Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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巌谷の叔父様の使い勝手が良すぎてヤバイ


15話

―白銀side―

 

3月28日

 -国連軍横浜基地PX-

 

機体が直るまでの間は特に急ぎの用件も入っていないので、横浜基地の目玉である京塚曹長の料理に舌鼓を打っていると、ちょうど訓練を終えた部隊があったのか、かなり人数がPXに雪崩れ込んできた。

 

「中尉が来てるですって!」

 

ヤバイ、よりにもよって一番見つかりたくない人が入ってきたようだ。

おそらく京塚曹長辺りが料理が出来上がるまでの小話に話したのだろう。んで、あの人の野生動物並みの直感で、こうやって俺のことを探し当てると。

 

「お久しぶりです!白銀中尉!いつもの斯衛服じゃなかったので探しちゃいましたよ」

 

あれ~可笑しいな。今のPXにはかなりの人数がいるはずなんだが、迷うことなく俺を探し当てやがった。一応会うと面倒だからって、今は国連軍の服着てるんだけどな~

 

「や、やぁ速瀬少尉、お久しぶりですね」

 

あ~今の間だけは仕事が無いことが悔やまれる。ピアティフ中尉が「もう大丈夫です」なんて言わなければ、未だに書類の山と戦っていられたというのにぃ!

この間の模擬戦の結果から鑑みて、絶対この後俺相手に模擬戦を誘うだろ。1戦だけならまだしも、この人の場合潰れるまで続けるから嫌なんだよ。

 

「お食事一緒にしても宜しいでしょうか?」

「別に構わないぞ。どうせ後から部隊のメンバーも来るんだろ?」

「はい。ついでに食事の後に模擬戦「は駄目だ!」ちぇ、そんなこと言わずに模擬戦しましょうよ~」

「駄目ったら駄目!折角の京塚曹長の作った美味い飯を態々戻したくねーもん」

 

危ね~、さりげなく混ぜ込んでくるなよな。つか、飯食った後じゃ腹の中のもんシミュレーター内にぶち撒くぞ?

俺が速瀬少尉との会話を楽しんでいる間に、伊隅大尉を先頭に残りのA-01メンバーが周りの席を埋めていった。

 

「久しぶりだな白銀、なんだか早速厄介なことになっているな」

「皆さんお久しぶりです。で、奥に座っているのは新入りの人たちですか?」

「あぁせっかくの機会だし、何かと融通の利く部隊長のお前には紹介しておこうと思ってな。だがここ(PX)では拙いな」

「今は簡単なもので構いませんよ。それに、今の俺は京塚曹長の美味い飯を味わうのが最優先なんで」

 

というより、会話を続けるにはPXの男性陣から送られる恨みの篭った目線がウザイ。確かに美人に囲まれ食事する光景を見て羨む気持ちも分かるけど、京塚曹長の飯の方が遥かに重要だろ。こんな美味い合成飯なんて他所じゃ味わえないぞ!?

 

「あれま。斯衛なら美味しい食事がありそうなのに」

「斯衛って言っても軍人には変わりませんから。出される飯は例え赤だろうと普通の合成飯ですよ」

「それって青から上は違うってことですか?」

「青から上ってなると、俺の場合一緒に食事をする機会そのものが無いから、どんな食事なのかは想像するしかないんだ」

「聞いたとおり斯衛って面倒そうなところですね」

「まぁ硬い部分があるってのは否定できないな」

 

食事に関してはやはり何処も身近な話題であり、ちょっとした話のネタとしてはとても優秀だ。最初は挨拶だけで遠巻きに見てくるだけだった新入り達も、次第に会話に混ざってくるようになり、やはりというか、最初に馴染んできたのは宗像少尉だった。

 

「なんだか白銀中尉を見ていると、私の中の斯衛像とでも言うのがボロボロと壊れていきますね」

「おっ!新入りの癖に言うじゃない~その度胸気に入ったわよ宗像」

「速瀬先輩に気に入られてしまうとは、これは失敗だったな」

「おぉぅ、同じ部隊の先任にも容赦ないわね」

 

だが、流石にいきなり先任を誂う程の度胸はないのか、記憶で見た宗像中尉と比べると幾分言葉に含まれる毒が薄いように感じる。

 

「速瀬の奴自分にも後輩が出来たからって調子乗ってるな~そう思いません?」

「それは小林、お前もそうだったぞ?」

「え~流石に私はあそこまで調子乗ってないっすよ~」

 

しかし、こうも大所帯となってはどうしても目立ってしまうな。PXの視線を俺たちだけで独占しちまってるぜ。一部の人が五月蝿いってのもあるのだろうけど、こうも注目されてしまうと、今後色々と周りから絡まれるだろう。

横浜の者からすれば、基地きっての綺麗どころをかっ攫った気に食わない奴として。一緒に付いて来た斯衛のおっさん達からすると、このご時勢貴重な色恋のからかいの的として。可愛い女の子の恋バナならまだしも、おっさん達の下衆な恋バナなどどこに需要があると言うのか。

 

この俺としては全く嬉しくない状況を打開するには、一刻も早く立ち去るのが最適な答えだろう。

 

「…ご馳走様でした。皆さんそれでは俺は失礼しますね」

「なによ~少しくらい私達を構いなさいよ~」

「そうだそうだ~我々は白銀中尉ともっと遊びたいぞ~」

「スマン白銀。この馬鹿2人はこちらに任せてくれ。後で処分しよう」

「大尉、その時は私も混ぜてください。小林には少々お灸を据えないといけない時期が来ましたから」

「中尉お疲れ様です」

 

 

 

A-01、新入りも増えて随分とカオスってたな~これで宗像少尉が本気出したらブレーキ役が足りなくなるだろうな~

なんだか足りないブレーキ役を押し付けられそうな気もするが、そこまでA-01と密接に関わる予定はないからな!

 

 

 

 

 

 

4月10日

 -帝都城斯衛軍演習場-

 

 

陽のまだ完全に姿を現していない早朝にも関わらず、演習場には戦術機の出す騒音と、操縦しているであろう衛士のくぐもった悲鳴がいくつも聞こえていた。

 

なんだか時期が一気に飛んだ気もするが、今は目の前の教導に集中しないと!

 

一応抜けた期間の補足しておくと、横浜で機体を修理し終えたその日の内に帝都へ引き返し、一番の案件であるXM3の評価試験に向け自身と機体の慣熟をしていたとしか言えない。

また問題だった評価試験自体も、基本動作と数種類の3次元機動に基本理念、対BETA対戦術機への優位性の説明だけで終わってしまったので、正確には語ることが起きなかったというのが正しい。

 

そして現在、斯衛軍の演習場にはXM3を搭載した武御雷と瑞鶴が、それなりの広さを誇る演習場を所狭しと3次元機動(変態機動)で飛び回っていた。

 

いや~紅蓮大将が俺の戦術機を壊した時は、これを原因にXM3にイチャモンを付けられやしないかと不安だったが、採用試験の場では話題に出ることすらなく至極あっさりとXM3の斯衛軍採用が決まった。

流石に映像や実機の動きを見せただけで採用に対する反論が一切出ないというのは、XM3採用は裏で既に決まっていたということなのだろう。このあたりは流石夕呼先生と言うほかないな!

 

そして今俺が教導をしている衛士が、我が部隊全員(2人のみ)が待ち望んだ新入りだ。別に横浜で会ったA-01に新人がいたのが羨ましかった訳じゃないぞ?

新入りの名前は篁唯依。俺と同じ山吹の斯衛であり階級は少尉、俺は知らなかったが篁は京都防衛戦の頃から俺の名を知っていたらしい。

巌谷中佐からのお墨付きということもあり、現時点でTOPクラスとはいかないものの十分に素質を感じられる衛士である。しかも!書類仕事までこなせると言うのだからなんとも頼りになる新入りだ。

 

ただ篁を見ていると、部隊に配属される時に妙に念を押した巌谷中佐の顔が頭の中に浮かんでくる。そりゃ一番とも言える親友の大切な置き土産でも有るのだから、心配になるのは分かるが、流石に目を血走らせた顔で頼むのは異常な気がする。なんというか記憶の中で見たたまパパ(EXver)が浮かんだ。

 

「朝から飛ばしても仕事に支障をきたすだけだし、少しだが機動も鈍ってきた。ここら辺で切り上げようか」

「了解です」

 

3次元機動(変態機動)を始めて30分が経過し、告げたとおり機動も落ちてきていたが、それでも管制室のモニターに映った瞳には未だ光が灯っていた。まだ慣熟を始めて一週間と考えれば、十分に優秀な衛士だと言えるだろう。

 

「しかし、発案者の俺が言うのもアレだが、よくあの動き(変態機動)を朝から続けて耐えられるな!?戦術機適正だってずば抜けて高いわけでもないんだろ?」

「折角白銀中尉の部隊に入れたのですから、体が限界を迎えない限り演習を続けるのは当たり前です」

 

普通の人は半日ほどでその限界ってのを迎えるはずなんだがな~一週間で訓練プログラムを修了した篁には当てはまらないか…

篁も初日は案の定エチケット袋の世話になったようだが、凄まじい速度で耐性が出来上がっているとでも言うのか、日を追うごとにエチケット袋に頼ることもなくなってきた。だからこそ、この早朝特訓が行えるわけだが…

 

「まぁいい。とりあえず今は飯だ、飯!機体戻したらPX行こう」

「了解です中尉」

 

 

 

―唯依side―

 

4月10日

 -第一帝都近郊篁家-

 

「唯依ちゃん、今日で部隊に入って一週間経ったけど、白銀君は唯依ちゃんから見てどうだい?」

 

一日の仕事を終え帝都近郊に新たに建てた自宅に帰ると、私が尊敬してやまない巌谷の叔父様が居間にて寛いでいた。

私が思わずズッコケているのも構わずに、叔父様は今一番のお気に入りなのであろう白銀中尉について尋ねてきた。ひょっとしたら、ただ単純に新しい場所で上手くやれているかと、私のことを心配してくれたのかもしれないが、これまでの私に対する叔父様の行動から即座に頭の中で否定が入った。

 

「流石はXM3を発案しただけのことはあるといったところでしょうか」

「おや?心優しい唯依ちゃんにしてはやけに渋い言葉だね」

 

ここで少しでも白銀中尉に好意的だと取れる話をしようものなら、何時ものようにお見合い話を進められてしまうだろう。

確かに私は同年代の他の者と比べ幾分硬いのかもしれないが、自分だって相手がいないくせに私の見合い話なんて持って来ないでください!

 

「年齢を鑑みれば非常に良くやっていると思いますが、斯衛としての自覚が欠けているようにも見えますので」

「確かに白銀君は斯衛として見ると心構えがなってないかもしれないけど、それが彼の良さでもあるからな。それに部隊の特性を考えたら白銀君の柔軟性は重要だからな~」

「?派遣部隊の何処に柔軟性が必要なんですか?」

「唯依ちゃんはまだ分からないだろうけど、他の国に行ったりすると斯衛らしさが仕事をする上で邪魔になることもあるんだ」

「ですが、今いるのは帝都なのですから、その調子では困るのです」

「まぁそこら辺は時間をかけて、お互い理解していくしかないよ。白銀君の人柄自体は好青年そのものなんだし、きっと唯依ちゃんとも上手くやれるさ」

 

あれ?気付いたら上手いこと中尉との仲を進められているだと!?

 

「叔父さんとしては唯依ちゃんにもそろそろ春が訪れてもいいと思うんだよ」

「いつからそんな話になったんですかっ!」

 

 

 

4月11日

 -帝都城派遣部隊執務室-

 

はぁ、昨日の叔父様の相手は疲れたな。私ってそんなに心配される程お硬いのか?

 

「ん?どうかしたのか」

「いやなんでもない。それよりお前は何でこんなにも仕事が遅いんだ?」

「だって俺の本業は戦術機に乗ってBETAを倒すことだからな。こういう書類仕事なんてのは、ここに来るまでやったこと無いし」

「貸せ。終わるのを待っていたら日が暮れてしまう」

「おっ、ありがとな篁。お前が来たおかげで大分時間が出来たぜ」

 

まったく、いくら剛田少尉の戦術機の腕前が良くとも、この書類仕事に対する苦手っぷりはどうにかすべきだろう。

白銀中尉は出来ることをやればいいと寛容だが、斯衛としてはもう少し毅然と厳格でいて欲しいものだ。

 

「白銀中尉もそうだが、斯衛としての責務を果たす気は無いのか?ただ戦うだけが国を守るということではないんだぞ?」

「あ~それを言われると辛いな…だけど、このことで隊長を責めるのは筋違いだぞ?」

「分かっている。だからと言って斯衛に所属してる以上は、斯衛らしくなくて良いわけではないだろう」

「斯衛らしくか。よしっ、この作業終わらしたらちょっと付き合え」

「どこへ連れて行く気だ?」

 

私の問いかけに、剛田は何も言わずただ笑うだけだった。

 

 

 

 -帝都城特区演習場-

 

その後、書類を終えた私が半ば無理やり連れて来られた場所は、斯衛でもめったに使用許可の降りることのない特区演習場の閲覧室であった。

 

「おい剛田!こんなところへ連れてきていったい何があるというのだ」

「いいから少し見てろって」

 

そう言って、剛田は部屋にあるモニターを弄って現在の演習場の映像を映した。

 

「戦っているのは白銀中尉と青い武御雷か、あの動きからすると青の武御雷に乗っておられるのは斑鳩崇継閣下か?」

「流石隊長が手放しで褒めるだけはあるな。ちょっと動きを見ただけで搭乗者を当てるか」

「斯衛の戦場での仕事は何よりも将軍様を守ることだぞ。五摂家の方の癖など、警護の観点から理解していて当たり前だろう」

 

こうして会話している間もモニターに映っている2機の戦術機は一瞬たりとも止まることなく動き回っており、当たり前だが白銀中尉の乗る山吹の武御雷が優勢に攻め立てていた。

だが、一方の斑鳩閣下の武御雷もこの短い期間で早くもXM3に馴染んでいるのか、これまでに見たことのない流麗な機動を見せ、終始押されながらも見事に戦い続けてた。

 

「剛田少尉?これを見せて一体何を…?」

「ん?向こうもそろそろ決着が着きそうだな。まぁ決着が着けば俺が伝えたいことは分かると思うぜ」

 

 

決着がついた後に一体何があるというのだ?




斑鳩閣下の喋り方に悩むこの頃。
TDAの感じにするか、オルタの時のようにするのか、こういうところで時間食っちゃったりしてます。

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