今回は、前回のお話を八幡視点で描いたものとなります。戦闘シーン難しいですw
〈西風の旅団〉の三人を見かけた後、八幡は動揺する心を強引に押さえつけていた。
(落ち着け、KOOLになるんだ比企谷八幡。……いや、ちょっと待て。これは駄目なフラグだった)
思わず心の中で、某ゲームの口先の魔術師の口調を真似てしまった八幡だったが、それによっていけない何かが立った事を察し、若干顔を
自らの心の内で展開された謎の寸劇によって、平静を取り戻した八幡は思考を開始する。
先ほど見かけた三人、ソウジロウ・セタ、ナズナ、そしてイサミ。〈D.D.D〉や〈
本来ならば、八幡にとっては爆発するべきリア充集団である〈西風の旅団〉だが……
(つまり以前に所属していた俺がリア充である可能性が微粒子レベルで存在する?……ないな)
またも明後日の方向に逸れ始めた思考に即座に否定を入れ、八幡はあらためて考えこむ。
(まずは状況を整理しろ。こんな事態だ。あいつらだってそりゃ慌てるだろう。しかしカワラがピンチだとか言ってたな。カワラって俺がギルドを辞める何ヶ月か前にソウジロウに決闘を挑んできた奴だったよな?なんか代わりに俺が立ち合う羽目になったけど……)
そんなカワラであったが、八幡にあっさりと敗北した後にそのまま〈西風の旅団〉に入った。そして人懐っこいその性格で八幡にやたらと絡む様になるのだが、とりあえずの所は余談である。
(あいつがピンチね~。あの性格から考えて、ゲームが現実になったってなると嬉々としていそうだがな。それで喜び勇んでアキバの外に出て敵を倒しにでも行ったのか?いや、あいつだってレベル90だし装備も高レベルの物が揃っている。アキバ周辺のモンスター相手じゃ早々ピンチなんぞに陥らんはずなんだが……)
〈アキバの街〉の周辺に、高レベルモンスターが全く存在しないわけでもない。しかしいくらカワラという少女に無鉄砲の嫌いがあるとはいえ、まさかそんなゾーンにソロでは突っ込むまい。無鉄砲な分やたらと野生の勘の様なものが発達しており、危険には敏感なのだ。
(となってくると考えられる可能性は限られてくる。1.カワラ一人ではなく、かつその同行者が弱い。2.PK、プレイヤーキラーに遭遇した。3.〈ノウアスフィアの開墾〉の導入による未知のモンスターって所か。それ以外の可能性もあるかもしれないが、ぱっと思い付く限りではこんなもんか)
(思い付いた可能性の中でもおそらく2は除外していいだろう。未だプレイヤーの多くは大混乱中だ。そんな中で、PKをやろうなんてすぐに考える奴がプレイヤー、特に日本人のプレイヤーの中なんぞにいるとは思えん)
ちなみに八幡が除外したこの可能性だが、後日あまりにも甘いモノであった事が判明する。混乱した人間というのは、逆にどんなことでもやりかねないものなのだ。もっとも、〈大災害〉後初のPK被害者である双子のプレイヤーと八幡が邂逅するのは数日後であり、現時点の八幡はその事を知る由もなかった。
(1と3についてはどちらも可能性は除外できない。しかもどちらも危険度が高い。1については相手モンスターの数によっては一人ではどうしようもないし、3に至ってはどんな事態にでも成り得る)
そして八幡は決断する。
(追いかけよう。……ただし気付かれないように。だって顔合わせるの超気まずいし。それどころか「誰?」なんて言われたら悲しみで目が腐るまである。あ、元々だったわサーセン)
(勇んでアキバを飛び出したはいいモノの、完全に見失ったでござるorz)
ソウジロウたちを追いかけて森へと入った八幡だったが、長々と余計なことを考えていたせいで、三人の姿を見つけることが出来ないでいた。
(おそらく森に入ってすぐの辺りだろうと思っていたんだが、どっちだ?)
どうにかソウジロウたちを見つけようと、八幡は左へ右へと視線を巡らせるが、ここは森の中。目に映るのは当然の様に生い茂る樹木であった。
(とりあえずもう少し視界を確保しないとどうしようもないな。となるとあの木の上あたりか?ついでに身体能力の確認も兼ねて……)
近くにある中で一番大きな木を見やった八幡は、地面を強く蹴る。そしてそのまま目標の木まで接近すると、一気に一番上まで駆け上がった。
(……やはりとんでもない身体能力だな、こりゃ。しかもまだかなり余裕がある)
自らの身体能力にちょっとした感動を覚えつつも、八幡はすぐに目的を思い出して森の中を見渡す。しかしその視界に浮かぶのは緑一色である。
(ちっ!これでも厳しいか。……いや、アレは!?)
その時見えたのは果たしてソウジロウとイサミ、どちらの刀が反射した物だったのか。キラリと光ったその煌めきを、八幡の腐った目は見逃さなかった。
(あそこか!……さらっと流されてるけど腐った目関係なくね?)
ようやく真っ赤な影、
〈ハイディングエントリー〉で透明化していなければ、尋常ではない速度で移動するその姿は一筋の矢の様に見えたことであろう。あっという間にゴブリンと戦うソウジロウとカワラ、そしてイサミの姿を視認した八幡だったが、次の瞬間には背中に下げていた弓へと手を伸ばしていた。
(くそっ!)
八幡の目に映ったのは
(間に合えっ!!)
ゴブリンの振り上げた手斧を避けた先で、木の根に足を取られ、ゴブリンの攻撃を受けて倒れるイサミ
(構えてっ!)
そしてイサミに向かって追撃の手斧を振り上げるゴブリン
(狙えっ!!)
慌てたようにイサミへと駆け寄るソウジロウの赤い背中
「〈アサシネイト〉!!」
八幡の右手から放たれた矢は、空気を切り裂き唸りを上げ、まっすぐに飛んで行く。思わず振り向いたソウジロウの鼻先を掠めて通り過ぎたソレは、今まさにイサミに手斧を振り下ろさんとしていたゴブリンに着弾。しかし目標を捉えても勢いを失わずにさらに飛び続け、10メートルほど先の樹の幹にゴブリンを磔にした所でようやく止まった。
技後硬直が解け、ほぅっと息を付いた八幡は、イサミが無事なのを確認した所でようやく今の状況に気が付く。
(あっ、やべぇ!!)
そう、このまま突っ立ていると自分の姿が見つかってしまうということに。慌てて木の影に隠れようとする八幡だったが、その目は、呆然とした様子で矢の飛んできた方角を見つめるイサミの口元を捉えていた。
「副長なの?」
口から溢れだしたその声が聴こえる様な距離ではない。が、思わず読み取ってしまったイサミの唇の動きに、八幡は一瞬体が硬直するのを感じた。
「くっ!」
しかし心に過ぎった感情をねじ伏せた八幡は、そのまま木の影に身を潜め、さらに次の瞬間には木の天辺まで駆け上がっていた。幸いにしてか不幸にしてか、その姿はイサミには見つけられておらず、誰にも気付かれることなく森の中へと消えていった。
「何だったんでしょうね、あの矢?」
ソウジロウの口からポツリと漏れる言葉。その場に居合わせた冒険者達は、初心者にしろベテランにしろ、先程の光景に一様に驚愕していたが、
(え?なんなの今の?俺、いつの間にかタタリ神にでも呪われてたの?)
……もっとも驚愕していたのはその一撃を放った当の本人であったりする。
まだまだ短い第三話。これも今後加筆するかもですが、まあ現在のところ不明ですw