ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第十六話「ヘンリー、孤独な目の王子」

~ラインハット~

 

滅びたレヌール国の領土を併合した為に北大陸のほぼ全土を統治する大国である。

その城下町もかなりの規模であり、城自体もレヌール城を遥かに上回る壮観さでリュカも辺りを見回しながら驚いていた。

 

「うわ~~、すごいね父さん」

「うむ、何しろこの北大陸の大半を治める国の城だからな」

 

リュカはリンクスを抱き抱えながらそう呟いた。

城下町で魔物が歩き回るのは目立ち過ぎると言う事でリュカがリンクスを抱きしめ、リンクスも大人しくしている事で危険は無いとアピールしている。

 

これはパパスの提案であった。

 

「では城へと赴くとしよう。城の中では大人しくしておるのだぞ。リンクスもな」

「うん、分かってるよ!」

「ガウ!」

 

 

―◇◆◇―

 

跳ね橋を渡り城門を前にすると門番の兵士が槍で門を塞ぎ詰め寄って来る。

 

「待たれよ!貴様等は何者だ、それにその子供が連れているのは魔物では無いのか?」

「私はサンタローズのパパス、ラインハット王・レナス陛下の要請で(まか)りこした。この子は私の息子のリュカ、連れている魔物も息子に懐いていて暴れる心配は無い。この事はレナス陛下にも御許可は頂いている、ご確認をいただきたい」

「そうか、ならばしばし待たれよ」

 

兵士の一人はそう言うと確認の為に城の中へと入り、しばらくすると駆けて来た。

 

「失礼しました、サンタローズのパパス殿。陛下がお待ちです、こちらへどうぞ」

「うむ、失礼する」

 

兵士の案内でパパスとリュカは城の中へと歩み出す。

城の中はやはりレヌール城よりも遥かに立派でリュカも目を輝かせながら見入っていた。

 

廊下を歩いている時にふと窓に目をやると中庭で一人、剣の練習をしている少年がいた。

その少年は剣を持ち、素早い動きで見えない敵と闘っているようだった。

 

視線に気付いたのか、その少年は動きを止めるとリュカを見つめたがすぐに目線を外し再び剣の練習に戻った。

 

「リュカ、どうかしたのか?」

「ううん、何でもない」

 

パパスに呼ばれ、リュカは歩き出したがさっきの少年の目が忘れられないでいた。

あの、孤独そうで冷たい目線が……。

 

「何だかあの子、僕の事睨んでいた気がする」

 

 

―◇◆◇―

 

案内をする兵士に連れられパパスとリュカは玉座の間に辿り着いた。

玉座に座っているレナス王はパパスを見ると懐かしそうに微笑むが、咳払いをすると厳しい目に戻りパパスを見据え、パパスもその玉座の前に膝を付いて平伏し、リュカも慌てて頭を下げる。

 

「そう硬くならずとも良い、お主の高名は儂の耳にも届いておるぞ。

そしてその子がお主の息子の」

「はい、陛下。我が息子のリュカです」

「こ、こんにちは、リュカです」

「成程な、既に何匹かの魔物を従えている筈だ。良い目をしている」

「違うよ、リンクス達は僕の大事な仲間で友達なんだ。従えているわけじゃないよ!」

 

「こら!国王陛下に対して何と言う口の利き方だ!」

「これ、リュカ」

「ははは、よいよい。その子の友達を侮辱した様な言い方をした儂が悪かった。すまぬな坊やよ」

「ううん、いいんです。僕の方こそごめんなさい」

 

激昂しかけた兵士もリュカが素直に謝った事で落ち着きを取り戻し、話は続いていく。

 

「ではパパスよ、そなたを呼んだ用事だがな……、すまぬが此処は儂とパパスの二人だけにしては貰えぬか」

「は?しかし…」

「この者は信頼が置ける人物だ。下がっていてくれ」

「御意。では失礼いたします」

「リュカよ、此処からは大人の難しい話だ。お前は城の中を見せてもらいなさい。一回り回る頃には話も終っているだろう」

 

国王の傍に控えていた兵士は命令通りに玉座の間を後にし、リュカも下の階へと降りて行く。

降りて行った下の階には豪華な扉があり、その扉が開くと一組の親子が出て来た。

母親の方は煌びやかなドレスに身を包み誇らしげな笑みを浮かべており、子供の方はいかにも王子様という様な格好だったが何処となく俯き加減で表情は暗かった。

 

「おや、そなたは?」

「は、はい。サンタローズから来たリュカです」

 

見た目からこの城の王妃だろうと察したリュカはパパスの為にも問題を起こさない様に丁寧口調で挨拶をし、頭を下げた。

 

「ほほほほほ、中々行儀の良い子ですね。その様に身の程をわきまえておけば将来、デールの良い部下になるでしょう。頑張って精進なさい、ほほほほほほ」

 

それに気を良くしたのか、王妃は笑い、息子の事を誉め立てる様に担ぎ上げて笑いながらその場を後にした。

デールと呼ばれたその子供はそんな母の傍で増長する訳でも無く、申し訳なさそうにリュカに頭を下げるとそのまま王妃の後についていく。

 

「何や、イヤな感じの王妃様だったけど、あのデールっていう王子様はどことなく寂しそうな感じだったな」

 

デールはリュカ達から離れる時にリンクスを抱きしめているリュカを羨ましそうに見つめていて、リュカはそんなデールの目を寂しそうだと感じていた。

 

実際にデールの傍にやって来る子供達は王妃によって厳選され、家臣としての態度しか取る事を許されてはおらず、動物と触れ合う事も汚らわしいと禁止されていた。

 

一階に降りて、兵士や城に仕えている人達と話をしているとこの城にはもう一人の王子が居るとの事だ。

その王子の名はヘンリー。

 

ヘンリーの父親は本来ならラインハットの王位を継ぐ者であったが、政事(まつりごと)には興味を見せずに武力のみを(みが)き、王位を弟のレナスに譲り渡すと修行だと言って旅立ったのである。

 

数年後、旅の途中に息子のヘンリーを連れて城に立ち寄った時、魔族による襲撃があった。

ラインハットの地を護る為にに先陣を切って闘ったヘンリーの父だが、敵を退けるのと引き換えにその命を落としてしまった。

 

既に母親を亡くしており、行く当ての無いヘンリーはレナスに引き取られ城で暮らす事となった。

だが、それを良しとしない王妃はデールの地位を奪いかねないヘンリーに辛く当り続けている。

実はレナス王がパパスを呼んだのもその事に関してであった。

 

 

―◇◆◇―

 

リュカが玉座の間を後にして少しした時、レナス王は態度を変えてまるで旧友にでもあった様な口調になる。

 

「はぁ~、お前相手にあの様な話し方は肩がこっていかん」

「ははは、仕方あるまい。何しろ今の私は少し名の売れているだけの一介の剣士にすぎぬのだからな」

「まったく…兄上とは違い、お前は一国の王だというのに……。困った男だよ、デュムパポス・エル・ケル・グランバニア国王陛下」

「……私にその名を名のる資格など無いよ。マーサを救う為とはいえ、国を捨てた男にはな」

 

ヘンリーの父がラインハットを出奔し、レナスが王位を継いだのと、パパスが前王崩御で王位を継いだのはほぼ同じ時期の為、二人は国王同士としての交流があった。

 

そしてサンタローズに戻ったパパスを呼び出したのは兄の遺児、ヘンリーの事であった。

兄の子で、息子デールよりも年上とはいえさすがにヘンリーに王位を譲る気は無かったが周りは気弱なデールより行動力に溢れ、性格はきつめだが隠れた優しさを見せるヘンリーを次期国王にと望む者は多かった。

 

だがそれが妻である王妃は気に入らないらしく、ヘンリーに辛く当たる事が多く見受けられていた。

なのでこのままヘンリーを城に留めて国を割る様な事になるよりはパパスに預けて国から離すのが得策だと思っていた。

 

何よりもヘンリー自身が城から離れる事を望んでいた。

このまま放っておけばいずれは兄の様に国を飛び出してしまうであろうし、それよりは勇猛で名の知られているパパスに預けるのならば周りの者達も反対はしないだろうと考えての事だった。

 

「なるほどな」

「あの子は本当に兄上そっくりだよ。国王となる資質は十分なのに身内同士での争いを良しとせず自ら身を引く。まあ、心から自由を求めているのも確かだがな」

「分かった、引き受けよう。どうせ暫くはサンタローズに腰を落ち着けるつもりだったからな。それにリュカにも良き友になるだろう」

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

その頃リュカは、何故か中庭でそのヘンリーと向き合っていた。

お互いに武器を握りしめて。

 

(何でこうなったんだろ?)

 

事の次第はこうである。

 

・給仕見習いの少女が運んでいた壺を落として割ってしまった。

・うろたえている少女の所にヘンリーが通りかかり、怒られると思った少女が泣き出してしまった。

・その声に何事かと駆けて来る兵士、その足音に怯えて余計に泣きだす少女。

・ヘンリーは手にしていた剣で割れた壺を更に粉々にし、やって来た兵士には力試しに壺を割ってしまい少女を泣かせてしまったと嘘の報告をして少女を庇う。

・兵士達は呆然としている少女とそっぽを向いているヘンリーを見比べて事態を悟るが、ヘンリーの思いを悟り割れた壺を片づけた後注意をしてそれで終わりにした。

・少女はヘンリーに何度も頭を下げ仕事場に戻っていく。

・そしてヘンリーがその場を立ち去ろうとしたら、一部始終を眺めていたリュカがニコニコ笑いながら立っていた。

 

 

「…何を笑ってやがる。馬鹿にしやがって…、決闘だ!」

 

 

=冒険の書に記録しました=

 

《次回予告》

 

と言う訳で決闘したんだけど、強かったなヘンリーは。

でもやっぱり一番は僕の父さんだよ。

そんな時、ヘンリーが攫われてしまった。

僕は男だ、絶対に助けてやる!

 

次回・第十七話「救え!攫われたヘンリー」

 

「待ってて、ヘンリー!」

 


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