MUV-LUV ALTERNATIVE 救世主になれる男   作:フリスタ

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03

Side マサキ

 

コンコン

 

「……ぅぅん」

 

コンコン

 

「……ぁ~い」

 

「起きていらっしゃいますか? ピアティフです。お迎えに上がりました」

 

あ、そういえば夕呼先生に呼ばれていて、夕呼先生の部屋に入るIDがないのと、そもそも執務室まで辿り着けるのかが不安という事で迎えに来ると言う話だったんだっけ。

 

俺は昨日渡されていた軍服に着替えて部屋を後にした。訓練生用の白い制服ではなく、正規兵用の黒い制服には、その時疑問など少しも感じなかった。

 

「海堂さん。寝癖が付いてますよ。あ、ネクタイも……」

 

俺が目を擦っていると、ピアティフ中尉は俺の髪を撫でるように寝癖を治し、ネクタイも直してくれた。良い人だ。何というクールビューティ。

 

そして、ピアティフ中尉の人気を知った。すれ違うもの皆、敬礼をしてくるのだ。ピアティフさんに倣って俺も敬礼を返しておく。みんな顔が緩みきっている気がするが、見なかったことにしよう。何か他にも視線を感じるような……。

 

「ふふふ」

 

「?」

 

人気があることは嬉しい事なのだろう。俺はそう思った。

 

 

 

 

 

コンコン

 

「入りなさい」

 

「失礼します」

 

シュィーン

 

夕呼先生の執務室のドアが開く。

 

机に書類の山を2つ3つ築き、先生はパソコンに何かを打ち込んでいる。

学生時代打ち込んだものは何ですか? 楔とキーボードです! 合格!

あれ? 俺は何を考えているんだ? まだ寝惚けているようだ。

 

「よく来たわね」

 

「来いって言われましたからね。何です? 渡したいものって」

 

先生はニヤリと口元を吊り上げ、B5サイズぐらいの封筒を渡してきた。

 

「見れば分かるわ……というか、制服でも分かると思うけどね」

 

「制服?」

 

俺は自分の着ている制服を見回すが、ピアティフ中尉が着ているものとの違いなどは分からなかった。スカートかズボンじゃないかの違いぐらい? つーか、これは当たり前だもんな? 仕方なく俺は封筒の中を広げると、自分の認識票になるドッグタグ ・ IDカード ・ 戸籍謄本 ・ 紙キレ一枚が入っていた。

 

「おぉ~ありがとうございます」

 

俺は早速ドッグタグを首から下げ、首のところを少し引っ張り胸元へ忍ばせた。ドッグタグの金属部分が肌に触れ、その冷たさが俺の身体に少しだけ震えを与えた。

 

次に戸籍の紙を見ていた。

 

えーと、俺はこの辺の出身ということで……

 

「ちょ! 性別欄が女なんですけど!?」

 

「あら~? 間違えちゃったかしら? まぁ作り物だから気にしないでぇ。それよりも もう一枚の紙のほうが苦労したんだから」

 

絶対嘘だ。わざとやりやがったこの極東の魔女め……。まぁ戸籍自体を確認される事は無いだろうから、俺は気を取り直してもう一枚の紙を見やる。

 

「え~と辞令? 右の者を次の階級とする……中佐?」

 

「そうよ? 苦労したんだから思う存分働いてもらうからそのつもりでね」

 

「いやいやいやいやいや。おかしいでしょうが! やるなら最高でも大尉ぐらいで上司も部下もいる感じで、「海堂“大佐”」「私は大尉ですが?」みたいなやり取りとかをですね!?」

 

「ワケの分からない事をうるさいわね~。偉い方が楽に動けて良いじゃない。アンタは開発も出来るし戦術機もこの基地で恐らくトップクラスの腕前。さらに昨日は私の目の前で見せ付けたわよね? OSをその場で書き換えて性能を向上させるなんてアホよ アホ」

 

「アホなら階級を落として下さい!」

 

「それにね、アンタはもう大人気間違い無しよ?」

 

あぁ全く聞いてない。

夕呼先生は机の上のモニターをこちらに向けて動画を再生させる。

 

「ピアティフ中尉と……俺?」

 

ピアティフ中尉が俺の髪を撫でてクセを梳かしている。これは……ついさっきの朝の映像か。歩き出して……。

 

「あ、ピアティフ中尉じゃなくて俺に敬礼してるのか?」

 

夕呼先生はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

 

「今の階級章 見たか?」

「あぁ中佐だったぜ」

 

男は襟元を指で叩いて、同僚に話し始めた。

(あぁ、俺とピアティフ中尉の制服の違いってこれか。こんなん分かんねーよ)

 

「何であんな子供が……?」

「いやいや、そんな事よりも……」

 

「あぁ」

「「可愛かった……」」

 

ゾクッ

 

「ぇぇ~……?」

 

ムキムキの軍人二人組みに絶賛される少女の正体はもちろん俺のことだろう。それが分からないほど俺もアホじゃない。もちろん分かりたいとは思わないが。

 

「こんな感じでアンタのファンが増殖中よ。あの美少女中佐は誰だ!? てね」

 

俺はさっきピアティフ中尉が笑っていたのを思い出し、ピアティフ中尉を見た。

顔を逸らされた。罪悪感的なものがあるのだろうか。少し顔が赤い気がするが?

 

「ん? そもそも誰が盗撮を……?」

 

俺は隣の部屋のドアを見つめた。もしかするとこれは……。

 

シュィーン

 

「……スミマセン」

 

霞が出てきた。手にはカメラがある。

いや、お前だと怒るに怒れないだろ。かわいいなぁ。黒いウサ耳をピコピコと動かし、霞はまたドアの向こうへと行ってしまった。

 

「あ、あとIDカードはアンタの網膜パターンと合わせれば最下層まで行けるようになっているけど、ハイブを落とす時とか以外はサイバスターは出しちゃ駄目だからね? それもちゃんと作戦を練ってやらないと拙いわ」

 

「本当に駄目なんですか……じゃあ俺の機体は?」

 

「近いうちに不知火が届くわよ。知ってるわよね?」

 

【不知火】か。94式戦術歩行戦闘機。かなりの高速機動には優れるが、改修・発展などは難しいとされる機体だ。日本純国産戦術機の第3世代戦術機だ。

 

「……色々悩む事もありますが、俺は何をすればいいんでしょうか?」

 

「技術開発とウチの部隊を鍛えて欲しいのと、要望があれば聞くわよ」

 

聞くだけだろうな~……。

 

「分かりました。ウチのって言うのはA-01部隊ですよね?」

 

「えぇ。流石、知ってると話が早くて助かるわ~」

 

俺はタケルと一緒に進めていくつもりだったんだけどな……。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「というわけで、俺は中佐になってしまった」

 

「は?」

 

タケルがフル装備でランニングをしているところに通りかかり、声を掛けていた。

他の隊員はそこまで重そうなものを担いだりはしていない。それに比べてタケルは、何ともまぁ重そうなバッグや重火器を持って走っていた。

なんか言ったなこいつ。

 

「白銀ーっ!! サボリとは良い度胸だな!!」

 

「なっ!? 違っ……!」

 

神宮寺まりも軍曹がタケルに矛先を向けた。

あぁ俺が話しかけた所為か……。

 

「任せろ。……あなたが神宮寺軍曹か?」

 

「は? ……っ!? 失礼しました! 私が神宮寺軍曹であります!」

 

俺の制服を見て、まりもちゃんはビシッと敬礼をした。

一瞬、何この子? みたいな目をしたのは見逃さなかった。

 

「失礼、私は本日付で横浜基地に配属になった海堂正樹。階級は中佐だ」

 

「ご苦労様です中佐殿!」

 

「彼、白銀武は傑物だ。よろしく頼む」

 

「はっ!!」

 

俺はタケルにウインクをしてその場を後にした。

こういう時に階級を使うのは間違ってるんだろうな~。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マサキ……良い奴だな……」

 

「白銀、今の子は? ……ウインクされてなかった?」

「随分かわいい人でしたねぇ。……マサキちゃん?」

「彩峰、次は近接戦闘の訓練であったな? エレメントを組まないか?」

「なるほど……いいね」

 

「……マサキ……この展開まで予想していたのか?」

 

マサキは知らないが、一人の新任訓練兵の叫び声がグラウンドに響いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

マサキが中佐になるとはな~……。俺も早く衛士になって、発言力を持って、この世界をBETAから取り戻せるようにならなくちゃな。

 

俺は気分転換もかねて夜のグラウンドに散歩に出かけた。

 

ふと思い出したのは前回の12月24日のクリスマスの事だった。今思えばクリスマスを祝えるなんてありえない話だよな……。あの時は外に出るのも辛いぐらい寒かったけど、今の夜はまだ結構暖かい。

 

足音。走っている靴音がする。 誰かいるな。

 

「ん? 何だ、白銀か」

 

「冥夜か……っと、悪ぃ……」

 

また下の名前で呼んじまった。

 

「別に構わぬが……順序というものがあるぞ?」

 

「すまん、オレ慣れ慣れしいらしくてな……」

 

「わかっていても癖は直らんか……もっとも、だから癖と言うのであろうが」

 

冥夜は自主訓練でトラックを周回していたようだ。前回も聞いた事があったか?

 

「私は一刻も早く衛士となり、そして戦場に立ちたいのだ」

 

……そうだ、確かにオレはこの話をした。

 

冥夜はこの星。この国の民。そして日本を護りたいという。

 

「白銀、そなたにはないのか?」

 

「あるよ。地球と全人類だ。……別に対抗したわけじゃないぞ、念のため」

 

「誰もそんな事は言っておらん。だが何故そなたが『特別』と呼ばれるのか……納得できたのだ」

 

「あぁ……目的があれば、人は努力できる」

 

「ほう……? 簡潔で良い言葉だ……目的があれば、人は努力できる……か、私も倣わせてもらおう」

 

「もともと冥夜の言葉だ」

 

「え?」

 

あっとやべぇ。オレは誤魔化して、冥夜と別れた。

目的があれば、人は努力できる。よしっ! 一日も早く衛士になるぞ!

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

……これで良し。気分転換にアレやるか。これは最小化しとこう。

 

「あ~眠ぃ」

 

シュィーン

後ろの自動ドアが開く。やってきたのは夕呼先生だ。

 

「一日目で成果は出ないわよね。今日は何してたの?」

 

「タケルにオレの階級を伝えたのと、フォローしたのと、京塚のおばちゃんに「アンタちゃんと食べてるのかい!? 沢山食べて大きくなりな!」って特盛で飯食って、そっからはずっとここに缶詰ですよ。ふぁ~ぁふぅ……」

 

「今は何をしているところなの?」

 

夕呼先生はオレの後ろからパソコンの画面を見つめる。

 

「とりあえずは【XM3】ですね」

 

「えくせむすり~?」

 

「これはタケルの考えですけど、戦術機の機動に関してコンボとキャンセルを導入させているところですよ」

 

「コンボ? キャンセル?」

 

「コンボは、例えば『このボタンを押せばパンチを出す』というものがあったとして、3回押すとどうなります?」

 

「そりゃあパンチを3回出すでしょう」

 

「そう、普通なら片手でパンチを3回出します。でも連続で押した場合は変化が出てくる。『左ジャブ・右ストレート・左アッパー』みたいにね」

 

画面に表示された青い戦術機。

俺はその【吹雪】を模した2頭身タイプの戦術機を操作しながら答える。

そのキャラは俺が言ったとおりのモーションを取る。

 

「……何これ?」

 

「今日一日かけて作ったオリジナルキャラクター。SD戦術機の吹雪丸です!」

 

スパーンッ!

はいツッコミ入りましたーっ! あざーっす! おかげで少し目が覚めた。

でもさ、2頭身のロボットって言えばスパロボじゃないですか。出てほしいじゃないですか戦術機がスパロボの世界とか……いや、BETAは気持ち悪いけど、宇宙怪獣とかインベイダーとか出てるんだからあ大差ない気がするのは俺だけかな。

 

 

「何を作ってるのよ、何を」

 

「今はXM3の説明用プログラムですよ。大丈夫ですって明日は本題に取り掛かり始めますから」

 

「全く……で? キャンセルは?」

 

「戦術機って倒れそうになると勝手に噴出(ブースト)とかを使って受身をとろうとしますよね? その受身のシーケンスに入ると操縦が一切効かない状態になるんです。そのシーケンスをキャンセルして、射撃などの行動を取れるようにするんです。まぁ機体の自動制御をキャンセルするんです」

 

「電子機器や機体に負担がかかりそうね……整備兵に殺されるわよ?」

 

「まぁ衛士が立つ戦場ではそのシーケンスですら命とりなわけですよ。倒れながらでも射撃できた方が生き残る確立は上がりますからね。それに、殺されるも何も今朝の話だと、俺も整備する事になるでしょうしね。あ、それとコンボしてる最中にキャンセルも出来るようにします。まぁ突き詰めれば【並列処理】ですよ」

 

「……並列処理? っ まさか!?」

 

「えぇ、これは00ユニットのためでもあるんですから」

 

00unit(ユニット)。それはオルタネイティブ4に必要不可欠なもの。

タケルにとっても掛替えのない存在だ。

 

「……そう。白銀は前回は12月24日がタイムリミットだったって言ってたけど」

 

「間に合いますよ」

 

カタカタカタカカタカタ……。

俺はパソコンにプログラムを打ち込みながら、遮るように自信満々に答えた。

 

「大丈夫ですよ。この世界は人類のものだ……いつかって明言はできないけど、全てのBETAをこの星から……」

 

タンッ!

俺はもう一つのプログラムを組み上げ、

「出来た!」と言わんばかりにEnterキーを勢いよく叩いて言い放った。

 

「消します」

 

夕呼先生は息を呑んで画面に釘付けになった。

 

「……こ、これは?」

 

俺は画面に表示された緑の戦術機。

F-22A(ラプター)】を模した2頭身タイプの戦術機を操作しながら答える。

 

「吹雪丸のライバルのラプ蔵です!」

 

スパーンッ!

 

「違うんですよ聞いてくださいよ~」

 

「何よ? 納得のいく説明をくれるのかしら?」

 

もちろんですとも!

 

「いいですか? 吹雪丸は見も心も大和撫子のような女の子で、ラプ蔵はアメリカからの転校生なんです! 最初はいがみ合う二人ですが……!」

 

スパパーンッ!!

 

「もう寝なさい。くだらない事で力使って倒れられたら堪ったものじゃないわ」

 

シュィーン

 

俺はまた部屋に一人になった。俺はツッコミが入った箇所を擦り、少し伸びをした。

 

「ん~っ……ふぅ。おかげで目が覚めた。さて、続けるか」

 

最小化してあったプログラムを元のサイズに戻して、またキーボードの軽快なリズムが暗い室内に刻まれていった。

 

Side out

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。



(前回通り)中佐になるマサキ。今のところの変更点は無し。

というか、そこまで変更すること無いかなと思ってます。

変なところがあれば文章の修正とかはしてます。

それに伴い、入力ミスが出てきたりしますw

例) 白銀 武(○)  ⇒⇒⇒ 白金 武(×)

こんな単純なミスがあったりします。気を付けます。
ご指摘いただけた方ありがとうございます。

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