Muv-Luv×ファフナー   作:Red_stone

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第4話 戦術機適正

「それで、涼宮中尉。お話というのは?」

先ほどまで喧嘩していたとは思えないほどの無表情である。

「はい。副指令の命令で、お二人の戦術機適正を調べろと」

それでも、まあ……気まずいことには変わりがない。パートナーの前以外ではほとんど表所を見せない彼だけに。

「……そうか。命令はそれだけか?」

「面白いところはビデオに収めるようにとも命令を受けています」

思わず必要のないことまで答えてしまった。あ……ヤバなどと思うがポーカーフェイスで通すしかない。

「見世物ではないのだが」

別に嫌そうな顔はしていないので真意はわからない。

「諦めたらいかがでしょう? 私は諦めました」

「了解だ。それで、いつからだ」

即答されてしまった。半ば冗談だったのだが。

「朝食後すぐに、とのことです」

「わかった」

「私も朝食がまだなので、ご一緒しても?」

「かまわない」

やっぱり無表情のままである。そして、もう一人の方もむっつりと黙っている。

 

 

 

「ん? あんた新顔かい?」

食堂のおばちゃんを絵にかいたような人がPXで料理を作っていた。

「初めまして。皆城総士大尉です」

敬礼を返し――

「真壁一騎です」

こちらはぺこりと頭を下げた。

「おはようございます。実はこのお二方はデータの取り直しということで、これから戦術機特性を調べるところなんですよ」

ほほえんで言った。その顔には邪悪の欠片も見当たらない。けれど、その言葉を受けたおばちゃんは悪ガキのような顔をして――

「じゃ、大盛りにしてやらないとねえ! たんとお食べ」

ご飯を大盛りにしてよこした。

「いや、僕は――」

初めて慌てたところを見たような気がする。こんなことで慌てるなんて可愛いところもあるものだ。などと思って。

「後ろが詰まってきてる。行こう、総士」

パートナーに追い打ちをかけられている様子を見れば、さすがに笑いをこらえられない。

「なんでお前はこういうときだけ物わかりがよく……」

「さ、行きましょう皆城大尉。おばちゃんの好意を無駄にしてはいけませんよ」

笑いをかみ殺しながら背中を押す。

「……わかった」

彼はすごすごと席に着いた。そして、料理を口に入れて一言。

「ん?これは――」

わずかに眉をひそめた。

「素材の味が悪いな」

こちらは思ったことをそのまま言ってしまったようだ。しかし、彼らは合成食品を口にしたことがないのだろうか、などと思う。

「でも、おばちゃんの腕はいいな」

「……お前以上か?」

「そうだな。俺じゃこれでここまでの味は作れない」

「そうか」

「あの――お二方はアメリカにいらっしゃったので?」

文句こそ言わないものの、素材が悪いだのなんだと言われたら想像はつく。世界中で食べられているまずい合成食ではなく、本物の天然食品を日常的に食べられた状況にあったのだ――と。

そして、そんな場所は今や地球上にはアメリカしか残されていない。

「いや。だが、似たようなものだ」

「そうですか。で、お二人的にはおいしいんですか? まずいんですか?」

「おいしいよ」

一騎が答えた。苦も無く大盛りのご飯を平らげていく。

「同感だ」

総士の方は、少し苦しそうな顔でご飯に手を付ける。

「……ごちそうさまでした」

涼宮中尉が手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

遅れて、二人も食べ終わった。

 

 

 

「――ふむ」

戦術機特性を調べる装置はようするにシミュレーターなのだろう。一々訓練用と適正調査用に分ける必要性もない。

だから竜宮島にあるのよりも少々ちゃっちいそれに乗ることになる。しかし、同化現象を気にしなくていいだけマシなのかもしれない。……それが小さな刃でしかなくても。

「一騎。乗る感覚が少し違うから気を付けろ」

「……ああ、わかってる」

それを聞いた涼宮は、ああ各国の戦術機の違いかと納得したが、実は全然違う。……総士は誤魔化すためにあいまいな言い方をした。

戦術機は操縦する。行ってみれば車と同じだ。だが、ファフナーは操縦しない。人が手を操縦してコップを取ると言わないように、ファフナーには“なる”。ファフナーという自分になるのだから、操縦する感覚は全く違うのである。

手足のように使う、という形容詞があるが――それは本当に神経が通っているという意味ではない。ファフナーは触覚どころか痛覚まで再現しているのはなぜか、一騎と総士は身を持って体験することになる。

「歩くのはこれ。で、武器は――」

「なるほど。これが環境データ、そして機体状況か。マップは――」

XM3を搭載した戦術機の特徴は先行入力とキャンセルだ。コマンドを入力して機体を動かす。その動作が終わらないうちに次の行動を入力し、任意にキャンセルすることができる。

しかし、一騎はゲームをするよりも孤独に空を見上げているような性格であり、総士も堅物で幼少のころから大人に交じってアルヴィスの活動に参加していたため付き合い以上でゲームをすることはない。だから――

「……反応が――遅い!」

「機体状況、噴射剤確認――っぐ!? 敵はどこにいった?」

大苦戦である。

一騎は反応が早すぎるためにコマンドを早撃ちして、あげくにわけのわからないことになっている。キャンセルを全く使えていない。だから最初の反応こそ驚異的だが、ただそれだけでそのあとがお粗末になって転んだりしている。

総士の場合は色々なことを確認しすぎて注意が操縦からそれている。網膜投射システムに慣れることができずに一々確認などしているから攻撃を喰らう。

「……あちゃ――」

としか涼宮は言えない。

不慣れにしてはよくやっている方だと思う。あんなめちゃくちゃな機体を操縦しているのだから、戦術機の方は逆にうまく扱えなくても仕方ないとは思うのだが……期待してしまうのは人の性だ。

とりあえず、副指令に言われたとおりに転倒シーンや撃墜シーンの編集をする。

「ぐぐ――」

「うむむ――」

「おおお!」

「どうだ!」

「うわ……っ!」

「なにぃ……っ!」

疲れも見せずに練習している。長々とよくそこまでやれるな――と思う。体力だけは一流の衛士の倍はくだらないなんてことを思いながらぼんやりと訓練を眺めていると。

「お疲れ様です。涼宮中尉」

怖い人が来た。

「これは――神宮寺教官! ごぶさたしております」

ビシっと敬礼をする。その顔には少し汗が浮いている。

「涼宮中尉、あなたが軍曹である私に対して敬語を使う必要はありません」

「……いえ」

さすがに鬼軍曹と呼ばれたかつての師に敬語を使わないなど、恐れ多くてできることではなかった。

「彼らが新しく入った子たちですか。A-01所属になるので?」

心配、しているのか? その顔からは不安が見える。この鬼教官は何を想ってここに来たのだろう、と考える。

「いえ。彼らの処遇について私は何も知りません。知っていることといったら階級が大尉ということくらいです」

「……大尉、ねえ。香月副指令は何を考えているのか」

「彼女の考えていることは私どもにはわかりかねます」

「……期待していると思う?」

「……これは私見ですが、なにやら他のアテがあるように思えます」

別に衛士個人の予感など機密事項ではないし、この人にならいいかとおもって本音を告げた。

最近の副指令の雰囲気からはむしろ、彼らは邪魔とすら考えている節すらうかがえる。と思う。別に根拠はない。

「なるほど。彼らはそれを隠すためのダミーね。確かに、米軍であっても無視はできやしない。囮としてはこれ以上ないわ」

「しかし、諸刃の剣であるかもしれません。昨日、発令があった直後にメディカルルームの使用禁止の令が下りました」

「普通に考えて、彼らのためとしか思えないわね。副指令も指令だってピンピンしているし、他にお偉方が来たという話もない。それでも――と思わない? 彼らはあんなにも元気そうなのに」

「元気そう――ですか」

「何か思い当たるフシでも? 中尉」

「いえ、彼らに身体的なハンデがある様子は見受けられませんでした。皆城大尉は目に古傷を負ってらっしゃるようでしたが、シミュレーションを見る限り網膜投影システムを使うことに問題はないと判断します」

「けれど、何か思ったことがあるのでしょう? よろしければ、話していただけないでしょうか」

「これは、ただの感覚の話なのですが……どうしても彼らは覚悟を決めているように思えてならないのです……!」

「……覚悟?」

「病魔に未来を閉ざされるよりも早く、未来を切り開くために戦場に散る覚悟――はかなく散る定めを受け入れている。それを止めることは誰もできないと、感じるのです」

「はかなく散る定め。戦場に散る覚悟か。――涼宮中尉、貴様は衛士はなぜ戦えるのだと思う?」

一瞬、神宮寺軍曹の顔に何かしらの感情が横切った。憎しみ? 悲しみ? ――それとも後悔?

「……一般論であれば、人類存続のためでしょうか」

「確かにそのために戦場に赴く者もいる。だが、戦場の只中で理由となるものは、戦友を守りたいという気持ちだ」

「……覚えはあります」

「頼む。涼宮中尉。彼らはまだ若い――彼らの戦友になってやってくれ。きっと、それは彼らの力となるはずだから」

「了解しました」

「別にもっと大事な人でも構いませんが?」

「……それは、どういった意味でしょう?」

ふ。と笑って――

「しかし、なんでしょうね。この戦績は」

話題を変えた。

「は?」

言われてシミュレーションの方を向く。

とんでもないことになっていた。

「おおお――!」

一騎は設定のミスを疑ってしまうような高速で地を蹴り、空を駆け巡る。戦術機でよくやる――あんな機動についてこれる衛士など、それこそ教導隊の人間でも連れてこなければならないだろう。

「ぬおっ!」

そして噴射剤が切れて墜落。大破した。

「……その程度か」

総士は演習相手に設定された戦術機を味方機ごとハチの巣にしていた。冷酷に全てを殺戮していく。敵味方の区別なく。敵機を全滅させて勝利のテロップが流れる一瞬前。

「すべて無に帰れ」

最期に残った一機を銃撃で破壊した。その瞳にはおよそ感情というものが見受けられない。まったくの無である。

そして、基地中に響く警告音が鳴り響く。




まりもちゃんに対する涼宮の態度が少し変かな? そこらへんは型破りの香月副指令直属ということで許してください。人払いしてたしね。
……ところで、ドS総士は怖い。

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