IS×Z.O.E ANUBIS 学園に舞い降りた狼(ディンゴ)   作:夜芝生

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今回はISサイドのお話と、Z.O.E世界とのミックス要素の説明回。
……今度はディンゴとエイダが出てこないという。
話の進みが遅いのは、ご容赦下さい(汗

※試験的に、サブタイトルを新たに入れてみました。
 もし不評なようでしたら、にじファン版に戻す予定です。


Episode.1 壊れる日常、始まる物語

2000年初頭、地球の人口・環境・エネルギー問題はピークに達し、人類は新たなフロンティアを求めるために、再び宇宙への進出に力を入れ始めた。

 2020年の月面基地開発を皮切りに、軌道エレベーターの建設、宇宙空間作業用ロボット「Laboriou Extra-Orbital Vehicle」……通称「LEV」の開発、スペースコロニーの建造、火星移住のためのテラフォーミングの開始……etc

 

 

 様々な技術革新と共に、ありとあらゆる宇宙開発の計画が持ち上がり、世界は半世紀という短い時間で、昔で言う近未来的な様相を呈していった。

 

 

 そして、AD.2067……恐らくは人類史を大きく塗り替えるであろう、二つの出来事があった。

 

 

――一つは、木星の衛星カリストへの有人探査にて発見された、未知の鉱石メタトロンの発見。

 この鉱石がもたらした恩恵は大きく、これが無ければ、宇宙開発は100年遅れていただろう。

 

 

――そしてもう一つは……インフィニット・ストラトス――通称「IS」と呼ばれる、宇宙空間での活動を想定して開発された機体の発明である。

 

 

 コアと呼ばれる中枢部を中心に、装甲化された手と足のパーツを持ったこの兵器を一言で言い表すならば、「規格外」。

 

 

 シールドバリアと呼ばれる不可視フィールドと、「絶対防御」と呼ばれるパイロット保護機構、指でへこむ程の弾力性とセラミックを遥かに超える超硬度を持ち、電力供給やメタトロンの補充を行うことで自己修復まで可能なSSA(セルフ・サポーティング・アーマー)といった革新的技術によってもたらされる圧倒的な防御力は、パイロットをありとあらゆる危険から守る。

 PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)によって、航空力学や慣性の法則といった物理法則を無視するかの如き動きで大空を自由自在に飛び回り、コアからもたらされる大出力に裏打ちされたパワーは、素手で岩塊を握り潰し、コンクリートを踏み砕き、軍用LEVの武装をも上回る大火力の兵器を安々と使いこなしてみせる。

 更に、周囲のありとあらゆる状況をパイロットにダイレクトに伝えるハイパーセンサーをも搭載した、正しく究極のマルチフォーム・スーツであった。

 

 

 しかし、そのような高性能を持つISであったが、最初は世界中から一笑を以て迎えられた。

 

 

 当時、軌道エレベーターは既に完成しており、宇宙航行の技術も20世紀の時代と比べて格段に進歩していたが、宇宙での単独活動は未だに多大な危険を伴うものだった。

 当時最新鋭の存在であったLEVでも自在に動くには苦労するというのに、殆ど生身に毛が生えたような宇宙服に何が出来る……というのが、当時の世論であった。

 

 

 そして、世界がISを軽視した理由のもう一つが、ISを動かす為の適性の存在だ。

 

 

――ISは不可解な事に、「女性」でしか動かす事が出来なかったのだ。

 

 

 男尊女卑の風潮は、20世紀の頃と比べて緩和されてきてはいたが、当時はまだ宇宙での活動といった過酷な環境は、男性の領域であるというのが一般的な認識であった。

 それに、如何に高性能とは言え、特定の人間しか扱えないのでは意味がない。

 更に、ISの要であるコアは開発者である天才科学者の手によるハンドメイドであり、彼女が作ったコアの数も限りなく少なかった事がそれに拍車をかけていた。

……ISは誰にも注目される事無く時代の波に押し流され、消えていく――かと思われた。

 

 

 だが、IS発表から一ヶ月後……世界を震撼させるニュースが報じられた。

 

 

 日本を射程圏内に収めるミサイル基地のメタトロン・コンピューターが一斉にハッキングされ、合計2341発ものミサイルが日本に向けて発射されたのだ。

 大混乱に陥る政府、自衛隊、住民、そして世界各国を尻目に突如現れたのは、剣を携えた、純白の騎士の如き姿のISを纏った女性。

 彼女は途轍も無い機動で、ミサイルの全てをたたき落として見せた――その手に持った、蒼く輝く剣一本と、荷電粒子砲一門だけで。

 そして、「白騎士」は彼女を危険に思った各国の軍が派遣した戦闘機や戦艦の全てまでも、単騎で撃墜、無力化し、人知れず大空の彼方へと消えていった。

 

 

――そして全てが終わった時には、ミサイル、戦闘機、戦艦といった兵器を除けば、死傷者0、物的損害0という驚愕の結果だけが残っていた。

 

 

 1億を超える人々を、世界経済の要である日本を、たった一人で守った美しき騎士、そして彼女が纏っていたISの存在は、人々の心に刻み込まれ、喝采を持って賞賛された。

 

 後に「白騎士事件」と名付けられたこの事件を切っ掛けに、世界各国は合計467個しか存在しないISのコアを一つでも多く手に入れようと躍起になり、潤沢な資金と多大な時間をかけてその開発と発展を急いだ。

 ISは既存の兵器を押しのけて、世界のパワーバランスを担う存在となっていったのである。

 同時に、ISを扱う素質を持つ女性達の地位は見る見る向上していき、世界はかつての男尊女卑から、女尊男卑の価値観へと移り変わっていった。

 

 

 そしてその十年後、IS運用を定めた協約「アラスカ条約」に基づいて、IS適性を持つ16歳以上の女子を対象に、IS操縦者、そしてそれに連なる技術者や研究者を育成するために、日本に設立された国連所属の教育機関「IS学園」にて、この物語は始まる。

 

 

AD.2077――PM10:00 日本 IS学園第二アリーナ格納庫内。

 

 

 入学試験を一週間後に控えたIS学園――その試験会場となるアリーナの格納庫の中では、整備科の生徒達や教師達が、試験に使用されるISの調整作業に明け暮れていた。

 

「ふわ~~~~ぁ……織斑先生……5号機の調整、終わりまし……ふわぁ……」

 

 生徒たちは夜間という事もあり既に寮へと帰っており、現在作業をしているのは二人の女性教師――その片方、緑の短髪を持ち大きな丸眼鏡をかけた女性が、大きな欠伸をしながら目をこすり、傍らで同じく端末を操作している教師に報告する。

 

「ご苦労、山田先生……しかし今は業務中だし、それ以前にその大欠伸は女性としてどうかと思うぞ?」

「はうっ!? き、気をつけます……」

 

 呆れたような口調で指摘を受けて、緑髪の女性――山田 真耶は思わず体を縮こませる。

――それに合わせて、胸元でむぎゅう、と音を立てて自己主張をする豊か過ぎる程の双丘。

 まだあどけなさを残した気弱そうな顔との対比は、あまりにもアンバランスであり、それが更に彼女の魅力を引き立たせていた。

 

「――こちらも終了、と。ふう、私も少しばかり肩が凝った。

 今日中には終わるだろうから、少し休憩にするとしよう」

 

 そう言うと、もう一人はコキコキと首を鳴らしながら、空中に浮かんだ立体ディスプレイを消し、傍らにあったパイプ椅子の上に体を預ける。

 癖一つない長い黒髪を持ち、整った顔立ちにはまるで氷のような冷たさと美しさが同居した、妙齢の女性――名を、織斑 千冬という。

 

 

 この学園の教師にして、かつて国家に所属するIS同士が、その威信をかけて競いあう世界大会「モンド・グロッソ」、その栄えある第一回大会にて総合優勝し、「ブリュンヒルデ」の称号を授かった、世界最強のIS乗りだ。

 

 

「あ、はい。じゃあ、コーヒーを淹れて来ますね」

 

 千冬の言葉ににっこりと微笑み返すと、真耶は格納庫の端に設けられたドリンクバーへと、とてとてとした足取りで駆けていく。

 その後ろ姿を微笑ましげに見送ると、千冬は近くにあったラジオの電源を入れる。

 

『――次のニュースです。

 国連の発表によりますと、先日未明、火星テラフォーミングプロジェクト基地周辺の掘削作業現場で崩落が起こり、多数の死傷者が出ているとの情報が入りました。

 詳しい事はまだ分かっておらず、国連は近く軌道エレベーターから調査チームを火星に向けて派遣するとの声明を発表しました。

 2052年に始まったこのプロジェクトですが、その作業は困難を極め、過去にも――』

 

 スピーカーからは、ニュースキャスターが遠く火星で起こった事故を伝えるニュースが流れてきた。

 

「……また、事故が起こっちゃったみたいですね」

 

 真耶が両手に湯気の立つマグカップを持ちながら、憂いげに眉を寄せて呟く。

 受け取ったコーヒーを啜る千冬の顔も僅かに沈んでいた。

 

「――想像を絶する過酷な環境だからな。無理も無かろう」

「一機でもいいから、この子達を送り出す事が出来ればいいんですけど……」

 

 真耶が見つめる視線の先、そこにISの第二世代型量産機「打鉄」が、待機状態で並べられていた。

 鈍色に輝く質実剛健な外見は、まるで鎧武者のようにも見える。

 しかし、量産機とは謂えども、これを身に纏った人間が作業をしたのならば、文字通り千人力とも言える力を発揮する事だろう。

 

「――無理だろうな。ただでさえ地球の中で奪い合いに躍起になっているんだ」

「そう……ですよね」

 

 真耶の言葉を、千冬はばっさりと切り捨てた。

 

「表向きは宇宙空間での確実な安全性が保証されていない、という事になっているが、実際は成功するかも分からない博打に、貴重なISを割いて壊されては堪らない、といった所だろう」

「博打なんて‥‥こうして、命を掛けてる人達がいるのに……」

 

 千冬の言葉に、真耶は目の端に涙を浮かべながら、拳をぎゅっと握り締める。

 普段はのんびりとしており、少々ドジで頼りない部分も多いが、見ず知らずの遠い何処かにいる他人の事でここまで本気になって怒れるという点は、山田 真耶という教師の美徳と言えた。

 心の中ではそんな彼女を好ましく思いながらも、千冬は敢えて厳しい言葉を投げつける。

 

「それが政治というものだ――胸糞悪いがな。

 山田先生……いや、『真耶君』も、そろそろそういうものに慣れなければならん。

 私も君も、このIS学園の教師なのだからな」

「うぅ……分かってます。分かってはいるんですけどぉ……」

「ふふ、まさか君にいきなりそのような腹芸はさせるつもりは無いし、問題さえ起こらなければ我々の立場はあくまで教師だ。

――精々ここに飛び込んでくる未熟者共を叩きのめして鍛え上げ、一人前にするだけさ」

「あ、あはは……」

 

 そう言って笑う千冬の顔は、不敵でサディスティックな笑みに彩られていた。

 彼女のしごきに今年は一体何人の生徒が耐えられるだろう……と、彼女のかつての「後輩」として、これから後に続く子供たちを案じる真耶であった。

 

「さて、まずはそのためにも調整を終わらせなければな。

 山田先生、続きを始めるとしよう」

「あ、はい。じゃあマグカップ片付けちゃいます――」

 

 

――ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!

 

 

 ね、と続けようとした瞬間、格納庫の中にけたたましいサイレンと共に、警告ランプが周囲を赤く染める。

 その瞬間、千冬はパイプ椅子を蹴倒して立ち上がり、真耶は驚愕のあまりマグカップを床に落とす。

 白いマグカップがコンクリートの床に砕かれ、破片が飛び散った。

 

「あ、あわわわっ!? こ、このマグカップ気に入ってたのにっ!?」

「そんなものまた買えばいいだろう!! そんな事より状況は?」

「ひ、ひゃいっ!? ちょ、ちょっと待ってください~~!!」

 

 千冬の怒声に我に帰った真耶は、辺りにある機材に躓きながらも手近な端末に飛びつき、素早い動きで操作し始める。

 

「えっと、えっと……せ、成層圏から大質量の物体が学園敷地内に向かって急速接近中!?

 衝突地点は‥‥え、えええええええええええっ!?」

「叫んでいては分からん。衝突地点は何処なんだ?」

「ひぇ、あのそのあのあのあのあの……」

 

 完全に動揺してしまっている真耶に痺れを切らした千冬が、彼女を押しのけて端末を覗き込む。

 

 

 観測班が導きだした衝突地点……それは、ここ第二アリーナであった。

 

 

 しかも、データから導き出される物体の質量と速度を考えれば、アリーナに張られたエネルギーシールドなど、薄紙も同然だ。

 これには流石の千冬の全身からも血の気が引き、思わず表情が引きつる。

 

「ひえええええ‥‥ど、どどどどどうしましょう~~~~!!」

「どうしたもこうしたもあるか!! 来い!!」

 

 未だ動揺し続ける真耶の手を強引に引き、全力で走る。

 そして、建物を支える頑丈な柱を見つけると、そこに身を預け、可能な限り身を縮ませた。

 勿論、真耶の頭を抱いて庇う事も忘れない。

 

 

――轟音と共に大気が唸りを上げ、ビリビリと辺りの物体が振動する。

 

 

 数秒後――凄まじい衝撃と共に、アリーナの建物が大きく揺れた。

 

  




導入部分……やべぇ、何だか突っ込みどころ満載な気がしてきた(汗
ディンゴさん&ジェフティ・エイダのコンビ登場は次回になります。

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