MUV-LUV ALTERNATIVE 救世主になれる男   作:フリスタ

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前回より更に長い、11000文字以上です。



06

Side マサキ

 

 ……ゴクリッ

 

 そこにいる全ての者が唾を飲み込み、目を輝かせて一台のパソコンの画面を見つめている。そこにいる者は全員が技術開発チームと整備チームだった。自分たちも携わったモノの結果だ。気になっても不思議ではない。しかし、携わったというよりも、『手伝えた』ということが大きい。誇りある仕事というよりも、誇りを持たせてもらえた仕事だったからだ。

 

 出撃すれば大破して帰ってくる機体。テストすれば残骸となって帰ってくる鉄屑。帰ってこない事だってある。そんなものが日常茶飯事だ。それが当たり前で、「BETAに負けない機体を」「BETAを殺せる兵器を」と考えていた初めてこの所属になった最初の頃の姿はどこにもなかった。しかし、そんな彼らの目の前には新品に泥が少しついた程度にしか見えない戦術機に、本当に使ったのか疑いたくなる兵器が格納されていた。

 

 映されている映像は数時間前の新潟でのテストデータと動画だ。整備兵達にとって何故BETAが突如新潟に現れたかは不明であり不干渉ではあるが、BETAが次から次へと死体に変わるその映像は忘れてかけていた心を昂ぶらせるものがあった。

 

「交換が必要なパーツは……これだけ?」 

「なんて機動だ。これだけ動いて……」

「XM3。本物だ……」 

「ビームもすげぇっすよ! BETA共が溶けてやがる」

 

「さて、諸君。今度はこれを小型化。更にエネルギー効率性の向上。そして、破壊力も上げていくぞ……出来ないと思う者はいるか? 正直に言ってくれ」

 

 俺の言葉に手を上げる者は一人もいなかった。皆一様に、出来るとは言わないが、出来るという顔をしている。

 

「よろしい。では問題点の列挙から始めてくれ、次に改善案。俺は副指令のところに行ってくるからな」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 頼もしい声が敬礼と共に一斉に上がる。

 

「大成功ですね中佐」

 

「BETAを全て消し去るまで大成功とは言えないよ。……さて唯依姫」

 

「はい?」

 

「……案内して?」

 

「……はい」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「というわけで、横浜基地としての被害はゼロに等しいです」

 

「電磁投射砲とは違った兵器……ね。まぁいいわ」

 

「そういえば、帰ってきたら紹介する人がいるようなこと言ってましたよね?」

 

「えぇ、今頃演習場にいるわよ。あんたと篁じゃあ大変でしょうからね。腕利きのテストパイロットを寄越してもらったのよ」

 

 テストパイロットか……確かに俺以外でテスト出来る奴がいるならありがたい。基本的に自分の腕で確かめたい気持ちもあるが、作業に追われることもあるからな。

 

「資料いる?」

 

 俺は資料を渡されるが、見ても知らない人だろうから実際に戦術機を動かしている姿を見ないと腕とか分からないだろうな。と思っていた。しかし、顔写真がその考えを吹き飛ばし、違う考えを頭に巡らせた。

 

「タリサ・マナンダル少尉にステラ・ブレーメル少尉ですか……腕前はどの程度なのですか?」

 

「え!?」

 

「ん? 何で驚いてるのよ海堂」

「中佐?」

 

 俺は唯依姫の発言に大きく動揺した。

 

(何で唯依姫が知らないんだ? 同じ『XFJ計画』で……あれ?)

 

「……篁、少し外してくれる?」

 

「は、はい」

 

 夕呼先生が唯依姫を部屋から出し、話を切り出した。

 

「海堂、この二人を知ってるのね?」

 

「あ、はい一応。でも、唯依姫が知らないのは変だなって思って……」

 

「聞かせなさい」

 

 俺は記憶している限りのことをぼかして伝えた。まず、『XFJ計画』。これはこの世界の数ヶ月前に不知火などが、これ以上の改修は無理。と行き詰った結果、アメリカなどの技術・装備などを組み込んで、改修不可という限界を破ろうとしたものだ。トータル・イクリプスの世界だと、タリサとステラはこの計画のテストパイロット。唯依姫は日本側の開発主任という立場で、彼女たちとも当然ながら面識があり、知らないはずがないのだ。

 

「なるほど、サイバスターのラプラス・コンピュータだとそういう可能性的なものを予言しているということね。なら、これで一つ勉強になったじゃない」

 

「は? どういうことです?」

 

「魔法の予言でも外れるってことよ。それに頼っているようじゃ大怪我するってね」

 

 それは違う。違うけど……ここでは否定できない。ラプラス・コンピュータのおかげでこの世界のことが分かるという風に説明しているのだから、これ以上は深く言えない。

 

「それと、一応言っておくけど明日から1週間ぐらい私いないから」

 

「明日から1週間ぐらい? あ、タケル達の総合戦闘技術評価演習ですか」

 

「そう、クリア出来るといいわね」

 

 するさ、タケルなら。

 しかし今はそれよりも、唯依姫が何故タリサ達を知らないかが疑問で仕方がない。

 俺は部屋を後にして演習場に向かった。

 

 

 

 2機の戦術機が演習場を駆け巡っていた。2機とも俺がXM3開発前に改良した吹雪だ。日本の戦術機と海外の戦術機の機動特性はまるで別物だ。しかし、目の前の2機を見る限り、まだところどころにぎこちなさは残っているが、かなり自由に動かせているように見える。

 

「中々、見所がありますね」

 

 唯依姫は客観的にその機動を見てつぶやく。

 しばらくして、訓練を終わらせたのか、機体を降りて二人はこちらに歩いてきた。

 

「あん? 何だよお前。ガキがこんなとこまで入っちゃ不味いだろ? 誰かお偉いさんの子供か? ってかなり美形(イイツラ)だな……何食ったらこんな風になるんだ?」

 

 タリサは俺に対してそう言い放つ。隣から殺気染みたものを感じてそちらを見ると、唯依姫が冷たい目でタリサを見つめていた。

 

「……貴様、資料にあったタリサ・マナンダル少尉だな?」

 

「っ! 失礼しました中尉! タリサ!」

 

「あ、失礼しました!」

 

 ステラは唯依姫の階級章に気づいて、タリサに訂正するように伝える。そしてタリサはばつが悪そうに敬礼をした。

 

「私のことはいい。この方はお前らの上官だ!」

 

「「は?」」

 

「海堂正樹だ。階級は中佐。よろしく」

 

 本当に知らない者同士なんだなと、俺は考え込んでいた。

 しかし、目の前で驚きの声を上げるタリサのおかげで、また現実に戻される。

 

「失礼しました……お若いんですね」

 

「ステラも美人だな。タリサもカワイイし」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 隣から先ほどとは比較にならないほどの殺気が溢れている。俺はもうその方向を見れない。めちゃ怖い……殺気だけでBETA殺せんじゃね?

 

 褐色の肌でも分かるほどに赤くなるタリサが口を開く。

 風邪か? 体調管理もしっかりしろよ? テストパイロットなんだから。などと鈍感に構えてみる。基本的にこれはあの女神の所為なわけだから、俺に好意を持ってくれるのはありがたいけど、どこか第三者視点から見てしまう。

 

「……ほ、本当に中佐があの吹雪を弄ったのか……ですか?」

 

「ん? あぁ、そうだな。更に性能向上している機体もあるから、乗り回してやって問題点をバンバン出してほしい。それと、コチラの唯依姫が少しうるさいかも知れんが、好きに呼んでもらって構わない」

 

「じゃあマサキちゃ……///」

 

「それは駄目だ」

 

 ステラの発言を止め、俺は話を続けた。だーれがマサキちゃんだ。

 

「明日、この基地のエリート集団に対してミーティングを開くことになっているんだ。タリサにステラも参加してもらえれば、新型OSについて説明の手間が省ける」

 

「「了解!」」

 

「ちなみに海堂中佐は……」

 

「好きに呼んでいいって、呼びにくいなら構わないけど」

 

「あ、じゃあマサキは、資料で読んだ通りって事か……ですか? 中佐で、凄腕衛士で、技術開発顧問で、新型OS開発者で、えっと……男?」

 

「まぁ、そうだな。周りに他の人がいないなら敬語もいらんよ。基地にいるほとんどが俺より年上だ」

 

「マサキちゃ……マサキは何歳なの?」

 

 なんて言いそうになったコラ。

 

「18だ」

 

「……中佐? そろそろ行きますよ?」

 

「ん? 何かあったっ……け!?」

 

 そこには怒りを全て内に秘めた天使がいた。悪魔のような天使の笑顔だ。みっどないとしゃっふるだ。さっきから何を怒っているんだ唯依姫は! まさか嫉妬とかもあるのか女神さんよ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夜、寝付けずにいた。疑問が晴れずに引っかかっているからだ。

 

「なーんで知らないんだ~?」

 

 そもそもこの時系列に唯依姫もタリサもステラも横浜基地にいるはずがない。いや、基地にはいる可能性もあるけど、関わる事など無いはずだ。

 

『説明しよう~♪』

 

 聞いたことがある声が頭の中に響いた。タバコ好きな不良女神、フレイヤ(仮)さんだ。(仮)っていうのは俺の勘違いなら良いんだけど、初めて名前聞いた時に名前を考えたかのような間があったからだ。人間に言っていいのか? ま、いっか。程度での間なのか、偽名なのかは分からない。まぁ通じれば良いだろう。

 

「久しぶりだな。今の現状を説明してくれるのか?」

 

『まぁ簡単にね。マサキをこの世界に送る前に『戦術機の知識や乗り方』の能力をあげたんだけど、無償でってわけじゃないのよ。 この世界の他の人の知識を少しずつ貰って、マサキに入れたってワケ』

 

「この世界の住人の知識、戦術機の操縦方法とかを少しずつ……。ん~まぁそれは分かった。じゃあ、唯依姫にタリサにステラがこの基地にいるのは何でだ? 『XFJ計画』ってやつでアラスカだったかな? そこで面識があるはずなのに」

 

『えぇと…(パラ)…。あ、これね。『XFJ計画』って言うのが実施されてない世界みたいね。だから面識もないみたい。この世界の過去の人からも知識をもらっているから当然ね、XFJ計画を立案しようって考える知識も薄れてしまえば計画が始まることなんてないんだから。かと言って、パイロットの腕が落ちてて話にならないとか、軍事力が落ちてるとかまでの話ではないからその辺は気にしないで大丈夫』

 

「……ここはオルタネイティブの世界で間違いはないんだよな?」

 

『えぇ、そこは間違いないわ。その代わり、それに派生した世界。『トータル・イクリプス』の登場人物が出ないとは限らない。ある意味、『オルタネイティブの世界』と『トータル・イクリプスのパラレル世界』のクロスみたいなものね』

 

「なるほど、分かった」

 

 そして、フレイヤの声は聞こえなくなり、俺はその日は久しぶりにしっかりと寝ることにした。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

 伊隅みちるは香月夕呼を待っていた。いや、正確に言えばこの部屋にいる誰もが待っている。昨日の今日で、自分たちの乗る不知火に新型OSの搭載。更に開発担当者からの説明との事で、彼女たちは色めき立っていた。

 

「大尉~まだですか~」

 

 速瀬水月(はやせみつき)中尉は待ちくたびれたようだ。この部屋に来てすでに20分が経過している。確かにここまで遅れているとシミュレーターにでも乗っていたほうが有意義な気もする。彼女の性格がピッタリのポジションは突撃前衛長(ストーム・バンガード・ワン)だ。

 

「でも速瀬中尉は焦らされると濡れるんですよね?」

「む~な~か~た~?」

 

 宗像美冴(むなかたみさえ)中尉はいつものように突拍子もない言動で速瀬中尉をからかっている。

 

「全く、美冴さんったら……もう来ますよ」

 

 冷静に一歩引いてそれを見守るのは風間祷子(かざまとうこ)少尉だ。個性の強い速瀬中尉と宗像中尉の間を取り持つ役割を果たせるのは彼女しかいないだろう。

 

「水月も落ち着きなよ~」

 

 速瀬中尉を止めるのは戦域管制を担当する涼宮遥(すずみやはるか)中尉だ。総合戦闘技術評価演習中に事故に合い、戦術機乗りは断念するが、全くそれを感じさせない強い心を持っている。

 

「ねぇ晴子、新型OSって昨日の新潟のやつかな?」

 

 そんな上官たちに慣れてしまっていて、目もくれずに同期の柏木晴子(かしわぎはるこ)少尉に話を振るのは涼宮茜(すずみやあかね)少尉だ。名前から分かる通り、涼宮中尉の妹である。

 

「あれは確かに凄かったね~」

 

 そんな茜の軽い疑問に暢気に答えるのは柏木少尉だ。冷静で割り切った考えの持ち主だが、明るく暢気なため、周囲とのトラブルになることはない。

 

「でも子供の声じゃなかった? もしそうなら萌える展開だよね!」

 

 腐女子的発言が垣間見えるのは築地多恵(つきじたえ)少尉だ。興奮したりすると話し方に訛りが出てくるが、部隊のみんなは気にしていない。

 

「燃える? 多恵の言ってることはたまに分からなくなるな」

 

 軽く困惑の表情を浮かべながら? 麻倉(あさくら)少尉は隣の高原(たかはら)少尉に投げる。

 

「本当にね~。声から察するに、幼女だよ幼女。そんな年端もいかない子供が戦術機に乗れるわけないじゃん?」

 

 彼女たちがA-01部隊。伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の9人である。

 

 

 

 ガチャ。

 扉が開き、同時に静寂が訪れた。敬礼はしない。入ってきた人が敬礼というものを煩わしく思うからだ。

 

「揃ってるわね? 私はこの後出かけなくちゃならないから、早速説明を始めさせるわね」

 

 香月副指令はバインダーを片手に入ってきた。

 説明させるということは、開発者も来たということだろう。

 

「入りなさい」

 

「はいは~い。初めましてA-01部隊の皆さん。海堂正樹といいます。よろしくお願いしますね」

 

 そこには整備兵のツナギを着ている銀色の美しい長い髪を持った美少女がいた。頭の上にはクロ猫が乗っており、腕にはシロ猫が抱かれている。なんとも愛くるしい構図だった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 俺は軽く機体の整備をしてからミーティングをする部屋へと向かっていた。シロとクロも当然ついてくる。この場に唯依姫はいないが唯依姫特製の地図がある。迷うはずもなくスイスイ進んで行き、そして俺は……。

 

「……迷った」

 

「ミーティングが始まるニャ?」

「急がないと怒られるニャ」

 

 行けると思ったんだ! 今日こそ迷わずに行けると! 地図だってあるんだし! あぁこれじゃまた唯依姫に怒られるよ~。だが幸いなことに唯依姫はタリサとステラのところへ行っているから問題はないだろう。……いや! まさに今が問題だ! 迷ってるじゃん俺! アホ女神この方向音痴を直すような能力も付け加えろ!

 

『(はいはい手遅れ手遅れ)』

 

 ちくしょーっ!

 

「中佐? こんなところで何をしているんですか? この時間は副司令と一緒にいるはずでは―――」

 

「ぴ、ピアティフさ~ん!」

 

 ひしっ!

 俺は感動のあまり、ピアティフ中尉にしがみ付き、ワケを話した。

 

「と、とにかく離れましょう中佐! コホンッ ご案内いたします」

 

 俺はピアティフさんについていくと、途中で夕呼先生の姿が見えた。

 

「ピアティフ? 何でこんなところ……海堂? 遅いと思ったら、またなの?」

 

 えぇ、またです。また迷子です。もう開き直ってやるさね! って唯依姫もいるしぃっ!!

 

「あ、海堂中佐? 30分ほど前に部屋で別れましたよね? 部屋までの地図も用意しましたよね?」

 

「お、男は地図には縛られたらいけないのさ……」

 

「迷子が何言ってるのよ見せて御覧なさいよ……アンタこの地図でどうやったらこっちの通路からこれるのよ? 右だと言われて一度右を確認してから左に進むようなものよ?」

 

 地図を取り上げられ俺はアワアワとする。

 

「中佐って方向音痴なんですね。可愛らしい」

「いや、方向音痴で可愛らしいってなんだよ? そりゃ可愛いけどさ」

 

 後ろに続いて来てたステラとタリサは俺を見ながら何か言ってる。

 唯依姫は額に手を置いて苦悩している。大丈夫? 疲れがたまっているのかな?

 

「「(誰の所為ニャ、誰の)」」

 

「ほら、ついたわよ。(ガチャ)揃ってるわね? 私はこの後出かけなくちゃならないから、早速説明を始めさせるわね。入りなさい」

 

「はいは~い。初めましてA-01部隊の皆さん。海堂正樹といいます。よろしくお願いしますね」

 

 あれ、固まってらっしゃる? 明るく元気にしたつもりなんだけど……。

 

「補佐官の篁唯依中尉です。あと、主にテストパイロットを務めてもらう、ステラ・ブレーメル少尉に、タリサ・マナンダル少尉です」

 

 ステラとタリサは声は発せずに敬礼をした。

 

「じゃあ、時間も無さそうなんでコチラをご覧ください。あ、ステラもタリサも座ってね」

 

 俺は唯依姫からノートパソコンを受け取り、プロジェクターに繋いで説明を始めた。

 

 

 

「えー、今回説明させていただくのがこちらの新型OSです。正式名称は【XM3(エクセムスリー)】簡単に何が変わるかというと、行動制限の解除と衛士の癖などをより多く覚えこませることが出来るようになってます」

 

 『吹雪丸』と『ラプ蔵』を表示して説明は続いていく。

 転びそうになる吹雪丸はオートモードが働き機体は自動制御される。その間にラプ蔵が突撃砲を撃ってくる。吹雪丸はペイントまみれになり『大破!』と表示される。

 

 場面が最初に戻ってXM3を搭載してまた転びそうになる吹雪丸。しかし、そのまま突撃砲を構えラプ蔵に追撃をさせない。むしろ逆に転ばせてペイント弾の嵐を浴びせ大破させた。

 

「さて、気になる性能向上率はおおよそ30%です。もはや別物の機体として乗っていただくと良いかも知れません。さて次に―――」

 

「し、失礼ですが。馬鹿にしていますか?」

 

 伊隅大尉は手を上げて映像の内容について聞いてくる。

 

「なっ大真面目です! じゃあ、これ見せましょうか!? 最新データです!」

 

 それは昨日の新潟でのXM3の最終テストの映像だった。不恰好な不知火に7割近くのBETAが喰われて行く。A-01部隊はそれを見て釘付けになる。というか、最初からこっち見せればよかったみたいな反応だなおい。何のために吹雪丸とラプ蔵を造り上げたと思ってるんだよまったく。

 

「この不知火にはXM3が搭載されていました。あ、背中のタンクをパージしましたね。ここからが本領発揮ですかね。……あ、でも この動きでもまだ余裕がありますね」

 

 ざわっ!

 一瞬、『この動きでもまだ余裕がありますね』の一言に室内の空気が変わった。彼女達の不知火で精一杯動かしてアレで、その上を軽く行き、更に余裕もある。それは信じられないことであったようだ。

 

 しかし俺は気にせず説明を続けていく。

 

「このようにアクロバティックな3次元機動を可能としておりますが、機体の損耗率は変わりませんので、その辺が制御できない方は出来るようにするか諦めてください。整備兵が大変ですから。ちなみにA-01部隊で一番効率よく推進剤の使用を抑えていたのは伊隅大尉ですね。そして、こちらがXM3搭載型不知火です」

 

 俺は画面を切り替え、ブーストに必要な推進剤の使用率のデータをタイムライン別で比較するように表示した。

 

「ほとんど変わらないですよね? あれだけ重そうな装備をしていて、なおかつ伊隅大尉以上に飛び回っています。ちなみに推進剤の量は弄ってませんでした。さて、この差は何でしょう? えぇと、最後ピンチになってこの不知火に助けられた高原少尉、分かりますか?」

 

「わ、私? え、えぇとXM3の効果でしょうか?」

 

「話の流れからしてOSの効果かと思った方も他にいるかもしれませんが、少し正解、ほとんど違います。単純に衛士の腕です。推進剤のほかに明確に分かるデータがあります。(カタカタカタ……)コチラです。これは基地に戻ってきた後の解析した結果です。この不知火の交換部品はこれです。そして、ん~一番損耗率が激しいのは……やっぱりポジションから言っても速瀬中尉ですかね?」

 

「アタシ?」

 

 おぉ~。

 と、画面を見ての声が上がる。

 

「今回の戦闘で速瀬中尉の機体はこれだけの部品換装が必要です。まぁ他の方も似たり寄ったりですが、XM3の効果はあくまでも機体制御面のマニュアル化が大きな変更点です。その分操作が多くなるところもありますが、機体はより速く動けます。その反面、部品の損耗率は大幅に上がります。では、この差は何故でしょうか? 涼宮茜少尉」

 

「これもOSの効果はほとんどなく、衛士の腕ってことですか?」

 

「その通りです。早くXM3に慣れると共に、機体を壊さない、長く使うようにする癖をつけましょう。そうすれば結果的に人類の勝利はより身近なものになります。あ、もちろんこのA-01部隊がこの横浜基地のトップガンと知った上での発言です。それでも未熟な点は多いので磨いていきましょうね」

 

「す、すっげ~ぜマサキ!」

 

 タリサが興奮を抑えられないように声を上げる。

 

「ふふふ、じゃあ私は行くわね。あ、このデータは貰っていくわよ? 海堂あとはよろしく」

 

 そう言って夕呼先生はパソコンを取り、部屋を後にしようとする。

 

「あと? 他にも何かあるんですか?」

 

「んふふふふ~♪」

 

「いや教えてから行って下さいよ」

 

「アンタに紹介するやつってのはあそこのテストパイロットだけじゃないって事よ。その内にでも会えるでしょうから。じゃね~♪」

 

 またか。また増えるのか。今度は誰だ。日本嫌いならブリッジスだっけ? 彼は来ないはず。後は誰だ。流石に女性はもう来ないよな。いや、今時だと男の方が少ないのか? 男女比までは知らないからなぁ。まぁ、いっかなるようにしかならないだろう。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 伊隅みちる

 

 目の前の少女の声には聞き覚えがあった。しかし、似ているだけという可能性のほうが高い。この華奢な体であれほどの機動が出来るはずがない。恐らくこのマサキという少女はXM3の開発者とは ある程度近しい者なのだろう。子供でも天才というものはいるから不思議ではない。しかし、開発担当者本人から直接聞きたかったが、それでも十分理解は出来たからよしとしよう。

 

 動かしてみての感想は驚愕だった。不知火であって不知火でない機体。今まであった遊びなどの面が大幅にカットされている。操縦桿を少し倒せばその通りに動く、これは慣れるのに苦労しそうだ。ましてや、『あの不知火の動き』になるまでもどれほどの訓練が必要なのか。速瀬あたりは好きそうな感覚かも知れんがな。

 

 テストパイロットの2人はそれなりに動かしている。XM3とは知らずに傍から見ればまだまだの動きではあるが、私達に比べれば2歩3歩先を行っている。

 

 ズシャンッ!

 

『麻倉少尉。こけると整備兵から怒られるので気をつけてくださ~い』

 

 先ほどの少女の声が回線に入ってくる。先ほどの直接耳にした声と違い少し曇った感じの声色に、あの時の声と似ている気がしてしまう。

 

『は、はい!』

 

 

 しかし、トライアルコースを進むのがこれほど難しいと感じたのは初めてかもしれない。最初の結果は散々だった。これなら旧OSの方がまだ良いタイムを出せるだろう。しかし、1周2周と周るごとにタイムは縮み、成績は伸びていく。

 

『速瀬中尉は今のカーブのところで減速せずに曲がるようにすれば面白い機動を取れますよ~』

 

『減速なし!? 無茶言うわね』

 

 なるほど、遊びがなくなり即応性が上がっているなら機体もそれなりのモノに換装しているということか、ならば……。

 

 ギュオンッ!!

 

『今の伊隅大尉の動き良いですね。速瀬中尉、データ送るんで試してみてください』

 

 なるほど、私の場合は思うとおりに動かせると考えたほうが早いかも知れんな。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 この分なら早く慣れそうだな。俺は唯依姫と格納庫に来ていた。

 

「初めて戦術機に乗るってことなら問題ないだろうけど……」

 

「旧OSに慣れてますからね。新型に慣れるのは時間が必要ですね。アレは私もキツイです」

 

 他愛もない話をしながら格納庫まで戻ってきた。そこに格納庫では見かけることはまずない存在がいた。

 

「あれ? 霞?」

 

 呼んでみるが反応がない。そういえばウサ耳がなく、髪もツインテールに結っていない。国連軍のジャケットを着ている霞がいた。

 

 あれ? 今思えばウサ耳無しはタケルと寝るときだけだったよーな? 髪もツインテールじゃない……。しかもジャケットを着るなんて事は一度も見た事が……はっ!!

 

「な、何でここに……?」

「中佐?」

 

『その内にでも会えるでしょうから』

 

 あの時の夕呼先生の声が脳内に響く。

 

 ってことは……『イーニァ』か!?

 

 ピクンッ

 イーニァと思わしき人物が俺たちに気がついて振り向いてくる。俺は固まる。あぁ、間違いなくイーニァだ。自然と俺は少し後ずさる、イーニァも連動しているかのように一歩近づく。何だこの感じ。

 

 初対面のはずだが、何故かイーニァは目を輝かせて俺から目を離さない。

 

 俺も不思議な気持ちになる。何というか……獲物になってる気分?

 

 クロとシロは何かを感じ取ったのか、唯依姫の方へと移動する。

 

 ジリ……ジリ……

 

「中佐、どうしたんですか?」

 

 バッ!!

 

 

 唯依姫の俺を呼ぶ声が引き金となり、俺とイーニァの追いかけっこが始まった。

 

「どうして逃げるの!?」

「何で追ってくるんだ!?」

 

 

 

 第4コーナーを曲がって格納庫を抜ける。

 

「あ、マサ……キ?」

 

 一瞬タリサとステラが見えた気がするがとりあえず後回しだ。

 

「後ろの子は誰かしら?」

「さぁ? しかし、足はえーな」

 

 

 

「イーニァ!?」

 

 チラッと『クリスカ』も見えた気がする。そりゃ、後ろのがイーニァだとすればクリスカもいるだろうとは思うけど、マジか。マジなのか!?

 

「誰か後ろの子を止めてーっ!」

「誰かマサキを止めてーっ!」

 

 俺の名前も知ってる? ワケが分からん!!

 それになんて体力だ。全力じゃないにしても息をそれほど切らしてない。

 

 

 

 ロングストレートに入り、PXへ俺は駆け入った。

 

「マサキちゃんじゃないか、どうしたんだい急いで? まだ夕御飯には早いよ?」

 

「おばちゃん匿って!」

 

 俺は調理場の方へ入り、息を潜めた。

 

「おや、さっきぶりだねぇイーニァちゃんじゃないかい。夕御飯には早いよ?」

 

「シズエ、マサキ来なかった?」

 

 志津江(シズエ)とは京塚のおばちゃんの下の名前だ。そこまでの仲になっていたか。

 

「何かあったのかい?」

 

 おぉう、おばちゃんが俺の味方をしてくれている。

 

「マサキが逃げるの。イーニァ、何もしてないのに」

 

「何で追いかけてたんだい?」

 

 そうだそうだ。何で追いかけられにゃあいかんのだ?

 

「……何でだろう?」

 

 ガンッ

 

「?」

 

 俺は勢いよく頭を冷蔵庫にぶつけた。

 

「いやーデカイ猫が紛れ込んでてね。困ったもんだよ。……それで、イーニァちゃんはマサキと仲良くしたいんだね?」

 

「うん! うんうん!」

 

 何度も頷いてるのか、イーニァの声が届いてくる。

 

「だってさ猫さん。出てきな」

 

 俺は後ろの襟首を掴まれカウンター越しに顔を晒した。

 ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「マサキ! ……追いかけてごめんね? 許してくれる?」

 

「え、あ、あぁ逃げてごめんな。びっくりしたからさ……」

 

 理由も分からず追いかけられるなんて初めてだからビビった。

 

「イーニァ! ……良かったここにいたのか」

 

「クリスカ! マサキと会えたよ!」

 

「クリスカ・ビャーチェノワ少尉だ。よろしく頼む中佐」

 

「え、な、何で俺の事知ってるんだ? 特にクリスカなんてイーニァに近づくやつは誰であろうと毛嫌いするんじゃないか? 紅の姉妹(スカーレット・ツイン)がこの基地にいることも不思議だ」

 

 俺が知る限り、クリスカ・ビャーチェノワ少尉という人間はイーニァ・シェスチナ少尉以外の人間を嫌う節がある。恐らく国で色々あったのだろうが、イーニァが一番大切という印象がある。

 

「どうして中佐がそういったことを知っているかが私には不思議ですが、私とイーニァは香月副司令に呼ばれてこの横浜基地にきた。そして海堂中佐のことは香月副司令に、そこにいる京塚志津江曹長、他にも色々と話を聞いた」

 

「聞いたの! 私より少し小さい身長で、長い髪、見た目に反して偉いって!」

 

 エヘンッと言わんばかりにイーニァは俺をカウンター越しに撫で始めた。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「中佐のひととなりは分かったということだ。あなたほどこの基地で慕われている人物はいないだろうと。だから中佐のことは信頼する。そ、そうでなくても信頼できそうだからな」

 

 何故、最後で顔が赤くなる? 噛みそうになったのか? それが恥ずかしかったのか? これも女神の効果か。解除してくれないかなこれ。いや、でも解除した瞬間にいきなり嫌われるのも嫌だな。諦めるか。

 

「中佐! ここでしたか、いきなり走り出してまた迷子になったらどうするんですか!?」

 

「はっはっはっ! 唯依ちゃんも苦労が耐えないねぇ?」

 

 おばちゃんは唯依姫を労っている。何かGPSを付けるべきかどうかぶつぶつ言っているが、放っておこう。

 

「「ニャーン!」」

 

 カウンターに頭を乗っけている俺の頭にクロとシロが乗ってくる。

 

「あ~腹減った~。あ、マサキ腹減ってたのか? すげぇ速さで走っていくからびっくりしたぜ?」

「今日は何がいいかしらね? ……サバ味噌? マサキは何にするの?」

 

 タリサにステラもPXにやってくる。

 続くようにA-01部隊もやってきた。

 

「おっとまだ誰も食べてないか、早すぎたか~?」

「速瀬中尉は相手が早いと満足できませんもんね?」

 

「む~な~か~た~?」

「って麻倉少尉が言ってました~!」

「わ、私言ってません~!」

「全く静かに出来んのか貴様らは……」

 

「あ、海堂さん丁度よかったOSの質問なんですけど……」

「涼宮明日にしなさい明日に~」

「海堂さんのことマサキちゃんって呼んでいいかな?」

 

「却下します……慕われて、ねぇ?」

 

「はいはい、ご飯もう大丈夫だよー!! 並びなー!!」

 

 俺は騒がしくなり始めたPX内でやっとカウンターから抜け出し、飯を貰って席についた。クリスカは俺の前に座り口を開いた。

 

「……言いたい事は分かりましたか? 中佐殿」

 

「あぁ、よろしく頼むよクリスカ」

 

「私も! 私も名前呼んで!」

 

「あぁ、イーニァもよろしく」

 

「うん!」

 

「それから、クリスカ。俺のことは階級で呼ぶな。『ちゃん』付けでも呼ぶな」

 

「ま、マサキと呼べばいいのか? 変わった上官だ」

 

「あぁそれでいい」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「中佐? 随分と仲良くなったんですね?」

 

 え? めでたしめでたしって感じだったじゃん! 何で唯依姫は怒ってるの!?

 あ~そんなに醤油かけたら体に悪……はい何でもありません。

 

Side out

 

 

 

 




感想は随時受付中です。



この作品を初めて書いた頃は

「はいはいTEのアニメとかゲームなんて10年以上先でしょ~」

って考えてましたw

結局今はアニメ見てないしゲームもやってない。年齢を重ねると自然と手を出さなくなってきたな~って感じです。本当に気になる物とかは手を出すんだけど、どうしても純粋に楽しめない。悲しいっす。漫画は相変わらず読むんだけど何でだろう?

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