ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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二の刻・青年期前半
第二十話「暗闇の中から、希望への脱走」


 

~セントベレス~

此処には嘗て神を祭る神殿があったとされるがそれは既に打ち壊され、今は新たに大神殿を創る為の大工事が行われていた。

 

それを行っているのは今世界中にその手を伸ばし、信者の数を増やし続けている『光の教団』。

 

そして工事をさせられているのは世界中から攫われた者や信者からその身を堕とされた奴隷達。

 

その中にはあのリュカとヘンリーも居た。

あの絶望と苦悩、哀しみと苦しみの日から10年の刻が流れていた。

 

 

 

 

 

『そおら、働けぇーーーーっ!』

 

ピシャーーーンッ!

 

監視兵の怒鳴り声と共に鞭が地面を叩く音が響き、その音を聞く度に奴隷達はビクッと身を縮める。

 

「はぁ、はぁ…、い、何時までこの地獄は続くんじゃ?」

 

老人が大きな岩を転がしながら呟く。

それに答えようとする者は居ない、もはや答える気力も残ってはいないのだから。

其処とは別の場所、土を詰めた土嚢を持ち上げようとする少女が居た。

痩せ細ってはいるが、その愛らしい顔立ちには些かの衰えも無かった。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

彼女なりに持ち上げようとはするが、身体に溜まった疲れからか中々持ち上がらない。

 

「はあ、はあ。も、持ち上がらないよ~~」

 

すると横から誰かの手が伸びて来て、その土嚢を持ち上げる。

 

「え?」

 

少女が誰かと見上げると、其処に居たのはすっかりと成長したリュカであった。

 

「大丈夫か、リリス?」

「リ、リュカさん」

「こいつは俺が運んでおくから隠れて少し休んでろ」

「で、でも悪いです」

「いいから任せといて。代わりに後で膝枕でもしてくれればいいからさ」

 

そう言いうとリュカは笑いながら彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「あ…は、はい」

 

頬を赤らめるリリスを周りから見えない岩陰に隠すと、リュカは両肩に土嚢を乗せて歩き出す。

其処に一人の青年が近づいて来る。

彼はリュカと共に攫われて来たヘンリーである。

 

「相変わらずリリスには甘いんだな」

「べ、別にいいだろ。ヘンリーこそ昨夜はマリアに膝枕をしてもらっていたじゃないか」

「くっ、……見ていたのか」

「しっかりとね。それにヘンリーだってマリアの分を持ってるじゃないか」

「仕方ないだろ」

「ああ、仕方ないさ」

 

リュカとヘンリー、二人の少年達は10年の刻を経て体付きもがっしりとした青年になっていた。

普通の子供ならば数十分で根を上げる様な奴隷生活だがパパスの壮絶な最後を見ていた二人は決して挫ける様な事は言わなかった。

何時かはこの地獄を抜け出して父の遺言を果たす為に、何よりもこの地獄を世界中に広げようとしている光の教団と闘う為にも今は生き延びるために奴隷の立場に甘んじている。

 

そんな彼らにもこの地獄の中で救いとも呼べる出会いがあった。

それが先程の少女、リリスともう一人の少女マリアである。

 

二人の少女は同じ村に住んでいた幼馴染だったが、光の教団が教義を広めようとした時、彼女達の村はそれを断固として断った為に滅ぼされてしまい、生き残った彼女達は奴隷として連れ去られて来たと言う事だ。

 

似た様な境遇の四人は共に助け合いながら今日まで生き延びて来た。

 

「あれから10年か。早くこんな所抜け出さないと……。パパスさんの最後の願いを果たす為にもな」

「親父…。俺達だけなら何とかなるだろうが、リリス達を置いて行く訳には行かないからな。何かいい方法が有ればいいんだが」

「ああ……」

 

リュカ達は何も無駄に奴隷の立場に甘んじている訳では無かった。

作業をしながらも体を鍛え、瞑想などで魔法力を上げていた。

幸いにゲマに飛び掛った時には呪文を使ってなかった為に呪文が使える事はばれてはいない。

監視兵から隠れ、攫われて来た神父や魔法使い達から呪文を教わったりしていてかなりのレベルアップをしている。

先程リュカが呟いた様に二人だけならば脱獄は何とかなるだろうが二人の少女を置いたまま逃げ出す事は出来ない、マリアとリリスはもはや二人にとってはかけがいの無い存在となっていたのだから。

 

 

―◇◆◇―

 

『よーーし、今日の作業は此処までだ。明日も仕事はたっぷりとあるからな、ゆっくり休んで疲れを取っておくんだぞ。取れれば、だがな。はははははははは!』

 

笑い飛ばしながら監視兵達は自分達の詰め所に戻って行き、奴隷達も疲れ果てた身体を引きずりながら部屋へと戻って行く。

 

「ああ~、疲れた疲れた」

「大丈夫ですか、リュカさん?」

「大丈夫だよ。…だからそんな顔をしないでよリリス」

「だって…」

 

リリスはさっき頼まれた通りにリュカを膝枕していて、その頭をゆっくりと撫でている。

その隣ではヘンリーがマリアに同じ様に膝枕をされていた。

 

「そこまで気にする事はないぞリリス、リュカが好きでやってる事なんだから」

「そうそう。ヘンリーが好きでやってる事なんだから気にしなくていいよ、マリア」

「うん」

「えへへ」

 

 

そして翌日、事件は起こった。

リュカとヘンリーが何時もの作業をしていると、地下の作業場の方から何やら叫び声などが聞こえて来た。

 

「何だ、何か騒がしいな」

「…嫌な予感がする」

 

その予感は的中し、聞こえて来た悲鳴に二人の感情は爆発する。

 

「きゃああーーー!す、すみませんーー!」

「痛ぁーーいっ!ごめんなさいーー!」

 

「リリス!」

「マリア!」

 

二人はすぐさま走り出し、駆け付けたその場所ではリリスとマリアが監視兵に鞭で打たれていた。

 

「おいっ!何があった!?」

「ああ、酷いもんだ。あの娘達が転んだ際に靴に泥がかかったと言って…。言い掛かりもいい所だよ。こんな場所なんだ、普段から泥だらけの癖に」

「くそっ!行くぞ、リュカ!」

「ああ。急ごう、ヘンリー!」

 

リュカとヘンリーは二人を庇う様に前に立ち、兵士達に殴り掛かる。

 

「止めろぉーーっ!」

『な、何だ貴様等。邪魔をするなら貴様達も…』

「上等だ、やってみやがれっ!」

『ぐわあっ!』

 

魔法を使えるという事がばれると何かと厄介なので通常攻撃だけに留めてはいるが、それでも二人と監視兵達では力の差は歴然で次々と倒して行く。

 

「何だ騒がしい!これは一体何の騒ぎだ!?」

 

其処に鎧を身に着けた兵士が現れた。

その兵士は倒れているリリス達を見ると驚いた様に目を見開いた。

それは彼女達も同様で二人共、信じられない物を見たように驚いている。

 

「お、お前達は……」

「そ、そんな…」

「何で、ヨシュア兄さんが此処に?それにその格好は…」

 

リリス達がヨシュアと呼んだ男、それは二人が住んでいた村が教団に襲われる少し前に別の町へと引っ越していった幼馴染で兄とも慕っていた相手だった。

 

「た、隊長…、こいつ等が突然反乱を」

「反乱だと?言い掛かりもいい加減にしやがれ!俺達は…」

「違います!この人達は私達を助けようと…」

「話は後で聞く、男共は牢獄へ繋げ。女達は手当てをした後、同じ様に牢獄へ繋いでおけ」

 

リュカ達とリリス達はお互いを庇おうとするが、ヨシュアは取り合おうとせず、兵士達に命令をすると踵を返しそのまま歩き去って行った。

 

 

そしてその夜。

 

「ごめんなさい、リュカさん、ヘンリーさん。私達のせいで」

「気にしなくていいよリリス。悪いのは二人じゃないんだからさ」

「そう言う事だ」

「で、でも、ヘンリーさん…」

「気にするなと言ってるだろ、マリア」

 

四人は牢獄に入れられ、リリスとマリアは自分達のせいだと言うが、リュカとヘンリーはその事で二人を責める様な事はしない。

そんな時、牢の入口の方から足音が聞こえて来て、リュカ達が顔を向けると其処にはあの兵士が立っていた。

 

「手前っ!何しに来た!?」

「待って、ヘンリーさん。ヨシュア兄さん…、何故兄さんがこんな所で?」

「知り合いなのか、マリア?」

「うん…、私達と同じ村で暮らしていた…お兄さんみたいな人」

 

二人の少女は辛そうにそう言うと、その瞳から涙が零れて来た。

 

「すまない二人共、許してくれとは言わない。むしろあざ笑ってくれ、この馬鹿な男を」

 

兜を脱ぎ、膝を突いて謝るヨシュア。

そして彼は語り出した、何故光の教団に入る事になったのか。

 

彼の家族が引っ越した先の街ではすでに光の教団の教えが広まっており、彼等が入信するのにあまり時間はかからなかった。

父と母は教団員として、ヨシュアは兵士としての生活が始まった。

初めは教団が奴隷と連れ去られて来る人々の事も教団の教えを理解しない愚かな連中と見て来たが、やがて次第にその事に違和感を覚える様になって来た。

 

その違和感は徐々に不信感へと変わって行き、そして数日前に奴隷の中にリリスとマリアを見つけた事で遂にヨシュアは漸く教団の正体に気が付いた。

何とか二人だけでも逃がそうと画策している時に今日の事件が起きた。

そう、彼にとってこの事態は不幸中の幸いでもあったのだ。

二人を無事に此処から逃がす為にも。

 

「其処の二人、確かリュカとヘンリーだったな。頼む、リリス達を連れて逃げてくれ」

「逃げろって言われてもだな」

「確かに二人を連れて逃げる方法は考えていたけど、どうやって?」

「この先に死んだ奴隷達の死体を捨てる場所がある。其処からなら逃げ出せる筈だ、付いて来てくれ。リリス達も一緒に」

 

ヨシュアはそう言うと牢の鍵を開けて歩き出す。

リュカとヘンリーは流石にいぶかしがるが二人が素直に牢を出るとお互いの顔を見合って頷き、先に歩き出している彼女達の後を追う。

 

ヨシュアの後を追って辿り着いた先には水路があり、其処には幾つもの樽が備え付けられ、水が流れる先は外へと向かっている。

 

「此処で奴隷達の死体を樽に入れて水路から外へと流すんだ。逃げ場所は此処からしかない、樽の中に少しばかりのゴールドとお前達から奪っていた持ち物を入れておいた。さあ、早く行け!」

「兄さんはどうするの?」

「俺は逃げない、兵士や教団員の中にも奴等の正体に気付いている者は居る筈だ。そんな連中を集めて内側から闘ってやるさ。…せめてもの罪滅ぼしにな」

 

ヨシュアはそう言って笑うと二人の背中を押して樽へと乗せる。

樽は小さい為、リュカはリリスと、ヘンリーはマリアと、其々別の樽に乗り込んだ。

 

「奴等の手先となっていた俺が言う事では無いのだろうが……、二人を…頼む」

「任せとけ!というか…、本当に一緒に行かなくていいのか?」

「ああ。どの道、水路を開くスイッチは俺が入れなければならないからな。お前達は俺が殺した事にしておく、後の事は心配するな。じゃあ蓋を閉めるぞ」

「「ヨシュア兄さん…」」

「二人共、今まで苦しんだ分幸せになれ。出来る事なら此処での事や俺の事も忘れてしまえ。…じゃあな」

 

樽の蓋が閉められるとガクンッと樽が震え、流され始めたのが解る。

そして徐々に速度を増し、やがてドドドドドと轟音が聞こえ出すと樽は物凄い速度で落下を始めた。

水路は滝へと繋がっていて落ち始めた様だ。

 

「うわあああっ!だ、大丈夫なんだろうなこの樽は?」

 

激しい振動の中、リュカはリリスを抱きしめてそう叫ぶ。

するとリリスはリュカの背中に手を伸ばし、その胸の中に顔をうずめながらそっと呟く。

 

「大丈夫だよ」

「リリス?」

「何故かな?すごく安心してるんです。だから解るんですよ、大丈夫だって」

「そうか、なら平気だね」

「うん、大丈夫………」

 

そして滝の轟音は激しさを増し、お互いの声も聞こえなくなった。

だが……

 

「絶対、大丈夫ですよ」

 

何故かその言葉だけは心の中に染み込む様に聞こえて来た。

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

遂にセントベレスよりの脱出を果たした俺達。

流れ着いた修道院でおよそ10年振りになる穏やかな日々。

だが、親父の最後の願いを叶える為にも俺は旅立たなければならない。

 

次回・第二十一話「流れ着いた修道院」

 

だから俺は、俺達は……

 

 




(`・ω・)さて、新章の始まりです。
読んでて、ありゃ?と思った方も多いでしょう。
オリキャラとしてリリスと言う少女が出て来ました。
さて、彼女はどういった役割なのでしょうね?(棒)

前回の投稿では此処でエタってしまいました。
さて、続きは……

安心してください、書いています。

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