Muv-Luv×ファフナー   作:Red_stone

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第16話 ヒトとヒト

「さ、始めましょうか。どうするの?」

「とりあえず、ザインに乗る。それでわかることがあるかもしれない」

「そ」

そして一騎はトントンとファフナーを駆け上って、最後は宙返りして上下逆さまのままでコクピットに突っ込んだ。

ちなみに仕様である。

が、それは専用の施設を使うのが普通で、自分の力でそれに乗り込むと言うのは当然人間業ではない。

白銀は「おお」と感心し、社はただ「すごい」と感嘆の念を抱き、香月は「へぇ」と目を細める。

「00ユニットをこっちに連れて来てくれ。ザインに触らせないように頼む。あと、お前らも触れるな」

厳しい口調で言う。今のザインに触れて同化現象に襲われないかは分の悪すぎる賭けだ。9分9厘悲惨なことになる。

「白銀。そうね――まずは2m先くらいに置きなさい」

「了解。――やっぱ、けっこう重いな」

女の子への禁句をさらりと吐く白銀だった。

「――」

一騎は意識を集中する。気配がする。いや、当然人間の気配は感じ取れるのだが――00ユニットのそれには何か混ざっている。

「これ、フェストゥムの気配か? それにしては、弱すぎる……」

さらに探る。

「もう少し、近づけてくれ」

「1m50cm」

すぐさま香月が判断する。白銀による目視だが、距離感はマラソンで鍛えられているので誤差は±10cmていどと言ったところだ。

「香月副指令」

「なに? 覚悟はできてるわ。言ってみなさい」

「同化していいか?」

「それ、大丈夫なの?」

「何度かやったことはある」

「そ。じゃ、やって」

「わかった」

あっさりとした決断だった。

そして、一騎は彼女と対話する。

 

 

 

「お前、そこにいるか?」

呼びかける。魂の奥底まで。

「あなた、誰?」

そして、彼女もまた声なき声で語る。

「真壁一騎」

「……誰?」

本当にわからない。完全に初対面である。

「お前を起こしに来た」

「帰って」

「いやだ」

「私だって――誰かと話すのはいやだよ」

「でも、俺はお前と話したい」

「勝手な人だね」

「名前、聞いていいか?」

「鑑……純夏」

「なんで閉じこもってるんだ、お前?」

「声が聞こえたから」

「アザゼル型か」

「なにそれ? あの――怖いナニカのことだよ」

「なら、そいつだ」

「怖いよ。……怖い」

「大丈夫だ。あいつは倒した」

「他にもいるかもしれない」

「だからって、お前はずっとここに居るのか?」

「怖いのはイヤ」

「お前を待ってる人たちがいるぞ」

「……っ知らない!」

「会いたくないのか」

「会いたいよ。けれど、会っちゃいけないから」

「会いたいなら、会えばいいだろ」

「なんで、あなたは話しかけるの?」

「それは……」

「人じゃないから?」

「……俺はまだ人だよ」

「違うよ。私と同じで」

「そんなことは――」

ない、とは言い切れなかった。

「なんで、ここに来たの?」

「香月副指令に言われたから」

「部下?」

「……協力者、かな」

「そっか。そうだよね。先生にも、あなたたちを御し切るのは無理だよね」

「お前は?」

「私?」

「お前は香月副指令の何なんだ?」

「私は――部品かな。うまく作動しなくて、先生はきっと怒ってる」

「悲しいだろ、それ」

「でも、事実だし」

「心があるなら、人間だろ。お前には心があると、俺は思う」

「そんなの――ないよ」

「あるさ」

「ない。BETAに殺されたの。絶対殺されたの。私は――もう生きてないの」

「生きてるだろ。ちゃんと話せて、身体だってある。何が不満なんだ?」

「ダメなんだよ」

「何が?」

「私はここにいなきゃダメなんだよ。あっちに出ちゃいけないの。あそこに行ける資格を持ってないの」

「そんなことはないさ」

「……あるもん」

「白銀武か?」

「――ッ!」

「やっぱり、か。俺は詳しいこと聞いてないけど、白銀はお前のこと大事に想ってるようだったぞ」

「………………」

「お前も、あいつのことが大事なんだろ?」

「……出てけ!」

「出てなんか行かないさ」

「出てけ――出てけよぅ」

「俺をどこかにやりたいなら、お前が出てけ」

「うう――」

顔を覆って、泣き出して――逃げ出した。

 

 

00ユニットが結晶化し、砕け散った後には変わりない00ユニットの姿がある。人間に戻ってるわけでもなく、顔に表情が戻ったわけでもなく――本当にそのまま。

いや。

「うああああああ!」

悲鳴をあげた。

「純夏……」

悲鳴を上げる少女は目にいっぱい涙を溜めて、本当に悲しそうで――どこにでもいる一人の傷ついた少女にしか見えなかった。

「あああ。あ――」

そして、少女の目は白銀を捉える。

「……ヤ」

震えている。目をそらしたくてたまらないのに……会わせる顔なんてないのに――眼が引き寄せられる。大切な人だから。

「おい、純夏――どうした? 嫌なことがあったなら話してみろよ。ほら、不安なんてないからさ」

そして、その彼はおずおずと手を広げて近づいてくる。安心しろ、味方だとでも言いたげに。その姿は自分が知っている優しい彼の姿のままで。それが、純夏にとってはこの上なく辛いことで。

「イヤァァァァァァ!」

逃げ出した。

「……純夏!」

当然、追いかけようとする。

「白銀!」

そして、呼び止められた。

「……っ何ですか! 俺は純夏を追わなくちゃ――」

「黙りなさい。たぶん、ちょっとした冷却時間は必要よ。00ユニット相手に基地を封鎖しても無駄だけど、人に会うことはないわ。そう望めばどうとでもなるし、あの様子でそれを望まないのはちょっとない。だから少しばかり冷却時間をあげてやりなさい」

「でも、俺は純夏が好きなんです。あんな顔をされるのは耐えられない。あいつが苦しんでるからこそ、そばに居てやりたいんです」

「……はぁ。十分よ」

ため息を吐いた香月は仕方のない子とでも言わんばかりだ。

「――へ?」

「十分だけ時間を寄越しなさい。そしたら、居場所を教えてあげるから」

「わかるんですか?」

「少し考えればね。ま、あんたは考えても無駄よ。というか、最高セキュリティのカード持ってなきゃ無理かも。いや、あそこなら知ってるか。でも、こいつレベルの頭だと情報に穴がある時点で難しいか……?」

白銀に与えられているパスは基地内でのセキュリティこそ最高クラスに近いが、情報の方はそれに及ばない。

「あのぉ……」

「ああ、変なこと考えてたわね。じゃ、あんたの考え違いをいくつか正しておきましょうか」

「考え違い?」

「どうせ――あんなに簡単にアレの意識を取り戻されてショック! みたいなこと考えてたでしょ?」

「いえ、まあ……それは」

「やっぱりね。あと少し、みたいな勘違いしたか。言っておくけど――調律の難易度自体は上がったわよ」

「……なんだって?」

さすがに自分のせいで事態が悪くなったのなら無関心を決め込んでも居られない一騎である。

「いや、真壁。あんたには感謝してるわよ。あのままじゃ打つ手がなかったもの。これは単純な比較問題。アザゼル型が来る以前と、現在の状況における難易度において後者の方が難しいと言うだけの話よ」

「そうか。ならよかった。……いいか?」

「ま、そういうわけで調律はベリーハードよ」

疑問を浮かべる一騎は無視する。

「なぜそこでそんな言葉を……」

「難易度ルナティックよ」

「……いや」

「あれはハンマーでぶん殴ったのに等しい。心地よい目覚めどころか衝撃与えて叩き起こした。やり方としては下策ね。あんた、殴られて叩き起こされて混乱しないでいられる?」

「それは無理です」

純夏に文字通りたたき起こされたことを思い出しつつ、苦笑する。ああ、あのころは幸せで、自分はそれに気づかない愚か者であった。と。

「だから、段階的に優しく起こすつもりだったのよ。あれはBETAに囚われた唯一の生存者よ? あんたは忘れてるかもしれないけど、そのトラウマは相当なもののはず。BETAに体を奪われて、目覚めたら機械の体……なんてことを一気に受け止められるほど人間の精神はよくできてない。ひとつずつ事情を飲み込ませるのはあんたの役目だったんだけど、一度にとなるとそれもちょっと厳しい」

「って、それじゃどうすればいいんですか!?」

「さあ」

あっけらかんと言った。お手上げ、などとジェスチャーまでして見せる。

「――はぁ?」

「いや、だって予想外だし。そもそもこれはあんたの役目だし。厳しくてもやりなさい。ま、00ユニットなんだから事情自体は少ししたら理解できると思うわ。あんたはなんとかしてそれを納得させなさい。理論と実際は違う。ときどき、忘れそうになってしまうけど」

「わかりました。やってみます」

「トライじゃ困るわ。達成してもらわないと」

「やります! 俺が純夏を救って見せます」

「よろしい。じゃ、行きなさい」

「はい!」

駆けだした。3人は小さくなっていく白銀の背中を見送る。


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