Muv-Luv×ファフナー   作:Red_stone

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第8話 強襲(1)

クーデターから二日後。基地は平穏を取り戻していた。その日々はどこかに歯に挟まったような違和感を感じて――クーデター以前と何も変わらなかった。

ただ一つ……訓練兵の解体式が行われ、正式に部隊に配属されたことを除いて。しかし、正式に配備されようと、訓練の日々は変わらない。いや、上が教官ではなく実戦部隊の人間になったことで激しさを増している。だが、念願の戦術機に乗れるのだ。へばるような、もったいない真似はできない。

そして――

「……これは?」

基地の周囲を監視しているオペレーターの一人が妙なものを見つけた。――何か、金色に光っているものを見たような。

彼女はBETAがここに向かってきていないかを監視する重要な役目を担っている。寝ぼけていたなどありえない。

しかし、これはBETAではない。もしそうだったら振動計に反応があるはずだ。反応があったのは光学系のセンサだ。精度がよくなく、誤作動が多いためにあまり重視されてはいない。けれど、何か妙なものがあれば見逃すわけにはいかない。いくつかのモニタを切り替えて、目を皿のようにして集中する。

そう、突然クーデターが起こったように何があるのかわからないから。

「――あ!」

見つけてしまった。その美しく……そして醜悪な憎しみに歪んだ金色の悪魔を。脳裏によみがえるのはつい最近の出来事。異次元の戦闘だった。それは、クーデターの直前。ずいぶんと昔に感じる。

……無理だ。

絶対に勝てない。そもそも、近づいただけで戦術機は焼き尽くされてしまうだろう。銃弾だって溶けてしまうに違いない。そんなものに狙われて、生き残れるはずがない――!

恐怖に駆られた彼女は、緊急事態警報を押してしまっていた。

 

 

 

「――これは緊急警報か」

鳴り響く不吉な音に一騎は眉をひそめる。

「……来た、か」

そして、総士は静かにどこか明後日の方を見つめている。

「総士?」

「行くぞ、一騎。フェストゥムだ」

踵を返し、迷いのない足取りでファフナーを格納した秘密の区画へと向かう。

「わかった」

一騎もまた、ためらわずに総士の隣につく。まるで、そこが自分の居場所だと言わんばかりに。

「来たのは、フェストゥムってやつでいいのかしら?」

その先で香月が待っていた。厳しい顔をしている。いかに彼女とて、正体不明の敵対者を前にしては余裕を保ってはいられないと言うことだろう。あるいは、これも駆け引きか。

「ああ。奴は僕と一騎で片付ける。あなたたちは、ここで待っていてほしい」

総士と一騎は立ち止まって香月に顔を向ける。彼女は嬉しそうな顔を一瞬だけ見せて、苦々しい顔に変わる。香月副指令にしてはわかりやすい。

「それは、さすがに無理ね。二機だけで行かせるのはナンセンス……ていうか、私の権限じゃ無理。指令の許可も必要ね」

「――で?」

無表情の総士に対して、香月はいやに素直に表情を出している。少しだけ呆れたような顔をして……

「無理って言ったでしょ。その辺のことはもう話してあるわ。けれど、戦術機じゃファフナーの速度に追いつくのは無理で、そこは納得してくれたわ。だから、こっちのやることは後方支援と迎えに行くこと。せめてそのくらいはさせて頂戴な」

後方支援は邪魔でしょうけど、とでも言いたげにウインクして見せる。実際、向かわせるのは練度の低い部隊だ。

「感謝する。だが、戦闘には加わらないことを厳命しておいてくれ」

「厳しいかしら?」

「戦術機でアザゼル型に対抗するのは不可能だ。だが、しかし――」

「しかし?」

「いや、なんでもない。この世界の技術ではフェストゥムの読心能力、同化能力、次元歪曲攻撃のいずれにも対抗手段がない。これはあなたたちの技術が遅れているということではなく、我々の世界ではフェストゥムに対抗するために研究された何十年もの蓄積があると言うだけだ」

「お気づかいありがとう。けれど、時代的に遅れているのは仕方ないわ。この世界ではファフナーを解析することもできないのだから」

はぁ、とため息をついた。

「いや……あの二機は特別だ。これらは人類が作り上げたファフナーではなく、ファフナーの形をしたフェストゥムと呼ぶべき代物だ。ニヒトに至っては、破壊も分析も不可能だった」

それは事実だけを語っている口調で、だからこそ解析不能という危なさがあけっぴろげに開示されていた。

「――あんたら、なんてもん使ってるのよ」

ため息を吐く、なんてお茶目なことをできたらどんなにか気が楽になるだろう――などと考えながら、やはり何をするにもリスクか。と表情に出さずに思考する。

「この世界以上に我々は追い詰められているということだ」

「それでも、アレを相手してくれる辺り義理深いわね」

「性分だ。変えられない」

ここで初めて総士が表情を出した。後悔、か。この男も、自分にもっと能力があれば――などと考えたことがあるのだろうか、と香月は疑ってみる。

「不器用ね。――それはあたしもか」

結局、どこの世界でも“生き残るのは大変”ということなんだろうと結論付けて、副指令の仮面をかぶる。自信に満ちた、人の上に立つ仮の人格を。

「では、行かせてもらう」

くる、と体の向きを変えた。一騎は一言もしゃべらずにずっとザインの方を向いていた。

「死んでも倒してね?」

「もちろんだ」

香月には総士の表情は見れなかった。

 

 

 

「――よかったのか?」

ファフナーの中、彼らは胎児の姿勢で格納されている。専用の搭乗機がないので、ジャンプして頭から落ちるなどという一見間抜けで、非常に危険な乗り方をしたが幸いにも怪我はない。

「何がだ、一騎?」

ふ、と笑みを見せた。不器用な総士でも一騎の前では笑顔を見せる。ぶっきらぼうというより、他の世界の人間に対しての接し方がよくわからない。

「人を助けるために、この世界で死ぬなんて言っても」

「言うのはタダだ。それに、ここで死ぬつもりはない」

いくつかの操作を終えると大地が逆転する。むしろ、逆転していた状態で作業していたのだから正転と言った方が正しいのかもしれない。

「俺は、あとどのくらい生きられるんだろうな?」

ふわ、とまるでお菓子がどれくらい残っているかとでも聞きそうな調子で、ひどく重要で――本人もそれがどれほどの絶望かを理解している問いを放つ。

「僕がお前を島に帰すまで生きさせてやるさ」

覚悟を決めた声だ。そこには自分が犠牲になっても成し遂げると言う硬い意志が込められている。

「……たのもしいな」

「約束もある」

「――誰とだ?」

一瞬、呆けたような声。誰だか本当にわからない。一騎もまた、不器用な人間だから。

「敵との接触まであとわずかだ。気を引き締めろよ」

「あと二言三言言う時間くらいあるだろ。まあ、いいか。――行くぞ!」

誰だろうと、いいか。それよりも自分の心配もしてほしい、と益体のないことを考える。そして、唐突に思考を切り替えた。戦士として、彼らの力量は熟練の域に達している。

「ああ!」

リラックスから張り詰めた緊張状態へ。

 

 

 

そして二機はアザゼル型に拳を叩き込むのと同時に炎熱のフィールドが展開された。

(――? かわせなかった……のか)

総士は前回の戦いから敵の能力の大方を推測していた。そして、この程度の攻撃ならかわせることもわかっている。

「一騎、敵の動きが鈍っているかもしれない。確かめるぞ!」

「わかった、右から行く」

ザインは回り込み、ルガーランスで切り付ける。

「これで、どうだ?」

ニヒトは左手を掲げ、高さ0のチャクラムの形をした円状歪曲空間をいくつも生み出して投げつける。

「――」

悪魔が、嗤った気がした。

「一騎ィィ!」

気配を感じ取った。それは共鳴だったかもしれないが、重要なのはひとつ。――伏兵が居る!

「罠か!」

総士と一騎はジークフリード・システムでつながっている。意識、痛み、感覚を共有するシステム。だから、片方が気づけばそれはもう片方も気付くことと同義。

ゆえに。

「……おああ!」

ルガーランスを見当違いの方向へ投げ飛ばす。さらに、投げた反動を利用してさらに飛行能力を使い急加速し、アザゼル型の眼前でくるりと一回転する。

そこに円筒型に収束された次元歪曲面が撃ち込まれる。

「「……っが!」」

激痛とともに安堵を覚える。痛みは二人に。

「――おおお!」

総士は肩を押さえながらワームスフィアを展開する。無差別攻撃――もちろん、最低限ザインをよけてはいるが苦し紛れの一撃であることは否めない。

アザゼル型は隙を見逃さない。打撃を与えた一騎を無視し、総士に一撃を叩き込もうと迫る。

「……なめるな。人間が作り上げてきた戦術をそうやすやすと理解されてたまるか!」

手の上に生み出したワームスフィアを顔に掌底で叩き込む。アザゼル型は手を槍状に変化させ、先ほどまでニヒトが居た場所を貫いた。

「残念だったな。さっきの掌底で貴様がダメージを受けるとは思っていない。一瞬だけ、貴様が僕を見失いさえすればよかった」

手を始点に、ぐるりと空中で回転したザインは逆立ち状態のまま羽を伸ばして敵を串刺しにして貫く。その姿はまるで、天から光が降り注ぐようで――

「オオオオオオオオオオ!」

憎々しげに叫んだ。同時にザインは狙撃の一撃を手で弾く。

「もう狙撃は通じない。狙撃をするならば、一撃で仕留めるべきだ。ゆえに先の場面でお前たちは撃つべきではなかった。確実に仕留められるまで機会を待つ忍耐力を、まだ学んでいないのだな」

アザゼル型はさらに叫ぶ。憎しみを載せて。

「罠を仕掛けたつもりだろうが、失敗したな。もう逃がさない。お前はここで殲滅する」

蹴り飛ばしてザインの横についた。

「先はああ言ったが――」

「狙撃はやっぱり怖いな」

気を張っていればなんということもないが、それはけっこう重労働だ。

「そうだ、しかし、優先して倒すべきはアザゼル型だ」

「わかってる。危険は承知の上だ」

「奴は己を囮にして、狙撃による強襲を狙ってきた。明らかに策を練って僕たちを抹殺しに来ている。そして」

「隠れる、ということすら学んでいるということだな。厄介だ」

「ああ。まだ戦力を隠している可能性が――」

そこで二人は同時に気付いた。この世界に来る前、二人はこのアザゼル型と戦っていた。そして、戦った者と話もした。その時に聞いたことだが、この敵は以前――

「「まさか!」」

補給基地を潰した。




1週間お待たせして申し訳ありません。おかげで書き溜めがかなりできました。(加筆修正や、話の入れ替えなどはやりますが)
現時点でもあと4話はフェストゥム襲来編が続くことになると思います。多分、さらに増えます。
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