Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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まさかランキングに入るとは、慌てて真面目なあらすじを書き直しました。


13話

―白銀side―

 

3月22日

 -帝国軍技術廠第壱開発局執務室-

 

技術廠へ向かう当日。俺は用意された車に乗り込み、技術廠へ向かった。

書類やらの雑事は、きっと剛田がやってくれるだろう。

 

車で移動すること約1時間。帝都郊外にポツンと立つ建物が帝国軍技術廠だった。

俺が技術廠へ着くと、そのまま第壱開発局執務室という、何とも偉い人が居るであろう部屋へ通された。まぁ中にいる人のことは、事前に聞いて分かっているんだけど…

 

「斯衛軍対外派遣部隊、第一小隊隊長、白銀剣中尉です。よろしくお願いします」

「うん、帝国陸軍中佐、技術廠・第壱開発局副部長の巌谷だ。今日はよろしく頼むよ。白銀中尉」

「はい、私もあの〝伝説の衛士"である巌谷中佐に会えるのを楽しみにしてました」

 

中で待っていたのは話に聞いた人、巌谷榮二中佐だった。

過去の評価試験で瑞鶴でイーグルを墜とし、国産戦術機の父とも言われている文字通り伝説の人だ。

日本人衛士であれば誰もが憧れる人である。

 

「それを言うなら、XM3を考え出した白銀中尉の方が、伝説の衛士の名は相応しいと思うぞ?」

「…巌谷中佐から見てもXM3は良いモノですか?」

「勿論だ!あのOS一つで、今後の戦術機構想そのものが変わってくる程だぞ。これが現役の頃にあれば、BETAの日本上陸など許しはしなかっただろう。あぁ、勿論このXM3を作った白銀中尉には感謝しているぞ」

 

よっし、どうやら巌谷中佐からは、だいぶ好印象を持たれてるみたいだな。

夕呼先生のことだから変に煽ってるんじゃないかと、会うまで本当に気が抜けなかった。

 

それにしても技術廠って巨大な整備場みたいなのを予想してたけど、施設自体はそこまでデカイわけでもないんだな。実験場とかに場所取ってんのか?

あと、帝国軍の施設にしては斯衛の服着てる人も結構いるな。そこまで技術交流があるわけでもないのに、なんでだ?

 

 

 

 

「白銀中尉、どうかねここ(技術廠)は?」

 

執務室での挨拶を終えると、巌谷中佐自ら技術廠の案内をしてくれた。

施設の説明も元衛士なだけあり、専門家でもない衛士の俺でも興味を引くような内容で、施設を回るにつれ自然と会話も活発になっていた。

だが、未だに俺が呼ばれた目的が話されてないのはなんでだ?

 

「う~ん、予想してたモノとは違いましたけど、それでも施設内どこも活気があっていい所だと思います」

「そうか。ここに来るものは技術者が大半だから、実戦を経験している衛士の意見は貴重なんだよ。何か提案があれば言ってくれると有難い」

「そう言われましても、俺そこまで整備とか機体方面に詳しい訳じゃないので、出した意見が有用なモノだとは限りませんよ?」

「構うもんか。トライ&エラーは技術者には付き物だからね。何事も挑戦さ。っと、英語は拙かったかな」

「いえ、そこまで反米主義者でもないので気にしませんよ」

「そうか!そういう周りに囚われない考えが、あのOSを生み出した要因の一つかもしれんな」

 

アハハ…XM3に関しては閃いた以外に説明できないぞ。「別世界の記憶を受信しました」なんて言ったら、その時点で危ない人認定だろう。それどころか今回の任務すら破談になりかねないぞ。

 

「巌谷中佐からそこまで褒められるとは…これなら実戦証明のほうも期待出来るものだったみたいですね」

「おや?白銀中尉はまだ映像を見ていないのかい?」

「いや、恥ずかしい話なんですが、今部隊の方が書類作業に追われちゃってまして、映像を見る時間が用意できないんですよね」

 

XM3は他の世界で十分実績があるので、送られてきた映像も碌に見ることもなく机に入れちゃったんだよ。だって最初から最後まで見たら5時間以上掛かるんだよ?そんな時間、今の人員で用意できる訳がない。

 

「そうか、まぁ今のご時勢何処の部隊も人員不足だからな。私はこういう立場(開発局副部長)だから時間など幾らでも用意出来たが、白銀中尉の所属しているような小規模部隊では、部隊長といっても力などは一般兵とさして変わらないだろう?」

「まぁ所属してる全員事務作業が苦手。ってのもあるんですけどね…」

「ふむ。白銀君、そういうことなら部隊にまだ余裕があるかな?」

 

ん?いきなり君呼びになったな。

……なんだろう、嫌~な予感がするぞ。

 

「ええ、スカスカに空いてますよ」

「ならば私の方からも、人員を補填させるよう呼びかけてみよう。もしかしたらになるが、私の伝で人数をある程度確保できるかもしれん。部隊に余裕が出来れば、またこうして話す機会も設けられるだろう?」

「ありがたいです!ぜひともお願いします!」

 

あっ…思わず返事しちゃったけど、これって拙くね?

 

「あっはっは、これは俺が勝手に約束しただけなんだから、そんな不安そうな顔しないでいいぞ?」

 

良かった、巌谷中佐がいい人で本当に良かった。

これが夕呼先生だったらケツの毛が無くなるまで毟られていたぞ。

つか、君呼びになったのは個人としての話だからって訳ね。夕呼先生を相手してた癖で、裏があるんじゃないかって警戒しちゃったよ。

 

「すいません。少し前まで横浜の香月副司令を相手してたので、言葉にはつい気を使ってしまって」

「う~む、やはり魔女の噂は本当なのか?」

 

何やら巌谷中佐が勘違いをしてそうだけど、嘘は言ってないからな。

言葉使いには緩いけど、言葉自体には気を付けていないと、直ぐに辞書が飛んで来るし。

 

 

 

―剛田side―

 

 -帝都城斯衛軍派遣部隊執務室-

 

チクショウ、白銀の野郎昨日から妙に浮ついていると思ってたら、書類仕事全部俺に投げて自分は出張かよ!奴とはもうタメ口でいいな!

出張については仕事だし仕方ねえと思う部分もあるが、せめて自分が抜ける分代わりの人員くらいは寄越して欲しかったぜ。

俺一人でこの書類の山を処理しきれると思っているのか?

 

………

……

 

だぁぁぁぁ~~無理だ!こうなったら全部放り投げて、白銀の戦術機にでも乗ってサボろう。

 

今思えば、このときサボろうなどという考えを抱かなければ、あんな悲劇を見ずに済んだのかもしれない。

 

 

 

 -帝都城特区演習場-

 

俺は書類を終わらすことを諦めて特区演習場に向かうと、その途中で紅蓮大将と出会った。

申請の方は白銀の名前で通した。新OSの責任者らしいから使ってみたが、驚くほど簡単に許可が取れた。普通ならまず無理なんだが、やっぱ白銀って偉いんじゃね?

 

「おや?お主は確か…白銀の部隊に配属された剛田だったかの?」

「はっ、その通りであります!」

「止せ止せ、そんな堅苦しい言葉など使うでない。聞くだけで肩が凝ってしまうわ」

「了解っす」

 

いや~相変わらず話せる人で助かるぜ。軍っていうのは、上の役職になるほど堅苦しい人ばっかだもんな。

 

「うむ、してお主はその格好から見て、これから演習か?」

「はい、隊長が技術廠に一人で行って、暇になったので」

「確かに白銀は技術廠に向かったと連絡があったの~しかしお主一人で演習とは何をするつもりじゃ?しかもこの先は特区演習場じゃぞ?」

「えっと…(あれそういや新OSのことってこの人に言ってもいいのか?)ここ最近書類仕事ばっかりで、動きが鈍ってないかの確認をしようかと。特区演習場なのは偶々取れたのがここだったってだけっすよ」

「ふ~む、苦しい言い訳じゃの。何を隠したいのかは分らんが、新OSのことであれば儂も関係者じゃぞ?」

「なんだ、じゃあ隠す必要ないっすね。いや~折角隊長がいないんで、今のうちに隊長の機体に思う存分乗ってやろうかと」

「ふむ、なぜ自分の機体に乗らんのじゃ?」

「隊長の機体だと新OSが付いているので、乗ってて楽しいんすよ」

「何?それは真か?」

「はいそうっすけど…どうかしたんすか?」

 

というよりさっさと顔を退けて欲しい。あの顔が迫ってきて怖いぞ。

 

「白銀め~そのような重要なこと(楽しそうなこと)を黙っておいてからに、剛田!」

「はいっ!」

「儂も白銀の機体に乗るぞ」

「はいっ!了解です」

 

こ、怖ぇ~なんだよあの迫力。同じ人間とは思えなかったぞ。

 

 

こうして半ば強制的にだが、紅蓮大将と一緒に特区演習場に到着した。

話し合いの結果、白銀機には時間的制約の多い紅蓮大将が先に乗ることになり、俺は管制所にて紅蓮大将の動きを確認することになったのだが、

 

「なるほど、これは確かに優れたOSじゃな。今までの戦術機がまるで赤子の玩具のようじゃわい」

 

凄ぇな、おい。あのOSを何の説明も無くいきなりで乗りこなしてやがる。あの人は化け物かよ。

 

「ふむ、大体の性能は理解した。剛田、済まんが先に言っていた訓練プログラムとやらを起動してくれ」

「了解です。でも気をつけてくださいね。これ(訓練プログラム)今までの常識とは大分違うっすよ」

「上等じゃ。そのほうが燃えるわい」

 

この言葉を残して、紅蓮大将の乗る機体が3次元機動を始めた。

 

 

 

―1時間後―

 

 

 

「中々に楽しめたぞ。このOSが配備されるのが楽しみでならんな」

「ハハハ、」

 

なんだよこの人、初日なのに平然と乗りこなしやがったぞ!?もしかして人の皮被ったBETAなんじゃねぇのか?むしろそう言われた方が納得できる。

 

「確か、次の訓練が最後じゃったな?」

「はいっ、今用意されてるのは次で最後っす」

「では頼むぞ」

「了解っす」

 

紅蓮大将の言葉に従い、プログラム開始のスイッチを入れる。

スイッチが入ると白銀の機体が飛び回り始める。

最後のプログラムということもあるのだろう、今までよりも動きが複雑で、激しくなっている。この動きが実行できるのであれば、確かに白銀が言っていた通り光線級のレーザーも避けれるかもしれない。

だが、これを戦場で、しかもBETAに囲まれ情報が飛び交う中となると、状況に合わせて実行できる者がどれだけいるのか。耐性は乗り続けていれば次第に出来てくるだろうが、咄嗟に今までの動きから大きく逸脱するこの動きを選択するというのは、かなり難しいんじゃないか?

飛び回る機体を眺めながら俺に似合わぬことを考えていると、紅蓮大将の乗っている機体から恐ろしい言葉が聞こえてきた。

 

「ふむ、大体掴めたようじゃ。ちと、儂流に改良でも動かしてみるか」

 

もうこの動きに慣れたのか、流石は紅蓮大将だな。…なんかもう驚くのが馬鹿になってきたぜ。

 

俺が考えるのを放棄した間に、演習場で飛び回っていた戦術機に今までとは明らかに違う動きが混ざってきた。

どうやらこの混ざってきた動きというのが、紅蓮大将の儂流というやつなのだろう。

乗り始めて1時間で自分のモノにするって…まぁ紅蓮大将なら当たり前か。

 

 

 

俺の常識が徐々におかしくなり始めた時、その悲劇は起こった。

 

バキンッ―

 

「「へ?」」

 

かん高い金属音が響くとともにやけに遅く、まるで重力が其処だけ減ったかのようにゆっくりと倒れる紅蓮大将の乗っていた戦術機。

 

「何が起きた!?」

 

慌ててモニターから状況を確認すると、あろうことか膝の間接部が壊れて片足になった戦術機が映し出されていた。

 

「一体何があったんだよ……」

「剛田よ、一体この機体はどうなってしまったんじゃ?倒れた衝撃で、色んな場所がエラー起こしてこちらでは原因が分からん」

 

ちょっと待ってくれ。俺だって機体には詳しいわけじゃないんだ!とりあえず映像巻き戻してみるか…あっ、ここで膝割れてら。

 

「…多分ですが、大将の動きに機体の強度が付いていけず、膝の関節が壊れたのが直接の原因かと…」

「えっ!?それって…拙くね?」

「拙いっすね」

 

 

 

 

 

俺たち二人は、大破してしまった戦術機を前に、ただ頭を抱えるしかなかった。

 

 




白銀機、ここ一月の間に大破が2回。
伊隅ヴァルキリーズの不知火、間引き作戦に参加した4機合わせても軽度の損傷。
同じXM3搭載機でありながらここまでの差が出るとは…

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