ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第十三話「悲しき、冬との戦い」

リュカとの戦いの中で落ち着きを取り戻したザイルは彼等の説得に応じ、春風のフルートを返そうとしたが、突如現われた雪の女王によってフルートは奪われ、氷の中に封じられてしまった。

 

「じょ、女王様……な…んで?」

『子供だと思って手を抜いたのが失敗でしたね。やはり魂の奥底まで邪気で染め上げておくべきでした』

 

倒れているザイルを冷やかに見下す雪の女王をべラは鋭い目線で睨みながら叫んだ。

 

「雪の女王!やはり貴女は邪に魂を売り渡したのね!」

『売り渡すとは人聞きの悪い。魂を委ねたと言ってもらえますか』

「……委ねた…ですって?」

『ええ、それにあのお方は決して邪ではありませんよ。冬の素晴らしさを分かってくださるお方です。貴方達も見たでしょう、純白に彩られた美しき素晴らしい世界を』

 

赤く染まった虚ろな目で、まるで作り物の様な笑顔でそう言う雪の女王を見てベラは悟った。

雪の女王もまた、ザイル同様に操られていると言う事に。

 

『さあ、もはや語る事などありません。貴方達は氷の彫像にしてこの館の永遠の住人にして差し上げましょう』

 

そして彼女の眼は赤一色になり、凄まじい形相をして襲い掛かって来た。

ベラは雪の女王より放たれた冷たい息を「フバーハ」で防御をし、リュカはその隙にザイルを柱の影に移動させホイミで治療をする。

 

「雪の女王、もう話通じない」

「雪の女王、もう駄目」

「雪の女王、もう敵」

「雪の女王、もう戦うしかない」

 

「「「「やあーーーーー!」」」」

 

「お、お前達…」

「アイツは僕たちに任せてここに隠れていなよ」

 

ザイルはベラ達の所に戻って行くリュカの背中を見ながら立ち上がり、斧を掴み取る。

 

「そんな訳に行くか、馬鹿野郎!」

 

 

ベラのギラやリンクス達の攻撃で雪の女王は傷付いていくが、周りの冷気が雪の女王に味方しているのか付けられた傷もたちまちの内に回復して行く。

 

「な、何よコイツ、切りが無いじゃない!」

「雪の女王はその名の通り雪の精霊なんだ。だから周りに冷気がある限りはきっと不死身なんだよ」

「じゃあ、どうするのよ!?」

「ピイ~~」

 

「どうするも、闘うしかないじゃないかーーっ!」

『ぐっ!この…人間風情が!!』

 

ベラ達が雪の女王の不死身さに悩んでいると、リュカが駆けて来て雪の王に鉄の杖で殴りかかる。

するとリュカが付けた傷はベラ達が付けた傷とは違い中々回復せず、そしてそれをベラは見逃さなかった。

 

「リュカが付けた傷だけ治りが遅い……。ものは試し、ギラッ」

『ぐわっ!お、おのれ!』

 

ベラが放った閃熱呪文は彼女の狙い通り、女王の傷を押し広げたばかりで無く、その治りも遅くなっている。

 

「まだまだーーっ!」

 

リュカは続けて雪の女王に殴りかかろうとするが、その攻撃を避けた雪の女王は冷気で作った剣をリュカに振り下ろす。

だがそれはリュカに届く事は無く、ザイルの斧に受け止められていた。

 

「…ザイル、何で?」

「助けられてばかりじゃ爺ちゃんに怒られるからな。騙されたお返しだ、俺も闘うぞ!」

 

「ヒーも戦う、リュカ守る」

「ファイも戦う、リュカ助ける」

「プリーも戦う、リュカ大事」

「マーも戦う、リュカ友達」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

『何故、何故邪魔をするのですか!私はこの世界を汚れの無い雪で白く染めようとしているだけなのに』

「僕も冬は好きだよ」

『ならば何故!?』

「でもこのままじゃ嫌いになっちゃう。僕だけじゃ無い、みんなが冬を嫌いになる。雪

合戦したり、雪だるま作ったり、そんな風に楽しめるのは春や夏や秋があるから、だから冬も好きになれるんだよ!」

『…春や夏や秋があるから……』

 

リュカの言葉に雪の女王の体は動きを止め、その目はリュカを捉えたまま話さなかった。

 

「リュカの言う通りよ、四季の移り変わりがあるからこそ人々はそれらの季節一つ一つを愛する。それは例え春のみでも、夏のみでもきっと変りはないわ」

「(私……私は……しかし最早この体はもう…)…問答、無用です」

「(女王、貴女…もしかして)やはり言葉は届かないのね」

 

ザイルが加わり、闘いは一気に攻勢に転じた。

雪の女王はリュカの攻撃だけではなくベラ達からの攻撃をも回復しきれなくなって来た。

それだけでは無く、雪の女王の目からザイル同様に邪気が消えている事にベラとスラリンだけが気付いていた。

 

そして何を為すべきかも二人は気付いている、例えその事がどれ程リュカの心を傷つける事になろうとも。

だが、やるしかなかった。春を呼び戻す為にも、雪の女王を“救う”為にも。

 

「ギラッ!」

「くうっ!」

「今よ、リュカ!」

「リュカ、こいつを使え!」

 

ベラのギラで出来た隙をついてリュカはザイルから渡された斧で斬りかかる。

そんなリュカを雪の女王は受け入れる様に笑顔で両手を広げ……

 

「え?……」

 

そしてリュカの攻撃は雪の女王の体を深々と斬り裂いた。

 

「こ、れで…やっ、と……」

 

雪の女王はリュカの頬を優しく撫で、微笑みながらゆっくりと倒れていく。

その姿をリュカは呆然としながら見つめていたが、気を取り戻すと手にしていた斧を投げ捨て倒れた雪の女王を抱き上げる。

 

「何で?何でワザと倒されたの!?」

「わ…たしの体は…既に、魔王の魔力によっ…て、支配されてました。…でも貴方の力…が、心が、魂の奥…底に閉じ込められていた、わた…しの心を呼び覚まして…くれました」

 

リュカに抱えられた雪の女王は息も絶え絶えながらも答え、そんな彼女の言葉をベラやスラリン達も神妙な顔で聞き入っている。

 

「だったらザイルみたいに闘いを止めれば良かっただけじゃないか!」

「いえ…ザイルとは…違い、私の…魂は魔王の…邪気に…染められきってました。その呪縛から…逃れるには…この方法しか…ありませんでした」

「染められて……、染まりきる…」

 

そこでリュカは依然スラリンに教えられた事を思い出した。

魔王の魔力に染まりきった魔物は最早元には戻れないと言われた事を。

 

「そんな…そんなの、あんまりじゃないか」

 

潤んで行くリュカの瞳を見て、雪の女王は微笑んで彼の頭を、頬を撫でていく。

 

「優しい子ですね。悲しむ…事はありませんよ。貴方は…わ…たしを、助けてくれた…のですから」

「僕が、助けた?」

「ええ、あの…ままでしたら世界は…冬の寒さによって…人々は…冬を憎み…ながら…滅んでいたでしょう。それは私に…とって、何よりも…耐えがたい事。でも、貴方のおかげで」

 

そんな雪の女王の体はきらめきながらゆっくりと消えていく。

 

「ありがとう、これからも…冬を、好きでいて……」

 

そして後には何処までも透明な水溜りと、青く澄んだクリスタルが残されていた。

 

ベラは溶けた氷から解放されたフルートを手に取ると、リュカの元に歩いて行く。

スラリン達やヒー達に囲まれているリュカの肩に優しく手を置いてやり、声を掛けようとするとリュカが手を付けている水溜りにポツポツと零れる涙が波紋を広げていた。

 

「ねえ、ベラ」

「…何?」

「僕、いい事をしたのかな?」

「何故そう思うの?」

「だって、だって……雪の女王は悪い奴に操られていただけじゃないか。それなのに僕は」

 

ベラはそんなリュカを抱きしめ、背中を優しく擦ってやる。

リュカはベラにしがみ付いて小さな声で泣き始め、スラリン達やヒー達も心配そうに擦り寄って行く。

ザイルはそんな光景を見て、俯きながら「ゴメン」と小さな声で呟く事しか出来ないでいた。

 

「リュカ、貴方は間違いなく良い事をしたのよ。雪の女王も言っていたじゃない、「ありがとう」って」

「でも、でも…」

「今は泣いてもいいのよ、誰も笑ったりしないから」

「うっ、うっ、ベラ。うわあぁぁ~~~~ん」

 

泣き続けるリュカをベラはずっと抱きしめていた。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

《次回予告》

 

春風のフルートは取り戻したけど、雪の女王は可哀想だった。

本当は悪い人じゃ無かった筈なのに…

でも、これで春が来るんだ、早くお城に戻らないと。

 

次回・第十四話「訪れた春」

 

「また会おうね、約束だよ!」

 




( ;ω;)雪の女王はミルドラースによって操られていたと言う事です。
リュカに成長を促せる為とはいえ、やはり辛い戦いでした。

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