Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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剛田さんが大人。というより、白銀の部隊で一番精神年齢高いのは剛田なのかもしれん。


16話

―唯依side―

 

4月10日

 -帝都城特区演習場-

 

「流石です閣下。たった5日間の慣熟だけでここまでの機動が出来るとは」

「なに、それも白銀のこうした教導があってこそだ。初めこそ未知の機動概念に手間取りもしたが、慣れさえすれば幼少の頃より培った我が剣術を存分に発揮できるしの」

「閣下より言っていただけるとは、発案者冥利に尽きます」

「しかし、こうまで卓越した腕前を見せられると、尚の事我が部隊に来て欲しいのだがな。中隊長の席なら直ぐに用意できるのだが、本当に来ないのか?」

「まぁ今の部隊は部隊長ってこともありますし、それに色物しかいませんけど部隊員のことも気に入ってますから」

「先日帝国から来たとかいう剛田のことか?あ奴のことであれば紅蓮の大将が中々に見所があると言っておったな」

「ええ、それと篁家の当主も先日の配置転換で配属されました」

「おぉ、篁と言えば恭子の奴も気にかけておったの。白銀の部隊ならばそう無茶などはないだろうが、無闇に命を散らすような真似はするなよ?崇宰が黙ってはおらんぞ」

「はっ!ですがご安心を。我が部隊の隊規は絶対生存です。そこら辺にある地獄程度ならば、蘇ってでも帰ってきますので」

「ハハハッ、これはとんだ衛士が居たものだな。地獄程度は蘇るか。益々部隊に来ないのが惜しい男よ」

「閣下こそ本気ではないのでしょう?その日の内に俺の所属を変えるくらい閣下でしたら簡単でしょうに」

「見抜かれていたか。まぁ白銀が部隊に加わるというのなら、俺は両手を上げて受け入れるが、どうやら今の部隊でやりたいことがあるみたいだしな」

「閣下。言葉使いが乱れてますよ?」

「別にこの位いいだろう。この場には俺達以外には俺の側近が控えてるだけだしよ。それにそいつなら俺が暴言吐いたところで、一々気にするような奴じゃないからな」

「それもそうっすね」

 

 

 

 

あ・の・バカ野郎は~~

 

「斑鳩閣下になんて口の利き方をしとるんだ!?ああ、早く下に降りて謝らなければ。おい剛田!さっさと向かうぞ!」

 

自分が所属している部隊の長が要塞級の問題発言をぶちかましたというのに、剛田はモニターを笑みを浮かべながら眺めて、私がいくら急かしても動こうとはしなかった。

 

「まぁ抑えとけって。篁はさ、隊長の馴れ馴れしさを斯衛らしくないって、悪いように捉えてるのかもしれないけどよ。これって裏を返せば誰でも引き付けることができるっていう美点なんだぜ?」

 

抑えとけだと?よくもまぁこの状況でそんな言葉がでてくるな。

 

「それはそうかもしれないが、今私達が所属しているのは斯衛であり軍なんだ。軍という柵の中にいる限りは規則や規律は必要だ」

「じゃあ聞くけどよ。篁はあの2人を見て何も感じないのか?それに俺達の部隊は派遣部隊だ。色んなとこに行くってのに、何時までも斯衛だからって肩肘張り続けるわけにもいかねーだろ」

「それもそうだが…篁家当主として斯衛らしくあるべきと、今まで生きてきた私に今更考えを変えろと言われても難しいぞ」

「別に変える必要なんてねーよ。ただこういう考えもあるんだと、斯衛としてのあり方は一つだけじゃねーんだと、自分の中で受け入れればいいだけよ。それにしても白銀の野郎、何が色物しかいねーだ。てめぇが一番の色物だろうがよ」

 

それっきり剛田は私に話すことはないと、モニターに映る白銀中尉を見ては愚痴を漏らしていた。

 

確かに今の閣下と白銀中尉のまるで友人同士がするような会話を聞いて、私の中で思うことがないわけではない。しかし、今の今まで生き方の手本としていた生き方に否定を、いや、それ以外の生き方もあるのだと示されたのだ。

いきなり今まで歩いていた道に新たな道が現れたとして、一体何人が今まで歩んできた道から外れることが出来ようか?それも正道だと言われようが、どうにも外道であると感じてしまうのは仕方のないことだろう。

 

 

 

結局、解決の糸口と言えるようなものすら出せず、私は胸に靄を抱えたままその場を後にした。

 

 

4月15日

 -帝都城特区演習場-

 

あの日から仕事の合間にも私の中で斯衛という生き方を考えるようになった。だが、いくら考えても上手く纏まらず、余計に考え込むようになってしまった。

演習中に白銀中尉から話を持ちかけられたのも、やはり私が悩んでいる時だった。

 

「篁、お前が何に悩んでいるのかは聞いたし、そのことについて俺に言いたいことがあるなら聞いてやる。だから一旦戦術機を降りろ。こんな調子だと向上するもんもしなくなる」

「はい…」

 

私が戦術機を降りると、既に戦術機を降りていた中尉が腕を組んで待っていた。

私は傍に寄るものの、会話の切欠を掴めず暫く辺りを沈黙が支配した。

 

「どうだ?篁の言う斯衛らしくしてみたんだが?」

 

沈黙が支配する中、先に口を開いたのは中尉の方だった。

 

「は…?」

「スマン、忘れてくれ。まぁらしくあろうとするのは間違いじゃないさ」

「では何故中尉はらしくあろうとしないのです?こう言ってはアレですが、中尉のあり方を気に入らないという方もいますよ?」

「それも知ってる。でも俺はこの生き方が可笑しいとは思わない。まぁ俺が気に食わないって人の意見を否定する気もないけど」

「なんで嫌われても、目を付けられても変えないのですか?斯衛として生きられるなら何故そうあろうとしないのですか?」

「立場に合わせた生き方が大事なのは分かっているよ。でもそれだけだと駄目なんだ。それじゃ自分で自分の可能性を狭めちまう。俺は人の可能性ってのは、人と出会うことで開かれるものだと思っているからな」

 

実際横浜の副司令に会って無かったらXM3も生まれてないしな。と未だ悩んだ表情の私に笑いかけてくる。

 

「それは、理解できます。けど「納得は出来ないってか?」はい」

「多分考えているところが違うんだろうな~」

「考えているところですか?」

「篁はこのBETAとの戦い勝てると思ってる?感情論は抜きで考えて」

 

BETAとの戦いか…恐らくこのままではいくらXM3が優れていようが、そう遠くないうちに日本から逃げ出さねばならないだろう。

以前まではG弾があったが、この間の論文が世に出た時の反応から、使われるとしたらそれこそ人類の存亡をかけた事態にでもならない限り使われないはずだ。

 

「客観的に見るのであれば、無理なのではないかと」

「ありがとう、軍人として答えづらい質問をして悪かったな。で、そんな状況だぜ?今までどおりに生きていたんじゃ、BETAを地球から追い出すなんて無理だろう?」

「確かにそうですが…人一人の力ではどうしようもありませんよ」

「でも一人一人が頑張らないければ、BETAに勝つことなんて夢のまた夢だ。それに一人では無理かもしれないけど、XM3だって元々は一人の考えを実現してみせただけなんだぜ?こう考えれば無茶だとは思えないだろ?」

「だから中尉はその生き方でいると?」

「色々と衝突するだろうけどな。でもその衝突で新しい技術や戦術が生まれるかもしれないって考えたら、斯衛らしく生きる理由というか意味を感じなくなったんだ。どんなことを言ったところで、結局BETAを倒さなきゃ何も始まらないしな」

 

なるほど、この人は強いんだ。それも誰と比べるまでもないほどに。

他人の評価なんて気にせず、必要だと思ったことには全力で。誰に咎められようが、理解する者がいなかろうが、この人が止まることはないのだろう。

 

「…なんとなくですが、白銀中尉のことが分かってきました。時間は掛かりそうですが中尉の考え方のことも受け入れていこうと思います。私の意見を翻すつもりも無いですけど」

「それでいいんだよ。自分というの持っているならそれでいいんだ」

「はい!」

 

この日、私は久しぶりにスッキリとした気持ちで眠ることができた。

 

 

 

―巌谷side―

 

4月18日

 -帝国軍技術廠-

 

 

ここ最近は技術廠も活気が出てきたな。まるで国産戦術機の開発が決定されたあの時のようだ。

まぁそれもXM3のあの圧倒的な性能を見れば仕方ないことだろうか…

OSという機体の改修に比べるまでもない程低コストで、今までに世に出た全ての戦術機に適応し、戦術機の持つ性能を十全に発揮することの出来る物が現れて、技術者としてじっとしてなどいられないのだろう。

だが、XM3が光であるならば、それによって影が生まれる場所もある。

 

「技術廠の連中は何をやっているのだっ!まだ出来上がらないのかね!」

 

XM3によって影を、言い方を変えるのであれば最も被害を受けたのは、間違いなく目の前にいる帝国軍の主流派である国粋主義者達であろう。

 

「ですからこれまで何度も申し上げたとおり、現状ではXM3を超えるOSの開発など不可能です」

「不可能であるわけ無いだろう!現に横浜はこうして作り上げたではないか!それとも何か?貴様は国連は作れても帝国では作れないとでも言うのかっ!」

 

 

 

XM3が世に出るまで国連軍は敵、とは言いすぎかもしれないが、帝国軍にとって邪魔者でしかなかった。だからこそ国粋主義が主流派になるまで台頭してきたのだがな。

しかし、ここにきて国連・斯衛協同という名目で発表されたのがXM3だ。XM3がまだこれほどまでの性能を誇っていなければ、国粋主義者達も無視を決め込むだけだったはずだ。だが、XM3は優秀であった。それも近い将来、戦術機の歴史において一つの転換期に数えられるだろうと、戦術機に関わるものであれば確信出来てしまう程に。

そして発表されたところも悪い。よりにもよってこれまで自分達が貶し続けてきた国連軍である。そんなところが開発したモノなど、例えどれほどの出来であろうと、自分達の軍が使うことはプライドが許さないのだろう。視野が狭くなっているとはいえ、軍の上に位置する者達だ。権力があるからこそプライドもそれ相応に高くなっている。

それに斯衛という生まれからして高貴な者達が、自分達ではなく国連を頼ったというのも意地を張らせているのだろう。

 

戦場に、そして現場に身を置いている者であれば、どんなに国粋主義に傾倒していようがXM3の導入を願っているだろう。だが、上にいる者達はこれまで米国・国連軍憎しで保ってきた求心力が落ちるの危惧して、XM3の導入は否定的になっている。

結果生まれるのは上と下の不一致だ。軍という閉ざされた場所においてこれは拙い。下が言うことを聞かなくなれば、待っているのは組織の崩壊だ。

 

これらのことが揃った結果、帝国の国粋主義は揺らいでいた。

 

 

 

「ええい、お主では話にならんわ。部長を呼べ!」

「部長はただいま席を外しておりますので、代わりに私が来たのですよ」

 

おかげでこういった無茶を言ってくる輩も増えたな。

XM3が優れているのならばこちらも真似してしまえと、言外に命令をされたところで出来ない物は出来ない。そもそもの技術レベルが違うのだと、何度説明しようが、こいつ等の口から出てくるのは「作れ」の一言だけ。

これが普通の将官様ならば既に適当に話を流していただろうが、今回の相手は帝国の財布を預かっている者(技術者の天敵)もいるので従うほか無い。

 

 

 

その後、帝国将官との益の無い会話を終わらすと、私の体は一気に虚脱感に襲われた。

 

「白銀君みたいな年端もいかぬ少年が頑張っているというのに、帝国軍は上に立つものがこれなのか…」

 

しかし上の者が気に入らないからといって、この仕事を放り出すわけにもいかない。本人たちは自分の保身の為に言っているだけなのだろうが、成果を出すことが出来ればそれは人類の牙となる。それが前線に出ない技術者にとってのBETAとの戦いだ。

 

「新兵装などと言われた所で、そう簡単にアイディアが出てくるわけでもない。だがやらなければ少ない予算も出ない…」

 

今の日本は疲弊している。BETAの脅威に晒されて無事でいる国など無いが、今の日本にはBETAと戦うだけの力を用意するので手一杯な状態だ。そんな状況で予算を出したところで、出てくるのは雀の涙程度だろう。だが、それでも達成できなければ次はさらに少なくなる。

 

今はXM3によって齎された熱意が技術者達に力を与えているものの、そう何時までも持続するものでもない。新兵装のアイディアが出なければ、早々に熱も過ぎ去ってしまうだろう。

 

「バレたら事だが、それはバレなければ問題ないということ…か。しかし、あんなに毛嫌いしていた魔女へ私から連絡を取ることになるとは、中々に世の中とは読めないものだな」

 

私は今後の方針を決めると、虚脱感に覆われた体を動かして、白銀君に連絡を入れた。

 

 

 

―白銀side―

 

4月18日

 -派遣部隊執務室-

 

この間の会話で元気を取り戻したのか、篁の仕事速度が上がり派遣部隊にも余裕が生まれてきた。

そして今まで名ばかりであった昼休憩を取っていると、以前夕呼先生から掛かってきて以来沈黙を保っていた執務室の電話が鳴った。

 

prrr.prrr.prrr.

 

「はいこちら斯衛軍派遣部隊―――って巌谷の叔j中佐!?」

 

どうやら余裕というのはそう簡単には手に入らないらしい。

篁が受けた電話の相手からまた厄介事が生まれたと予想するが、出来れば外れることを祈るぞ。

というか、厄介事しか持ってこないのならば、電話なんか置くんじゃなかった。チクショウ!!




一人では~:この世界で生きてきた白銀の信念。及び、記憶を得ただけにも関わらず、前を向き希望を失わないでいる理由でもあります。

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