主人公はチートだった…
取り合えずどうぞ
俺は何者なのか…
そんなの簡単だ。俺は人じゃない。
俺は無意識に銀を魂だけ蘇らせて、九尾に肉体を与えた。
そんなことが出来るのは神かそれと同等の者だけ。そして、俺は人間の姿。そこからわかることは、俺が人の形をした神であること。
別世界で俺は、神と同等の力、そして、ある呪いを受けた。その結果、俺は神に等しくなり、現人神となった。
勇者の散華を俺が引き受けられた理由も納得がいく。そして、散華により失った機能を戻した方法…それは、頼んだのだ。自分自身に。神である自分と人である自分。人である自分が神である自分に願いをする。それを神である自分が叶える。変わりに供物としてかなりのエネルギーを使う。だが、俺にはある呪いが架かっている。生の呪い…絶対に生きていなければならない呪い。これは死ねない呪いと同じ類いで、簡単には死ねない。まあ元々死ぬ気なんて微塵もない訳だから、意味はない。でも、さっきみたく腹を貫通するような攻撃をされると意識は飛ぶ。それに、死なないとはいえ、痛いのは変わりないんだ。逆に生き地獄かもな。
神樹は俺が現人神とわからず傍観者として連れてきた。だが、それは正しいのかもしれない。俺には天の神を倒せるほどの力は無い。俺にはだ。元の世界に戻り、強くなれば話しは別だ。
空を見る。あの、星座型のバーデックス…たしか融合バーデックスのコアになった奴だ。奴は星屑を炎の弾にして次々と放つ。それは一種の追尾型ミサイルだ。
そのバーデックスの脇にいるのは東郷だ。東郷…お前はそういう道を選ぶのか。なら、俺は…俺には何も出来ない。彼女の本当の記憶を知っていても…何も出来ない。だが、伝えることは出来る。銀のことを…伝えることが。
俺はこんな状況でも冷静だった。逆に冷静になれたのかもしれない。
頭がスッとして、考えが浮かぶ。
皆を救い、笑顔にする方法…
今、俺が出来ること…
東郷を止めて、その方法を俺がする。
俺は死ぬことは無い。だから、大丈夫。
俺の考えはまとまった。よし。東郷を止める。
既に先客がいたようだ。バーデックスと戦いながら東郷を止めようとしている女の子…結城友奈だ。彼女は東郷の親友…止める権利はある。それに、彼女は俺が知る限りでは…
「友奈…お前は誰よりも勇者だよ。」
俺はそう呟いて空を飛ぶ。
炎を纏った星屑が此方に向かって来る。当たれば爆発する特攻野郎と化した星屑達は俺を標的としている。別に当たってもいいのだが、やっぱり痛いのは嫌な訳で、避ける。
「邪魔!!」
俺は右手で軽く扇ぐ。すると強風が起き、それが星屑達を誘爆させ次々と爆発させる。
そして、東郷の元へ行く。
そこでは、東郷と友奈が戦っていた。
「東郷!」
「輝積君!?」
東郷が此方に気が付く。
その時、友奈が満開をする。東郷も満開を使っていて、大きな戦艦?のようなものに乗っている。
「うおおおお!」
友奈は俺が来たことを知らずにバーデックスに攻撃をする。そしてミタマをさらけ出したバーデックス。
「だめ!!」
友奈の目の前を東郷の攻撃が横切る。それを見た友奈は少し下がる。
「東郷さん…何も知らずに暮らしている人達もいるんだよ。私達が諦めたらダメだよ。だってそれが…」
「勇者だって言うの!!他の人なんて関係ない!」
東郷は今、誰の為でもない…友達の為に裏切ったのだ。そう、友奈の為に。
俺にはそれがわかる。
「一番大切な友達を守れないのだったら勇者なんかなる意味なんて無い…がんばれないよ…」
東郷の目には涙があった。それは、園子と銀という大切な友達の…親友の記憶を無くしたことによる罪悪、そして、満開への憎しみも含まれているのだろう。いや、一番は友達を思い出せない悲しさなのかもしれない。あの時の銀と同じだ。銀はそんなことはしなかった。なぜなら、俺を信じていたから。でも、東郷は俺の事を完全に信用していなかったのだろう。何故なら、俺も…大赦と同じ、散華の事を隠していたのだから。俺がいくら取り戻すと言ってもいつになるかわからない。もしかしたら一生戻って来ない。そう思ったのだろう。
「友奈ちゃん…あのまま、じっとしていれば良かったのに…眠っていればそれで何もかも済んだのに…もう手遅れだよ。」
次々と星屑がバーデックスに集まり体を治して行く。
「東郷!」
俺は東郷に向かって叫んだ。友奈もそれに気が付いた。俺は友奈の隣へ飛ぶ。
「輝積君…君も、大赦と…神樹と同じよ。私達に何も言わないで、それでただ見ていただけで…」
「…そうだよ。何も言わなかったよ!でも、それは、お前を…お前達を信じて…」
「勝手に信じないで!!」
「嫌だ!!」
「!?」
東郷は目を丸くする。
「信じるよ!だって友達だから!」
「…そんなの嘘よ…」
「なんで嘘なんか!!」
「貴方も大赦や神樹と同じだからよ!!」
東郷は戦艦のようなものから巨大なビームを放つ。俺は…信用されていなかった。
あの時、話したのが不味かったのかもしれない。いや…あれで良かったのだ。でも、結果は最悪だ。だからこそ、東郷を止める!!
俺と友奈はそのビームを友奈は満開により増えた大きな腕で、俺は翼でガードする。
「戦いは終らない…私達の生き地獄は終らないの…たとえ、輝積君が変わりに散華してもいずれ、輝積君が辛い目に合うわ。」
…そうか…東郷は俺を信用しなかった訳じゃないのか…逆だったんだ。信用はしていた。だからこそ辛い事をさせない為にこんなことをしたんだ。
「東郷さん!!」
「東郷!!」
俺と友奈は叫んだ。
「地獄じゃないよ。だって東郷さんと一緒だもん!」
「そうだ!!」
ビームを弾き飛ばす。
「どんなにか辛くても東郷さんは私が守る!!」
「大切な気持ちや思いを忘れてしまうんだよ!大丈夫な訳ないよ!」
「それは、俺が何とかしてやる!!」
「いつになるかわからないじゃない!!」
更にビームが俺と友奈を襲う。そして、地面に叩きつけられる。
「友奈ちゃんや輝積君…皆の事だって忘れてしまう…それを仕方がないなんて割り切れない!!一番大切なものを無くしてしまうくらいなら…」
「忘れないよ。」
「どうしてそう言えるの!」
「私がそう思っているから!メッチャクチャ強く思っているから!!」
友奈はそう言った。
そうだ。強い思いとはなんでも通用する。たとえ思い出でも…大切な思い出なら尚更だ。
「私達も…きっと…そう思ってた…」
園子…銀…あの二人の事だろう…銀は記憶を思い出した。後は肉体と鷲尾須美の記憶だけだ。それを取り戻す為に俺は…
「今は…ただ…悲しかったという事しか覚えてない…自分の涙の意味がわからないの!!」
東郷は周りにビームを放つ。それはまるで何処に攻撃していいのかわからないような攻撃だ。乱雑にビームが放たれる。それが友奈に当たりそうになった時、俺がそれをガードする。
「輝積君!」
「全く…友奈!東郷に一発咬ましてやれ!」
「!…わかった!」
乱雑に攻撃する中、友奈が東郷に向かって行く。
「嫌だよ!!怖いよ!!きっと友奈ちゃんも私の事忘れてしまう!!だから!!」
友奈は東郷の戦艦の砲身を満開で追加した腕で掴み砲撃を止める。
俺も東郷の元に駆け付ける。
そして、友奈は追加された腕から離れて…
「東郷さん!!」
東郷を殴る。友奈の拳だ。痛いだろう。でも、その拳は、友奈の思いも詰まってるんだ。いや、友奈だけじゃない。勇者部全員の思いだ。不安なのは東郷だけじゃない。俺や友奈、風先輩、樹ちゃん、夏凜、銀、九尾、園子…全員そうだ。
倒れる東郷。それを抱き締める友奈。
俺は東郷の戦艦の上に立つ。
「忘れない。」
「嘘…」
「嘘じゃない!」
「うそ…」
「嘘じゃない!!」
泣き出す東郷。友奈の言葉には、それだけの力がある。いや、忘れさせないんだ。俺がいるから…
「ほんと?」
「うん。私はずっと一緒にいる。そうすれば忘れない。」
「俺も…東郷の記憶を取り戻す。」
「友奈ちゃん、輝積君!忘れたくないよ!思い出したいよ!!私を一人にしないで!」
更に強く泣く東郷。
「うん。」
「当たり前だ!」
俺と友奈は約束した。東郷を一人にしない。そして、記憶を取り戻す。それだけじゃない。皆を救う!!
「全く…したいことしろって言ったけど、こんなの予想外だったぞ。」
「ごめんなさい。」
「駄目だよ、輝積君。もう終わったことなんだから。」
「ごめん、つい…」
「全く、そう言うところが輝積の悪い所だ。」
「輝積君の精霊が喋った!?」
九尾が急に現れる。この際だから言ってもいいか。
「おう、こいつは九尾…て名前は教えたんだっけ。九尾は俺の力を貰って喋るようになったんだ。俺の家であったあの憎たらしいイケメンがいただろ?あいつが九尾の人間の姿なんだ。」
「おい、憎たらしいってなんだ?」
「口を開かなければいいヤツなのに…」
「おい!どういう意味だ!!」
「精霊を喋るようにするなんて…」
「輝積君…凄い!」
少しボケが過ぎたかも…と思い友奈と東郷を見ると俺を不思議そうに見ていた。
その時だった。熱風が皮膚を通り抜ける。それも凄い熱さだ。まるで身を焦がしたような熱さ。
その正体はバーデックスによるもの。九尾は危険を察知したのか、消える。いや、正直、九尾がいると九尾に被害が行きそうで怖くて本気出せなかったんだ。ある意味有難い。
「なに…」
「太陽?」
「あれは…バーデックス!?」
バーデックスはまるで小さな太陽と化していた。それは神樹の方へと向かって進んで行く。
「私…大変なことを…」
「東郷さんのせいじゃない!あいつを止める!」
「はい。」
「行くぜ!勇者のお二人!!」
「輝積君も勇者だよ。」
「あ、俺神様。」
「え?」
「まあ、追々話すとして行くぞ!!」
俺と友奈、東郷は飛んで太陽の進行方向に先回りして止める。だが威力だ高すぎる!てかデカすぎ!
「止まれーー!」
「止まらない!?」
「くっそ!」
俺も両手で止めようとする。
「絶対に…諦め…無い…」
友奈が力尽きて落ちていく。
「友奈ちゃん!!」
「友奈!!」
助けに行きたいが、威力が高すぎて止めるのに精一杯。いや、止められていない。友奈は東郷の攻撃をガードしていた。それでもダメージがあった。俺は耐えられる。死なないし。でも友奈は…女の子だ。あれほどのダメージ、今まで耐えられた方が凄い。
「くっそ!!」
俺は翼を最大限まで広げる。そして勢いを消して行く。
だが、それでも突き進むバーデックス。
「もう…ダメ…」
「諦めるな!」
「うおおおおお!」
バーデックスを押さえるように新たな二つの花…いや、勇者だ。
その正体は…
「樹ちゃん!!」
「風先輩!!」
「すみません!」
「ごめん!大事な時に!!」
「風先輩…私…」
「お帰り…東郷。」
「お帰りなさい。東郷先輩。」
「行くよ!!押し返す!!」
満開をする二人。
更に勢いを止める。だが、それを予測していたかのように更に勢いを強める。相手も必死なのだ。それは此方も同じ。
「このーー!四人でも…」
勢いが減らないバーデックス。そこへ…
「そこかーー!」
「夏凜!!」
「夏凜!?」
俺は夏凜を見る。あれは…散華をしている!?しかも何回も…夏凜…君は…
「勇者部をなめるなーーー!」
夏凜は俺や皆に気が付かないのか…目が見えないし、耳も聞こえないようだ。俺は…彼女の散華も受け持ってやる!!その前にこいつをどうにかしてやる!
満開をする夏凜。これで百人力だ!
「よーし!勇者部!」
「「「「「ファイトーーー!!」」」」」
大きな花と翼が太陽と化したバーデックスを止める。
「うおおおおおおおおお!!」
下から…友奈が落ちた所から友奈の声がする。友奈は携帯を使わず変身した。友奈は…真の勇者なのかもしれない。
「私は、讃州中学勇者部ーーー!」
「友奈!!」
「友奈さん!!」
「友奈!」
「友奈ー!」
「友奈ちゃん!!」
「勇者!!結城友奈!!」
友奈の拳が太陽と化したバーデックスに一撃を与える。
「うおおおおおおおおおー!」
バーデックスの太陽の中、友奈の満開の拳が消えていき、変身すらも消えていく。だが、それでも友奈は突き進む。ミタマを…皆を守るため。手を伸ばす。バーデックスのミタマに必死で手を伸ばす。
「届けー!」
その時だった。友奈の背中に翼が生えた。その事は友奈は知らない。だが、翼が生え、そして、友奈の手がミタマに触れる。
大きな爆発を起こして、バーデックスは消えていく。
其々倒れている勇者の五人…
最初に気が付いたのは東郷だった。
花びらが舞う。其々の花びらが皆を祝福するかのように舞う。その花びらはまるで勇者を労るかのように。その花びらには…花びらとは違う異質なものまで混ざっていた。羽だ。白い…いや、薄い黄緑色の羽が全員に落ちて来ていた。それぞれ目を覚まして行く。
「終わった…の…?」
最初に口を開いたのは風だった。
静かな世界。まるで、ここも時間が止まっているかのようだ。
東郷は友奈の方を見る。
「友奈ちゃん…」
東郷は友奈を見て言った。
「友奈ちゃん…」
東郷はここで気が付いた。友奈が…目を覚まさないことに…
「友奈ちゃん!友奈ちゃん!友奈ちゃん!」
東郷の叫びのような声に…友奈は反応を見せない。
そして、友奈の意識を置き去りにするかのように、樹海が…解けて行く。
友奈は…散華として、魂を…神樹に捧げたのだ。
そして、もう一人の勇者部部員も…そこに姿は無かった。まるで、友奈の魂と輝積が、この戦いの犠牲…いや、皆の無事と対価交換のように。
上賀輝積は勇者でない
続く…
とうとう次回で最終回
兎に角次回予告
次回
最終回 さよならは言えない