孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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ちょっと日があきましたね。連休中に2日仕事した分の休みでリフレッシュしてました。ネタもいくつか浮かんできて、リクエストも合わせてどれを書いていこうか迷っています。
今回は結構な地元ネタというか聖地ネタというか、そんな感じです。
ではどうぞ~


第十四話 埼玉県春日部市のピザトースト

 

 春日部市。

 なんてことのない、いたって普通のベッドタウン。特別古いわけでも新しいわけでもないその町並みが、なんだか嫌いじゃない。

 ゆっくりと住宅街を歩く。日曜日ということもあってか、ちらほらと仲良く歩く家族連れを見かけた。守るものが増えて人生が重たくなるからと結婚していない俺だが、こういう光景を見ると家族も悪くないと思えてくる。

 今回の依頼主も絵に描いたような幸せそうな家族だった。父、母、息子、娘、そして犬。亭主は堅実なサラリーマンで、一戸建てで幼稚園の息子と赤ちゃんの娘を育てる専業主婦。まさに昭和世代の理想的な家庭そのものだ。

 

 

『いやー助かりましたよ井之頭さん!取引先の方がメキシコ土産を気に入っちゃいましてね?でも暫くはおなかいっぱいですし。貴方がいなかったらどうしようかと』

 

 

『は、はあ……』

 

 

『ささ!まずは一杯どうぞ!』

 

 

『とうちゃん!ヤクザの人はビールじゃなくておさけだっていってたぞ!』

 

 

『こーらしんのすけ!あんた一体どこでそんなこと覚えてくるの!?』

 

 

『あのー……私、全くの下戸でして』

 

 

『えっ』

 

 

『えっ』

 

 

 なんとも賑やかで愉快な家族だった。口ではわいわいと言い合っていても、心の底では信頼しあっているのが伝わってくる。きっと、なんでもない日常が楽しく思える。そんな家族だった。あの幸せそうな雰囲気、お腹いっぱいです。

 

 

 ん?お腹いっぱい?いや。

 

 

  ――腹が、減った。

 

「店を探そう」

 

 腹は減っているが、今日はなんだか気持ちが温かかった。

 

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 改めて考えてみると、空腹はいつもほど猛烈じゃない。ちょっと軽めの小腹ベリーという感じだ。かといって、ぱっと食ってさっと出たい、というわけでもない。どこかに腰を落ち着けて、食後にはコーヒーの一杯でもやりたいところだ。となると、何かコーヒーに合うものを選ぶべきだろうか。

 

 ――コーヒーなら、喫茶店かカフェみたいなとこだな。

 

 住宅街から抜けてずんずん駅の方へ向かって歩く。駅前ならば、そういう店も選べるくらいはあるだろう。

 だんだんと腹が絞れてきた。騒々しくない、落ち着いた店。食後のコーヒーが飲めて、小腹ベリーにも丁度良い。となると――パンか。

 しかし、パンにも色々ある。ヘタをするとまた店に着いてからメニューの樹海に迷い込んでしまいそうだ。

 そんなことを考えながら歩いていると、道の先に何かのテラス席が見えた。その辺りから漂ってくるこの胃袋をくすぐる匂いは――パンの匂いだ。しかも焼きたて。

 あれだ。あの店だ。間違いない。思わず小走りで近づく。中年親父の小走りってなんだかせこく見えるが、空腹故致し方なし。

 まさに今時の女子高生という感じの少女たちが談笑するテラスのテーブル席の横を通って店内へ。入った瞬間、焼きたてパンの美味しそうな匂いが鼻の中に一気に侵入してきた。いかん。この匂い、胃袋に直撃する。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 白い調理服の女性店員が笑顔で挨拶してくれた。爽やかなんだが、俺みたいな親父にはちょっと眩しすぎる。

 

「あのー……外で食事できますか?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 

「大丈夫ですよ!お好きな席にかけてお待ち下さい!すぐメニューお持ちしますね!」

 

 メニューを持った店員さんとほぼ同時に席に着く。入るときにみた女子高生たちの隣のテーブルだった。

 

「こちらがメニューになります。

 ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」

 

 無言のままうなずいてメニューを捲る。店員さんには悪いが、俺の心は既に発酵するパン生地の如く期待で膨らんでいるのだ。一刻も早く何か入れないと爆発してしまう。

 パン屋が直営しているだけあって、メニューは中々の充実振りだ。オーソドックスな食パン、コッペパンから菓子パン、惣菜パン、サンドイッチまでより取り見取り。種類が細かくてごちゃごちゃしてないぶん、いつぞやのパーラーほど迷わなくてすみそうだが。

 そのパーラーでは、肉々しい固めのサンドイッチだった。んじゃ、サンドイッチはまた今度。ごめんなさい。

 チョココロネに……アップルパイ。そそるんだけど、今は甘い感じじゃないんだよなあ。こっちもごめん。

 となると惣菜パンか?でも揚げ物でもないんだよなあ。コロッケ、焼きそば、ホットドッグ。うーん、いまいちそそらない……お?

 

 ――これ、いいじゃないか。今の気分に、ドンのピシャ。

 

「すいませーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!

 ピザトーストのセットです!」

 

 

 ピザトーストセット(ドリンク付き)

 トマトにタマネギ、ピーマン、ベーコン上からチーズ。

 カリカリベーコンとトロトロチーズの最強タッグ。

 

 

「いただきます」

 

 両手で下から持ち上げるように持って、角から一口。

 

 

 美味い。

 

 

 最近は薄焼きがどうの耳厚がどうの言っているが、俺にはこれが大正解だ。一口齧った後、上に乗ってる具をちょっと食べ過ぎちゃう感じ、嫌いじゃない。

 イタリア産トマトだのチーズだのじゃなくて、食パンとケチャップ、トマトとスライスチーズの美味さ。ピッツァでも、ピザパンでもだめだ。ピザトーストじゃないと、この美味さは味わえない。

 

 ――タマネギの辛味もいい仕事してるよ、これ。

 

 家で食べるとしても、大抵がケチャップとチーズだけだ。乗せるとしても、せいぜいソーセージのスライスぐらいか。タマネギの辛味とシャキシャキ具合、ベーコンの濃い味。これ、お店じゃないとだめなんだよなあ。

 

 ――あらら。あっという間に反対側の耳だけになっちゃったぞ。

 

 角で千切って、棒状にしてから上からパクリ。具がなくても、淵についたケチャップだけで充分美味い。それに、パンも美味い。食パンって、こんなに美味かったっけ。

 

 ――住宅街のパン屋、侮りがたし。

 

 耳の端っこまでじっくり味わう、静かな昼飯だった。

 

 

 

 

 セットのドリンクで選んだコーヒーで食後の休息。ミルクと砂糖、多めで。だってパンだし。

 日曜日の午後、のどかな住宅街のテラス席でコーヒーブレイク。なんだか避暑地に来たみたいだ。

 まあ、隣のテーブルの女子高生たちには関係なさそうだったが。今も姦しい声が聞こえてくる。

 

 

「ねえねえ。チョココロネってどこから食べる?」

 

 どこか幼さを感じさせる、でも妙に世間ずれしているかのような声。多分グループのいじり役だな、この子。見なくてもわかる。

 

「うーん。私は頭からかなあ」

 

 この子、いじられ役だ。だってそう言う声してるし。いじり役には格好の獲物だろう。

 

「じゃあさ、どっちが頭でどっちが尻尾?」

 

 再びいじり役の声。

 

「え?それは……」

 

 戸惑ういじられっ子。さあ、どうする?

 

「細い方が尻尾じゃないの?」

 

 いじられっ子に似ているが、微妙に違う。気の強そうな声だ。グループのストッパーだろうか。

 

「尻尾を千切って頭のチョコにつけて食べるっていうテクニックもありますよ~」

 

 ……このおっとりした声の子、天然なんだろうなあ。声だけでぽややんとした空気が飛んで来てる気がする。

 

「っていうか前もこんな話しなかった?学校で」

 

 再び気の強そうな声がして、そこからやいのやいの言い合いが始まる。けれど、決して不快ながやがやではなかった。

 あんまり中身のない、ゆるい会話。実に平和だ。

 

 

 

 その後、突然少女の内の一人が貧乳は希少価値だとかステータスだとか叫び出し、周りから色々な視線が飛ぶことになるのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『クレヨンしんちゃん』から野原一家と『らき☆すた』からメインキャラ4人組です。どちらも春日部が地元ですね。
感想お待ちしております。

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