ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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意外と早く仕上がった第十五話。そして、こちらの執筆速度以上の恐怖のペースでお気に入りが500件を突破しました。これについてはあとがきにて。

さて次はイサミ回次はイサミ回と言い続けてきましたが、今回は本当にイサミ回ですwただ、コミックの〈西風の旅団〉とは結構展開を変えています。ちょっとペース早めないと全く話が進まない……。あと前回のあとがきで書いておこうと思って忘れていたのですが、八幡側は第八話、西風側は前回の第十四話で〈大災害〉初日が終了となっております。時系列が分かりにくくて申し訳ないです。

今回も6000文字オーバーですが、もうこれくらいがこの作品の一話あたりの長さだと思ってくださいwお話としては前半はコミカルより、後半はシリアスよりの話となっております。


第十五話 覚悟を決め、イサミは刀を抜く。 前編

 ソウジロウやドルチェは採取部隊を率いてギルドホールを出発したが、ナズナやイサミ、ひさこたちは、ギルドホール内の調査の続きを行うために居残っていた。この事態にいまだに戸惑っているメンバーも多く、そういった仲間に対するフォローが必要だったこともある。

 もっとも、調査とは言っても昨日の内に全ての部屋のチェックは済んでいた。今日行う必要があったのは調査に漏れがないかの確認と、昨日の内に判明していることに対する再確認である。

 

「うちのギルドってあんまり生産系のサブ職業いないはずなのに、意外と調理系の素材アイテムの備蓄があるよね?作製された食材アイテムも結構多いし……」

 

 昨日はサラの看病もあって調査を手伝えなかったイサミだったが、今日はひさこを手伝って工房の再チェックを行っていた。ギルドホールの清掃を終えたサラもイサミに付いてきており、いま三人が行っているのは食材アイテムの整理だ。

 しかし、イサミが事前に考えていたよりも、食材アイテムの数はかなり多かった。たしか〈西風の旅団〉には、サブ職業が〈調理師〉のメンバーは一人か二人しかいなかったはずであり、イサミにはなぜこんなに量があるのか皆目見当もつかなかった。

 

「ああ、それは……サブマスが〈専業主夫〉スキルを上げる時に色々作っていたものの残りだと……」

 

 自分の問いかけに返ってきたひさこの言葉に、イサミは頬が強張るのを感じる。

 

「……副長が?あ、ホントだ。このオムライス、製作者の名前が"八幡"ってなってる」

 

 固くなった表情をサラやひさこに悟られまいと、イサミは頭を一振りしてからひさこの方に向き直った。

 あらためて自分の手元にある食材アイテムを確認してみると、確かに製作者の名前はほとんどが八幡の名前になっている。ということはおそらく素材アイテムを大量に集めていたのも八幡なのだろう。

 もちろん八幡はこういった事態を予想していたわけではないだろうし、数日分ではあるとはいえすぐさま食べるものに困ることがなくなったのは偶然の産物だ。

 

(でも、副長ならもしかするとって思っちゃうところもあるんだけどね……)

 

 イサミには八幡の考えていることが分からない。

 ソウジロウたち元茶会メンバーを除けば、おそらく〈西風の旅団〉内で一番八幡と話していたのは自分だと、イサミは思う。少なくとも八幡と新選組談義なんてしていたのはイサミだけだ。

 それでも、イサミには八幡の考えていることが分からなかった。今も、そして"あの時"も……。

 ギルドが空中分解寸前になりかかっていたあの時、なぜ八幡はあんなことをしたのか。いや、なぜそうしようと思ったのかという動機は分かっている。結果的にギルドは再び結束し、今では〈アキバの街〉の五大戦闘系ギルドとまで呼ばれてるまでになっているのだから。

 分からないのはそれに用いた手法。

 

「あれが一番効率のいいやり方だった、ただそれだけだ」

 

 そう言い残して八幡は去っていった。〈西風の旅団〉から、そしてイサミから。

 あの時の自分は、八幡に頼るだけでなにも出来なかった。だからいつか八幡に会って謝りたいと一年間を過ごしてきたが、フレンドリストの八幡の表示はいつも暗くなったままだった。

 もしかすると八幡は〈エルダー・テイル〉をやめてしまったのかもしれない、そう思っていた。しかし昨日の戦闘、自分がゴブリンに攻撃されそうになった時に飛んで来た一本の矢。あれを見た瞬間、イサミの頭に浮かんだのはとある〈暗殺者〉(アサシン)の姿だった。

 

「はぁ~」

 

 確認したアイテムのステータス欄に毎回のように浮かぶ八幡の名前に、イサミは思わず大きなため息をつく。

 

「どうされました、イサミ様?どこかお体の調子でも?」

 

 そんなイサミの様子に、一緒に作業をしていたサラから心配そうな声がかけられる。我に返ったイサミが声の方へと顔を向けると、そこにあったのはサラの心配顔とひさこの不思議そうな表情であった。

 

「ああーいや、なんでもないなんでもない。ちょっと考え事してただけだから!あ、あとサラ。友達なんだからウチのことはイサミでいいって昨日も言ったよね?」

 

 慌てたイサミは、その場を誤魔化そうと必死に言葉を紡ぐ。心配してもらえるというのはいいことかもしれないが、考えていたことが考えていたことだけに、人に気軽に話すことも出来ない。

 

「うっ……。でもイサミ様は〈冒険者〉ですし私なんかが呼び捨てなんてするわけには……」

 

 しかしイサミが苦し紛れに発した言葉はサラを大いに悩ませ始めており、その姿にイサミは再び慌てる。

 

「ああ、ごめんごめん。サラの好きに呼んでくれてくれていいから!」

 

 イサミのフォローにもサラはしばらく悩み続け、しばらくしてようやく結論が出たのか、イサミの方へと顔を向けてきた。

 

「分かりました。では、イサミ"様"ではなくイサミ"さん"とお呼びしてもよろしいでしょうか。え~とイサミさん?」

 

 その顔に浮かんでいたのは気恥ずかしげな笑顔。それを正面からまともに見てしまったイサミは、思わずサラから目を逸らしてしまった。

 

(守りたい!この笑顔!!……って、え?なにあれ?天使なの?ハンドソニック使っちゃうの?激辛マーボー大好きっ子なの?……あ、それは天使ちゃんだったか)

 

 どこかの副長の影響で、新選組オタクに加えてアニメにも染まりつつあるイサミだったが、それは心の奥深くに沈め、とりあえずはサラに赤くなった顔を見られまいと、心を落ち着けようとする。

 

「あ、うん。じゃあそれで!これからもよろしくね!」

 

 幸いにもサラに悟られることはなく、どうにか落ち着きを取り戻したイサミは同意の返事を返す。ただしその様子はひさこにバッチリ目撃されており、サラの向こう側からイイ笑顔でグッと親指を持ち上げてきた。

 

(くっ、不覚!ひさこって基本的にいい子なんだけど、たまにこういうネタでからかってくるんだよな~。そんなんだからちょい黒なんて言われるんだと思うんだけど、その名前で呼ばれるとちょっと不機嫌そうになるからな~)

 

 などと考えていたイサミだったが

 

「ここはもう私一人で大丈夫なので……お二人はデート、もとい情報収集がてら街をおさんぽでもしてきたらどうですか……?」

 

 その考えは、からかうような響きのひさこの言葉によってすぐに肯定される。

 若干イラッときたイサミだったが、その提案自体は意外と悪くないように思えた。ずっと作業をしていて疲れもあるし、天気もいい。ただの散歩とはいえ、新しく出来た友達と出かけるというのはなんとも心惹かれるイベントだ。

 

(ちょっと街の雰囲気は悪いみたいだけど、ウチだってレベル90だし、第一何かあっても衛兵がいるから大丈夫かな?)

 

 衛兵というのは〈エルダー・テイル〉にいくつもあったプレイヤータウンで、街の治安を維持する役割を担っていたNPCである。プレイヤータウンで禁止されている行為、主に戦闘行為を行ったプレイヤーを罰するための存在であり、当然ながらその実力は〈冒険者〉よりも高く設定されている。

 まだこんな事態になってからは目撃していないが、昨夜サラと話したところによるとこの世界にも存在しているらしかった。だから最低限の治安は維持されていることだろう。

 

「じゃあそうしようかな?サラ、悪いんだけど付き合ってもらってもいい?」

 

 イサミはひさこの言葉に甘えることにして、サラに確認を取る。情報収集という点においても、〈冒険者〉(イサミたち)とは違う〈大地人〉(サラ)の目線は貴重なものとなるだろう。

 

「分かりました!お供いたします!」

 

 笑顔でうなずくサラと二人、外出を告げようとナズナを探して歩くイサミの頭からは、先ほど八幡のことを考えていた時に浮かんだ憂鬱は吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 留守を預かる立場のナズナにはあまりいい顔をされなかったものの、情報収集の重要性を力説したおかげか、イサミはどうにか外出の許可を得ることに成功した。もっとも、なにか危険な事態に陥ったらすぐに連絡するようにとしっかり言い含められた上ではあるが。

 

「う~ん、やっぱり街の雰囲気が悪いかな~」

 

 気分転換にとギルドホールを出てきたものの、〈アキバの街〉の雰囲気はかなり悪かった。

 無気力にうなだれている〈冒険者〉や周囲に当たり散らす〈冒険者〉。あちらこちらで(いさか)いが起こっており、気の弱そうな〈冒険者〉や数少ない〈大地人〉は非常に肩身が狭そうな面持ちである。

 

(サラを連れてきたのは失敗だったかな~)

 

 とイサミは若干の後悔を覚えるが、イサミの横を歩く当のサラは、いつもと違うアキバの様子にキョロキョロと興味深そうな視線を巡らせている。

 

(まあ、サラが楽しそうならいっか!ただ、なにか遭った時はウチが守らないと……) 

 

 そんなサラの様子を見てイサミは安堵したものの、同時に腰に()いた刀、その柄に置く手に力を込める。

 そのままイサミとサラは、街にいる〈大地人〉に話を聞いたり、知り合いの〈冒険者〉と情報交換をしたりと歩き続けるが、特に目ぼしい情報を得ることは出来なかった。

 もっともそれは仕方がないことでもある。イサミがそうであるように、大多数の〈冒険者〉にとってこの事態は全く意味不明なことなのだ。昨日の今日というのもあり、現在のところ、この状況に対する何かしらの回答は誰も得られていない。

 また、サラと同じように、〈大地人〉からしてみても今の〈冒険者〉たちの様子は理解不能であった。一昨日までは自分たちに話しかけることもなかった〈冒険者〉が突然話しかけてくるようになり、あまつさえ、ここはどこなのか?どうやったら帰れるんだ?と言った質問をしてくるのだ。自分たちよりも圧倒的に強い存在である〈冒険者〉のその姿は、一般的な〈大地人〉にとっては恐怖の対象でしかなかった。

 

「これ以上回っても一緒だろうし、そろそろギルドホールに帰ろうか?」

 

 自分たちは何のために街に出てきたのだろうか。徒労感を覚えながらも、イサミはサラに戻ることを提案する。

 

「はい、イサミさん。今日はありがとうございました。街の様子はすこし怖かったですけど、イサミさんと一緒におさんぽ出来て、とっても楽しかったです!」

 

 無駄足だったけど、サラと街を歩けたのは確かに楽しかった。サラの笑顔を見て軽くなった足取りのまま、イサミは引き返そうとするが

 

『リンリンリンリン……』

 

 その瞬間、頭の中で鈴の音のようなモノが響く。ゲーム時代には聞き慣れていた音、それは念話の着信音だった。

 

「念話?局長から?」

 

 念話というのは、〈エルダー・テイル〉でよく使われていたプレイヤー同士の連絡手段の一つで、フレンドリストに登録しているプレイヤーにチャットをつなぐことが出来るという機能のことである。ゲーム時代はボイスチャットと文字チャットの二通りの方法があったが、キーボードのないこの世界ではボイスチャットのみしか使用することが出来ないようだ。

 

『もしもし、局長?』

 

 隣にいるサラに断りを入れ、イサミはソウジロウからの念話を取る。

 

『あ、イサミさんですか?ソウジロウです。食料集めから今戻りましたので、一度ホールに帰ってきてもらってもいいですか?今後の方針などの話し合いも行いたいので』

 

 どうやらソウジロウたち採取部隊が外から戻ってきたらしい。早く帰ってホールで迎えるべきだったな~と、イサミは若干顔をしかめる。

 

『うん、分かった!ちょうどそのつもりだったから、すぐに戻るね!』

 

 念話は、最後に「気を付けて帰ってきてくださいね」というソウジロウの言葉を伝えて切られた。まあもう帰ってきてしまっているなら仕方がない。

 とりあえずさっさと戻ろうと〈西風の旅団〉のギルドホールへと足を向けたイサミだったが、振り向いたその視線の先で5人ばかりの〈冒険者〉がなにかもめているのを発見する。

 

「どうしたんでしょうね、あれ……?」

 

 どうも初心者っぽい子供の〈冒険者〉に、三人の〈冒険者〉がからんでいるようだ。

 

「なんだか急に〈冒険者〉同士のもめごとが増えましたよね。からまれてるほうなんてまだ子供じゃないですか……」

 

 目の前の光景は、〈大地人〉であるサラにもそのように見えたらしく、イサミは止めようともめている現場へと歩み寄る。

 

「やめなよ。いやがってるじゃん!」

 

 三人組の方は明らかにイサミよりも年上に見えた。割って入るのは非常に勇気のいる行動だったが、それでもイサミは躊躇(ためら)うことなく声をかけた。ソウジロウと八幡、イサミがよく知る二人ならこの状況を黙って看過しないだろうと思ったからだ。……まあ、八幡はもしかすると見なかったふりをするかもしれないが。

 

「あぁ!?んだよオメェはよぉ!!」

 

 イサミの声に、三人の内の一人、背の高い黒髪の男性冒険者が怒鳴り声を上げる。こちらを睨みつけてくるその様子に、イサミは思わず腰に差している刀の柄を握るが

 

「あーもうっ!やめなってば。そういう態度だから悪い方に誤解されるんだって!!」

 

 横合いから割って入った、眼鏡をかけた長髪の〈冒険者〉の声に手を下ろす。

 

「お、おう。ワリィ……」

 

 その言葉に冷静さを取り戻したのか、イサミを怒鳴りつけた男は口ごもる。

 

「ごめんね。あいつも悪気があった訳じゃないんだ。どうしたってストレス感じちゃう状況だからついね……」

 

 この眼鏡の男性の方は冷静なようだ。本人に変わってイサミに謝ってくる姿は、非常に落ち着いていた。

 

「拡張パックが導入された日にこんな事態になっただろ?そのタイミングで〈エルダー・テイル〉を始めた人って結構多いんだよ」

 

 そういえば昨日カワラが助けた女の子二人も、拡張パック導入を期に始めたと言っていた。始めたばかりでなんの知識もないのに、ゲームの世界に閉じ込められる。それは、なんだかんだで仲間たちと一緒に過ごすことの出来ている自分、比較的恵まれた環境のイサミの想像をはるかに超えた恐怖だろう。

 

「だからゲームの知識もないしお金もない初心者プレイヤーを、出来るだけ助けたいなって声をかけてただけなんだ」

 

 この目の前の三人は、こんな世界になっても誰かを助けようとしている。それに比べて自分は、昨日の初心者二人を見てもそんなことは全く考えなかった。そんな自分が正義面して割り込んでしまったのだ。彼らが怒るのは当然だろう。

 

「そう……なんだ……。ごめんなさい、ウチってばとんだ早とちりで……」

 

 イサミは深々と頭を下げて謝罪する。まさか穴があったら入りたいという気持ちを、こんな世界に来て初体験することになるとは思わなかった。

 

「いや、今のはこっちも悪かったから、そんなに謝らなくても大丈夫だよ。……君らも行くアテがないんだったら僕達のギルドで話だけでも聞いてみないかい?」

 

 イサミに頭を上げるように伝えた男性は、そこで当初の目的に立ち返り、〈武士〉(サムライ)男の子と〈神祇官〉(カンナギ)の女の子に声をかける。

 とりあえず話を聞かせてもらう、ということで話がまとまったらしく、五人は連れ立って彼らのギルドホールがあるのであろう方向へと去っていった。別れ際、〈神祇官〉(カンナギ)の女の子がイサミに向かってちょこんと頭を下げてくれた。

 

「はぁ……なにやってるんだろう、ウチ……」

 

 女の子に手を振りながら、イサミは昨日からもう何度目になるかもわからない、深い深いため息をつくのであった。




流石にここにオチぶっ込むわけにはいかないので、今回はオチ無し!……べ、別に思いつかなかったわけじゃないんだからね!!

内容については、当初予定ではもうちょっとほのぼの路線だったんですが、書いている内になぜか状況がシリアスに進み始めました。というかいっつもそんな感じになるので、これは僕の書き方の癖みたいなモノかもしれませんがw

さてまえがきで書きましたとおり、お気に入り件数がついに500件を超えました。明らかに好き嫌いの分かれそうな作風の当作品を、わざわざお気に入り登録してくださいました全ての方に感謝を!また、日間ランキングでも28位に入ることが出来ました。この作品の全ての読者様に感謝申し上げます!!なおプレッシャーはさらに増大しましたw

ではここからは次回以降について。次回はイサミ視点の後編となります。ここから5~6話ほどが、今作品の最初の山場となります。賛否両論あるかと思いますが、ご一読いただけると幸いです。第十六話は15日か17日の投稿を予定しております。

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