ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第六話「廃城の戦い」

 

 

 

ビアンカを墓の中から助け出した後、リュカ達は再び城の中へと進んで行く。

下の階に降りると其処は嘗ては図書室だったのか、本棚が乱立し、その内幾つかの本棚は倒れ伏している部屋だった。

 

「……もうみんなボロボロで読めないわね」

「そうだね、もったいないな……。あれ?」

「どうしたの、リュカ?」

「いや、誰かそこにいた様な気が」

「もしかして、噂のオバケ?」

 

そう言い、少し怯えながら辺りを窺っていると淡い光に包まれた一人の女性の姿を見つけた。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

突然の事に驚いた二人だが、その女性の悲しそうな顔を見ると不思議と恐ろしさは感じなかった。

女性は二人を見つめた後、ゆっくりと歩き出し倒れていた本棚の中へと消えて行った。

 

「ビアンカ」

「ええ、あの本棚の下に何かありそうね」

 

 

―◇◆◇―

 

「「よいしょ、よいしょ」」

 

二人は力を合わせて倒れていた本棚を押すとその下から隠れていた階段を見つけ、下の階へと降りて行く。

少し進んだ場所に立派な扉があるので中へと入ってみると其処には天蓋付きのベットがあり、此処が嘗ては王と王妃の寝室であった事が分かる。

 

「ここは王様達の寝室だったのね」

「もうボロボロだけど立派なベットだったんだろうね」

 

『そうです。王族としての激務が終わった後、此処で王である夫と過ごす時間は私達にとって掛け替えのない穏やかな時でした』

 

二人が部屋の中を見回していると、何処からともなく女性の声が聞こえて来て、その方向に目を向けるとソファーにさっきの女性が座っていた。

 

「あ、貴女はひょっとして……お、王妃様ですか?」

『はい、私がレヌール王妃、アリナです』

「えっ、じゃあ王妃様が噂のオバケだったの」?」

「そんな訳ないでしょ!」

「ふぎゃんっ!」

 

ビアンカに拳骨を受けたリュカが頭を擦っているとアリナはゆっくりと語り出す。

 

『私とあの人との間には何時まで経っても子供が出来ませんでした。そして、何時しか私は何処からか流れて来た謎の病に倒れ、そのまま命付きました。それから後、あの人もまた同じ病にかかり死んでしまわれました。この城に尽くしてくれた家臣たちも同様に。その為、レヌール王家は途絶えこの地は隣国ラインハットに併合される事となりました』

 

「そうだったんですか…」

「王妃様達、かわいそう。ぐすん」

 

ビアンカとリュカはそんなアリナの話を聞きながらもその悲劇に涙を零していた。

 

『あなた達は優しい子供ですね、その綺麗な涙で私の悲しみも少しは癒されます。私達にもあなた達の様な子供がいれば…』

「でも、王妃様達は何故幽霊のままさまよってるの?」

 

ビアンカは疑問を聞いてみた。

アリナは目を瞑りながら顔を伏せ、少し考えてみたのか徐に顔を上げながらビアンカ達に答える。

 

『私達の体はこの城に葬られ、安らかな眠りの中に居ました。しかし、ある日突然その眠りは遮られました。何者かがこの城を牛耳り、私達の魂を呼び起こしたのです。その日から私の魂はこの城を彷徨い続け、同じ様に彷徨っているであろう王の魂とはその何者かの邪魔によってすれ違い続けているのです』

「酷い……」

「安心して、僕達はそのオバケを退治しに来たんだ。王妃様達も助けてあげるよ!」

「そうね、リュカと私でそんな奴コテンパンにしてやるわ」

「「えいえいおーー!」」

 

アリナのそんな二人を見つめる瞳には涙が浮かんでいた。

 

『ありがとう二人共、あなた達は本当に勇気がある子供ですね。あなた達に神の御加護がありますように』

 

そう言って送り出してくれたアリナを残して二人は再び城の中を捜し始めたが、その間も廃墟になった城に住み着いた魔物達が襲って来る。

 

大蛇の骨が邪悪な波動を受け、仮初の命で動き続ける「スカルサーペント」

まるで蛇の様に怪しげな炎の様な幽体の「ナイトウイプス」

長い舌を持つ見た目その物の「ゴースト」

捨て置かれた蝋燭に邪霊が取り憑いた「おばけキャンドル」

 

次々と襲い掛かってくる魔物達だが、幼いながらも幾度もの実戦でレベルアップを重ねているリュカ、そんな彼に負けじと闘うビアンカの前に魔物達も倒されて行った。

 

歩き続ける二人の前にアリナの時の様な淡い光の中に一人の男性の姿が浮かび上がって来た。

立派な服装に頭に乗っている王冠から、彼が王妃のアリナが言っていた王様だと言う事が見てとれる。

 

「すみません、あなたが王様ですか?」

『ん?おお、これは可愛らしいお客様達だ。……それにしても私の様な幽霊を目の前にして怖くないのかい?』

「全然、ねえリュカ」

「うん、王妃様と同じでぜんぜん怖くないよ」

『な、なんと、お前達は王妃に…アリナに会ったのかい?』

「ええ、王様の事も心配してたわ」

 

王妃の霊とも出会い、同じ様に彷徨っている事を伝えるとレヌール王は悲しい顔をして涙ぐんでいた。

 

「安心してよ王様、僕とビアンカが悪いオバケを倒して王様達を助けてあげるから。王妃様ともそう約束したんだ」

「そうよ、大船に乗った気持ちで任せておいて!」

『あ、ありがとう、勇気ある子供達よ。お礼と言っては何だが君達の現在のレベルを調べてあげよう』

 

レヌール王はそう言うとリュカとビアンカの頭の上に手をやり、何か呪文の様な言葉を呟くとその手に灯った光が二人の体を包んだ。

 

『ふむ、坊やのレベルは年齢からみても結構高いな』

「王様は神父様じゃないのにそんな事がわかるの?」

「こら!分かるんですかでしょう」

『はっはっはっ、構わぬよ。儂も神父達と同様に精霊の声を聞く修行はしておるからの、王座に着く者の嗜みと言う物じゃよ。坊やのレベルなら“バギ”が使えるだろう』

「バギ?バギってあの手から風がビューンって飛んでいくヤツ?やったーー♪」

 

レヌール王に調べてもらい、“バギ”が使えると知ったリュカは喜んで走り回るが、そんなリュカを見て面白くないのがビアンカである。

 

「王様、私は?私は何も呪文は使えないんですか?」

『落ち付きなさい、君もレベルアップしているからね。君は“メラ”と“マヌーサ”が使える様だ』

「メラとマヌーサ?」

『メラは炎を飛ばす呪文、マヌーサは霧の中に幻覚を見せる呪文だ』

「炎を飛ばす?……いいわね、ソレ。今の私に丁度いい呪文だわ」

 

ビアンカはちょっと危ない眼をして「くっくっくっ」と嗤う。

そんなビアンカを見てレヌール王は後頭部に大きめの汗を流し、リュカは涙目で怯え、王の体にしがみ付いていた。

 

『あ、あの娘は何かあったのかね?』

「オバケにさらわれて、お墓の中に閉じ込められたんだ」

『な、なるほどな…』

「さあ、リュカ。先を急ぐわよ」

「は、はひっ!」

 

先を急ぐと言うビアンカの言葉にリュカは怯えていたのか少し返事を噛んでしまう。

振り返ったビアンカの目が一瞬赤く光ってた様に見えたのだから仕方ないであろう。

 

「じゃあ王様、少し待っていてね。すぐにオバケ達を倒して王様も王妃様も助けてあげるから」

「僕もがんばるよ!」

『ありがとう子供達よ、私も力になりたいのだが命無きこの体では何も出来ぬ』

 

すまなそうに首を垂れるレヌール王に「気にしないで」と笑いながら答え、リュカとビアンカは城の中を進んで行く。

その間も襲い掛かってくる魔物達を撃退しながら先を進むと今迄で一番立派な扉を見つけた。

 

扉を開き、中に入ると玉座に緑色にくすんだフードを被った何者かが座っていた。

その者から感じる気配は今までの魔物とは明らかに違い、リュカとビアンカはこいつが王と王妃を苦しめている元凶だと直ぐに察した。

 

 

《親分ゴースト》

 

ゴーストとはいってもこの男は魔物では無く、れっきとした魔族である。

魔族、それはこの人間界とは別の次元にある魔界の住人でその保有する“暗黒魔力”を用いて魔物達を操る事が出来る。

この城に住み着いている魔物達もこの親分ゴーストに操られているのであろう。

 

 

「アンタが王様達を苦しめている一番悪い奴ね!」

『ひひひひひひ、だとしたらどうするね?』

「僕らがやっつけてやる!!」

『おお、勇ましい勇者様だ。ところでお腹は空いてないかい?』

「お腹?」

 

言われてみれば二人は武器や防具は用意していたが、夜食になる食べ物を用意しておく事にまでは頭が回らなかった。

そして、その事に気付いた途端二人のお腹は「ぐ~~」と鳴った。

 

『ひひひひひひ、どうやら腹ペコの様だな。ならば食事に御招待するとしよう』

「う…、い、いらないよっ!」

「そうよ、誰がアンタ達になんか御馳走になるもんですか!」

『何か勘違いしてる様だな。…食事になるのは、お前達だよ』

 

親分ゴーストはそう言い放ち、コンコンと足で床を鳴らすと二人の足元の床が抜け、そのまま下へと落ちて行った。

 

「うわーーーっ!」

「きゃあぁーーっ!」

 

ベチャッ!!

 

「な、何だ?ベチャベチャする所に落ちた……くっさい~~!」

「何よこれ!? お肉に魚に野菜、みんな腐ってるじゃない!」

 

魔物は大抵が雑食であり、何でも食べる。

だが邪悪な意思に目覚め、知恵を付けた魔物は何故か腐った物を好んで食べる傾向がある。

 

『何だ?何か落ちて来たぞ』

『こりゃあ、何とも旨そうなガキ共じゃないか』

『へへへへ、丁度腐肉の汁がミックスされて味付けも完璧だな』

『さあ、お前達は踊れ踊れ!もっと俺様達を楽しませるんだ!』

 

『そんな、あんなに小さな子供達を食べるなんて…』

『嫌だ!これ以上お前達の為になんて踊りたくない!』

『もういい加減、儂らを安らかな眠りに戻してくれぇ』

 

食卓を囲む魔物の周りにはおそらくはこの城に仕えていたであろう者達の幽霊が強引に踊らされていた。

その皆が悲壮な表情をしており、若い女性や男性だけでは無く年老いた老人の幽霊もいて、涙を流しながらもその踊りは止まる事は無かった。

 

『ひゃはははっ!さて、お前達も美味しく頂いた後はこいつ等と一緒に踊りに加わってもらうぞ』

 

魔物達は舌舐めずりをしながら二人にそう言うが、リュカとビアンカは脅えるどころか逆にその目には怒りの炎が灯っていく。

 

「リュカ、行くわよ」

「うん。くさがってる場合じゃないよね。僕も頭に来たよ!」

 

剣を振り回しながら近づいて来る「オバケキャンドル」

怪しい炎に包まれている「ナイトウイプス」

 

襲いかかって来る魔物達にリュカは渾身の勢いでブーメランを投げ付ける。

数体はそのまま両断され、何とかかわした数体も腕や、体の一部を失っていて続けてリュカが唱えた“バギ”によって切り裂かれていく。

 

「ゴースト」や「スカルサーペント」はビアンカに襲い掛かるが、ビアンカは覚えたての“マヌーサ”をさっそく唱えてみる。

霧に包まれた魔物達はその目も虚ろになり、同志討ちを始めた。

ビアンカはそんな魔物達に“メラ”を放つと魔物達は炎に包まれ灰になっていく。

残った魔物も既に息は絶え絶えで、茨の鞭の前に倒されていく。

 

 

『おお、やっと踊りが止まった』

『体の自由が戻って来たぞ!』

 

 

場の魔物達が一掃された為か、踊り続けさせられていた幽霊達はようやく体の自由を取り戻す事が出来た。

 

『ありがとう、坊やたち。助かったよ』

『本当に苦しかったの。ありがとう、ありがとう』

「安心するのはまだ早いわ。まだボスが残ってるからね」

「あんな卑怯者、僕とビアンカでやっつけてやる!」

 

心配しながらも応援してくれる幽霊達、そしてリュカとビアンカは親分ゴーストを倒す為に玉座の間へと駆けて行くのだった。

 

=冒険の書に記録しました=

 

 

《次回予告》

 

親分ゴーストとの再戦で勝利し、そして彼の余りにも身勝手な言い訳に武器を振り上げる二人。

しかし、それを止めたのは…

 

次回・第七話「倒す強さ、許す強さ」

 

強さとは力だけの事じゃない。

 

 




(`・ω・)たいまつを探す所はあえてカットしました。
あくまでもゲームを進める上でのアイテムであって小説でもどうしても必要なアイテムだと言う訳でもないので。

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