艦娘カウンセラー   作:kakikaki

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八話 テスト

厨房では亮が補給食を作っているのだが気にかかることがあった。皐月のことだ。右目に視力は皆無と言っていいだろう。その状態での水上歩行などは可能なのか、入渠で治るのが一番いいのだがそう言うわけにもいかないだろう。

 

「とりあえず入れてきたよー」

 

肩をぐるぐると疲れたように回す北上が食堂に入ってくる。

 

「ありがとな。あとは俺がやっとくからもう寝ていいぞ」

 

おかゆを作っている鍋を見ながら言う。

 

「いや、乗り掛かった舟だし、気にしなくていいよ」

 

「って言ってもな、一応お前も回復したほうだとはいえそういうわけにもいかない」

 

正直カウンセラーの立場上対象に相手に無理をさせるのはよくない。回復、信頼関係がわかるのはありがたいが、本来ならば休んでてほしいところだ。

 

「うん。じゃあ恩返しとして手伝うよーそれでいい?」

 

「でもな・・・」

 

実際そういうわけにもいかないがやる気をそぐわけにもいかない

 

「ま、無理は言わないよ。あたしのできることなんて限られるしねー・・・あ!」

 

「なんだ?」

 

「さっきの罰ゲーム・・・のお詫びになんか要求する」

 

そういって、何かを求めるように手を差し出してきた。

 

「ああ、北上ちゃん」

 

「地味に亮ってSだよね?」

 

「自覚はない」

 

「ふーん。じゃあさ、カウンセラーのパートナーになるのってどうすればいい?」

 

先ほどのジェンガの時にもいつもんだ

 

「艦娘はそんなものにはなれない。夕立は特例だ」

 

「じゃあ、特例って?」

 

「・・・本来ならあり得ないことだが特別に了承を得られること」

 

「いや、意味知りたいわけじゃなくて、なんでカウンセラーが艦娘を所持できる特例ができたのかって話だよー」

 

「・・・責任。みたいなものだ」

 

「じゃあたしも責任を持たせればなれるってこと?」

 

「・・・それはない」

 

「ちぇー、しょうがないか。じゃああたしは睦月型見てくるねー」

 

そういって、部屋から出て行った。

 

「はぁ・・・あいつもカウンセラーやりたいのか?」

 

そんな独り言をつぶやき。作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、北上は睦月型を連れて戻ってきた。入渠のおかげで大体は自分で歩けるようになったが、嫌なことは当たってしまった。

 

「皐月。目はどうだ?」

 

「そうだね・・・見えないよ。さっき望月ちゃんの眼鏡もかけてみたけどダメだったよ」

 

残念そうに右目を抑える。だが仕方がないことだ、なってしまったものは仕方がない。

 

「そうか・・・だが、方法は探してみる。今はみんなで補給をしよう」

 

そういって、おかゆを全員分よそいテーブルに並べる。睦月型は子供のようにテーブルにせっせとつく。健康体の睦月型はがっつくように食べる。先ほどの立てなかった艦娘も少しづつだがたべている。しかし、食べないでじっと見つめてる艦娘もいた。

 

「どうした菊月?食べないのか?」

 

「・・・すまないが・・・食欲がない・・・」

 

「そういわずにほら、頑張って食え」

 

そういってレンゲでおかゆを口に運ぶが口を開こうとはしない。

 

「菊月ちゃん、食べないとだめだよぉ!ほら、あーん」

 

睦月が亮にと代わってみるがそれでも口を開かなかった。しかしなぜなのか、検診の結果では胃に異常がある。それくらいではあった。さすがに食べられなくはないはずなのだが・・・もしかしたら

 

「・・・おかゆ嫌いか?」

 

「・・・・・・」

 

図星っぽい。黙ったまま顔を伏せる。菊月の雰囲気はすごく大人っぽくミステリアスだが、やはり見た目通りの子供でもあった。

 

「でも食わないとだめだ。補給しないと体調がわるくなるぞ」

 

「そうだよぉ~文月もがんばってるんだよぉ」

 

そういって苦い顔をしながら口に運ぶ。

 

「・・・そうか、では、共に行こう・・・」

 

よくわからないことを言いながら、おかゆは口に運ばれる。どうやら何とかなりそうだった。

 

「ふぁ・・・」

 

「みんなそろそろおねむの時間か・・・」

 

あくびが聞こえたのでそろそろ部屋に戻らせることにした。大体の睦月型は明日見ることにしよう。だが、この鎮守府の駆逐艦は提督には思ったよりも酷いことされていないようだ。補給と入渠。それだけで今はなんとでもなる。だが、問題は皐月だ。これはカウンセリングではなく、艦娘を諦めてもらうというもの考えなくてはならない。そんなことを考えながらも、睦月型は部屋を戻って行った。

 

「はぁ、一応食ってくれたからよかったけど・・・今から片づけ・・・」

 

だが、食器よりも目に留まるものがあった。

 

「ZZZ・・・」

 

北上がテーブルにもたれて眠っていた。正直無理をさせすぎた。今日もはじめてあったにもかかわらず、いろいろ自発的にやってくれたし、ほかの艦娘の説得などの役割もまわってくれた。

 

「・・・先に部屋に行くか」

 

そう独り言をつぶやいて、北上をおぶる。大井に見られたら殺されるかもしれない恐怖心もあったが気にせず多摩型の部屋に向かう。

 

「(こののほほーんとしてサバサバしてる正確に助けられたかもな・・・)」

 

艦娘カウンセラーの仕事をしてからこんなにもスムーズにいったのは初めてだ。そして、夕立がいない今も代わりになってくれている。

 

「(北上がカウンセラーか・・・文句いいながらも面倒見がいいしな)」

 

先ほどから、北上はカウンセラーについての興味がわいてきているので少し教えてみたらいい線行くのではないのか、そう思うのだが、北上はそういうわけにもいかないだろう。

 

「んぅ・・・」

 

「北上?」

 

「ぁあぅ・・・あ。れ?・・・うわぁ、亮・・・」

 

寝ぼけてるようで背中の上で何かあたふためいている。そんなことをしている間に球磨型の部屋に到着した。

 

「ほら、部屋付いたから降りろ」

 

「えー・・・もうちょっとこのまま」

 

「駄々こねるな、俺も眠いんだ・・・」

 

「それもそうだね、よっと・・・」

 

そうして亮から降りるとそのまま部屋に入っていく。

 

「おやすみ~」

 

扉の向こうからのんきな声が聞こえる。

 

「はい、おやすみ」

 

そう適当に返して提督室にも戻った。

 

部屋に帰ると電話が鳴り響いていた。

 

「・・・もう寝たいんだが」

 

イライラしながらも受話器を取る。

 

「艦娘カウンセラー狩島亮だ。なんだ?」

 

「俺ってわかった瞬間態度変えるなよ・・・夕立ちゃんが到着し他て今改装中だ。明日の朝のお前の注文品と一緒に送るから」

 

「了解だ。それと聞きたいことがあるんだが」

 

「はぁ?なんだよ?」

 

「今までで目が見えなくなった艦娘ってどういう処置になるんだ?」

 

「・・・まぁ、解体だな。理由は戦力外になるなら少量の素材になったほうがいい・・・いたのか?」

 

「ああ、睦月型五番艦の皐月だ。右目がもう見えてない」

 

「片目だけか・・・ならちょっくらテストだな。受かればいい。落ちたら解体だ」

 

「それ以外で助かる方法は?」

 

「ない。俺らも空母、戦艦レベルならば考えるが・・・駆逐艦だろ?」

 

「そうだが・・・」

 

「お前の意見も聞きたいのは山々だが・・・そうだな、試験は水上歩行だけ。これができなきゃ話にならないからな。それを明日・・・というか今日だな、午後の五時スタート俺の艦隊から監視役として一人送る。これでどうだ?」

 

「・・・何とかなるものなのか?」

 

「皐月次第だな。ハンデを乗り越えれば、それにいい指導者を送ってやるよ」

 

「そうか、頼んだぞ・・・」

 

「だから、俺じゃねぇって・・・お前も頑張れよ」

 

そういわれると電話を切られた。

 

「はぁ・・・もう寝るか・・・」

布団を敷き終えて、いざ寝ようと思ったのだが・・・

 

「入ってもいいかな?」

 

「その声は皐月か?」

 

「うん・・・それで大丈夫かな?」

 

不安そうな声が聞こえる、やはり気にしているのだろう。

 

「ああ、いいぞ」

 

恐る恐る遠慮がちに扉が開く。そこにちょこんと皐月が出てきた。

 

「どうした、もう寝る時間だろ?」

 

「うん・・・その、僕はどうなっちゃうの?」

 

正直タイミングが良かった。明日の早朝に起こすわけにもいかないので、いまテストの要件を伝えられてよかった。だが、やること、事実は全て話す。

 

「・・・お前次第だ、午後五時に水上歩行と演習のテストをしてもらう、それに受かれば何もないが・・・落ちたら解体だ」

 

「・・・えっ?」

 

「だが、大丈夫だろう。そんな難しいものじゃない」

 

「・・・そっか・・・でも、僕・・・生まれてこの方、海に出たことないんだ・・・」

 

「・・・はぁ!?演習も遠征もか?」

 

「・・・うん」

 

経験ゼロ。これがどう響くかはわからない。やったことないからこそ、片目での海上歩行が優位にいくかもしれないし、その逆かもしれない。

 

「・・・頑張ろうな。俺も協力するし」

 

「うん!ありがとう!司令官!」

 

「あー、これ何回目だよ・・・俺は艦娘カウンセラーの狩島亮だ。よろしく」

 

「皐月だよ!!・・・でも、明日になったら・・・」

 

「大丈夫だ。また一緒に飯食おう。この鎮守府の艦娘と一緒にな」

 

「うん!!ありがとう!!少しスッキリしたよ・・・」

 

だが亮はそれを見抜く。

 

「嘘つけ。表情は不安そう、で言葉も早口。焦ってるやつの特徴だ・・・でも、安心しろ。俺がぜってー解体なんかさせないからな・・・もう寝ろ、遅いから」

 

「うん、お見通しなんだね・・・わかった。ねるね・・・僕次第か・・・」

 

不安は消えていないようだが先ほどの焦りは消えたようだ、そしてそのまま部屋を出る。

 

「はぁ、今度こそ寝るか・・・」

 

そういって布団にもぐりこみ、一日目が終了した。


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