Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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4月10日誤字修正


1話

1999年横浜・H22ハイヴ攻略戦

 

 

 

 

「クソ、BETAは一体どれだけの物量があるんだよ」

 

悪態をつく衛士の周りにはもう動くことのないBETAの山が出来上がっていた。

 

「フレイル4こちらフレイル2。ここより800後方に防衛線を築くことになった、一旦下がるぞ」

 

副隊長であるフレイル2より指示が飛ぶ。

 

「こちらフレイル4。了解した」

 

BETAの山の周りで動いている戦術機はフレイル2とフレイル4を残すのみとなっていた。

フレイル4は向かってくる要撃級に36mm砲を浴びせBETAの波が落ち着いた隙に後退を始める。

 

「しっかし本当に15か武?大陸に行っていたベテラン並に倒しているじゃないか」

 

フレイル2が後退を始め暫く余裕が出来た際に話しかけて来る。

 

「そう言いながら副隊長も俺以上に倒してますよね。斯衛だから大陸遠征行ってないはずなのに」

「フフフ、私のは10年以上の経験があるからな。実戦は本土防衛戦が初めてだが、伊達に斯衛の中尉はやってないよ。その点お前は戦術機乗ってから数年もないだろう?」

「確かに戦術機は乗り始めてまだ1、2年ほどですがそこまでですかね?」

 

フレイル4、武は周囲を警戒しつつも上官であるフレイル2に軽い口調で答える。

 

「戦術機乗って1年ちょっとのヒヨっ子がこんだけBETA倒せてりゃ人類苦労してないぞ。お前は少し自分の腕に自身を持て」

「了解しました。以後気をつけます」

「おい、その言い方だとまるで今まで特に気にしてなかったみたいだな」

「いや~同期がいないもんで、それで隊長達の腕前を基準にしてたらこれくらい普通なんだなと」

「ブハハッ、隊長基準で考えてたら熟練者まで普通になっちまうよ」

 

後退しているとはいえ戦場にしてはなんとも軽い話をしている。

しかし2機ともに油断している様子はなく周囲の観察は怠らない。

 

「よし防衛線まで少しだ、そこにあるコンテナで武が先に補給してこい。俺はお前の後にする。どうせ防衛線に着いたって他の奴が補給してて待たなきゃいけないだろうしな」

「分かりました。これよりフレイル4補給に入ります」

 

そう言うと武は自身の戦術機である山吹の瑞鶴をコンテナがある地点に向け走らせた。

 

 

 

そして時同じくして横浜ハイヴ上空にG弾が投下され変化が訪れる。

 

武は変化に気づくと同時に激しい頭痛に襲われる。

 

「ぐっ、何が起きたっていうんだ」

 

G弾が臨界しこれから衝撃波が来ようとしている最中、武は極度の頭痛により戦術機を動かせないでいた。

 

「おいフレイル4どうした対ショックだ衝撃波が来るぞ!武!」

 

 

 

 

―ドンッ―

 

 

 

そんな音と共に激しい衝撃が機体を襲い山吹色の瑞鶴は補給していた場所から吹き飛ばされる。

そして武は吹き飛ばされながら頭痛により意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2000年1月16日

 早朝

 

―Pi―Pi―Pi―

 

 

電子音が規則正しく音をたてているそんな中部屋の主はベットの上で心地よさ気に寝ている。

しかしこの主もう数ヶ月も昏眠した状態である。

 

「う~ん」

 

そんな状況の最中さも毎朝の起床の如くベットの主が覚醒し始める。

最初は朧げに半目を開けただけだが暫くすると上半身を起し体を伸ばし始める。

 

「今何時なんだろう?体は…う~んかなり鈍ってるな。まぁ鍛えれば問題ないけど、とにかく人呼ばないといけないか。あの記憶のことも話さないと…」

 

自分以外いない部屋でそう呟くとベットから抜け出し扉に向けて歩き始めたとき、

 

――Pi.Pi.Pi.Pi.Pi.――

 

部屋の中から警告音が鳴り響く。

 

「うわっ何が起きた!?」

 

ベットの主はいきなり鳴り出した音に驚き辺りを見回すも

うるさく鳴り響く警告音を止めるようなスイッチは部屋の中からは見つけられず、

部屋から出ようと扉に手をかけた時、

 

 ガラッ

 

扉が思い切り引かれる。手をかけていた主は扉とともに引かれるまま体が流されその場でコケる

 

「なにやってんのよ白銀武?」

 

医師と数人の護衛を引き連れた白衣の女性が面白いものを見たような顔でコケた主を見つめる

 

「ゆ、夕呼先生!!」

 

白銀武と呼ばれた主は問いかけてきた白衣の女性に対し目を輝かせながら大声をあげる

 

「はぁ~先生ぃ~?」

 

夕呼先生と呼ばれた女性は疑問の声を出しながら主に対し疑いの眼差しを向けるだけだった。

 

 

 

 

―夕呼side―

 

 

16日14:00

 -横浜基地B4F仮設執務室-

 

 

朝の出会いから検査や確認作業をこなし横浜基地の支配者香月夕呼と元病人白銀武が面会を果たしたのは昼過ぎであった。

 

「それで~?朝言った先生ってなんなのよ。教え子なんて持った覚え私にはないわよ?あんたには唯でさえ聞きたいことがあったってのに」

 

半眼で白銀を見つめる。白銀はG弾による影響を確かめたいがためにAL4側にて保護したのであって、先生などとフザけた言動を確かめる予定など無かったのだ。

しかし先生発言のあと白銀が発した内容がとても一般には知りえない情報だったためにこうして自身の執務室に二人きりで話す場を設けたのだった。

 

「先生といったのは元の世界で夕呼先生に高校で教えてもらっていたからですよ」

「元の世界って何よ?」

 

先生発言に続いてのフザけた言動にこれもG弾の影響か?と考えて始めたら

 

「因果律量子論における因果導体、平行世界を渡るもの、こう言えば夕呼先生には分かってもらえるはずですけど…」

 

白銀からとんでもない発言が飛び出す。

 

「あんたが因果導体~?何を元に信じろって言うのよ」

「この部屋の隣に脳が浮かんでいるシリンダーがありますよね。その人物が鑑純夏であるってことを知ってるっていえば証明になりますかね?」

「アンタは明星作戦中に意識不明になって今朝方覚醒したから横浜ハイブに人が捉えられていることも、横浜ハイヴでBETAが人間を使って実験をしていたことも知らない。そして何よりシリンダーにある脳みそが鑑純夏であることなど分かるはずもない…か」

 

なるほど、BETAが人間を捕えて実験をしているなどは噂話として流れてはいるが、

ここに脳みその状態で保存されていることを知っているのは世界でも極限られた者のみだし、

また脳みその人物が鑑純夏であることはついこの間分かったばかりで私とあの子以外知りえないというのに、

 

「どうでしょうか?」

「アンタが普通じゃないってことなら分かったけど、まだ弱いわね。このこと以外に因果導体であることを証明できる?」

「これが今出せる最大の情報だったんですが…AL4計画の最終目標などはどうでしょうか?」

 

こいつは確かに未来の記憶を知っている、もう少し確証が欲しかったが今の時点でも十分だろう。

 

「そんなのシリンダーのこと知ってる奴なら分かってて当たり前のことじゃない。まぁアンタがESP能力者じゃないことは検査で分かっていから、そうね話半分くらいなら信じてみようかしら?」

「そうですか…なら確証出来た時点で認めてくださいね」

「そう言ってもね~自分の理論の証明が突然出来ても普通は信じられないものよ。むしろ誰も知りえないってだけの情報を話しただけで半分信じたことを有難く思って欲しいくらいだわ」

「もういいです。夕呼先生は夕呼先生なのが分かりました」

 

白銀はひとしきりうなだれた後、自分が明星作戦中に意識を失い眠っているときに記憶として入ってきたと言って自称未来の出来事を話し始めた。

 

「クーデターにH21攻略、横浜侵攻が起きて桜花作戦ね。よくもまあ成功したわね」

「はい実際記憶では何度も失敗しています」

「で、最後の記憶で白銀は作戦を成功させて元の世界に戻るはずだった、と」

「それなんですが、なんでまたループしているんですか?」

「アンタの話を元にした仮説でいいなら話せるけど聞く?」

「お願いします。あと1週目や2週目と違ってこの世界の記憶があるのもわからないんですが…」

「あんたがこの世界の記憶があるのはこの世界の白銀武が死んでいないからよ。そして今回ループはしていないってことね。つまりアンタは因果導体じゃないのよ」

「どういうことですか?」

 

慌てて問いただしてくる。あら?この顔は中々嗜虐心を擽るわね。私の中で白銀が玩具に決定した瞬間だった。

 

「要は何度もループを経験して因果が重くなった白銀武が元の世界に戻される際に思いと願いによって、虚数空間にばらまかれていたシロガネタケルの記憶が未だこの時期でも生き残っているこの世界の白銀武に記憶として流入したのよ」

「思いと願いですか?」

「話を聞いている限りじゃ相当ループしてたみたいだし、アンタの因果もかなり重かったんじゃないの?そんな中で仲間が死んで自分だけが元の世界に戻ることを諦めきれなくて、無意識に留まりたいなんて思ったところに鑑の願いが合わさったのが今回の記憶流入のトリガーってところかしら」

「因果導体とはどう違うんですか?」

 

白銀は自分が今までの存在とは違うということに驚いてる。

てっきり自分が今までのように因果導体になったのだと思っていたようだ。アタシとしては因果導体が目の前に突然現れたこっちのほうが驚きたい。

 

「まあ似たようなものだし、アンタにとってはあまり意味のないことだけどね。因果導体と違う点は精々アンタが死んでもこの世界は続く所と、鑑とは関係なしに世界によってあんたの存在が保証されているところね。どうせ帰りたくないなんて元の世界に戻る時に考えていたんでしょ」

「確かに、帰る頃には自分はBETAのいるこの世界に居たい、BETAを倒して地球を取り戻すのが俺の役割だ。とは思っていましたし、元の世界に一人帰ることに罪悪感を持っていました…」

 

話してるうちに白銀の顔が曇り始めた。どうやら相当の葛藤があったようね。

 

「だからまだ死んでいないこの世界の白銀を選んで記憶を渡してきた。元々この世界の住人で帰る必要がなく、また因果導体とは違うから10月22日の因果に縛られずにすんでG弾の影響で空間が歪んだ際に記憶が流入したんでしょう」

「なるほど、だから今までの記憶があるのか」

 

白銀は自分の記憶を探るように確かめながら言葉を紡ぐ。どうやらそこまで優秀な頭ではないようだ。

 

「私としては最悪よ。このままじゃ00ユニットの理論が完成しないのよ?あんたが因果導体じゃないおかげでね」

「あっそれなら大丈夫ですよ」

「はぁ?ちょっとそれどうゆう意味よ!」

 

思わず生まれてこの方出したことのない程の大声を上げてしまった。

 

「いや2週目の記憶群の中にですね俺が00ユニットになったモノがそれなりにありまして、その時に忘れないようにって理論を記憶したことがあるんですよ。まあ結局その情報はループの中じゃ受け継げなかったですけど」

 

00ユニットなら覚えるのも楽ですからね。と軽く言ってくれた白銀

 

「そういうことならさっさと言いなさいよ。理論はどうなの!?今のはどこが間違っているのよ!?教えなさい、さあ早く!!」

 

思わず白銀に掴みかかって早く言えと強請る。こんな見るからに馬鹿そうな奴に教えられるのは尺だが未来がかかっているのだ。文句など言えない。

 

「わっ、まっ、待ってくださいよ。理論はこれから書きますからっ!これからっ!!」

「なら部屋を用意するからさっさと書きなさい。今日のところはここら辺で終わりましょう理論は明日にでも渡して貰おうかしら?」

 

話は理論が届いてからにしよう。さっき頭悪そうなんて思ってゴメン、白銀アンタは優秀よ!

早速ピアティフに部屋を用意させるように連絡を入れていると

 

「あの~すいません、そんなにすぐは無理です」

 

と白銀が申し訳なさそうな顔をして伝えてくる。私の言った言葉で何か問題でもあったかしら?

 

「何言ってんのよ。あんたには今仕事がないし、理論だけ書いてればいいだけなんだから直ぐにでも出来上がるでしょ?アタシとしては少し余裕を持って伝えたつもりなんだけど」

 

その言葉に白銀は更に申し訳なさそうな顔になって私に伝えてくる

 

「いや~理論の記憶はあるので書く事はできるんですが、理論自体は無知なので書くのに時間が掛かるんですよ。」

 

なんだその理由は?そんな奴に私は自分の研究の集大成を教えられなきゃならないのか?

なんかムカつくわねコイツ。殴っていいかしら?うんいいわよね。

 

 

―ゴスッ―

 

 

取り敢えず脇腹あたりをその辺にあった辞書で殴ってみた。まあ因果の流入がなくてもこの世界の白銀は鍛えているからそこまで痛くないだろうけど。

 

「夕呼先生いきなり殴ってこないでくださいよ。何ですかも~」

「悪かったわね少しあんたの頭にムカついただけよ。それより理論はそうね、3日後なら良いかしら?」

「頭にムカついたって…理論は3日後なら大丈夫です」

 

殴られたことに納得していないのかぶつくさ言いながらもそれなら大丈夫と答える白銀

 

「それよりあんた戦術機とかはどうなのよ?記憶だけあっても他の世界みたいに新OS作ることできるの?」

 

少し疑問に思っていたことなので聞いてみる。ことによっては新OSというカードを諦めることも考えよう。そう頭の中で思考していたら

 

「それなら大丈夫です。あれは考え付かないものなだけで記憶からでも十分再現できますし、大体俺BETAのいない世界の記憶も他のシロガネタケルの思い出として記憶ありますから」

 

そう言って白銀は実際記憶を受け取った後は向こうで生まれたと思っちゃいましたからと笑う。

 

「あっそ、なら作れるのね?」

「はい、先生が協力してくれるのならば、ですが」

「じゃ今度機会を設けるからその時作りましょう」

 

どうやら余計な心配だったようだ。ならば作ろう、使えるカードは多い方がいいのだから。

 

「機会ってどういうことですか?」

 

疑問に思ったのか白銀が聞いてくる。やはり馬鹿なようだ。

 

「この世界のあんたは斯衛軍所属でしょうが!」

「ああっ!そういえばそうでした!」

 

今気づいたと手を叩きながら納得する馬鹿。

 

「あんたね~そんなんで周りとかに怪しまれないでしょうね?そこまでは面倒見切れないわよ」

「まあなんとかなると思います」

「なんとも不安になる言い方ね~まあ私には関係ないからいいけど。斯衛のことだけどG弾の影響を調べるとでも言って出向扱いにしてもらいましょう」

「じゃあXM3はその時にですか?」

「そうね~前々から不満に思っていた戦術機のOSを戦術機の働きに不満をもっていた私に力を借りて納得するものに作り替えてみたら、思っていたよりスゴイのが出来た。そんなところで調整しときましょ」

「何とも緩い気がしますけど、分かりました。それでお願いします」

 

頭が緩いアンタには言われたく無いわね。

 

「じゃあ今日はここで終わりね。今までの病室じゃ防衛の面で不安があるからピアティフに新しい部屋用意させたわ。さっさと部屋行って理論まとめなさい。この次は理論を書き終わってからよ」

「了解です。では失礼します」

 

そう言うと白銀はきっちりと敬礼して後ろを向いて執務室を出ようと歩き出す。

 

 

「敬礼はしなくていいわよ~」

 

この言葉に次からはそうしますと笑いながら答え白銀は執務室を出ていった。

 

 

 

「そういえばまだピアティフ来てないけどあいつ案内いらないのかしら?」

「そういえば部屋ってどこだ?」

 

 

その後結局私の執務室まで戻り、そこからピアティフ中尉にあてがわれた部屋に案内される武であった。

 

 

 




とりあえず今書けてる分は順次投稿していきます。

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