ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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ようやく削除前まで戻ってこれた第八話。今後はこのようなミスがないように気を付けますorz

ぼちぼち設定が怪しくなり始めておりますが、た、多分矛盾はまだないんじゃないかな、うん。


第八話 しぶしぶながら、比企谷八幡はお金を稼ぐ。 前編

(なんだか今、唐突に悪寒が……。風邪、風邪なの?この世界では〈冒険者〉も風邪を引いちゃうの?まあ、俺ってば国語学年三位のお利口さんだし、バカじゃないからね。仕方ないね。……え、数学?9点ですが何か?)

 

 アキバから発されたナズナの思念は、いくつものゾーンを超え、〈マイハマの都〉に今まさに入らんとしていた八幡を捉えることに成功していた。しかもぼっちである八幡は、人から思念を向けられることなどは皆無であったため、その効果は絶大だった。

 

(ふぅ、とりあえず収まったものの今のは何だったのかね?まあこんな事態なんだし、千葉育ちのシティボーイな俺が風邪くらい引いてもおかしかないか。いや、今の事態は大概おかしいんだけど)

 

 ちなみに、本当のシティボーイは自分のことをシティボーイとは言わない。これ豆な。

 

(しかし多少遠回りしたはずなのに、アキバからマイハマまで1時間くらいで到着するとは……。たしかに距離自体は結構短い。確か現実世界での秋葉原からディステニーランドまでの距離が15、6キロだったか。遠回り分を含めてもまあ25キロってくらいだから、この世界ではその半分の12.5キロが実際の移動距離ってところか)

 

 〈ハーフガイア・プロジェクト〉。ゲームの中で1/2サイズの地球を再現しようと、〈エルダー・テイル〉内で試みられていたプロジェクトである。しかしその計画はまだ途上であり、中東やアフリカ、中央アジアなど、〈エルダー・テイル〉プレイヤーの少ない地域の再現はろくに進んでいないのが現状である。

 もっとも、世界でもプレイヤー人口の多い日本、〈弧状列島ヤマト〉は1/2サイズの日本列島がほぼ完全に再現されており、長さ自体もきっちりと半分になっている。つまり移動距離も半分になっているということだ。

 

(〈冒険者〉の体でなくても、1時間で12.5キロってのは十分に現実的な数字だ。ただしそれは、ちゃんとした道を走り、道中何も起こらなかった場合の話でしかない。俺が走ってきたのは、ほとんどが舗装もされていないような森の中や草原。しかも、進みながらかなりの数の魔物(モンスター)を倒してきた。ちょっと尋常なスピードじゃないな。……そういや俺の中学時代のあだ名の一つがなぜかスピードマンだったな。スピードマン、途中でパシリ1号に改名させられてたけど。……俺にぴったりのあだ名だったわ)

 

 マイハマを目指して移動を始めた当初は弓を主武装にして戦っていた八幡だったが、しばらく進んだところで武器を刀に切り替えていた。低レベルモンスター相手に弓を使うと、接近する前、まともな戦いになる前に倒してしまうためだ。これでは『戦闘に慣れる』という当初の目的を果たせない、それが白兵戦用の武器である刀を選んだ理由だった。……まあそれでもほとんどの敵は一撃だったのだが。

 

(しっかしとりあえずアキバを飛び出してマイハマを目指したはいいものの、よく考えなくても危険な真似をしたもんだな。この現実になったゲーム世界で、果たして大神殿での復活があるかどうかも確認してなかった。……やっぱり俺ってばバカだったかもしれんね。まあ、結果オーライか。恐怖を感じる前に多少なりとも戦闘に慣れることが出来たし)

 

 実際のところ、八幡がその可能性、死んでも大神殿で生き返ることが出来ない可能性に早々に気づいていた場合、おそらく〈アキバの街〉から一歩も出ることはなかったであろう。数学は苦手なくせに、リスクリターンの計算には敏い男なのだ。

 

(とにかく〈マイハマの都〉には到着した。後はゲーム時代とどれくらい勝手が変わっているかが問題だな。店や宿屋がちゃんと機能しているのか、まずはそこからだな。……ただ、やっぱりあの城はどう見てもディスティニーランドの城の丸パクリだよな)

 

 〈マイハマの都〉。プレイヤータウンである〈アキバの街〉などとは異なり、大神殿やギルド会館を持たないが、この〈ヤマト・サーバー〉における最大規模の街である。とはいっても商業施設やクエストがかなり充実しているため、ゲーム時代には立ち寄るプレイヤーが後を絶たなかった。

 そしてその中心に(そび)え立つのが〈灰姫城〉(キャッスルシンデレラ)。〈ヤマト・サーバー〉で最も美しいと云われる白亜の宮殿だ。……もっともディスティニーランドの城に似ているというのも大きくは否定出来ないところではあるが。

 八幡がマイハマを目指した理由はまさにそこ、商業施設やクエストが充実しているという点だ。商業施設が多ければ衣食住が容易に確保できるし、クエストが多ければ商業施設で使うお金を稼ぐことが出来る。当面の間この世界で暮らしていかないといけない可能性がある以上、しばらくは生活していかないといけないのだ。

 

(まあ、このマイハマなら他のプレイヤーもほとんどいないから、俺の精神が乱されることもないだろ。しかも元々ゲーム時代は勝手にホームタウンにしてたぐらいだ。ここで発行されるクエストの種類やクリア条件は熟知している。やっぱり楽して儲けるのは基本だよね!……よっし、とりあえず軽く情報収集を済ませて、その後は宿屋を探して拠点を確保、んでクエストだなクエスト)

 

 長々と続いた思考を終え、ようやく〈マイハマの都〉に足を踏み入れた八幡だったが、彼の目の前に広がっていたのは予想外の光景であった。

 

(あるぇ~?なんかめっちゃ人多くない、ここ)

 

 都の西門を潜った先、八幡の前方に伸びている大通りは、たくさんの人々と活気で溢れていたのだ。

 

(おかしい。いくらなんでもプレイヤーがマイハマにこんなにいるはずがない。つまりこいつらはNPC、ノンプレイヤーキャラクターのはずなんだが……)

 

 ゲームであった時代の〈エルダー・テイル〉には、プレイヤーが操作する〈冒険者〉以外にも、たくさんのキャラクターが存在した。それがNPC、いわゆる〈大地人〉である。〈大地人〉は〈エルダー・テイル〉中に多数存在し、ショップを経営していたりクエストを発行してくれたり、はたまた「ここは〈マイハマの都〉だよ」と壊れたステレオの様に繰り返したりだとか、それこそ様々なタイプがいた。しかし

 

(いくらマイハマがでかい街だって言っても、NPCなんてせいぜい100人から200人くらいしかいなかったはずだ。が、どう見ても俺の前に見えるのは200人どころじゃない。確かに現実にこの規模の街が存在したとして、その人口はおそらく最低でも数千人、それどころか数万人規模になるんだろうが……)

 

 人の多さを避けて〈アキバの街〉を離れた八幡だったが、どうやらその計画は初っ端から(つまず)いたようだ。というかこの街、アキバより人が多いまである。

 

(しかしこれは、この世界が現実となったことの証明の一つになるのか?つまり支配者階級や庶民階級が存在し生産者と消費者が存在する、完全なる人間社会が形成されているということなのかもしれん。……そういやこの世界にもぼっちっているのかね?いるよね?俺が世界で唯一の(ぼっち)だったりしないよね?シロエさんもぼっちを装ってた癖して、フレンドがたくさんいたしな。いやまあ俺も一応フレンド登録してるんだけど)

 

 八幡は、唐突に知り合いの"腹黒メガネ"のことを思い出して、はたと気付く。

 

(そういや茶会の連中は何人くらいこの事態に巻き込まれてるんだ?あの人達ならすぐに状況に適応して、何かしら動き出し始めてるかもしれんな。落ち着いたら連絡を入れてみるのもアリかもな)

 

 〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティー パーティー)。ギルドの繋がりで集まったのではない、ただみんながそこに居たいと思ったから成立していたあの集団なら、こんな事態でも"彼女"の号令の下、冒険に飛び出していたかもしれない。

 そんな茶会に所属していた放蕩者たちが、今の状況でただ呆然と時を過ごしているだろうか。巻き込まれているとすれば、シロエやカズ彦、インティクスあたりは動き出していそうだし、ソウジロウはすでに動き出しているのを確認している。

 

(まあ基本お祭りごとが好きな連中だったし、アップデートに合わせてインしてた人もそれなりにいそうだよな。つうかシロエさんとか俺が普段インしてる時、ほぼいっつもいたんだけど?あの人〈エルダー・テイル〉のこと大好き過ぎでしょ……)

 

 シロエというのは八幡の茶会時代の先輩プレイヤーの名前である。プレイ歴も八幡のほとんど倍の9年ほどであり、凝り性な性分のためかやたらと知識が豊富だった。基本的にはイイ人であるのだが、こと戦闘になると妙に腹黒く悪辣な作戦を考えつくため、周囲からは腹黒メガネと呼ばれていた。

 なおそのシロエの策略は、八幡の手で現実世界に転用され、八幡はめでたく"学校一の嫌われ者"の名前を頂戴するに至ったのだが、これはまた別のお話である。

 

(とりあえずこっちもある程度は情報を集めてからだな。情報交換って形だったら連絡もしやすいし。つうかいい加減道の真ん中から動かんと、さっきからNPCのみなさんが、俺のことを邪魔なモノを見る目で睨みながら通り過ぎて行くんですけど?……ん?いつもどおりか?まあ最近は元通り"学校一の認知されてない男"にクラスチェンジしたから違うか)

 

 ようやくに八幡は、情報を集めようと動き出した。

 

(情報集めっていったらやっぱり基本は酒場だよな。なんなら仲間集めまで出来ちゃう素敵なスポットだし。違うゲームだけど。……っと酒場酒場)

 

 大きな街の大通りでキョロキョロしながら何かを探している、目の腐った〈冒険者〉。(はた)から見ると完全なる不審者であるが、残念ながらというべきか幸運ながらというべきか、酒場探しに集中していた八幡は、周囲の視線に気付くことはなかった。……もしかすると、普段から不審者を見る目で見られるのに慣れきってしまっているのが原因かも知れないが。

 

(おっ、あったあった酒場酒場。この西部の荒野が似合いそうな(たたず)まい、これぞTHE酒場!!どうせこんな世界なんだし、荒野の風来坊を装って入っちゃうか、俺?オラ、ワクワクすっぞ!!)

 

 八幡は見つけた酒場の前でしばし感慨に耽った後、高鳴る鼓動を抑えつつも酒場の扉に手をかけるのであった。

 

 

 

~1時間後~

 

 

 

(NPC相手だから話しかけるのなんて余裕!……そう思っていた時期が私にもありました)

 

 結局誰にも話しかけることが出来ないまま、八幡は酒場を退散し、さっさと宿屋に引っ込んでいた。

 

(ちょっと!ゲーム時代と違って、NPCの皆さんがすごく人間っぽいんだけど?ぼっちに対してハードルが高すぎやしませんかねぇ?)

 

 モニター越しに見ていたのとは違う、リアルになった〈マイハマの都〉の酒場は、大通りと同じく人と活気に溢れていた。陽気に笑いながら大声で喋る親父、黙々と料理をお腹に詰め込む兵士風の男、自分が働く店の店主の愚痴で盛り上がる若い女性。そしてそこに紛れ込んだ異物(ぼっち)が一名。というか八幡だった。

 八幡は、同じ高校生相手ならどうにかコミュニケーションを取れる。が、基本的にはぼっちでコミュ障であり、つまるところ今回の酒場訪問は

 

(あんな大人ばっかの空間で、そしてあの雰囲気で、俺が人に話しかけられるわけないだろ!!)

 

 酒場での情報収集が不可能だという、悲しい情報を入手しただけに終わった。

 

(方針変更だ。宿はこのままここに取ることにするが、情報収集やクエストはこの街以外で行おう。さしあたってはここで受けられるクエストで、クエストの開始場所が街の外の物を重点的に受注する。んでその周辺の村やら町で情報を集めるって感じで行こう。……金と情報がどちらもそなわり最強に見える)

 

 ゲームの設定上、この〈弧状列島ヤマト〉は現実世界の日本には遠く及ばない人口しか存在しない。おおよそ100分の1の100万人強ほど、それが設定上の人口となる。とはいってもそもそも町や村の数、それどころか人が住んでいる地域の数すら現実の日本よりも圧倒的に少ない。

 この〈マイハマの都〉の周辺には〈ツクバの街〉や〈チョウシの町〉など、大小様々な集落が存在するが、それらの人口の全てを合わせても、現実の地方都市の人口にすら遠く及ばないのだ。

 それでも、情報収集するには十分な数が揃ってはいるので、すぐに情報に困ることはないだろうが。

 

(ま、今日はとりあえず寝るかね。流石に精神的に疲れた。この世界のこと、元の世界への帰還方法、茶会のメンバーのこと。……それに〈西風の旅団〉のこと。明日以降にも色々考えて、そして色々やらなければならないことは多い。休める時に休まないとな)

 

 騒がしい教室の中であれ電車の中であれ、ぼっちというのはどこでもすぐに眠れる特技を有しているものである。その特技はこの異世界でも有効のようだ。

 

(……あれっ?よく考えたらなんか俺、昼から働くことばっかり考えてね?俺ってば専業主夫志望の、家庭を守るタイプの男だったはずなんだけど?俺がお金を稼ぐ?パードゥン?お金を稼ぐのは俺の奥さんの仕事のはずなんだけど?……まあ奥さんどころか彼女もいないし、なんなら女友達すらいないけど)

 

 ベッドに入った八幡は、急速に迫りつつある睡魔に襲われながらも、連々(つらつら)と考える。

 

(……働きたくないでござる)

 

 完全に意識が落ちる瞬間、彼の脳裏に浮かんだのはその一言だけだった。

 




後半へ続く。な第八話。これにてようやく〈大災害〉一日目が終了でございます。長かったw

後編は申し訳程度の戦闘シーン、そして〈大地人〉少女とのお話。なお、削除前に投稿した時点の予定では、〈大地人〉少女の姿は欠片も存在しませんでしたwどういうことなの……。

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