ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第七話「倒す強さ、許す強さ」

 

 

 

心配しながら見送ってくれた幽霊達に手を振りながら二人は先を進み、再び玉座の間に戻って来た。

親分ゴーストは戻って来た二人を睨み付けるが恐れもせずに睨み返してくる二人相手に正直怯えていた。

 

『ば、馬鹿め!お前達の様な子供が儂に勝てるとでも思っているのか?』

「その子供相手にあんな姑息な罠を使ったのは誰よ?」

「言っとくけど僕達は怒ってるんだからね、覚悟しろっ!」

『身の程知らずめ、ギラ!』

「うわっ!」

「きゃあっ!」

 

先制攻撃は親分ゴースト、いきなり閃熱呪文(ギラ)を放って来るがここまで闘って来た魔物の中にも呪文を使って来た相手はいたのでそれほど慌てずにかわす事が出来た。

逆に親分ゴーストは先制攻撃をかわされた事で動揺し始めた。

魔族は人間よりは強い体と魔力を持ってはいるが、親分ゴースト自身はそれほど強い訳では無かった。

武器を持っても攻撃力は高くなく、呪文も強力な攻撃呪文は持っていなかった。

 

つまり、親分ゴーストは生者が居ないこの城だからこそボス気取りの出来た、いわゆる「張り子の虎」であったのだ。

 

そんな彼の一番の武器でもあったギラもあっさりとかわされ、今度はリュカ達が呪文攻撃をかけて来た。

 

「バギ」 

「メラ」

 

『ぎゃああーーーーっ!』

 

リュカのバギに引き裂かれ、ビアンカのメラに燃やされ、のた打ち回りながら服に燃え移った火を消す為に転げまわる。

そんなあまりにも無様すぎる親分ゴーストを見て、二人はただ呆然とするしかなかった。

 

「……あ、あれ?」

「何なのよコイツ。少し弱すぎるんじゃない?」

 

『ひいぃ~~~、助けてくれい。わ、儂が悪かった…勘弁してくれ、許してくれぃ~~~~!』

 

親分ゴーストはひぃひぃと泣き、床に頭を擦り付けながら二人に許しを請うてくる。

二人は顔を見合せながらどうしたらいいのか分からなくなって来た。

何しろ強敵との一大決戦を覚悟してやって来たというのに、呪文を二発当てただけで泣き喚きながら謝って来るのだから。

 

「と、とにかく!許してほしいのならまず、王様達を苦しめている呪いを解きなさい!」

『は、はい!今直ぐに!』

 

親分ゴーストは両手を上に上げ、何やら聞き慣れない呪文を唱えると、城の中に漂っていた嫌な感じがゆっくりと薄れて行った。

 

『これでこの城に浸透させていた儂の魔力は消えました。城の中に残っていた魔物達にも立ち去るように命じておきましたからじきに元の静かな城に戻る筈です。こ、これで許してもらえますね?』

 

親分ゴーストは相も変わらず土下座をしているがそんな彼の前にリュカは立ち、睨みつけながら見降ろす。

くすぶっていた怒りが再燃して来たらしい。

 

「まだ話は終わってないよ!何でこんな事をしたんだ!」

「そうね、許すか許さないかはその事を聞いてからの話ね」

『はい!話します、話します。実は……』

 

 

そして彼は語り始めた。

彼は元々魔界の辺境で小さな集落を作り、魔物や若い魔族達と共に村長(むらおさ)として暮らしていた。

そんなある時、今までに無い強力な魔力を持つ大魔王「ミルドラース」が魔界全土を掌握した。魔物達や魔族達はその強力すぎる暗黒魔力の波動を受け、より強力な魔物や魔族へと変貌していった。

 

だが何故か自分だけは大魔王の影響を受けずにいた。

やがて、集落に住んでいた者達は大魔王に仕える為に村を離れて行く。

行かないでくれと頼んでみても見下した目で冷ややかに見返して来るだけで次々と去って行く。

 

従えていた筈の魔物達も自分よりも強力な力を得て、逆に攻撃を仕掛けてくる始末だ。

同じ様に大魔王の元に行ったとしても下手をしたら魔王軍の一員では無く魔物の一匹として扱われるかもしれない。

彼なりの小さな誇りがそれを許さなかった。

 

完全に行き場を失った彼は未だ大魔王の影響下に無い人間界に逃げる事にし、旅の果てに辿り着いたのが此処レヌール城だった。

 

その後はリュカ達の知っている通り、王様気取りで城に君臨していた訳だ。

 

「……随分とまあ、身勝手な話ね」

「いくら行く所が無くなったからって、死んだ人達を苦しめた事は許せない!」

『ひいいっ!ゴメンなさい、ゴメンなさい!』

 

あまりの身勝手さにビアンカとリュカが茨の鞭とブーメランを振り上げた時、扉の方から声が聞こえて来た。

 

『小さな勇者達、もう其処までにしてあげなさい』

『それ以上は退治では無く虐めじゃ』

 

その声に二人が振り向いてみると、其処にはレヌール王と王妃が立っていた。

 

「王様に王妃様、何で止めるの?」

「そうだよ、コイツのせいで王様達は苦しんだんじゃないか!!」

 

怒りが治まらないといった感じの二人に王と王妃はゆっくりと近づいて行き、王はビアンカの、王妃はリュカの頭を其々優しげに撫ると二人の怒りも徐々に落ち着いていく。

 

「王様?」

『儂等の為に怒ってくれるのは嬉しいし、正直儂等も此の者の行いは許し難い。だがな小さな勇者達よ、それでも「許す」という心の強さは必要だと儂は思うのじゃ』

『此の者が誤ってしまったのは力と心が弱かったから。此の者をこのまま倒すのは「力」の強さ、しかし私達はあなた達に此の者を許すと言う「心」の強さを持ってほしいのです。その強さはいずれあなた達が大人になった時に正しい道を示してくれるでしょう』

 

レヌール王と王妃がリュカ達に語りかける言葉を聞きながら、親分ゴーストはその瞳から涙を零していた。

こんなに大きな心を持つ二人に比べて自分は何と小さな存在だったのだろうと。

頭を下げ続けながら涙をボロボロと零す親分ゴーストを見ながら、リュカとビアンカもその怒りを霧散させていった。

 

「もう、悪い事はしないわね?」

「約束するんなら許してあげるよ」

「約束します!二度と悪事は働きません、貴方達の心に答える為にも頑張ってやり直してみます!」

「……じゃあ、仲直り」

 

リュカはバツが悪そうにそっぽを向きながらも親分ゴーストに手を差し伸べる。

彼はその手を両手で包み込む様に握り締め、泣きながら何度も「ありがとう、ありがとう」と繰り返し、その体はリュカの手から零れて来る光の粒に包まれていた。

 

 

―◇◆◇―

 

夜明けも間近に迫って来て、親分ゴーストは精神修行の旅に出ると言い、城を立ち去ろうとしていた。

レヌール王と王妃は心を入れ替えたのならこの城に留まって良いと言ったのだが彼は、

 

「いえ、ワシがこの城に留まっておると貴方様方はともかく、ワシが苦しめていた臣下の方々が安らかに休めぬでしょう。それにワシも世界を見て回りたいのです」

 

と言い、王やリュカ達も快く見送る事にした。

 

「おっと、そうじゃ。実は以前、この様な宝玉を見つけたのじゃが」

 

彼は懐に手を入れ、手の平大の黄金色に輝く宝玉を取り出した。

 

「これは王様達の持ち物では無いですかの?」

『いや、我が城に伝わる物では無いな』

 

王と王妃もその宝玉を眺めて見るが心当たりのある物では無かった。

 

「ふむ、ではどうするか……。そうじゃ、リュカ殿がもらってはくれまいか?」

「僕が?」

「うむ。ワシの様な者が持っておるよりもリュカ殿が持っておる方がふさわしいじゃろう」

「そうね、リュカの方が強かったもの。リュカが持っておくべきだわ」

「分かった、僕が持ってるよ」

 

宝玉を受け取ったリュカは大事そうに袋の中にしまう。

 

「じゃあ、ワシはそろそろ行くとしよう。王様、それに王妃様、色々とすみませんでした。リュカ殿にビアンカ殿もお元気で」

『うむ、今度こそ道を誤らない様にな』

『新たな道を進み始めた貴方に神の御加護があらん事を』

「今度悪さしたら何処までも追いかけて行くからね」

「ははは…肝に銘じておきますじゃ」

「おじいちゃんも元気でね」

 

「リュカ殿、ワシの名は「マーリン」と申します。何時か再び出会えた時、貴方のお力になれる様に頑張りますじゃ」

 

歩き出した親分ゴーストに手を振りながら別れを告げるリュカ。

そんなリュカを振り返りながら彼は眩しいモノを見る様な目で自分の本当の名を告げたマーリンは笑顔で手を振りながら朝焼けの中に旅立って行った。

 

「とにかく、これで約束のオバケ退治は終了ね。これで猫ちゃんも……」

 

そこまで言ったと思ったらビアンカの顔は段々と青くなって行き、ダラダラと汗も滝の様に流れて来た。

 

「ど、どうしたの、ビアンカ?」

「あ、あはは、あはははは……、どうしようリュカ!? もう朝よ、ママやパパスおじ様達も起きている時間よ」

「あーーーーっ!すっかり忘れてたーーっ!」

 

ビアンカがそこまで言うとリュカもようやく理解出来た様で同じ様に青くなり、汗を流しまくる。

 

『これを使いなさい』

 

そんな二人にレヌール王が両手を差し出したと思ったら、その手の中には光と共にキメラの翼が現れた。

 

『アルカパの町の教会には私達がお告げと言う形で今回の事を伝えておきます。少しは怒られるかもしれませんがそれ程酷く責められる事は無いでしょう』

「ありがとうございます王妃様!」

「それならきっと父さん達も許してくれるよ」

 

二人は王妃に抱き着いて涙ながらに感謝をする。

王と王妃もそんな二人の頭を『いいんですよ、助けられたのは私達なのですから』と愛おしそうに撫でながら笑顔で告げる。

 

 

「王様ーー、王妃様ーー!ゆっくりと休んでねーーー」

「王様に王妃様ーー!バイバイーー、お休みなさいーー!」

 

リュカとビアンカは王と王妃に別れを言いながらキメラの翼を使い、飛び去って行く。

王と王妃もそんな二人を見送りながら朝の日差しの中に消えて行く。

 

アルカパへと飛んで行く二人がふと振り返って見ると、暗雲に包まれていたレヌール城はその戒めから解き放たれ、その白亜の姿を取り戻していた。

 

 

―◇◆◇―

 

さて、アルカパに戻った二人だが、王妃の言う通りレヌール城が二人の活躍により解放された事は村中に知れ渡っていて、町の入口にはマミヤとダンカン、そしてパパスが二人の帰りを待っていた。

 

その足元には例のいじめっ子兄弟が頭に大きめのタンコブを着けて正座をさせられていた。

どうやらこの騒動の大元が彼等だと言う事がばれ、キツイお仕置きを受けた様だ。

その傍に居た猫(ベビーパンサー)はリュカの姿を見つけると駆け寄って飛び付き、リュカの顔を舐めまくる。

 

「あはははは!こら、くすぐったいよ」

「ガゥ~~、クゥ~~ン♪」

 

一連の騒動がようやく落ち着き、リュカ達もダンカンの宿屋へと戻っている。

約束通り、猫(ベビーパンサー)はリュカ達に渡され今はリュカの膝の上で丸くなっている。

 

「良かったわね、猫ちゃん。さっそく名前を付けてあげなきゃね。え~と、ゲレゲレは「グルルルル」…嫌みたいね。じゃあ、女の子だからリンクスはどう?」

「クゥ?…クゥーーン」

 

どうやら気に入ったらしく、頭を撫でていたビアンカの手を舐め出した。

 

「喜んでくれたみたいね。じゃあ、これもあげるわ」

 

ビアンカは髪をまとめていたリボンを一つほどき、リンクスの首に巻いてやる。

 

「わあーー、似合うね。可愛いよリンクス」

「ガゥ~~~~ン♪」

「さてと、名前も決まった事だしそろそろ」

 

パパスはそう言いながら徐にリュカを抱え上げると膝の上に乗せ、ビアンカもまた、同じ様にマミヤの膝の上に乗せられている。

 

「と、父さん?」

「マ、ママ?…どうしたの?」

 

膝の上に乗せられた二人はこれから何をされるのか薄々感づいた様で青い顔をしていた。

 

「お前達のした事は確かに立派だ。…だがしかしっ!夜中に勝手に抜け出し私達に心配かけた事も事実だ。よって」

 

そこまで言うとパパスとマミヤは自分の子供達のパンツを捲り、お尻を剥き出しにする。

 

「ちょ、ちょっとママ、何をするの?やめてーー、お尻がリュカに丸見えじゃない!」

「父さーーん、それだけはカンベンしてよ、せめてゲンコツにしてーーっ!」

「二人共いい加減に覚悟を決めなさい」

「其処まで嫌がるからこそ罰になるのだ」

 

 

そして、振り上げられたその手は……

 

 

「え~~ん、ゴメンなさいママーー!」

「ゴメンなさい~~、許して父さん~~!」

 

アルカパの町にパーン、パーンとお尻を叩く音が暫く響いていたとか。

 

後、ついでにいじめっ子兄弟の家からも……

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

オマケ

 

「ねえ、父さん」

「ん、何だリュカ?」

 

赤くなったお尻を擦りながらパンツを穿くリュカはパパスに気になる事を聞いてみた。

 

「その顔の引っかき傷はどうしの?」

「ああ、これか。……どうやら名前が気に入らなかった様でな。ははは…」

「??」

 

 

《次回予告》

 

未だ春の訪れが来ないサンタローズ。

そんな中、村の中で起こるイタズラ騒動。

そしてリュカが出会う不思議な青年、そして精霊の少女。

 

次回・第八話「来ない春とイタズラ妖精」

 

…幸せな思い出。だからこそ辛い思い出……

 

 




(`・ω・)と言う訳でアルカパレヌール城編終了です。
ここでまた設定変更、レヌール王が魔物退治を依頼するのではなくリュカ達が自分達から率先して退治に行きます。
呪文習得も王の助言で使えるようになりました。

親分ゴーストは最初はあのまま魔界に帰ってジャハンナで人間になっての再会を考えていたんですが途中から「このキャラ、勿体ないな」と後のマーリンへとフラグを立てました。

ベビーパンサーはメスという事にして名前もリンクスにしました。
そしてパパスさんはいい加減に諦めましょう。

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