4月9日19:57誤字修正
―白銀side―
3月8日
-斯衛軍対外派遣部隊執務室-
「あ~1枚処理したら10枚位減ったりしねーかな」
「そーいや隊長さん。ウチの部隊って来週の間引き作戦参加しねーのか?」
「当たり前だろ?ただでさえ書類仕事に追われているのに、作戦なんか参加したら書類の量倍に増えるぞ」
「うげ、それは嫌だな。けどBETAは倒したいんだがな~」
恒例となった書類の山と格闘していると、戦術機の演習を終え執務室にやってきた剛田から、今度行われる間引き作戦について質問された。
多方、帝都にいる部隊が先遣隊として出発し始めたのを見て、準備すらしてない自分達の部隊に気づいたのだろう。
因みに剛田だけが訓練に行けた理由は、単純に部隊長と一部隊員の仕事量の差だ。それに加え、俺がXM3の事案も受け持っている分、剛田との仕事量は3倍以上はあるだろう。
「それにしても、いくら事務仕事が遅いからって、この部隊の仕事量はおかしくねーか?」
「あぁそれは、俺が今度斯衛に導入される戦術機用の新OSの教導内容やら、メンテナンスの変更点なんかの責任者だからだよ。その分の書類とかで他の部隊より量が多いんだ」
「なんだぁ?その話。俺聞いてねぇぞ」
「まぁ特級指定の重要機密だからな。噂にすら上がらないだろうよ。つか、上がっていたらホントに拙い」
「つか、隊長ってもしかして結構偉い人なのか?」
「んにゃ、全然普通の山吹と変わらないぜ。OSの話はただ単に、俺が関係者だから仕事を押し付けられただけよ」
「なんだよ、ビビって損したじゃねーか。なぁ隊長、俺にもその新OSっての教えてくれよ」
「まぁ将来的には剛田にも手伝ってもらうことになるし、元々優先的に教えるつもりだったぞ?」
表向きには、「来るべき人類の反攻に向けた外部派遣隊」がこの部隊の設立理由だけど、斯衛と帝国へのXM3の教導部隊ってのが本音だし。
そして海外に対しては、横浜で新たに教導部隊を設立して教えていくことになった。どうやら俺が海外の軍へ直接教えるのを斯衛側が渋ったらしい。
紅蓮大将が言うには「XM3の機動概念は間に通訳が入る程、白銀が描いた本来の精度から落ちていく」所謂伝言ゲームのようなもので、答えを聞いた奴から教えられるのと、何人か挟んだ状態で教えられるのでは答えも違ってくるとのことだ。
夕呼先生も言ってたけど、俺以上に3次元機動を上手く操り、3次元機動の本質を説明出来る奴が居ない以上、俺以上の答えを教えられる奴も居ないってことだから、紅蓮大将としては出来る限り俺が斯衛以外へ教導するのは避けたかったようだ。
俺としては国など関係なく、全ての衛士にXM3を使いこなして貰いたいんだけど、軍という柵がある以上上手くはいかないか。
まぁ肝心の俺が説明下手でA-01の人たちですら、話を聞いただけでは全然理解出来なかったみたいだけど…
伊隅大尉、貴女から教わった教導内容のおかげで、計画倒れにならずに済みそうです。本当に有難うございます。
―巌谷side―
3月18日
-帝国軍技術廠執務室-
なんということだ…光線級がいなかったとはいえ、僅か1小隊の戦術機がBETA一個中隊を相手に人的被害0で状況を終えるなど聞いたことがないぞ!?
女狐が言うにはOS以外で帝国の不知火と変わったところはないということだが、その言葉を信じるとしてOSだけでここまで戦術機の性能を引き上げたというのか!?
クソ、このような物を送られては、例え罠だろうと女狐に話を伺わなければ。このOSさえあれば、いや横浜のことだ何を要求するか分からん。それに国連軍からの提供など、上が受け入れるはずもなかったか…
だが、この半分でも動けるOSを作ることができれば戦死者の数はグッと減る。これから戦場に赴く唯依ちゃん達の為にも何としても話を聞かなければ。
『prrr…prrr…prr、あら、お待ちしていましたわ。巌谷中佐』
「単刀直入に聞く。あのOSの機動概念はどうやって生まれた?」
『そのことでしたら、そちらにビデオと一緒に送った詳細に書いてありますわよ?』
「巫山戯るなっ!あのような内容で納得など出来るわけないだろう!」
『ならば会って確かめてみてはいかがです?その口ぶりから察するに、生みの親から話を聞けば納得してただけるのでしょう?』
「会えるのか!?」
なんという僥倖。発案者本人から話を聞くことが出来るのであれば、万が一にもXM3が提供されなかった場合でも自分達で類似品を生み出せる。
例え生み出した物がXM3に比肩しうる出来でなくとも、既存のOSよりは戦う衛士の助けになるだろう。
『本人は今は斯衛へ戻っているので、国連軍所属の私から巌谷中佐へ直接、というわけにはいきませんが、取次くらいでしたら即日でも面会できるよう取り計らえますわ』
「ならば頼む。このXM3というOSはまさに人類の希望だ。下らない国粋主義共などに邪魔される訳にもいかんのでな」
『分かりましたわ。肝心の面会の日時ですが、いかがいたしましょう?』
「出来る限り早くに、遅くとも今月中には面会したい」
『分かりましたわ。斯衛の方にはその様に話を通しておきます。日時が決定次第、連絡を差し上げますわ』
「感謝する。…これに関して横浜の、というより香月博士の要求する見返りはなんだ?」
さて、これからが本題だろう。あれだけの情報価値の詰まったデータを、なんの引き換えも無く手に出来る程横浜の魔女は甘くない。分かってはいるが、出来る限り穏便に済ませたいところだ。
尤も、テストパイロット上がりの俺が相手取るには少々辛いのだがな。
『そうですね。でしたらXM3を帝国にも供給する時、巌谷中佐の及ぶ範囲で最大限の協力をお願いしますわ』
「…そのようなものでいいのか?」
おいおい、あの恐れられる魔女があれ程の情報を寄越しておきながら、この程度の要求で済ますというのか?
此方としては有難いが、そう易々と受け入れてしまって本当にいいのだろうか?
『ええ、XM3の早期配布というのが、発案者の衛士との約束ですので』
「なるほど、分かりました。そういうことでしたら、帝国へのXM3配布が一刻も早まるよう私も協力を惜しみません」
『ありがとうございます。そのお返事をいただけて私も安心できますわ』
「一介の中佐が持つ力以上のことはできないがな」
『いえ、それでもこちらとしては十分に心強いですわ』
「分かった。もう少し話し合わせていたいのだが、時間が来てしまったようでね。これにて失礼するよ」
『今回はありがとうございました。こちらとしてもいいお話が出来て感謝してます』
…ふぅ、警戒したが何も無かったな。あれ本当に魔女か?
噂を聞く限りだと、不知火中隊分寄越せぐらいのことは言ってきそうなんだがな。これも白銀とかいう開発衛士のお陰か。
しかし、斯衛も変わったものだな。
斯衛が自軍で開発した新兵器の早期配布など、相手が帝国だとしても俺がいた頃には考えられなかったことだぞ。これも紅蓮大将の成果か?
どうせなら斯衛にいる唯依ちゃんにもいい感じに影響しないかな~
唯依ちゃん能力は高いんだが、少しばかりお堅いんだよな~あれだと恋人なんて出来そうに無いからな~
このままでは唯依ちゃんの子供を抱くという俺の夢が、夢のままで終わってしまうぞ。
―白銀side―
3月20日
-斯衛軍特区演習場-
「そこで立体機動!直後に跳躍ユニット全開で離脱!全ての動きを連動させろ!」
「うわっ、ちょっ待、指示が早すぎっぞ」
「うるせぇ、まだ機密指定のXM3の練習は、
「隊長、普段と調子が違いすぎねえか!?」
仕方ないだろ!ようやく書類の山を片付けたと思ったら、お前が機体壊したせいで始末書がまた山のように増えたんだぞ!?
~~~~~
「隊長悪ぃ、調子乗って色々やってたら、隊長の機体の脚壊しちまった!」
「うがぁ~~始末書がぁ~~」
「あっはっはっ、そう落ち込むなよ。今度飯奢るからさ」
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あの時感じた絶望は、もう味わいたくねえな。
そもそも、いくら剛田をXM3に慣らすためとはいえ、俺が見てやれない時に機体に乗せたのが間違いだったか。
シミュレーターで練習でも出来ればいいんだが、機密指定になってる今の状態じゃ無理だしな~
「で、2度目のXM3だけど違和感はどうだ?大体慣れたか?」
「あぁ、コイツは凄ぇよ隊長。今までの戦術機とは比べ物になんねぇぞ!これなら戦術機に乗ったまま野球だって出来そうだ」
野球って…やっぱりコイツ因果受け取ってんのか?でもこの世界にもプロ野球はあったしなぁ~俺の生まれる前には廃止されたけど…
つか、野球ってアメリカのイメージ強いのに、コイツは何とも思ってねえのか?いや、考えて無いだけか。
「野球出来るかは分からんが、その様子なら次のステップいってもよさそうだな」
「なんだと!?今のですら体悲鳴上げているんだけど、これより上あんの?」
「まだまだ序の口だぞ。今日中にBETAを足場にして戦えるまで仕上げるから。そのつもりで」
「BETAを足場…?なんだそれ?」
「早速いくぞ。舌噛むなよ」
俺が設定した動きを自動制御によって再現していく機体を管制所から眺めつつ、時折モニターから聞こえてくることになるであろう剛田の叫び声を楽しむとしようか。
今までは平然としていた剛田も、流石にこのレベルの動きになると体がキツいようだな。まぁゲロ袋には余裕あることだし、今日のところは剛田には地獄を見て貰おう。
きっとこの経験が何処かで活きるはずさ。きっと。
「ぬおぉぉぉ!?だがこの程度。俺を潰したければこの3倍のGは掛からないとなぁ!!!」
…なんだよ意外と余裕そうじゃん。
「じゃあもう少しハードなやつ行っとくか」
「やっぱもう無理!!」
「ん?よく聞こえんなぁ、通信の調子が悪いのかなぁ。というわけで続行!!」
「あんたは鬼かぁ!」
フン、貴様に受けた始末書の恨み晴らすまでは、例えどれほど体が悲鳴を上げようが付き合ってもらうぞ。
3月21日
-派遣部隊執務室-
prrr.prrr.prrr
昨日あの調子のまま恨みに任せて剛田を潰してしまった為、今日は部屋で一人寂しく書類作業をこなしていると、部屋に備えられた電話が初めて音を立てた。
「あっ!えっと、どうすれば?…って出ればいいのか」
初めてのことに慌てるものの、なんとか電話をとることに成功し、受話器を耳に持っていく。
「はい、こちら斯衛軍対外派遣部隊執務室「久しぶりね、白銀中尉」って夕呼さん!?」
「白銀~一般回線で名前呼びなんてよしてよね。変な勘ぐりされるじゃないの」
「失礼しました香月副司令。ところでいきなり電話など一体何用ですか?」
色々思うところはあるが、今は要件を聞くのが先だ。
「明日ちょっと帝国の技術廠まで行って、巌谷中佐に会って話を聞いてきなさい」
…はて、いきなりこの人は何を言っているのだろう?
「ちょっと待ってくださいよ!話が飛びすぎていて訳が分からないんですが。何が理由で俺が技術廠に行くことになったんです?」
「いいからアンタは黙って技術廠に行けばいいの!向こうに着けばあっちから説明されるわよ」
アハハ、夕呼先生は変わらないなぁ~
「ちょっとはこっちの都合も考えてください!そんないきなり明日どっか行けなんて言われても、こっちにだって準備というのがですね」
「そこらへんは大丈夫よ。上にもう話通してあるから」
「あっ、そうっすか。了解しました」
「そうそう、最初っからそう言ってればいいのよ」
チクショウ、斯衛に戻っても夕呼先生の魔の手からは逃れられないのか…いやでも待てよ。上に話が通ってるってことは、明日は書類と睨めっこしないで済むのか。
………よっし、剛田に書置きだけ残して、俺はさっさと明日に備えて荷物纏めよう!
剛田、飯は奢らなくていいぞ~。その代わり明日は頼んだ!俺はちょっくら技術廠に行ってくる!
書類仕事からオサラバできるなら、たとえ夕呼先生の罠だろうが喜んで行ってやるさ。
だがこのときの俺は忘れていた。斯衛には剛田以上の問題児がいることを…
巌谷中佐の言ったあのような内容。
「なんか斯衛の衛士から言われた戦術機のOSの不満点直していったら、こんなの出来たよ~」
スパロボ出る度に思っているんですが…いつになったら戦術機もスパロボ参戦するんですかね?
TEアニメ化したんだし、可能性はありますよね?
それでも出ないって言うならEXからオルタまでOVA化おなしゃす!
別に夢見たっていいじゃない!