どう?美味しい?」
「うーん…美味しい…」
「良かった~」
良くないです。一枚肉を食べたと思ったらその下も肉。しかも、肉はあまり味付けされていない。いや、塩味しかしない。これ、ほんの数分で作ったろ。でも、それでも、作ってくれたことに感謝はする。
肉と格闘すること数分、流石の俺でも、胃もたれしそうだ。てか、どんだけ肉を敷き詰めた!質量おかしいぞ!
それでも、なんとか食べ終わった。
「ご馳走さま…」
「わーい!完食だ!」
まあ、喜んで貰えるのは嬉しい。でも、今度から栄養価を考えたお弁当を作るように言っておこう。
「次、私~」
次は…園子だ。園子の料理姿とか、想像出来ない。いや、家庭的な雰囲気は勇者部一だ。そう、雰囲気は…
高級感溢れるお弁当箱…少し金メッキが施させた黒い漆塗りのお弁当箱…
中を開けて見る。
「私、料理ってあんまりしたことが無いの~」
見た目は…普通だ。うん。普通。
「いただきます…」
やはり、卵焼きから最初に食べる。
…
…
…
うん、園子、お前は料理をしてはいけない人間なのかもしれない。
急いで食べ進める。
「どう~、美味しい~」
「…ノーコメントで…」
「えー!」
本人が一番驚きのようだ。いや、まだ、暗黒物質でないだけいい。
「ご馳走さま…」
食べ終わり、胃の中の感覚を確認する。うん、園子の料理は無事消化出来るようだ。
てか、この勇者部の女性陣は俺にどんだけ食べさせる気だ。いや、愛情なら込もっているなら、量を少なくしてほしい。
「さぁ、輝積君、最後は私のお弁当よ」
そして、最後に出てきたのは…東郷さんのお弁当だ。既にラスボスである。
東郷さんはおもむろに重箱を開け始める。
まるで、中のオカズ達が輝いているようだ。
「ま、まさか!東郷!あんた!」
「ふ…風先輩、銀…今回は、私の圧勝です…」
まるで勝ち取った表情の東郷さん。俺は、神々しいお弁当に箸を進める。そして、定番でもある卵焼き…いや、既に金色へと変貌している金の卵焼きを箸で持ち、
「いただきます…」
口に運ぶ。
…
美味しい…。それしか、わからない。いや、俺だって色々な料理を食べてきた。だが、美味しいってしかわからないなんてあまり無い。
「どう?輝積君?」
「いや…美味しいよ」
でも、なんだろう、いやな予感しかしない。
食べ進めて行く。流石に量があるため、時間がかかる。
そして、なんとかラスボスを攻略する。流石にお腹もいっぱいだ。
「ご、ご馳走さま…」
「お粗末様です」
お腹いっぱいだ…。
「で、誰のお弁当が美味しかった?」
風先輩の一言で皆俺を見る。誰って…
純粋に答えていいのか、それとも、偽善を入れた方がいいのか…
「輝積君、正直に答えて」
東郷さんがいつにも増して真剣だ。
なら、お弁当だけで答えさせてもらう。そう、味だけで…
「俺の」
部室が静まる。
俺は自分の弁当を出す。そして、お弁当箱を開ける。輝いている訳でも無い。栄養価もしっかりしている。
「まあ、試しに俺のお弁当を食べてみて」
皆恐る恐る俺のお弁当に手をつける。
そして、口に運ぶ。
「お、美味しい!!」
「輝積君がここまで料理が上手いなんて!!」
「負けたわ…」
「前より上手くなってる!」
「もう、お嫁に欲しいくらいよ!」
「すごーい!美味しいよ!きっきー!」
「お、美味しいです!」
「な、なんでこんなに美味しいのよ!」
まあ、結果的に言えば俺の勝利。あれ?肝心なことを忘れてる…
そのあと、解散となり、各々家に帰る。俺も、銀に遊ばないかと誘われたが、断った。いや…あれだけの量を食べたんだ。よくお腹を壊さないよ。まず、家に帰って横になりたい…
俺は帰路に立つ。
結果から言えばうやむやにされたお弁当対決。結局は誰も俺の心を射止めることが出来ず、しかも、料理の腕は俺の方が上という残念な結果に終わった。
因みになのだが、俺がなんでここまで料理が得意かと言うと、独り暮らしが長いし、修行も予て料理の練習や実験をしていたからだ。
それを何百年とやれば、料理の腕も嫌でも上がる。
前にここに住んでいた時よりは格段に料理の腕は上がったと思う。もう、そこらへんの料理人には負けない自信がある。
クリスマスまで後二週間。
クリスマスは幼稚園での活動の後、クリスマスパーティーをする予定らしい。まあ、どうせ勇者部の部室だろうけど…
この予想が、間違っていたことに、この時の俺は気が付かない。
残り後二話。
次回クリスマス回です。
うん、季節外れもいいところだな。
それでは…