ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第三話「洞窟の中の小さな冒険」

 

 

「覚えていてくれたのねリュカ。でも、2歳年上のお姉さんを呼び捨てにしてもいいのかしら?」

 

そう言いながらビアンカはリュカの口を掴み、思いっきり両側に引っ張る。

 

「いひゃい、いひゃい、ほめんなはい、ヒアンファおねへひゃん!!」

「解ればいいのよ。でもやっぱり呼び捨てでいいわよ」

「…だったら、ほっぺた引っ張らなくてもいいじゃないか」

「「「ははははは」」」

 

大人達はそんな子供達を微笑ましそうに笑っていた。

 

「リュカ、おじ様達は大人の話があるだろうから私達は二人で遊びましょ」

「うん、遊ぼ」

 

ビアンカとリュカはそう言いながら二階へと上がって行った。

 

「それでマミアよ、何の用事なのだ?私達が帰って来る事を知っていた訳ではあるまいに」

「実はウチのダンナが病気になって寝込んでしまってね。だから薬師のビーに薬を調合してもらいに来たんだけど洞窟に材料の薬草を取りに行ったまま戻って来ないんだよ」

「う~~む、そうか。私もあの洞窟には用事がある。ついでと言っては不謹慎かもしれないが明日にでも探してみよう」

「頼んだよパパスさん」

 

 

―◇◆◇―

 

「ところでリュカ、さっきから気になっていたんだけどそのスライムはどうしたの?」

「帰ってくる途中で友達になったんだ、名前はピエール。ピエール、この女の子はビアンカ、僕のお姉ちゃんみたいな人なんだよ」

「ピィ、ピッピィー」

「魔物と友達になるなんて、アンタはホントふしぎな子ね。まあいいわ、私はビアンカ、よろしくねピエール」

「ピィーー♪」

 

笑いながらピエールの頭を撫でてやるとピエールは嬉しそうに鳴きながらビアンカの手に頭を擦りつける。

 

「挨拶は終りだね。じゃあ、何して遊ぶ?ビアンカ」

「そうね、なら本を読んであげるわ。この本なんか良さそうね」

 

ビアンカは本棚から一冊取り出してペラペラとめくるとそのまま本棚に戻し絵本を取り出す。

 

「やっぱりリュカには絵本の方がいいわよね」

「読めないんなら素直にそう言えば…」パコーーンッ!!

「良く聞こえなかったけど何か言ったかしら?」

「……何も言ってません…」

「ピィ~~」

 

リュカは涙を滲ませ、叩かれた頭を擦りながらビアンカと絵本を読んでいく。

ピエールは何やら怯えてる様だ。

 

 

―◇◆◇―

 

「ビアンカーー、そろそろ宿に帰りますよ」

「はーい、ママ。じゃあリュカ、またね」

「うん、またねビアンカ」

 

ビアンカ達は宿へと戻り、リュカは一階へと下りて行く。

 

「さあ、坊っちゃん。今日はこのサンチョが腕によりをかけて御馳走を作りますからね」

「わーい、楽しみだなーー!」

 

その日の夕食は思った以上に豪勢で、リュカは久しぶりに腹一杯の食事に満足したようですぐに眠りこんでしまった。

 

 

 

翌日

 

「ふあぁ~~~、お早う」

「お早うございます、坊っちゃん。朝食の用意は出来てますよ」

「さあリュカ、早く顔と手を洗って来なさい」

「は~~い」

 

リュカがまだ食べている時、いち早く食事を済ませたパパスは立ち上がるとリュカに話しかける。

 

「リュカよ、私はこれから用事があるので出かけるが決して一人で村の外へは出てはいかんぞ」

「うん、分かったよ。行ってらっしゃい、父さん」

 

 

食事を続けるリュカをサンチョは懐かしそうに見ながら呟く。

 

「本当に坊っちゃんはだんだんとお母上に似て来ましたなぁ。お母上のマーサ様もお優しい方で魔物さえもマーサ様の前では子猫の様に大人しくなったものです。ちょうどこのピエールの様に」

「ピイ?」

「そうなの?」

「ええ、本当ですとも。(あんな事さえなければ今頃リュカ様もお城で何不自由無く、幸せに暮らしていたものを……)」

 

「ごちそうさま!じゃあ、遊びに行ってくるね。行こう、ピエール」

「ピッ、ピィーー」

 

昔の事を思い出し、暗い表情になっていたサンチョだが元気に駆け出すリュカを穏やかな顔で見送る。

 

「気を付けて下さいね、危ない事はなさらない様に」

「分かったーー!」

 

村の中を歩くリュカだが、もう春も間近だというのに肌寒さに震えていた。

畑にも作物は実らず、焚き火で暖を取っている村人も居る。

 

「うう~、寒い寒い。どうしたっていうんだろうね今年は?」

 

「皆も寒そうだな。早く春が来ればいいのにね」

「ピイ、ピイー」

 

そして、宿屋に着くとリュカは二階に上がりビアンカ達が泊っている部屋へと入って行く。

 

「ビアンカ、お早う!」

「おや、パパスさん所のリュカじゃないか」

「お早うおばさん。ビアンカは?」

「折角遊びに来てくれて悪いんだけどね、ビアンカはまだ寝てるんだよ」

「まだ?僕は朝ご飯も食べて来たのに」

 

そう言いながらベットで寝ているビアンカを覗き込むが、マミヤは寝ているビアンカの髪を優しく掻き分けながらリュカに言う。

 

「この子は病気の父親が心配でね、昨夜も中々寝付けなかったみたいなんだよ」

「そうなんだ、ごめんなさい」

「ははは、いいんだよ。だからもう少しビアンカを寝かしてやってね」

「うん。じゃあね、ビアンカ」

 

そう言いながら部屋を出て、扉を閉めようとするとマミヤの呟きがリュカの耳に聞こえて来た。

 

「はあ~、パパスさんも忙しそうだしね。誰か捜しに行ってくれたらねぇ」

 

宿屋を出て、少し歩いた所でリュカは足を止めるとピエールは不思議そうにリュカを見上げる。

 

「ピイ?」

「そうだ!ピエール、僕らで薬師のおじさんを探しに行こうよ」

「ピイ、ピイピイ」

 

そして、いざ洞窟に乗り込もうとするのだが流石に武器がひのきの棒では心許無い。

そこで武器屋で新しい武器を買おうとしたら店の親父は。

 

「ほう、ビーの奴を捜しに行くのか。だったら特別サービスだ、今あるゴールドとひのきの棒を買い取った分を足して銅の剣を売ってやろう。それでもゴールドは足りないんだけどな、坊やの勇気に免じてだからな。他の皆には内緒だぞ」

 

と、銅の剣を売ってくれた。

 

「ありがとう、おじさん!頑張って来るね」

 

リュカはそう言うと買ったばかりの銅の剣を腰布に挿し、喜び勇んで駆けて行った。

 

「ははは、冒険ゴッコか。俺も小さい頃はよくやったものだ」

 

どうやら彼はリュカは冒険ゴッコのつもりで銅の剣を買おうとしてると思ったらしい。

だから、リュカが洞窟に入って行くのが視界に入ってもそれに気付かなかった。

 

 

 

~サンタローズの洞窟~

 

 

洞窟に入ると流石に薄暗くなって来て、ピエールが一緒とは言え不安に駆られて来る様だ。

なのでリュカは歌を歌いながら先に進む事にした。

 

歌を歌っているリュカの前の方から何やら物音が聞こえて来た。

そして、暗闇の中から出て来たのはスライムとおおきづちの二匹だった。

 

「ピエール、同じスライム相手だけど戦える?」

「ピィッ!ピッピィーー!」

 

ピエールは任せろと言う様に身構えている。

おおきづちは初めて見る魔物だが、パパスからその特徴などは聞いているので驚く様な事は無かった。

 

だが、ピエールとは違うその赤く濁った瞳を見ると何処となく寂しくなるリュカであった。

 

「本当なら友達になれるかもしれないけど、かかって来るんなら手加減は出来ないよ!」

 

『ピキィ~~、ピキャーーーッ!!』

「ピィ、ピキーーーイ!!」

『ピキッ……ピギャァッ』

 

スライムはピエールに襲い掛かるがピエールはその突進を軽くかわし、逆に体当たりをかける。

ピエールの体当たりをまともに受けたスライムはそのまま壁にぶち当たり弾け飛んだ。

 

『フガーーー!』

「このぉーーーっ!!」

 

リュカの頭ほどの大きさの木づちを振り上げながら突進してくるおおきづちにリュカは慌てる事無く振り下ろして来る木づちをかわし、銅の剣を振り抜いた。

 

『フギャーーー!』

 

おおきづちは悲鳴を上げながら真っ二つになり、地面に落ちると溶ける様に消えて行き、宝石だけが後に残った。

 

その宝石を拾い上げるリュカの所にピエールが倒した相手の宝石を咥えてやって来た。

 

「ごくろうさま、ピエール」

「ピィ、ピィ」

 

ピエールから宝石を受け取るとリュカはピエールの頭を優しく撫でてやると、それが気持ちいいのか体を揺らしながら喜んでいる。

 

そしてリュカは手の中にある宝石を見つめると寂しそうに呟いた。

 

「僕が奪った命……」

「ピィ?」

「ううん、何でもないんだ」

 

宝石を袋の中にしまい込むとリュカは再び歩き出し、そして次々と襲い掛かってくる魔物達。

 

蝙蝠の様な姿をした「ドラキー」

丸い体に何本ものとげを生やした「とげぼうず」

大きめの体で頭に鋭い角を生やした「いっかくウサギ」

突然足元の地面から攻撃して来る「せみもぐら」

 

此処まで襲って来た魔物達に共通するのはその瞳が赤く濁っている事、思い返せばピエールを襲っていたスライム達も瞳は赤く濁っていた。

リュカは青く澄んだピエールの瞳を見つめながらはそんな事を考えていた。

 

 

 

奥へと進み、地下に続く階段を下りると岩が崩れている所が見えた。

近づいてみて見ると更に下の階に岩が落ちている様だ。

 

「危ないな、僕達も気を付けようねピエール」

「ピイ、ピイ」

 

更に奥へと進み、何度目かの戦闘の際にピーエルが傷を受けてしまった。

 

「だ、大丈夫、ピエール?」

「ピ…ピィ~~」

 

ピエールはリュカに心配をかけまいと平気そうな振りをするが、それがやせ我慢だと言う事は誰が見ても分かる事であった。

 

「こんな時、父さんだったら《ホイミ》でピエールを治せるのに……、あれ?」

 

リュカが《ホイミ》と口にした際、手から何か温かな力を感じ、自分の体の傷が癒えている事に気付いた。

それはパパスにホイミをかけてもらった時と同じ暖かさだった。

 

「…ひょっとして……、ホイミ」

「ピ?…ピィ~~~♪」

 

ピエールに手をかざしてホイミと唱えると、リュカの手から光が零れてその光はピエールの体の傷を癒して行く。

 

「ホ、ホイミだ!ピエール、僕にもホイミが出来たよ!」

「ピイ、ピィーー♪」

 

カサリ

 

そうやって喜んでいると、後ろの方から物音が聞こえて来た。

神経が過敏になっているリュカはすぐに振り返り、銅の剣を構えながら叫んだ。

 

「ま、魔物!? かかって来るならかかって来ーいっ!!」

「ピキーーィッ!!」

 

振り向いた先には一匹のスライムが居り、怯えながら叫んで来た。

 

「まっ、待ってよ!虐めないでよ、僕は悪いスライムじゃないよーー!!」

「ス、スライムがしゃべった?」

「ピイ?」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

薬師のおじさんを探して洞窟の中を冒険していると突然現れたしゃべるスライム。

でも目はピエールと同じで青く澄んでいる、悪いスライムじゃないね。

一人ぼっちなんて寂しいよ、友達になろう!

 

次回・第四話「二人目の友達、スラリン」

 

「友達、嬉しいな」

 

 

 


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