早く恋姫書けという方もおられるかもしれませんが、天からネタが降りてきてしまったのです。。ちかたないね。。
今回も別の作品とのクロスです。
ではどうぞ~
ロンドン。イギリスの首都。
イギリスは何かとファンタジー作品の舞台となることが多いと個人的には思う。ザ・中世とでも言うべき古き良き町並みがそのまま残っている場所が多いからなのか。ファンタジーが街に溶け込んでいて、日常の裏側に存在していても不思議じゃないような気がする。
特にロンドンはそれが顕著だ。いい具合に古さと新しさが同居している。このキングス・クロス駅もそうだ。ぼんやりと辺りを眺めると、今にもホームズやワトソンが歩いているような気がしてくる。
ホームに降りてくる人々の流れに逆らって、9番線と10番線の間へ。なんの変哲もない壁に向かって手を当ててみる。此処から少年は魔法学校へと旅立つのだ。
――ま、俺が旅立つのは機嫌を損ねた頑固職人の工房なんだけど。
溜息を一つ。思いの外大きくなってしまったようで、周りの現地の人々がこちらを見てくすくす笑っていた。
……とにかく腹が減っていた。
日本のクライアントの要望を伝えても、自分の主義に反するからそんなものは作れないと言い張る職人。腕は間違いなく良いんだが、どうしてああまで頑固なのか。というか、なんでそんな性格でオーダーメイドなんてものを始めたのか。オーダーメイドである以上は客の要望をできる限り取り入れるのが筋だろうに。
おかげで昼飯を食い損ねて4時間……。朝飯と出発は早かったのに、今は大方3時になろうとしている。正直我慢の限界だった。ホテルに戻るまではとても待てない。腹が減って死にそうだ。この際飯さえ食えるとこならどこでもいい。どこか、どこかないのか。霧の都ロンドンで俺の腹に射す一筋の光は。
そんなことを考えながらほとんど小走りで大通りを進んでいると、テラス席が多いににぎわっているカフェがあった。これだけ客が入っているんだからまずいことはないはずだ。カフェならきっと軽食もあるだろう。ここだ、入っちまえ。
ほとんど倒れこむようにして席に座る。そんな俺の様子を見てただごとではないと思ったのか、すぐさまウェイターが水を持ってきてくれた。ただ猛烈に腹が減っているだけなのだが、なんだか申し訳ない気持ちになる。
『ご注文は何になさいますか?』
品の良い営業スマイル。やはり英国男性にはすべからく紳士の精神が備わっているのかもしれない。
とにかく今は注文だ。急いでメニューを開く。悩んでいる時間も惜しいので、軽食のメニューの一番上に乗っているものを頼むことにした。イギリスの代表的な料理だと聞くし、間違いはないだろう。
『このフィッシュアンドチップスを一つお願いします』
『フィッシュのサイズは如何なさいますか?』
『ラージで』
『かしこまりました。
少々お待ち下さいませ』
そう言ってウェイターが店の中へ戻っていく。それを見送った後、ふーっと特大の溜息をついて深く腰掛けなおした。
ようやく人心地ついた。水をちびちびと飲みながら周りを見渡してみる。当たり前だがほとんどが現地の人で、今はちょうど3時のティータイムのようだった。皆優雅に紅茶を飲んでいる。
そうしてぐるりと首を回していると、隣のテーブルに一人で座っている男性と目があった。俺と同年代くらいだろうか。眼鏡を掛けた理知的な顔立ちのこの男は――日本人だ。
「かなりお疲れのご様子ですねえ。
ご病気というわけではなさそうですが、お体は大丈夫ですか?」
手にしていた紅茶のカップをテーブルに置き、にこやかに問いかけてくる。
「これはお恥ずかしい。
実は仕事が長引きまして昼飯を食い損ねましてね。腹が減ってつい力が抜けてしまいました」
かるく頭を掻きながらたははと笑う。せっかく異国で出会えた同郷の人に情けないところを見せてしまった。
「それはそれは。
ジャック・ウィリアムスさんは職人としてもそうですが、その気難しさもまた有名ですからねえ。貴方のように個人業者の方はその苦労も並大抵のものではないでしょう」
「ええ。まったくその通りで――」
そこまで言いかけて気づいた。俺はウィリアムスさんの工房に行ったなんて一言も言ってないし、ましてや個人業者なんて。……この男、何者だ?
「おや、警戒させてしまいましたか。そんなつもりはなかったのですが」
そう言ってカップを持ち上げ優雅に紅茶の香りを楽しんでいる。一口飲んで軽くうなずいた。
「貴方の爪ですよ。爪先についているその白い塗料。日本の陶磁器に影響を受けたジャック・ウィリアムスさんが特別に日本から取り寄せて使用しているものです。
それに彼は大手企業とは一切取引をしないことが知られています。また貴方の先程の流暢な英語、値段を確認せず自然に料理を注文したことを考えると、貴方が個人経営者なのではないかという推測ができるのですよ。もし一般企業にお勤めなら、海外出張に部下の一人や二人同行していて当たり前ですからね」
立て板に水とはこのことだ。その喋りにも驚いたが、俺の爪についている僅かな塗料と英語だけで何故そこまでわかるのか。
「なんというか、その……すごいですね」
俺がそう言うと、カップを持ったまま穏やかに笑う。なんだか英国人より英国紳士らしい男だ。
「それほどでもありませんよ。
ああ、申し遅れました。私はこういう者です」
そういって胸ポケットの名刺入れから名刺を取り出し差し出してくる。慌てて俺も名刺を取り出した。
「これはご丁寧にどうも。
井之頭五郎と申します」
受け取った名刺にはこう書かれていた。
警視庁特命係、警部、杉下右京。
「警視庁の刑事さんでしたか。それも特命係とは。先程の推測も納得の肩書きです」
「たいしたものではありませんよ。
解雇寸前の窓際部署です」
「はあ……」
特命係なんて見たことも聞いたこともない。俺としてはそれだけしか言うことができなかった。
『お待たせいたしました。
フィッシュアンドチップスでございます』
会話が途切れたところでちょうど先程のウェイターが注文した料理を運んできた。
お互い会釈をして手元に集中する。
フィッシュアンドチップス(ラージサイズ)
白身魚のフライ
大きなサイズのフライがドーン!からっと揚がっていい感じ。酢、塩、ソースからお好みのものをかけて。
チップス
ポテトチップスじゃなくてフライドポテト!大きめに切られたポテトがごろりといっぱい!
「いただきます」
さて、最初の難問だ。
フィッシュに何をかけるのか。酢か、塩か、はたまたソースか。フライは何をかけてもすぐに衣じゅうに伝わってしまう。最初の一手で勝負が決まる。悩んだ末に俺が出した答えは――。
――男の子はやっぱりソースだろう。
白身魚に上からソースをドバドバと。すきっ腹にはこれくれいが丁度良い。この瞬間だけは、俺はガキ大将になれるんだ。
フォークで真ん中を一刺しして、大口を開けてかぶりつく。衣に染みこんだソースが全体に広がって、見事な惣菜感がたまらない。昔良く食べた近所の弁当屋ののり弁。ほのかに通じるジャンクな味。
――このフライドポテトも、子ども頃はご馳走だったよな。
縁日の屋台では見かける度になけなしの小遣いで買い食いしてたもんだ。もっとも、皿の上に載っているポテトの横幅はその2倍はある。今の俺が食べても、腹、大満足。
一口目はそのまま、二口目からは軽く塩を振って。どうしてケチャップがないんだろうか。フライドポテトにはケチャップと相場が決まっているのに。
――ま、日本人の勝手な相場なんだけど。
そんなことを思いながらフィッシュとポテトを交互に口の中へ放り込む。たまに水を飲む以外はほとんど休むことなく食べ続けた。
少々下品に小さくげっぷをして一息。いくら腹が減っているとはいえ、一気にかきこみ過ぎてしまった。
「空腹が無事満たされたようで何よりです。
食後のお茶はアールグレイのミルクティーがお勧めですよ。先にカップにミルクを注いでから紅茶を入れると美味しくいただけます」
横から掛けられた声に振り返ると、杉下さんが帰り支度をして立っていた。そのまま帽子を軽く上げて一礼。こちらが慌てて礼を返すと、またにっこりと笑って去っていった。実に英国紳士だ。
暫く呆気に取られていたが、せっかく勧めてくれたのだ。ここはひとつ午後のティータイムと洒落込もうじゃないか。
本日のアフタヌーンティー
アールグレイミルクティー
イギリスでは9割以上がミルクティー。ちょっと癖が強いけど、ミルクを入れるとまろやかに。フライ味の口の中もこれでスッキリ!
夕日を眺めながら優雅にお茶を楽しむ。これぞ英国紳士。
ま、俺は逆立ちしたって杉下さんみたいにはなれないだろうけど。
後日、ジャック・ウィリアムス氏が殺人容疑で逮捕され、俺がその日仕入れて帰った品は最後の出荷品となってプレミアがついた。ウィリアムス氏逮捕の決め手となったのは日本の警察官が見つけた凶器だという。その日本人警察官の名前がスギシタだと知ったのは、また後の話だ。
フィッシュアンドチップス
イギリスを代表する料理の一つ。タラなどの白身魚のフライに、棒状のポテトフライを添えたもの。イギリスではファーストフードとして親しまれ、長い歴史がある。
(Wikipediaより引用)
如何でしたでしょうか?
推理がガバガバなのは勘弁して下さい。雰囲気重視ということで。笑
感想お待ちしております。