ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第十八話「運命という名の悲劇と別離」

リンクスの鼻を頼りに追い駆け、辿り着いたその場所には雑草や蔦に覆い隠された古代遺跡があった。

 

~古代遺跡~

 

ラインハット城より北東の地にひっそりと佇む遺跡。

何時の時代に、どの様な目的で作られたのか今はもう知る由は無い。

訪れる者も無く、今では魔物の巣窟となっている。

 

「あいつらはここに居るんだねリンクス?」

「ガウガウ!」

 

リュカの問いにリンクスは大きく頷いて答える。

 

「よし、行くぞ!この中には魔物も居る様だ。くれぐれも油断はするなよ」

「分かったよ、父さん!」

 

遺跡の中に足を踏み入れたリュカ達だが、その中はまるで迷路の様に入り組んでいた。

 

「わぁ、道がグチャグチャだ?どうやって探せばいいのかな?」

「今は時間が惜しい、二手に別れよう。……出来るな、リュカ」

「当然だよ、僕にはリンクスが付いているからね。任せてよ父さん!」

「うむ、では行くぞ!」

 

パパスと分かれたリュカとリンクスは辺りを(うかが)いながら慎重に進んで行く。

 

白骨化した遺体が暗黒魔力によって魔物化した「骸骨兵」

天井にへばり付き、大きな一つ目玉から怪しい光を放ちながら触手で攻撃を仕掛けてくる「ダークアイ」

笑いながらパラメーターダウンの呪文を唱えてくる「笑い袋」

 

今まで見た事の無い魔物達が襲い掛かって来るが今のリュカ達の敵では無かった。

そうして進んでいると小部屋の様な場所があり、其処から数人の男達の笑い声が聞こえて来た。

 

「ぎゃははははっ!今回は楽な仕事だったな。何しろ王妃様直々のご依頼だったんだ。本来なら城の中に忍び込むにはかなりのリスクがあるっていうのにいとも簡単に忍び込めたんだからよ」

「しかしあのガキも気の毒にな。王子だっていうのに王妃から殺してくれって頼まれるんだからよ。その事を教えてやった時のあの顔、悲しみの余り涙が零れるのを我慢するのに苦労したぜ」

「笑い出すのを我慢したの間違いだろ」

「バレたか。ぎゃははははははははっ!」

 

賊達の会話を盗み聞きしていたリュカの手は震えながらきつく握り締められている。

 

「グウゥゥゥゥゥ~~~~」

「落ち着いてリンクス。今はヘンリーを助けるのが先だ、あいつ等を叩きのめすのはそれからだよ」

「ガウゥ…」

 

憤りながらも唸りを上げているリンクスを押さえ、まずは早くヘンリーを助け出す事を考えていると部屋の中から盗賊の声が聞こえて来た。

 

「しかしあのガキ、一人にしておいて逃げ出しやしねえだろうな?」

「大丈夫だろ。何しろ地下深くの牢獄、しかも地下水路の向こう側だからな。一人じゃ何も出来やしねえさ」

「それもそうだな」

 

「いい事聞いた。早く父さんと合流しなきゃ」

「ガウッ」

 

ヘンリーが地下の牢獄に閉じ込められていると知ったリュカとリンクスはパパスを探す為に先を急いだ。

暫く進むと数体の魔物と闘っているパパスを見つけ、加勢しようとしたが駆けつけた時には既に勝負は付いていた。

 

「どうしたリュカ、王子は見つかったのか?」

「ううん、まだだけどヘンリーを攫った連中が酒飲みながら喋ってたんだ。ヘンリーは地下の牢屋に閉じ込めているんだって」

「そうか、でかしたぞ!その賊共の事は後回しだ、急いで王子を助けに行くぞ」

「うんっ!」

 

地下水路の先の牢獄にヘンリーは捕まっている。

リュカが探り出したその情報を頼りにパパスは地下に通じる階段を探して行く。

先に進んで行くと階段を見つけ、降りた先には水路が広がっていてちょうど筏もあった。

さっそく筏に乗り込んで水路を進むとその先に幾つかの牢獄があり、その中の一つにヘンリーが閉じ込められていた。

 

「ヘンリー、助けに来たよ」

「リュカ?」

「くそ~~、駄目だ。鍵が掛かってて牢屋が開かないよ」

 

リュカはこっそりと鍵の技法を使ってみたのだが牢屋の鍵には通じなかったらしい。

 

「退いておれリュカ」

「う、うん」

「くううう…、はああぁぁぁぁっ!」

 

パパスは牢の扉の部分を掴むと力任せにこじ開けた。

 

「さあ王子、城へと帰りましょう」

「何しに来たんだよ……?」

「王子?」

「ほっといてくれたら良かったんだ!どうせ俺なんかが居たところで城の連中の迷惑にしかならないんだ。今回の事で嫌になる位それが解った。そうさ、いっその事このまま死んでしまえば父さんの所に行けるし、あの王妃だって…」

「王子…、そなたは…「バカーーーーっ!」…リュカ?」

 

パパスはヘンリーを叩こうと手を振り上げるが一瞬早くリュカがヘンリーを殴り飛ばした。

 

「くっ、痛ってぇ~~。何しやがる!」

「うるさい、この弱虫!」

「弱虫だと?」

「そうだよ!僕らが何の為にここまで来たと思ってるんだ、お前を助ける為じゃないか!なのにかんたんに死ぬなんて言うなんて!」

「其処までだリュカ」

「父さん…」

 

パパスは怒りで頭に血が上っているリュカを撫でながら宥める。

 

「王子…、いやヘンリー。リュカの言う通りだ、私達はお前を助けに来たのだ。なのにお前がそんな悲しい事を言ってどうする?」

「だけど俺には…、もうあの城に居場所なんて」

「お前の居場所ならあるぞ、私達の家だ」

「えっ?」

「そもそも私が呼ばれたのはお前を預かる為なのだからな。お前もそう聞かされていた筈だが?」

「でも、俺が行くとリュカやパパス殿に迷惑が…痛てっ!」

 

俯きながらそう呟くヘンリーをパパスは拳骨で殴る。

 

「子供がそんなくだらない事を心配するものじゃない、それと預かる以上お前は既にもう一人の私の子供だ、王子として特別扱いなどしないからな。其処の所をよく覚えておけ」

「父さん、そんな分からず屋な奴にはお尻ペンペンがいいんじゃない?」

「ふむ、それもそうだな」

「な、なんだってぇーーーっ!じょ、冗談じゃない、分かったよ。パパスど…さん」

「はっはっは、それで良い」

「ちぇっ!」

 

結局ヘンリーが折れて、パパスは笑いながら彼の頭を撫でるがリュカはヘンリーがお尻ペンペンされなかった事に舌打ちをして剥れていた。

 

「さて、そろそろ戻るとするか。賊共の討伐はまた後にしよう。今は無事に戻るのが先決だからな」

 

三人と一匹は筏に乗って進み、遺跡の一階へと続く階段を上っていたが突如背後から魔物の雄叫びが聞こえて来た。

何事かと振り向いてみれば瞳を真っ赤に光らせた魔物の群れが襲い掛かって来る。

 

 

「くっ!リュカ、此処は私が食い止める。お前はヘンリーと一緒に逃げるのだ!」

「そんな、僕も一緒に闘うよ!」

「俺も呪文の一つや二つくらい唱えられる!」

「ガウウーーッ!」

 

「ならぬっ!言う事を聞け!」

 

「わ、分かったよ。ヘンリー、行こう」

「あ、ああ」

「グルルゥ」

 

滅多に聞かない怒鳴り声にリュカは渋々ながら言われた通りに逃げる事にした。

走り続け、ようやく出口が近付いて来た時、その声は何処からとも無く聞こえて来た。

 

『ほっほっほっほっほ、生憎ですが此処から先には行かせませんよ。さて、逃げ出そうとする悪い子にはお仕置きが必要ですね』

 

リュカ達の目の前には突如黒い霧の様な物から不気味なローブを纏った薄気味の悪い男が現れた。

 

「な、何だよお前は?」

『これは自己紹介が遅れましたね。私の名はゲマ、どうぞお見知りおきを』

「お断りだよ!お前みたいな気味の悪い奴、覚えたくないよ!」

「ガウゥゥゥゥゥゥッ!」

「くそっ!出口はもう目の前だって言うのに」

 

『さあ、いい子ですから牢屋に戻りましょう。お友達も一緒にね、ほっほっほっほっ』

 

「ヘンリー、リンクス、全員で一斉攻撃だ!」

「おうっ!」

「ガウッ!」

 

リュカの合図で一斉攻撃をかけるがゲマの背後に先程と同じ黒い霧が湧き出てきたと思うとその中から飛び出して来た二体の魔物、ジャミとゴンズがリュカ達を殴り飛ばす。

 

「ぐわっ!」

「がはっ!」

「ギャンッ!」

 

リュカ達はその衝撃で吹き飛び、地面を何度かバウンドして倒れ付す。

そして其処に、魔物の群れを倒したパパスが駆け付けて来る。

 

「こ、これは…。リュカ!ヘンリー!リンクス!」

 

パパスは傷付き、倒れ付しているリュカ達を見据えると薄ら笑いを浮かべているゲマをきつく睨み付ける。

 

「き、貴様は…、貴様はあの時の!」

『ほっほっほっほっほ。どうやら覚えていていただけたようですね。光栄ですよ、デュムパポス陛下。いえ、今は"ただの"パパスでしたね、ほっほっほっ』

「マーサを攫っただけでは無く、よくもリュカ達を……、許さぬ!」

 

『許さない?許さなかったら如何するつもりなんだ?』

『ちょうどいい。此処で皆殺しにしてその魂を生贄に捧げてくれる!地獄の闇の中で永遠に苦しみ続けるがいいわっ!』

 

剣で斬りかかって来るパパスをジャミとゴンズは薄ら笑いを浮かべながら迎え撃とうとするが、怒りに燃えるパパスの剣はそんな二体の魔物をいとも簡単に切り捨てる。

 

『がはあっ!』

『ば、馬鹿な!? 我等が脆弱な人間などにこうも容易く…』

 

パパスは倒れ付したジャミとゴンズに止めを刺そうとするがゲマの笑い声にその手を止める。

 

『ほほほほほほほほほ。流石はパパス殿、その程度の輩ではやはり相手にもならなかった様ですね。しかしこうすれば……、どうなるのでしょうね?』

 

ゲマは鎌の刃を倒れているリュカの首筋に宛がいながら怖気のする様な笑顔でパパスに語りかける。

 

「きっ!貴様ぁ!」

 

『ほほほほほ、では続きを始めましょうか。悩む事は無いでしょう、世界を救う為には如何すべきか貴方には解っている筈。さあ見事私達を倒して世界をお救いなさい、愛する息子の命と引き換えに』

 

「ぐっ、ぐぐぐぐぐ!」

 

『ジャミ、ゴンズ、何時まで寝ているつもりですか。パパスさんがお待ちかねですよ』

 

『ははっ!おのれ、よくもゲマ様の前で恥をかかせてくれたな』

『さあ、かかって来るがいい。正義とやらの為にな』

 

「お……、おのれぇ……」

 

近付いて来るジャミとゴンズを目の前にしながらもパパスは何も出来ないでいた。

 

『おりゃあぁぁっ!』

「ぐわぁっ!」

『そりゃあぁぁっ!』

「ぐうぅっ!」

 

ジャミとゴンズの容赦の無い攻撃はパパスを絶え間なく襲い続ける。

パパスは反撃する事が出来ずにその攻撃を耐え続けている。

その責め苦が数十分続いた時、リュカとヘンリーは目を覚ます。

 

『くそっ、なんて頑丈な奴だ。まだくたばりやがらねえ!』

「く…くうぅ、リ…リュカ……」

 

「と、とうさ……、父さん…」

「パパ…スさん…」

 

『おや、どうやら子供達の目が覚めた様ですね。ではそろそろ止めを刺させてもらいましょうか』

 

ゲマはそう言うとその手の中に紅く燃える火球を作り出しながらパパスへと近付いて行く。

 

『苦しいでしょう、今止めを刺して楽にしてあげますからね』

「ま、待ってくれ。せ…めて最後に、我が子にわ…別れを言わせて……くれ」

『まあ、いいでしょう。でも子供達の心配でしたら無用ですよ?彼等はこれから奴隷としての幸せな毎日が待っているのですからね。ほっほっほっほっほっ』

 

 

「聞こえるか、リュカよ」

「父さん…」

「今まで黙ってきたがお前の母親は生きている」

「か、母さんが?」

「お前には…、お前達にはこれから苦しい試練が待っている事だろう。だが、その試練に、運命に打ち勝ち、母さんを…マーサを救い出してくれ」

 

「父さん…、父さんは?」

「私は……どうやらこれ以上お前の傍に居てやる事が出来ぬ様だ」

「い、嫌だ、そんなの嫌よ。と、父さぁん」

 

リュカは涙を流しながらパパスへと手を伸ばすが、傷付いた体は思うように動かず近付く事すら出来ない。

 

「ヘンリーよ、約束を守れずにすまない。出来る事ならばリュカを…、がはっ!」

「パ、パスさん。分かった、分かったから、死なないで…」

 

体中傷だらけで息も絶え絶えに、それでも笑いながら自分に語り掛けて来るパパスにヘンリーは泣きながらもそう言う事しか出来ない。

 

『もういいでしょう?それではお別れの時間です』

「そうだな……、これで…最後だ!」

 

そしてパパスは最後の力を振り絞り、ゲマへと飛び掛る。

 

『な、何を!? 離しなさい!』

『貴様!ゲマ様から離れろ!』

『この死にぞこないがっ!』

 

ジャミとゴンズはゲマに組み付いたパパスを引き離そうとするがパパスは組み付いて離れない。

 

「父さん、父さあぁぁぁん!」

「パパスさん!」

 

「息子よ……いや、息子達よ。私は何時までもお前達を見守っている、何時までも……愛しているぞ。………さらばだ!」

『この魔力の波動。貴方…まさかっ!?』

「貴様等には地獄まで…付き合ってもらうぞ!」

『や、止めなさい!』

 

そしてパパスはその禁断の呪文を唱えた。

 

「メガンテ!」

 

その瞬間、辺りを眩い閃光と衝撃が唸りを上げる。

 

『ぐおおおおーーーーーーーーっ!』

『『ぎゃあああーーーーーーーーっ!』』

 

 

 

 

《自己犠牲呪文・メガンテ》

 

それは大気中の魔力(マナ)を体内に取り込み、己の命を起爆剤にして敵を道連れに自爆をするまさに最強の呪文の一つである。

 

 

 

「「うわああーーーーーっ!」」

 

リュカにヘンリー、リンクスは爆風で吹き飛ばされて再び意識を失ってしまう。

 

 

 

爆発が収まり、辺りに静寂さが戻ってきた時、倒れているリュカ達の下に一つの人影が歩み寄って来た。

 

『ほっほっほっほっほっ!流石は人間界最強の剣士と呼ばれた男。やはり一筋縄では行きませんでしたね。もしやと思い、人形を用意しておいて正解でした』

 

なんと、その人影こそが本物のゲマであった。

先程までのゲマは偽りの体を暗黒魔力で操っていただけに過ぎなかったのだ。

 

『まあ、おかげさまでこの子供達もそう簡単には死ねなくなりました。まさに最上の奴隷となって働いてくれる事でしょう。おや、この子が持っているこれはまさか…』

 

ゲマはリュカの持つ袋の中から淡い光が漏れている事に気付き、中身を取り出す。

 

『これはゴールドオーブ。何故この子がこの様な物を?ほほほ、まあいいでしょう。これさえ壊してしまえばもはや天空城の復活はありえません』

 

ゲマのゴールドオーブを掴むその手に黒い光が集まって行く。

その黒い光に黄金色の光は次第に失われて行き、皹が入ったと思うとゴールドオーブは粉々に砕け散ってしまった。

 

『これで良し。ではしっかりと働いて来て下さいね。《バシルーラ》』

 

ゲマの放ったバシルーラによって、リュカとヘンリーは光となって飛び去って行った。

 

『後はあの魔物ですが……、まあ捨て置けば何れは魔性を取り戻すでしょう。さて、邪魔者であったパパスが死んだ事をあのお方にご報告に行くとしますか。さぞお喜びになる事でしょう、ほっほっほっほっほっ』

 

高笑いを残したまま、ゲマの体は黒い霧の中へと消えて行った。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

その頃……

 

「はあ、はあ、はあ。何なのでしょう、この例え様も無い胸騒ぎは?待っていて下さい、パパス様、坊ちゃま!今このサンチョがお傍に参ります!!」

 

留守を任されていたサンチョはラインハットへとひた走る。

 

 

 

~アルカパ~

 

「どうしたのビアンカ?」

「ママ、リュカは大丈夫かな?」

「何よいきなり」

「何だか急に心配になって。胸がドキドキして止まらないの」

「大丈夫よ、何たってあのパパスさんがついているんだからね」

「うん、そうよね。(無事だよね、リュカ)」

 

リュカと共にレヌール城を冒険したビアンカの胸にも胸騒ぎがざわめいていた。

 

 

 

~名も無き修道院~

 

「フローラ、どうしたのですかフローラ!?」

「うっうっうっ…シ、シスター・ラルカ。うううう…」

「何を泣いているのですか?」

「私にも分かりません。ただ、夜空を見上げていたら一筋の流星が流れ、それを見たら涙が止まらなくなって」

「流星?何か災いの予兆でなければ良いのですが」

 

修道院で修行を始めたばかりの少女は空を流れた流星を見て涙を流す。その胸の中にビスタ港で再会の約束をした少年の笑顔が浮かんでいた。

 

そして流星が流れて行った先には天に届くばかりの雄大さを誇るセントベレスと呼ばれる山があった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

 

そして誰も居なくなり静寂さが戻った此処、古代遺跡では………

 

「ガ、ガウウ……」

 

ようやく目を覚ましたリンクスだが、既に其処には誰も居なくなっていた。

 

「グウ、ガウ?…キュオオーーン!」

 

辺りを見回しリュカを呼ぶリンクスだが、当然の事ながら返事は無い。

そしてリンクスはリュカ達を探す為に走り出した。

 

「ガウッ。キュ~ン、キュ~ン!」

 

リュカの匂いを嗅ぎ分けながらリンクスは遺跡の中を駆け回る。

そんな彼女の頭の中には今までの思い出が巡っている。

 

 

 

『”ホイミ”』

 

 

『ガゥ?』

『もうちょっとの辛抱だよ。すぐに助けに来て上げるからね』

『グゥ…、クゥ~~ン』

 

 

体を包む暖かな癒しの光。

 

目を覚ました先の優しそうな笑顔。

 

「キューン、キャン、キャンッ!」

 

 

『あはははは!こら、くすぐったいよ』

『ガゥ~~、クゥ~~ン♪』

 

レヌール城でのオバケ退治を終えて、約束通りに迎えに来たリュカ。

 

 

「キャンキャンキャン!」

 

 

『ガゥ~~、ク~ン』

『ん、どうしたのリンクス。寒いの?』

『キュ~~ン』

 

『あはは、甘えん坊だねリンクスは』

『キュゥ~~ン♪』

 

春が訪れない寒い日に優しく抱きしめてくれたリュカ。

 

 

「ガウガウ、キャーンッ!」

 

 

『ねえ、ベラ』

『…何?』

『僕、いい事をしたのかな?』

 

敵であった雪の女王の為にも涙を流す優しいリュカ。

 

 

「キャン、クウ~ン、…リ…リュカ…」

 

リュカに隠れてしていた言葉の練習。

ようやく名前だけ呼べるようになっていた。

サンタローズに帰ったら驚かせようと内緒にしていた。

 

「リュカ!リュカ!リュカァーーー!」

 

リュカの名を呼びながら同じ所を駆け回るが、辿り着くのはやはり此処。

パパスが最後を向かえ、バシルーラによってリュカとヘンリーが連れ去られたこの場所。

 

「リュカ、リュカ、リュ…キャンッ!」

 

石畳の地面を駆け回った事でリンクスの足はすでにボロボロになっていた。

駆けていた勢いのままリンクスは倒れる。

もはや起き上がる力も無く、倒れたままの彼女の目線の先には唯一つ残されたパパスの剣が鈍く光っていた。

 

思い浮かぶのは優しげなリュカの笑顔。

その胸の中で感じた暖かな温もり。

共に笑いあったピエールとスラリン。

そして優しく名前を呼んでくれたあの声。

 

『君の名前はリンクスだよ』

 

『サンチョの作ってくれたご飯は美味しいだろ』

 

『今日は寒いから一緒に寝ようね』

 

『はははは、こっちだよリンクスーー。早くおいでよーー!』

 

 

「リュカ…リュカ……、イヤ…ダ。リュカ、リュ…カ」

 

その瞳から涙が零れる。

何度呼ぼうとも返事は返って来ない。

そしてようやく理解する、リュカは何処にも居ないと。

彼が自分を置いて何処かに行く筈はない、ならばあの敵に攫われてしまったのだと。

 

「リュカ、リュカ、リュカ……リュカァーーーーーーーーッ!」

 

泣き叫ぶその呼び声はただ虚しく暗闇の中の遺跡に木霊する。

そしてこの日から、10年にも及ぶ暗い暗黒の日々が始まろうとしていた。

運命と呼ぶには余りにも残酷な日々が………

 

 

一の刻・少年期編 ~完~

 

 

=冒険の書に記録します=

 

《次回予告》

 

これは何だ?

此処は何処だ?

あの人々の笑顔は何処へ行った?

煌く川面は?

心地よい草花の匂いは?

彼は?

友と呼んでくれた我が主は?

教えてくれ、何があったんだ?

友よ、スラリンよ!

 

次回・第十九話「目覚めし騎士(ナイト)、二人の誓い」

 

護ってみせる!彼が、帰って来るその日まで。

 

 




(`・ω・)少年期編、遂に終結です。
パパスの最後は原作通りの嬲り殺しでは無く、メガンテによる自爆に変えました。
まあ、結局ゲマのズル賢さの方が一歩上手でしたが。
次回は番外編としてサンタローズでのピエールとスラリンの話です。
その次から二の刻・青年編前半が始まります。

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