今回は複数クロス。高度なグルメギャグ漫画と、ある格闘漫画のキャラが出てきます。
それではどうぞ~
……とにかく腹が減っていた。
目を閉じて指で揉みながら、車のシートにぐったりと倒れ込む。かなり疲れた。
運悪く関東圏を直撃した台風の影響で、空の便が欠航続出。新規オープンする雑貨店のために発注したインテリアを載せている飛行機も、翌日の到着となってしまった。やむを得ない事情ではあるんだが、客はこっちの都合なんてお構いなしだ。オープンまでには必ず間に合わせますと平謝りし、夜中に納品を済ませてそのまま開店のために朝まで設置……おじさんには堪える。
腹は減っているんだが、疲れすぎてものを食う体力が残りわずかだ。今から店で注文して待つのもあれだし……。コンビニで何か買うってのも寂しい。とりあえず腹に何かできたてのものを詰め込んで眠りたい。そうなると……。
――今までなんとなく避けてたけど。いってみるかあ。ドライブスルー。なんか朝だけのメニューとかあるらしいし。
うーん!と思いっきり背伸びをして、ほっと息を吐く。車のエンジンをかけて、さあ出発だ。
――細身の綺麗な黄色い文字。特徴的で目立つ大きなY。誰でも見慣れたヤクドナルドのマークだ。若い頃に何回か食べたっきりで、何十年かぶりに来た俺でも見慣れてるんだから、本当に日本全国どこにでもある。流石と言うか、世界最大のファーストフードチェーンは伊達じゃない。
徐行でゆっくり進みながら、ついでにガラス張りの店内を覗いてみる。平日の朝だというのに、結構繁盛しているようだ。テーブル席に主婦仲間だろう女性グループが1つに……あの派手な化粧の2人組は、キャバクラかなにかの仕事帰りだろうか。こっちを向いて座っているカウンター席には、俺と同じスーツ姿でスマホを見ながら片手でハンバーガーをぱくついている男も数人いる。これから出勤なんだろう。そんなに時間を取らないでさっと食べられるっていうのは、1人暮らしのサラリーマンにも需要が結構あるのかもしれない。
それにしても……当たり前なんだけど、前に来た時と店の雰囲気が全然違う。内装は全体的に黒や茶色が使われていて、落ち着いた感じだ。飾りっ気がなくて、人によっては殺風景に見えるほどシンプルだが、それが妙に静かな空気を醸し出している。下手なそこらのカフェよりお洒落だな、これ。うちで取り扱ってる雑貨をいくつかおいて、観葉植物を適当に見繕えば、あっという間に本格カフェができあがりそうだ。
――っといかんいかん。仕事はもう終わりだ。
軽く頭を振って仕事脳から休み脳に切り替える。自営業だから最近出てきた『社畜』って言葉には当てはまらないはずなのに、どうしてこうも仕事基準で考えてしまうのか。日本の国民性なのかもしれないが。
ゆったりと車を動かして店の周囲を回るように進む。最初の角を曲がったところで、一瞬息が止まるほどびっくりした。
――なんだって、ヤクドナルドのドライブスルーにフェラーリが来てるんだ?
いや、フェラーリに乗ってたら来たらいけないわけじゃないが。高級車に乗っててもハンバーガーが好きなのかもしれないし。うわ、ハンバーガー何個買うんだ。大袋が5個も……100個くらいあるんじゃないのかあれ。いくら男2人組とはいえ食いすぎだろう。というか、そんなに買うなら店の中で頼めばいいのに。
運転席に乗っているのは――げ。バックミラーで目が合った。メチャクチャ怖い。鼻の上辺りに、横にまっすぐ長い傷跡が走っている長強面おじさんだ。その風貌で真っ赤なロングコートなんて来てるとこからして明らかに普通の人じゃない。
助手席に座っているのは、浅黒い肌をした上から下まで黒ずくめのおじさんだ。なんか髪の毛が逆だってる気がする。こっちもメチャクチャ怖い。
さー、俺の番だ。目をそらして、注文注文。何を頼むかは決めてある。
「この……ソーセージエッグマフィンセットっていうのをください」
『かしこまりました!お飲み物は何になされますか?」
「ホットコーヒーでお願いします」
。
。
。
ヤクドナルド――ヤックかヤクドかは主張が別れるところ――の袋を抱えて早朝の公園をあるく。人影はあまりない。たまにジョギングしている人とすれ違うくらいだ。こう、人がいないと自然の音がいつもよりよく聞こえてくる。世界に人間は俺1人しかいないんじゃないかという錯覚。なんとなく好きだ。誰も出歩かない台風の夜に散歩したくなるって人の気持ち、ちょっとわかる。
広場のベンチを目指して歩いていると、どこからか常に鳩の鳴き声が聞こえてくる。敢えて言葉にするなら、『ホー、ホホッホホー』を繰り返している感じだろうか。なんて鳴いているかは、これも論争が別れるところなんだが――うん?急に止まった?
何かおかしいと感じて、辺りをキョロキョロ見回すと――すぐ目の前のベンチに、原因がいた。
「おい、勇次郎よ」
「なんだ、鬼龍」
さっきの2人組が、公園のベンチに並んで座って、文字通りに山積みになったハンバーガーを食べ続けている。その2人を中心に、物音が一切しない。というか、生き物の気配がない。
「そろそろ俺を誘った理由を聞かせろ。まさかこんな健康に良くない朝飯を食うためだけではないだろう」
「……確かに、身体に良かろうはずもない。しかし、だからとて健康にいいものだけを採る。これも健全とは言い難い」
「……ふん」
「毒も食らう、栄養も食らう。両方を共に美味いと感じ――血肉に変える度量こそが食には肝要だ」
怖い。怖すぎる。怖すぎるんだけど……ここまで来て帰るのもなあ。隣のベンチに無関心ですよー、という顔をしてそっと座る。早く食べて離れよう……。
鬼龍という名前らしい人の質問に、勇次郎という人は暫く無言で……そのまま、手に持った新しいハンバーガーを丸ごと口の中に放り込んだ。
……え、ええっ~~~~~!あれ、丸ごと食べるもんじゃないだろおぉぉっ?
俺のそんな驚愕なんて気にすることもなく、勇次郎さんはそのままもぐもぐしていた。あ、いかんいかん。俺も早く食べないと。いそいそと紙袋の中からポテトを取り出す。
ハッシュドポテト
細かく刻んだジャガイモを、板状にして揚げたもの。細長ポテトとは一味違う。
少し油の染みができてる紙の部分を手に持って、上からガブッと食べる。ザクッ、という音。外がカリカリに揚がっていて食感が良い。中は……油ものっていうこともあるんだろうけど、ジャガイモがしっとりしてる。前はポテトっていったら細長いのしかイメージなかったけど、結構いけるな、これ。あの人みたいに一口でとはいかないけど、食べ進めるのが止まらない。あ、もう食べ終わっちゃいそう。
「……倅と飯に行ってな」
勇次郎さんがポツリと言う。食べ終わったポテトの紙を袋の中に入れて、ハンバーガーを探しながらつい聞き耳を立ててしまった。横目でちらっと見ると、勇次郎さんはどこからかコーラの瓶を出して……え~えぇぇぇ……。片手で持ったまま先の方を親指で割っちゃったよ……あれ再利用瓶なのに。そのままひっくり返して一気飲み。
「ああ、盛大に親子喧嘩をやったやつだろう。壁の穴から出てきたお前の戸惑った顔は一見の価値があったな」
鬼龍さんがクックックと低く笑う。うーん、どう見ても悪役だなあ。
そのまま暫く笑ったあと……新しいハンバーガーを、今度は2つ重ねて、そのまま丸ごと口に放り込んだ。オイオイオイオイ、死ぬぞあの人。
「……その後。『今度親父の運転でどっか連れてってよ。途中でヤクドナルドで飯でも買ってさ』などとぬかしやがった」
あ、ハンバーガー発見。包み紙を慎重にずらして……手が汚れないように……。
「……おい。まさか、その練習か!こいつは傑作だ!確かに今更倅に『行ったことがない』とは言えんな!」
ソーセージエッグマフィン
バンズじゃなくてマフィンで挟んでる!まん丸お肉と目玉焼きとの相性抜群、もっちりパン!
今度は両手で持って、大きくガブッと。うーん、旨い。最近のハンバーガーって、こんなに旨いんだ。見た目だとなんの肉だかさっぱりわからんハンバーグも、しっかり肉肉しい。目玉焼きの黄身が潰れてなくて、しっかり残ってるのも嬉しい。もうちょっと胡椒とかかけたくなるけど。
ゆっくりとハンバーガーを味わいながら、腹を抱えて爆笑している鬼龍さんを横目でちらっと見る。
「ドライブスルーに付き合う『お友だち』なんぞお前にはいないだろうからな!アメリカのアライくらいか?おい、まさか俺の腹筋をねじ切るための作戦じゃないだろうな!?」
「……イヤミか貴様っ!」
「嫌味だ!そんな理由で早朝から起こすな貴様っ!」
うーん、コーヒーが美味い。砂糖たっぷり入れちゃったけど、まあいいだろう。そういう度量こそが食には肝要らしいし。
その後、2人が喧嘩しそうになって、俺が仲裁に入ることになる。その時、ついアームロックをかけてしまって大騒動になるのだが……それはまた別の話だ。
如何でしたでしょうか?
今回は『刃牙シリーズ』より、主人公の父親、地上最強の生物『範馬勇次郎』。『タフシリーズ』より主人公の叔父、怪物を超えた怪物『宮沢鬼龍』です。作者はどっちも大好きなキャラです。あ、高度なグルメギャグ漫画は刃牙シリーズのことですよ。念のため。
大晦日特別編までに四国が舞台の本編を1つ書き上げるのを目標に頑張っていきます。それまでに殿堂入りしないとなあ。終局特異点もクリアしなきゃだし。
感想お待ちしております。