まさかの展開が…
まあ、その要素はあまりないですけど…
取り合えずどうぞ。
大きな樹の下、その樹のものだとわかるほど大きな樹の根。そこに少年は座っていた。
樹の名前は神樹。この四国を守った神の集合体。そして、勇者に力を与え、散華によりその代償を貰う。ただ願いを叶えるための存在。神とはそういうものだ。
神樹の樹の根で座っている少年…上賀輝積。彼は神樹に交渉するために来た。
上賀輝積、彼は別世界の住人でこの世界の傍観者。そして、現人神である。
だが、彼は、今、讃州中学勇者部部員としてここにいた。
「なあ、神樹…皆を元に戻してくれないか?」
輝積がそう言った。神樹はザワザワと音を立てる。ここは、樹海。風など起きない。ならば、なぜ音を立てたのか…神樹が輝積の言葉に反応したからだ。
「…そうか。そのつもりだったのか。」
神樹は人の言葉を知っている。だが、それは人と話す時のみ使う。だが、今いるのは人ではない。神樹は傍観者として連れてきた少年を自分同様、神として認めたのだ。だからこそ、神樹は人としてではなく、神として話したのだ。神同士に言葉は不要。特に大きな神としてこの世界に君臨する神樹にとっては尚更のことだ。
「…今来てもた何もならないぞ。友奈。」
神樹の木下にもうひとつの人影が現れる。
讃州中学勇者部、結城友奈。
「神樹様に話に着ました。」
友奈は輝積に気が付かず神樹に話しかける。
◇
無視された…
そう、神樹と一緒にいるというとんでもないことしてんのに友奈に無視された。これは何としても気付かせるべきだ。
「おーい、友奈~」
「え!?輝積君!?なんでここに!?」
「言ったよね~俺、神様だよ。」
「嘘…」
「まあ、友奈がここに来たのもわかるよ。」
そう言い、樹の根から降り友奈の所に向かう。
「全く…流石、この世界最高の勇者だよ。こんな所まで来るなんて。」
「え?輝積が神様って?え?」
「うーん…今は説明している暇が無いから、後で大赦にでも聞いて。そんなことより、友奈はどうしてここに来た。」
来た理由なんて知っている。だけどあえて聞いたのだ。彼女の本当の意思を確認するために。
「そうだ!神樹様!!皆を元に戻して下さい!!」
友奈は神樹に向かって言った。
その言葉を待っていたかのように神樹はザワザワと音を鳴らす。
「神樹は嬉しがっているよ。」
「え!?どうして!?」
「神樹はね…真の勇者を探していた。それこそここまで来て自分に話しかける…いや願いを言いに来るほどの強い心を持っている人を。友奈、君は気がついているかい?」
「え?ちょっと待って…何言ってるかわからないよ。」
「君は今どうしてる?」
「え?神樹様に御願いを…」
「君は今、立っている。」
そう、友奈は立って話しているのだ。
「あ!本当だ!でもどうして…」
「散華で失ったはずなのにか?」
「もしかして、また輝積君が?」
「いや、今回は何もしてない。」
「じゃあ…どうして?」
「…強い者はね、魂が強い。友奈、君はとても魂が強い。それこそ、ここまで来れるほど。今の友奈には肉体が無いんだ。」
「え?えーーーー!」
え、しか言わない友奈。驚き過ぎだろ。まあそれが友奈何だろうけど。
「まあ、大丈夫。帰り道はあるから。」
「ちょっと待って…もう、何が何だか…」
「まあ、安心してくれ。皆元に戻ってるよ。」
「本当?」
「ああ。神樹はね、君みたいな勇者を探していた。これはただの試練。いずれ神樹は皆を元に戻す予定だった。」
「そう…だったんだ。」
「さて、友奈、皆が呼んでるぞ。」
友奈の回りから声がする。東郷の声…いや、勇者部全員の声だ。
「本当だ。じゃあ、早く行こう。」
勇者は俺の腕を掴む。だが、俺は動かない。
「どうしたの?輝積君?」
「俺はまだ戻れない。」
「!?どうして!?」
「やることがあるんだ。」
「でも…」
「一人でも戻れるだろ。」
「でも…」
「はあ…結城友奈!!」
「はい!」
俺は友奈を呼ぶ。友奈はそれに答えるように大きな声で返す。
「神樹の勇者、そして、俺公認の勇者の友奈だ。一人で先帰ってろ。」
「え?輝積君公認って?」
「まあ…神樹に勇者がいるように、神っていうのは、勇者を何人かもってるものなんだよ…俺の勇者が友奈って訳。」
「えーーーー!?私、輝積君の勇者なの!?」
「うーん…なんかそうなった。てか、友奈は俺と神樹の勇者な訳で…何だろう、話し難いな。取り合えず、先帰ってて。あ、風先輩にちゃんと奢って貰うから覚悟しておけって言っておいて。んじゃ~」
「ちょ!輝積君!?」
友奈はまるで蜃気楼のように消えていく。
そして、俺は神樹と向かい合う。
「なあ、神樹…少し時間をくれないか?」
讃州中学文化祭。
今、体育館では幾度となく試練を乗り越え勇者としての勤めを果たした勇者部が演劇を行っている。
「結局世界は嫌なことばかりだろ!?」
風演じる魔王がそう言う。
「そんなことない!」
勇者はそう言う。この世界を救った真の勇者。この会場にいる人の中で本当のことを知っている人は五人しかいない。今演劇をやっている勇者部の五人しか…
「大切だと思えば友達になれる。お互いを思えば何倍でも強くなれる!無限に力が湧いてくる!!」
勇者部の五人はまだ知らない…
「へ~良い演技だな…」
会場に勇者部の一人がいることに…
彼の役は頑張る勇者のサポートをする仲間役だ。だが、彼は…それが出来なかった…。
ここに来た時にはもう演技が始まっていた。
役しか言われず、この世界から消えた彼にとっては何をすればいいのかわからず、取り合えず今演劇を見ているというわけだ。
「世界には嫌なことも悲しいことも自分だけではどうにもならないこともたくさんある。だけど、大好きな人や友達がいればくじけるわけがない。諦めるわけがない。だから…勇者は負けない!!」
真の勇者は風演じる魔王を斬る。(実際には斬れてません。)
風は盛大に倒れる。少しオーバーな気はするがそこがいいのかも…
「ふう…」
一息する真の勇者…友奈。だが、異変は起きた。友奈は倒れそうになる…
俺は…無意識に友奈の体を支えていた。
「大丈夫か!?友奈!」
「あ…輝積君…やっと来た。」
「友奈ちゃん!!」
東郷や樹ちゃん、魔王役で倒れていた風先輩、夏凜が駆け付ける。
皆、俺に驚いたけどまずは友奈を心配した。
「大丈夫、立ちくらみがしただけだから。」
会場からは盛大な拍手が贈られる。俺何もしてない…
その後…新聞部と本当の新聞記者が来て勇者部の皆を撮っていった。てか、俺まで写ってたけどいいのかな?
そして、劇が終わり勇者部の部室。
とても久しぶりな気がする。
「さーて、劇には半分以上間に合わなかった幽霊部員も帰ってきたし…」
「すいません…」
「でも、帰って来たんだし許してあげましょう。」
「夏凜…あんた天使や。」
「なんで関西弁なのよ…」
「友奈ちゃんが言った通りだったね。」
「ね。言ったでしょ。輝積君は帰ってくるって。」
「友奈さん凄いです。」
「え…帰ってくるのに精一杯だった俺は?」
「輝積さんは…一応凄いと思います。」
「えー…ねえ、友奈…皆に大事なこと話してないよな?」
「え?何?」
「俺一応神様なのに~」
「あ~、言ってなかった。」
この野郎!!大事なことだろ!それと…
「え?神様って?」
「風先輩!」
俺は風先輩を指差す。
「は、はい!」
「うどん…奢って貰いますよ。」
「え…あれね…もうやっちゃった…友奈の退院祝いに…だから、私の財布の中無いのよ…」
「な、何だって…」
ショック!!ここまでそれを糧に頑張っていたのに!!
「なら、心配かけた輝積が奢りなさいよ。」
「そうよ!」
「文化祭の打ち上げだね。お姉ちゃん。」
「よーーし、いっぱい食べるぞ~」
「無理しないようにね。」
「あ~俺の財布の中身が消えていく感じがする…」
そう…勇者部はいつもこんな感じだ。
久しぶりの勇者部。安心する。
壁の外が絶望だろうと、ここには笑顔がある。大切な人達が…友人達がいる。
俺はこの笑顔を守れたんだ。そして、あの悲劇を繰り返さなかったんだ。
皆…体が元に戻った。銀は記憶も体も戻り今は自分のいた家に…そう、弟のいる家に戻っている。園子は体が完全に元に戻っていつか会えるだろう。鷲尾は…東郷はきっと記憶が戻って来ている。だって、あんな笑顔見たこと無いもん。
「しゃあない。幽霊部員の奢りだ。俺を神様と思って崇めなさい。」
「なんであんたなんかが神様なのよ。」
「夏凜…俺の正体…」
「兎に角、その話しは打ち上げの時に…ね。」
こうして、俺達勇者部はうどん屋に向かう。
一人の少年が七人の少女達を救う。
少年は勇者ではない。なぜなら神なのだから。
神我軌跡…
上賀輝積は勇者でない
完
はい。ここまで読んでいただきありがとうございます。
上賀輝積は勇者でない
はこれにて終わりです。まあ、その内後日談を書いていこうと思います。
ではでは、今度は別作品で会いましょう。
それでは~