Muv-Luv×ファフナー   作:Red_stone

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*注意事項
正史と比べて00ユニットの起動時期が早まっています。これは白銀の努力だと思ってください。(実はむしろバタフライ効果ですが)
調律はまだです。XM-3の開発の方は完成しています。


第3話 犠牲

「香月副指令よりお二方のお世話を任されました涼宮遥中尉です。よろしくお願いします」

朗らかで優しそうな雰囲気の女性がビシッと敬礼を決める。どうやら、当面のお世話係理は彼女らしい。

「僕は皆城総士。階級は大尉と言うことになったらしい。よろしくお願いする」

こちらもビシッと決める。

「……」

そして、もう一人の彼は黙って明後日の方向を向いている。

「一騎」

呼びかけられてやっと涼宮の方を向いた。

「……あ。真壁一騎です。よろしく」

へろへろと敬礼の真似事のようなことをして見せた。

「こちらこそ」

「こいつはいつもどこかぼんやりしているんだ。すまない」

「いえ。お二人は仲が良いようですが、ご友人ですか?」

「そうだ。――世間話をしろとでも命じられたか?」

いきなり単刀直入に聞いた。一騎に政治的なことを期待するのは無駄だが、しかし総士の方もそういうことには疎い。

一介の研究者であり、CPと似たようなことをしていた経験もあるがこちらも軍という組織には関係が薄い。

「……なぜわかったのですか」

「興味があるようには見えない」

「これでも興味津々ですよ?」

こくり、と首をかしげる。その仕草はかわいらしく、ギャップがさらに魅力を引き立てるが。

「君はどこまで知っている?」

鈍感な彼らには全く通じない。

「副指令には丁重な扱いをしろ、と。それと世間話でもしてやれとおっしゃられました」

「そうか。なら――いい」

「少しお聞きしても?」

「かまわない」

本当に問題ないと思っているような、そもそも涼宮自身に興味を持っていないかと疑いたくなるほど表情が変わらない。もう一人の方に至っては気にしてさえいないんだろうな――と明後日の方を向いて歩いている一騎を見て思った。

「あなた方はあのアンノウンの衛士ですか?」

「そうだ」

「――っ!?」

さすがに息を呑む。意味の分からない戦闘能力を持つ機体のパイロットというだけで恐ろしいが、そもそも聞いてみただけで間違っても答えが返って来るとは思っていなかった問いだ。

兵隊に不要な知識は要らない。……消される!? などと思って一瞬真っ青になった。

「どうした?」

「答えてくれるとは思いませんでした」

本当に。それは機密事項だろう。副指令の冗談……にしても性質が悪い。いや、あの人ならいきなり明かして人を驚かすはず。自分がいないなんて、そんなことするか? ぐるぐると思考が袋小路にはまっていく。

「状況を鑑みれば瞭然だ」

「………………え?」

そりゃ確かにそう邪推するのは自然な流れだが、はっきり言うものか? やっぱり消す気なんじゃ、とか思っていしまう。

「君をどうにかする意図はない」

「そうですか……」

とりあえず納得しておく。まあ、香月副指令なら大丈夫だろう、と思う。他の上官にばれたらヤバイが。

「君は?」

「私ですか?」

あんな化け物のような機体なんてうわさすら聞いたことはないのだが……

「戦術機には乗れるのか?」

「いいえ。私はCPですから」

そういうことか。と納得する。しかし――彼女は事故のせいで戦術機にすら乗れないのだ。それを顔に出すことこそしないが。

「なるほど。僕と同じか」

「――は?」

意味が分からなかった。どう見ても怪我などしているようには見えないし、なにせ先ほどあの機体に乗っていたといったばかりだ。

困惑するが、逆に聞けない。ひどい答えが返ってきそうで。

「案内ご苦労だった」

もやもやしているうちに部屋についてしまった。

もちろん彼らの部屋はわかれており、香月副指令の厚意か連続した部屋を割り当てられた。

「……え? あ、いえ。命令ですので」

「僕らは休ませてもらう。一騎、ちゃんと寝ろよ?」

「ああ、わかってるよ。――総士こそ」

軽くうなづいてキーを操作する。

「僕は大丈夫だ」

「それ、どっちの意味だ?」

そう言って部屋に入ってしまった。総士は少しムッとした表情で閉まったドアを見つめ、気を取り直して涼宮中尉へ振り返る。

「お休み、涼宮中尉」

「あ、はい。お休みなさいませ、皆城大尉。それと、真壁大尉」

3人は分かれて、それぞれの部屋に行く。

 

 

 

「――総士」

こんこん、と扉をたたく。

「一騎、まだ朝の4時だぞ。いくらなんでも早すぎる」

数秒もしないうちに出てきた。身だしなみはきっちりとしている。

「もう起きたんだから仕方ない。――お前だって、起きてたろ?」

「まあ、いい。それよりもこれを見ろ」

PCのスクリーンを指し示す。

同じものは一騎の部屋にもあったが、そういうのはよくわからないので触ってすらいない。

一方、総士は研究者のたしなみ程度には使える。

「これはBETAか?」

「そうだ。僕らがもらった情報セキュリティのIDレベルは低いが――ハッキングした」

こともなげに言う。一切悪びれていない。

「そうか。そういえば、部屋のセキュリティは?」

こちらはハッキングということ自体よくわかっていなさそうで、すぐに話を切り替えた。

「そちらの方は元から高い。おそらく、ザインとニヒトを置いた場所に行けるようにするための処置だろう」

「――どこに置いてあったっけ」

「昨日、そこから副指令の部屋に行ったばかりだろうが。後でマップデータをコピーしてやる」

「さんきゅ。で――こいつらが、人類の敵か」

あらためて、表示したままのBETAの写真を見る。

「ああ。フェストゥムとは違い、人類が抵抗することはできるようだ。パイロット……この世界では衛士と言ったか。彼らに同化現象を強いることもなく、な」

ファフナーは戦術機よりも強い。だが、パイロットに同化現象を迫る諸刃の剣だ。戦えば視力を失い、体が動かなくなり……最後には結晶化して砕け散る。

一騎は余命1年を宣告されている。……同化現象のために。治療技術は高度に発展したが、それでも1年しかもたない。

「勝てるか?」

端的に言った。

「無理だ。おそらく、10年も持たない」

冷たく宣告した。人類はすでに守りに入っている。ゆえにじり貧だ。膨大な物量を持つBETAに防衛戦をやっても勝てるわけがない。

「なら、俺が」

「同じ理由で無理だ」

「なぜ?」

「――数が多い。この世界の人類の武器はBETAに通用する。しかし、携帯できる弾薬が足りない。僕とお前にしても、一つ目の巣を破壊するまで……どちらかでも動けていればいいがな」

これが彼らの限界だ。いくら強い力を持とうとも、その力は持続しない。戦い続けられないから、結局のところBETAには勝てない。その構図はこの世界の人類と同じである。

「ロケットは?」

「弾道飛行か。香月副指令の協力があれば実行は可能だろうが、それでも僕とお前で一つずつ……25個中のたった2つを破壊して何が変わる?」

「それでも……!」

「ザルヴァートルモデルというものがどういうものか忘れたのか? 僕ら自身が人類を滅ぼす災害となりかねないぞ」

「………………」

「それに、アザゼル型もいる。僕らが居なければ、この世界の人類はどうなる? この世界に人の側につくミールはいない」

「………………」

「命を大切にしろ、一騎。死に急いでもできることはない。僕らは帰るんだ。ミールの……いや、竜宮島の皆のもとへ」

「………………」

「僕は遠見に怒られるのも泣かれるのも御免だ」

遠見真矢。彼女は彼らが居た世界に残してきた少女。希望を掴むため竜宮島の外に出た。生きていることは確認したが、未来はわからない。

「……遠見は関係ないだろ」

口を尖らせた。

「それに、後輩たちもまだ面倒を見なくてはな」

「………………むぅ」

「そういうわけで、まずはBETAの勉強だ」

「なんで!?」

「生き残る確率を少しでも増やすためだ。お前が何と言おうとも僕はやるぞ」

総士はPCに向き直る。

「……うぐぐ」

そして一騎は頭を抱えながらも画面に集中するしかなかった。

 

 

 

「まずは実物だな。対策を講じるにしても、見てから考える方がいい」

スクリーンに表示されたのはBETAを雑多に並べたような画像。もちろん、モザイク処理は入っていない。

「気持ち悪いな」

「BETAに共通する特徴だな。根本的に人類とは異なる進化を遂げた種族かもしれない。何者かが作った奉仕種族だという説もあったが――その場合、創造主の美的感覚が根本的に異なっているのだろう」

「でも、こいつらはここにいないんだろう?」

あなたはそこにいますか? とはフェストゥムが聞いてくる言葉だ。アザゼル型は学習したことによって本質から離れた進化を遂げたが。本来フェストゥムは全てを無に帰す祝福を与えるだけの存在である。

つまり、ここにいない――というのは“生きていない”ということだ。彼らはフェストゥムそのものではないにしろ、そのくらいはわかる。

「ああ。こいつら自身は、学ぶ以前のフェストゥムよりも機械的だ。手足というよりも、このPCに近いな。上位の存在が居て、絶対服従というよりも命令が伝達されているだけだ」

総士はPCをコンコン、と叩いて見せた。

「そうか。こいつらとはわかりあえないんだな」

「ああ。BETAを操るものと対話しなくては意味がない。どうやら、BETAそのものには2方向の通信システムは備わってはいないようだからな」

「――なら」

「ハイヴを調べれば、何か出てくるかもしれない。そのためにも、まずはBETAを知ることからだ」

「……うえ」

足の上に肉塊と一つ目の目玉が乗ったようなBETAを拡大する。

「まずは一番注意すべきものからだ。重光線級という」

「レーザーを撃ってきた奴か」

「ああ。ザインといえど、照射を喰らい続ければパイロットまで焼かれる危険がある。そもそも機体の回復も、どんな副作用が出るかわからないからできるだけ損傷は避けなければならない」

「見たら潰せばいいんだな?」

「ああ。これと光線級を倒すことができれば人類側がかなり有利になる。逆を言えば、この2種が人類を追い詰める大きな要因となっている」

「なら――」

「勘違いするな。僕らは出ない。これまでも人類は対抗を続けてこれた。ザルヴァートルモデルの暴走を考えろと何度言えばわかるんだ、お前は――」

「……それでも」

無視する。次は二つの目を持つ先ほどの醜悪な重光線級に比べたらコミカルなBETA。

「次だ。光線級――射程距離が小さいが数が多い。戦術機の装甲程度なら貫ける。できるなら、こいつも撃破しておきたい」

食いしばった歯が特徴的な二本の腕を持つBETA。

「要撃級――大型の中では多く見るようだ。頭は感覚器にすぎないから、そこを狙っても即死には至らない。倒すならば、うまく胴体の中心を狙って力をセーブしろ」

砲弾を半分に割ってかぶせたかのようなBETA。

「突撃級――群れの先鋒を担う存在だ。コイツの突撃は戦術機ならひとたまりもないが、後ろに回れば楽に倒せる。こいつは無視していい。こいつの対処はむしろ指揮官の役目だ。対処できるだけの状況ならば問題ない。光線級の有無で対処の難易度が跳ね上がるぞ」

羽の代わりに10本の足を持った蜂みたいなBETA。

「要塞級――最大種だ。尾には鉤爪状の衝角があり、伸ばして攻撃してくる。お前なら知っていれば対処できるだろう。……忘れるなよ?」

そして、小さく醜悪なBETA3種。

「戦車級、闘士級、兵士級。人間と同程度の大きさだが、間違っても生身で戦おうとは思うな。いいか? ぜ・っ・た・いに生身で戦うなよ」

 

 

 

「――と、こんなものか。いい加減喉が渇いたな」

「そうだな。自販機は――ないんだっけか」

「PXに行かねばならんな」

「じゃ、行くか」

「そうだな。前の部屋だったら近かったのだが」

懐かしそうに目を細める。島外派遣したメンバーを助けるために島を出たのだ――離れることは了承済みだったとはいえ、まさか別の世界にまで行ってしまうとは……まったく想像もしていなかった。

まだ1日。けれど、懐かしく思うのは止められない。

「そういえば、遠見に言われて話をしたとき、その話をしたんだっけか」

一騎が苦笑する。当時、壁をつくっていた二人に対して遠見真矢は話をしろと怒った。今思えばずいぶんとちぐはぐな関係だったと自嘲する。

だが、一騎と総士の関係は修復されたが、一騎の一匹狼は改善されてはいない。きっと、喫茶店の主をしていた時も。

「ああ。話のタネが見つからなかったからな」

「俺はあの時、お前があんなにも不器用だってこと初めて知ったよ」

「……僕は不器用じゃない」

「それと、昨日お前がPCを弄ってるとき、みんなで遠見先生をかばったこと……思い出してたよ。あのときはまだ、衛も居たんだな」

「あいつか。ゴーバインの魂は今もなお後輩たちに受け継がれている。――魂だけにしてほしかったが。しかし不器用といえばそれこそ、お前の方が不器用だったろう。真壁指令も呆れていたぞ」

「お前こそ、ふたを開けてみれば的外れなこと言ってたじゃないか」

「あの時点での話をしたまでだ。それに、今でこそ遠見は同期の中では唯一の現役を誇るほど同化現象が進行してはいないが、当時の技術では彼女を守ることができなかった。僕は遠見先生の判断は正しかったと思っている」

「そうか」

「『戦ってほしくない』、か。おまえはこの世界の人類のことをどう思っている」

「助けたい。――駄目か?」

「……やはり、か。お前ならそう言うと分かっていたよ。だが、早まるなよ。誰かにどうにかできるほど、世界は単純じゃない。僕がファフナー部隊の指揮をしていて一つ分かったことがある。軽はずみな行動が部隊の全滅を招くことを学んだ。“世界”も同じだ。この世界の人類を無視してことを起こせば、それは災害と同じだぞ」

「――けど!」

「この世界の人類は僕らとは関係ない。彼らを見捨て、僕らだけが帰る方が竜宮島にとってはプラスになる。そして、ミールに救えと命じられたのはあくまで竜宮島の仲間の命だけだ。島に関係ない人類を救うことじゃない」

「……総士! 本気で言ってるのか!?」

「………………………………ふぅ」

一騎が本気で怒っているのを見て、長い溜息をついた。諦めたように、しかし目には光がある。そんな複雑な表情で総士は続ける。

「わかった。僕もこの世界の人類を見捨てる気はない。できる範囲で協力する。だから、ザルヴァートルモデルを使うなら僕が出る」

「――総士!」

「昨日のメディカルチェックの結果、この施設で調べられるだけのところには同化現象の進行は認められなかった。だが、乗れば死ぬと言われていたのを忘れたわけじゃないだろう。僕にはまだ余裕がある」

「言い出したのは俺だ!」

「勘違いするな。アザゼル型が出てきたなら、お前にも乗ってもらう。だが、要らないリスクを背負う必要はない」

総士は一騎の瞳をじっと見つめる。

「お前は、島に帰らなきゃ――」

気まずくなったのか、顔をそらす。

「島には一緒に帰るぞ、一騎」

顔を掴んで向き直らせた。

「………………」

不穏な沈黙が下りる。

 

 

 

通路の真ん中でにらみ合う二人を涼宮中尉が見つける。

「少し、よろしいですか?」

どうやら、何らかの命令が下ったようだ。




この作品の独自設定として、アザゼル型は完全に同化を殺すための手段として認識しています。また、アザゼル型は人類を滅ぼすことを目的とし、それぞれの方法を持って達成しようとしています。この世界のアザゼル型も、独自の方法で人類を滅ぼす目的を継続しています。

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