Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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21話

 

―夕呼side―

 

5月25日

 -横浜基地地下19F-

 

横浜基地に関しては当初から散々完成を急かしていたが、白銀というイレギュラーを受けて更に急かしたこともあり、当初の予定より半年ほど早くAL4区画(アタシの城)が完成し、今まで帝大に置いてあった研究設備を全てこっちに持って来れた。

そして設備が揃ったことで、今まで散々嫌がらせをしてきたこの基地にいるAL5側や、帝国軍などの国粋主義者共に攻勢に出ることが出来る。

 

「さて、最初の標的はAL5だけど…どの札から切ろうかしら?」

 

これからは本当の意味でアタシがこの基地の支配者となって、この世界を動かしていくのだ。手始めに今まで数々の嫌がらせをしてきたAL5へ、軽くジャブでも放ってみよう。

しばらく考えAL5側が今一番被害を受けるであろう札を決めると、手元にある電話から国連の裏のお偉いさん(AL計画長官)に連絡を取った。

 

「お久しぶりですね長官殿。AL4計画主任の香月ですわ。こうして話すのは2年前の会議場以来ですわね。こちらに進展がありましたので報告を。えぇ、AL4計画の根幹である00ユニットの完成と、BETAに関する新たな発見ですわ」

『なっ!?本当かね?以前聞いていた予定だと来年まで出来上がらない予定だったはずじゃ』

 

流石に00ユニットが完成したと伝えれば電話の向こうにいるお偉いさん方も驚いているみたいね。まぁ当初の見通しだと、ここ1年以内には到底完成する予定のない代物だったのだから無理もないか。

 

「それは横浜基地の完成予定が来年以降だったからですわ。基地の完成が早くなった分、計画も早くなるのは当然の結果になります」

『くっ、ならばその00ユニットとやらの実物は、何時我々は拝見できるのかね?貴女の話す00ユニットとはAL4の根幹を担う重要な存在だ。このような報告だけで確認をすることは出来ないぞ?』

「えぇ、勿論ですわ。ただ、そのことに関してですが出来ればお早めにお願いします。どうやら00ユニットの存在にBETA側が感づいたらしく、完成以来BETAによる精神汚染を受けている状態です。正直な話何時まで持つか分かりません。もし00ユニットに施したプロテクトを突破された場合、人類側の情報がすべて筒抜けになってしまいますので、無暗に活動を引き伸ばすことも出来ません。こうして電話で報告をしている今も、いつ00ユニットが活動停止に陥るか分からないのが現状です」

『分かった。出来うる限り早くそちらに向かうとしよう。BETAに関する新しい発見というのはあったときに話し合おう』

「分かりましたわ長官。こちらも受け入れ準備を進めさせていただきます」

『ああ、では失礼するよ』

「こちらこそ貴重なお時間を頂き、ありがとうございました」

 

これでアメリカは釣れたわね。次は帝国だけど…とりあえず00ユニットを完成させてからにしましょうか。

 

 

6月7日

 -横浜基地ヘリポート-

 

「こうして直接会ってお話するのは初めてでしたわね長官。国連軍横浜基地副司令及びAL4計画主任最高責任者、香月夕呼ですわ」

「これはこれは、香月博士直接のお出迎えとは嬉しい限りですな。時間があればデートに誘っていましたよ」

 

アタシが連絡をつけてから約2週間後、AL計画の長官を含む使節団が横浜基地へやってきた。

まぁこれだけのメンツを2週間という短い期間で揃えたのだから、AL計画全体としてはこちらに対する一応の誠意はあるのだろう。

しかし、時間がないと報告しているのにも関わらず、こうしたお世辞を言わなければならないのは肩が凝って仕方ない。

 

「あら、長官は女性の扱いがお上手ですわね。ですが今回は内容がアレですので、失礼ですがこのまま例のモノ(00ユニット)がある部屋まで案内させてもらいます」

「たしかに私の恋路よりも人類の未来のほうが比べるまでもなく重要ですからな」

「では案内しますわ」

 

話して分かったが、どうやらこの長官の男はAL5側についているようだ。言葉の節々にアタシを見下していることを感じられる上、それを隠そうとしている素振りも見られない。帝大に入って以来今までよく向けられた目だから、この位はリーディング無しでも分かる。

しかしAL5側に付いているということは、この人が長官の椅子へ座っていられるのも後少しってことになるわね。是非とも帰り際の顔をじっくりと見たいものだわ。さぞかしアタシのストレスを晴らしてくれるモノでしょう。

 

 -横浜基地地下19階-

 

「こちらになります。長官」

「うむ、っとこれは…どうやら我々は間に合わなかったようだね?」

「ええ、本日の2時に最後のプロテクト1枚の所まで突破されてしまったので、現在は凍結状態にして保管処置をしております」

 

長官が言うように、現在私たちがいる部屋の中央には00ユニットが入ったポッドが鎮座しており、―勿論ポッドの中にいる00ユニットは形だけのハリボテだが、使節団や、それにくっ付いて来た調査団に分かるわけもない―アホ面をつき合わせて一様にポッドの周りを観察しては唸っているだけだ。

 

「この中身の入ってないシリンダーが、その00ユニットとやらの元になった脳みその入っていた物か?」

「えぇ、そうよ。なんならここで調べてみてもいいわよ?」

「今度正式に調査団を派遣させてもらう」

「了解ですわ」

 

時折部屋を調べて唸っている調査団の中から質問が飛んでくるが、その辺りにいる程度の専門家にアタシの嘘がバレるわけもなく、横で聞いている使節団は特に問題を抱くこともなく調査を終えた。

 

 

 

 -横浜基地応接間-

 

一通り調査を終えた調査団が基地内で休憩している間に、アタシは長官を筆頭にAL計画の幹部数名と応接間を使って臨時の会談を行っていた。

 

「で、先日君が言っていたBETAに関する新たな情報というのは何かね?」

「そのことですが、先ず初めに情報の元は00ユニットから引き上げたものですので、理由を尋ねられても私が答えられるとは限らないことを理解下さい」

「ああ、分かった。我々にとって重要なのはその情報が正しいかどうかだけだからな。理由などは部下の方で調べさせるさ」

 

ふ~ん、ならこの情報を聞いてもその余裕タップリな表情、保っていられるかしら?

 

「では、先ず一番に耳に入れておいてほしい情報から。今までBETAは我々人類に対し、細かい対応はしないものだと言われてきましたが、あれが間違いであるというのが一点。BETAも危機と感じることを経験すると、それに応じた対応策を生み出します。その際、一度最上位者に情報が届いてから判断され、そして全BETAへと反映されるため、最初のレーザー属種誕生までの約2週間というラグが起きたようです」

「俄かには信じられないな。今の君の発言はレーザー属種の出現以降、我々人類に対しBETAは何一つ危機を感じていないということだろう?」

「残念ながら、そう言わざる得ません」

「これは帰ったら一度会議を開かなければならないな…「思案中のところ申し訳ありませんが、次に進んでもよろしいでしょうか?」おおっ、申し訳ない。私のせいで博士の邪魔をしてすまないね」

 

ったく、神妙な顔しても目が笑っているわよ長官殿。どうせこの情報を振りかざして、G弾反対派の口封じをするつもりなんでしょう。

 

「2つ目の情報ですが、今申し上げたBETAの対応に関する事になります」

「ほう?」

「先程も申し上げましたとおり、BETAは危機と感じたことに対応してきます。そして人類はBETAからここ横浜の地を奪い返したときに、とある兵器を使用したことで勝利を収めました」

「というと、BETAはG弾に対応してきていると言うのかね?だがアレは迎撃不能と言われている兵器だぞ?」

「G弾が迎撃不能というのは人類に対して使用した場合です。そもそもG弾の元となっているG元素はBETA由来の物ですし、対応できたとしても何ら不思議はありません」

「ラザフォートフィールドは?G弾から展開されるあのバリアはどうなんだね?」

「確かにラザフォートフィールドは鉄壁の守りを誇りますが、それも今以上の照射出力と照射距離を持つBETAが現れた場合その限りではありません。この基地にある研究設備にて検証をしたところ、今いる重光線級の照射でも数によっては突破される可能性があると出てきました」

「バカな!!」

 

ふふ、信じられないっといった顔ね。いえ、信じたくないのかしら?それもそうよね。今の今までAL5計画に於ける対BETA戦略の根幹であるG弾の価値を全否定するような内容ですもの。

 

「信じられない気持ちもわかりますが、何度も検証した上の確かな情報です。なんでしたらデータをお渡ししますので、そちらでもお確かめ下さい。真実だと理解出来ると思いますわ」

「…あぁ、確かめさせてもらおう。香月博士を疑う訳ではないが、やはり研究設備が最新で揃っているところで確かめてみないことにはなんとも言えんからな」

「これは私が言うことではありませんが、くれぐれも情報の漏洩には注意なさって下さい。この間のキリスト恭順派による暴露とは比べ物にならない程に、影響が出るものですので」

「分かっておる。では、データのこともあるし予定より早いが我々は帰らせてもらうぞ」

「はい、お見送りはいかが致しましょう?」

「折角の申し出だが、一刻も早くデータを調べたいので遠慮させてもらう」

「分かりましたわ」

 

その後、使節団は連れて来ていた調査団と共に横浜から慌ただしく帰っていった。そんなAL計画の幹部連中の後姿を確認すると、アタシは今までの鬱憤が晴れたのか、気がつくと数年ぶりに思いきり笑っていた。

 

「今まで散々アタシのことを馬鹿にしていたのに、一度反撃された程度で尻尾巻いて逃げるとは無様ね。あーホントいい気味だわ」

 

だが何時までも笑っている訳にもいかない。AL5へ勝負を吹っ掛けたのだから向こうが勝負を挑んでくるまでに帝国と協力関係を結ばないと、いざという時にクーデターを多少強引でも起こされてしまった場合が厄介すぎる。

とりあえず、鎧衣でも使って五摂家連中との話し合いの場を用意させましょ。この間美味しい餌をあげたんだから、これくらいは無償で手伝ってくれるわよね?

 

 

 

―白銀side―

 

6月10日

 -帝国軍富士演習場-

 

多少のイレギュラーによって予定通りとは行かなかったものの、遂に帝国軍へのXM3配布を目的とした斯衛・帝国軍合同軍事演習が行われようとしていた。

 

本来ならば仙台に作られた斯衛軍の演習場を使用する予定だったのだが、とある帝国のお偉いさんの強引な手により帝国軍の本拠地とも言える富士演習場での開催となった。

これが予定通り仙台で行われたのであれば夕呼先生や悠陽も観戦に訪れ、御前試合として帝国側の余計な妨害工作などを防げたのだが、驚くことに夕呼先生が国連の方へ気を割いている隙を突かれ、上手いこと出し抜かれた形になってしまった。

悠陽を呼ぶにも、仙台と富士ではBETAの危険度が違いすぎるので、とてもではないが観戦に訪れるなんて事は出来ない。

 

こうなったら完膚なきまでに帝国側の衛士を叩き潰し、お偉いさんが文句を挟めるような隙を無くすしかないな。

 

俺は考えを纏めると、部下の2人と打ち合わせを行うために戦術機の回線を開いた。

 

『3人で2小隊と戦う変則的な模擬戦だけど、2人とも準備は出来てるな?』

『あぁ、勿論だぜ隊長。こちとらXM3を積んでから1ヶ月もあのヴァルキリーズと模擬戦を繰り返してきたんだ。今更数が多いなんて理由で帝国軍の選抜部隊相手に怯むなんてありえないぜ』

『私も慢心いている訳ではないですが、今までのOSを積んだ相手ならば、例えその相手が帝国軍選りすぐりの優秀な部隊であろうが負ける気はしません』

『なんだ全員やる気満々だったのかよ。なら作戦は決まりだな』

『何だ?電撃作戦か?』

 

ありゃ?剛田にも見抜かれたか。でも相手にこっちの状況は知られてないし、かなりの確率で決まると思うけど…一応篁にも相談してみるか。

 

『剛田に当てられるようじゃ作戦変えたほうがいいかもしれないな。篁はどう思う?』

『いえ、相手はこちらの様子を知りませんし、数的有利なことも手伝って私達が今までの戦術の主体であるゲリラ戦法を取ってくると考えているはずです。そういった観点から見ても今回の電撃作戦は悪くない選択だと考えます』

『という事は全員電撃作戦で賛成ってことだな。なら主軸は開始直後の電撃作戦後、散開しての各個撃破でいくぞ』

『了解』『篁、了解しました』

『で、各個撃破の時に気を付けて欲しい事が一点。相手と力量差があって自分に余裕がある場合は、態と数的不利な状況を作ってそれを機体の性能差ではなくOSの力を見せつける形で倒して欲しい』

 

これは作戦勝ちだとか機体の差などと上の奴等に文句を言わせないためにも必要なことだ。かなり無理を強いているとは思うが、寧ろ無茶をする方がやる気になるのがウチの部隊のいいところだもんな。

 

『またこの隊長は無茶を言うね。けど、お陰でやる気がもっと出てきた』

『あの白銀中尉の部隊ですからこういった無茶な要求は出てくると思いましたが、派遣部隊初めての正式な仕事で来るとは思いませんでしたよ…言われた仕事はこなしてみせますけど』

 

うんうん。予想した通りの反応だ。

 

『それでこそ白銀部隊だ。んじゃ、試合もそろそろ開始のようだし集中していくぞ』

『『はっ!』』

 


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