ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~   作:乱A

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第十二話「氷の館の対決」

 

鍵の技法を手に入れたリュカ達は漸く雪の女王の城である氷の館へと辿り着き、今は閉ざされた扉の前に立っていた。

 

「じゃあリュカ、扉を開けてちょうだい」

「うん、“扉よ、開け”」

 

扉の錠に手を当て、そう念じると錠はカチリと音を立てて外れ、扉はゆっくりと開いて行く。

 

リュカ達は雪の女王との決戦の場へと一歩足を踏み入れ、扉を開いて館の中に入る。

すると其処は一面の氷の床で出来ていて、一歩進もうとするだけでツルツルと滑り、歩く事さえままならない。

 

何かを思い付いたのか、リュカは床に向けてバギを唱えると氷の床はたちまちひび割れて行き、歩く事に支障は無くなり、ザラザラになった氷の床を歩いて行く。

その間も魔物達は絶え間なく襲い掛かってくる。

 

「アルミラージ」の群れをリンクスが石の爪で切り裂いて倒して行き、空中を飛び回りながら飛びかかって来る「ドラキーマ」をリュカはバギで切り裂いて行く。

 

「カパーラナーガ」は“冷たい息”で攻撃をして来るが、ベラの閃熱呪文(ギラ)によって、まるで溶ける様に消えて行った。

ピエールとスラリンもヒー達と見事な連係プレイを見せ、次々と敵を倒して行く。

そんな中、ベラはふと疑問を感じた。

 

「ん~~、何か妙ね?」

「何が、ベラ?」

「この氷の館は雪の女王の居城、なのに何故此処まで魔物共が溢れかえってるのかしら。この内部の壮観さからしてどうにも腑に落ちないのよ」

 

リュカも言われてみればと思い、辺りを見回す。

丁度レヌール城がこんな感じだった、優雅さを思わせる城の中を魔物達が荒らし回っている様な。

 

「とにかく、先に進みましょう」

「うん」

 

 

魔物達と闘いながら先に進んでいると開けた部屋に出た。

部屋の中央にある豪華な椅子から此処が玉座の間だと言う事が分かり、さらに近づいて行くと其処に一人の少年が居た。

玉座の前に陣取り、こちらに気付くと斧を振りかざしながら威嚇して来た。

 

「お、お前はベラ!くそぉっ、春風のフルートを取り戻しに来たな」

「ザイル、もう止めなさい!これ以上はガイルさんを悲しませるだけよ、今ならまだポワン様も許して下さるわ。さあ、私達と帰りましょう」

「うるさい!黙れ黙れ黙れぇーーーっ!誰がお前達の言う事なんか聞くものかーーっ!」

 

ザイルは聞く耳持たないと喚きながら斬りかかって来た。

 

「くっ、この分からず屋!」

 

ザイルの攻撃をベラは樫の杖で受け止めながらかわして行くがその実力差は明らかでベラは徐々に追い詰められて行く。

 

「とりゃーーーっ!!」

「「「「やぁーーーーー」」」」

 

リュカとヒー達はそんなザイルに飛び掛かって行き、驚いたザイルも後ずさりベラから離れる。

 

「お前、悪い奴」

「お前、敵」

「お前、嫌い」

「お前、やっつける」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

「うわっ!な、何だお前達は!?」

「お前みたいな分からず屋は僕が相手だ!」

「誰が分からず屋だ!お前の方こそこんなに大勢で来やがって。この卑怯者!」

「僕は卑怯者じゃない!皆は手を出さないで、男同士一対一の決闘だ!」

「よく言った!行くぞぉーーっ!」

「来いーーっ!」

 

ザイルは斧を振り下ろし、リュカは鉄の杖でそれを受け止める。

リュカが鉄の杖を横に薙ぎはらうと、ザイルは後ろに飛んでかわし、再びリュカに斬りかかる。

 

そんな一進一退の攻防を幾度か繰り返し、リュカもザイルも傷だらけになって行く。

リュカの攻撃がザイルを打ち据えたかと思うと、ザイルの斧が一閃し、リュカのその頬に一筋の傷が刻まれる。

 

「ガウッ!」

「ダメだよ、リンクス!」

「ピイッ!」

「「「「やっ!」」」」

 

堪らず駆け寄ろうとしたリンクスをスラリンとピエール、ヒー達が押し留める。

リンクスは何故邪魔をするのかと攻め立てるが彼等は言う。

 

「リュカの邪魔をしちゃいけないよ。きっと怒られる」

「ピイピイ」

 

「リュカ、約束した」

「リュカ、一対一」

「リュカ、勝つ」

「リュカ、信じる」

 

「「「「やっ!」」」」

 

そんな皆の目を見てリンクスも気付く。

彼等だってリュカを助けに行きたいのだ、でも男同士の決闘だから手を出せない、皆辛いのだと。

ふと横を見ると、ベラも拳を握り締めながら歯をギリギリと強く噛み締めている。

だったら自分も見守り信じよう、リュカが勝つ事を。

 

 

ジャキーンッ、キンッ、キィーーンッ!

 

 

何度目かの斬り結びの時、ベラは気が付いた。

ザイルの目の色が変わって来ている事に。

赤く濁っていた目の色が何時の間にか青く澄んで来ているのだ。

 

「はあ、はあ、はあ…な、何でお前は俺の邪魔をするんだ!俺は爺ちゃんの為に妖精の村に復讐してやるんだ!」

「はあ、はあ…僕はね、そのおじいちゃんに頼まれたんだ!お前を助けてくれって!」

「爺ちゃんが?何で爺ちゃんがそんな事を……」

「馬鹿ーーっ!お前の事が心配だからに決まってるだろ!」

 

ガツンッ

 

「痛ぇーーっ!!」

 

リュカの拳骨がザイルの頭に決まり、ザイルは頭を擦りながら涙目で蹲る。

 

「何しやがる!!」

「あんなにいいおじいちゃんを泣かせるほど心配させたからだ、もう少し反省しなよ!」

「…爺ちゃんが…泣いてる?」

「そうだよ、ザイルは騙されている、取り返しがつかなくなる前に助けてくれって」

「俺が騙されてるだと?」

「お前、このまま春が来なかったらどうなると思うんだよ」

「どうなるって……、俺はただ爺ちゃんを追い出した妖精の村の奴らを困らせてやろうと…」

 

「困るだけでは済まないのよ」

 

リュカとザイルの勝負が止まった事を見計らい、ベラはザイルへと話しかける。

 

「困るだけじゃないって…どう言う事だよ」

「このまま春の訪れが無いと自然界のバランスは崩れ、人間界も、そしてこの妖精界にも甚大な被害が及ぶ事になるの」

「な、何だって!? そんな、雪の女王様はそんな事、少しも言わなかったぞ」

「でも事実それが事実よ。だからお願い、春風のフルートを返して。もう一刻の猶予も無いのよ!」

 

「フルート、返す」

「フルート、無いと春来ない」

「フルート、必要」

「フルート、皆の物」

 

「「「「やっ!」」」」

 

ベラとヒー達の嘆願にザイルは困惑している。

しかしベラはザイルが素直に話を聞いてくれると確信していた。

 

ザイルの目は先程とは比べ物にならないほど落ち付いているのである。

リュカとの全力でのぶつかり合いが彼の体に纏わり憑いていた邪気を撃ち払ってしまったらしい。

ベラは改めてこのリュカという少年の力に感心していた。

 

「どうするの?まだやるんなら相手になるよ」

「…いや、もう止める。まだ妖精達の言う事は信じられないけど、お前の言う事なら信じられる気がする」

 

そう言ってザイルは斧を下ろすと玉座の後ろに置いてある宝箱を開けた。

 

「ほら、これが春風のフルートだ。これを持って…」

『愚か者が』

「え、うわあああーーーーーーっ!!」

 

ザイルがフルートを手にした瞬間、何処からともなく声が響いて来て、ザイルは凍り付く様な冷たい風に吹き飛ばされた。

ザイルの手から零れたフルートは青白い姿の女性の手に握りしめられ、そのまま凍り付いてしまった。

 

『ふふふふ、これで私を倒さぬ限りは春風のフルートを手にする事は誰にも出来ぬ。つまりは不可能という訳です』

「じょ、女王様……な…んで?」

『子供だと思って手を抜いたのが失敗でしたね。やはり魂の奥底まで邪気で染め上げておくべきでした』

 

雪の女王はそう笑いながら凍り付いたフルートを放り捨てる。

その笑みはまるで見る物すべてを凍らせる様な冷たい笑みだった。

 

 

=冒険の書に記録しました=

 

 

《次回予告》

 

ザイルは悪い奴じゃ無かった。

騙されていただけだった。

ねえ雪の女王、もう止めてよ!

このままじゃ僕、冬を嫌いになっちゃうよ。

 

次回・第十三話「悲しき、冬との戦い」

 

ねえベラ、僕は……

 




Q:氷の館の鍵ですが、城門なのに単純な構造の鍵というのはおかしくないですか?

A:(`・ω・)それを言っちゃーおしまいよ。

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