時刻は夜の十時、夜、人間というものは興奮状態似なりやすい。なので今日はなるべく艦娘に接することは避けることにしたのだが・・・
「亮ー。ひまー」
なぜか北上は部屋に来ている。
「もう勤務時間外なんだけど・・・んで?何の用だ?」
「みんな今日はいろいろあってさ、さっさと寝ちゃったんだよーだから遊ぼう」
今日中の仕事はもう終わらせて本部に送ったところではあるが、さっさと寝たいのが本音だ。
「ならお前らも早く寝ろ」
「いやだねー眠くないしー」
北上は昼頃には人間を信じられないとしていたやつとは思えないぐらい堂々と近づいてくる。
「そうか・・・じゃあこれでもやるか?」
暇人に亮は自分のバックからごそごそとあるものを取り出す。
「・・・なにさこれ?」
それを受け取った北上は全体を見渡す。
「ジェンガだ。久しくやると面白いぞ」
「あー、抜いて積み上げるやつねーいいよー」
北上はそれを箱から取り出しせっせと積み上げる。
「そういえば駆逐艦は?」
「夕立は入渠だ。あんまり休憩させてやっれなかったし」
本日もあの数を相手によく働いてくれたと思う。もう慣れてきたのだろう。昔はミスして仕事を増やすものだったが・・・
「ふーん。それもそうだね・・・ほい、はじめよっか」
「ああ」
ことっ・・・
ことっ・・・
ことっ・・・
「・・・地味だね」
「序盤だしそういうもんだろ?」
先ほどから同じような状況で序盤の成果盛り上がるがない。
「じゃあさ、こう積み上げたらお題を出すから・・・」
そういって、積み上げると
「じゃあさ、艦娘カウンセラーになったきっかけは?」
「単純に知人に勧められたからだ。まぁ、艦娘いないと海が危険だからな。そういうのもある」
「なるほど・・・じゃあさ、あの駆逐艦はどうやって亮のパートナーに?」
「その質問はこれのお題やったらな」
そういって亮が積み上げると
「那珂の自己紹介の物まね」
「・・・へ?」
「ほら」
「・・・マジで?」
「ああ」
「それは・・・」
そういって立ち上がると
「か・・・艦隊のアイドル・・・北上・・・ちゃん・・・だよぉ~・・・」
そういって北上は顔を真っ赤にし全速力で部屋から出ていった。そして時刻は十一時を過ぎたところ、眠くなっていたのか各々部屋に戻った。すると、電話がかかってきた。番号を見ると本部からだ。やはり夕張の件だろうか、しかしこのまま居留守をするわけにもいかないので恐る恐る受話器を取る。
「海軍艦娘カウンセラー、狩島亮です。」
「よお亮。久しぶりだな。」
「なんだ。お前か・・・何の用だよ?」
電話の主は亮のことを知っているようで馴れ馴れしい。とりあえず、用件を聞くことにする。
「もうちょいお前と話していたいところだが・・・至急本部に来い。今すぐだ」
突然真剣な声がした。先ほどの声とは違い真剣そのものだ。
「今から?今からこの鎮守府を出ても遅くになっちまうぞ?というか、鎮守府を留守にするわけにもいかないんだが・・・夕張のことか?」
「それもあるけど、ま、さっさと来い。夕立も一緒にな」
「夕立も?俺だけじゃだめなのか?」
なぜ夕立もなのだろうか、夕張の件ならば亮一人だけでも十分なはずだ。
「寧ろ夕立だけでいいよ。お前の夕立はただの夕立。だけど・・・錬度的にはもう改二になれるだろ?」
「まぁ・・・そうだが」
実のところ夕立の錬度は難関海域で活躍できるほどの錬度を磨いた実力者でもある。しかし、これは本人の意向で改にはならなかったらしい。理由は出撃するわけでもなく、改になったら燃費も悪くなってしまうと気を使ってくれているのか、本人がなりたくないのかだ。
「いい加減に改装しろってこと。一応夕立はお前のだけど、本部が製造権持ってんだからな。それにお前もそっちのほうが楽になるだろうし今回の違反建造の件はお前の夕立の改装とその装備で見逃そうってわけだ。十二・七センチ連装砲B型改二を本部に提供。そうすればお咎めなしってこと」
「まぁ、改装は俺が決めることじゃないし夕立本人の意思も聞きたいし」
もちろん亮の一択で決められるわけにもいかない。本人確認を取ってからにしたいのだがそういうわけにはいかなかった。
「あのなぁー、今回も結構無理やってんだよーいくら同期のなかよしさんとはいえ俺にも限度がある」
「ちなみに、それを引き受けないと言ったらどうなるんだ?」
「ま、クビっていうのが妥当だろ。今の鎮守府の艦娘も別のカウンセラーに回されるし、夕立もこっちで預かるだろうな。・・・引き受けるよな?」
「夕立次第だ。あいつがいやだって言ったら俺は引き受けない。あいつは入渠してっから出るまで待ってくれ」
「あほか。っていっても聞かないんだろう。さっさと聞いて報告してこい」
そういわれると電話を切られた。
「あーあ、めんどくさい・・・でも留守にするわけにもいかないしな。サボるか」
「ぽーーーーい!!そんなのダメっぽい!!」
いきなり扉が開き、すごい勢いでダ飛び込んでくる。
「お前いつからいたんだよ?」
「ほら!!早く報告っぽい」
「・・・いいのか?」
「うん!亮がやめるなんてそんなことさせないからね!!」
とりあえず、夕立にやってもらうことや装備の提供も説明する。
「そのくらい大丈夫っぽい!!」
「でも、ここを留守にするわけにもいかないんだよでには帰るとは思うけど」
「だったら、夕立一人で行くっぽい」
「あのなぁー、艦娘一人で出るのはだめだ」
「でも違反じゃないっぽい」
確かにそうなのだ、鎮守府ごとのルールでは門限なども決まっているが、亮は提督ではないのでそのように艦娘を縛る権限などはない。どの時間に何しようが、カウンセリング対象以外の艦娘の勝手である。
「・・・わかったよ。その代りちゃんと言われた通りにしろよ。今招待状を書くから、それもっていけば入れる」
「了解っぽい!!」
そういうと机に戻りせっせと招待状を書く。それを渡し夕立は出る準備をしだした。ちなみに海からはいかない、深海棲艦に襲われる心配もあるからだ。
「それじゃあ行ってくるッぽい!!」
「車とか気をつけろよ、今は武装してないんだから轢かれたら大けがだからな」
「だいじょうぶっぽい!!」
「(毎回思うがぽいって言うのが心配なんだよな・・・)」
やはり不安なのでタクシーを呼ぶことにした。
そして鎮守府の外。一台のタクシーが到着した。海軍本部までの金額を渡し、タクシーに乗っていった夕立を見送った。
「はぁ・・・とりあえず今日はもう寝るか」
そのまま提督室に行こうとしているときに一つの黒い影が前を通り過ぎた。
「なんだ今の?」
そしてそのあとに続くかのように四つの影が通り過ぎ、見た目は子供だった。ということは駆逐艦なのか?そしてそのままそいつの跡をついていくことにした。
跡をつける行くと着いたのは食堂だ。厨房のほうでこそこそと何かが動いている。
「う~!!カレーぴょん!!うーちゃん感激ぃ~!!」
「あら、おいしそう」
「・・・もってく」
「うわぁ、まじめんっどくせ~」
「そんなこと言わないで、ほら、張り切っていきましょー!!」
暗い厨房にある残り物のカレーをせっせと運び出している。とりあえず電気をつけることにした。
「おい、何やってる?」
「うびぁあ!!だれぴょん!?」
「あのな・・・何やってんだな時間に?」
「あれ?提督じゃない?」
「ああ、艦娘カウンセラーの狩島亮だ。睦月型だな?そんなこそこそしないでも、食わせるから待ってろ・・・」
そこにいたのは睦月型一番艦睦月。二番艦如月。三番艦弥生。四番艦卯月。十一番艦望月だ。
「じゃあ・・・待ってもらえないかしら?私たちの部屋の子も呼びたいのだけれど・・・」
「ああ、ちなみに全艦いるのか?」
「ええ!!」
如月が大きく返事をする。島風の時もそうだが駆逐艦相手にはここの提督は手を出していないようだ。そしてとても喜ばしいのだが、タイミングが非常に悪い。睦月型の艦娘は全部で十隻。数には数を当てなければならない。夕立が帰ってくる明日に回したいところだが・・・
「まぁ、やることはやるか(なんか、夕立に依存してきているな・・・)」
「まぁ、まずは呼んで来い。それで、今検診道具も持ってくるからほかの睦月型も呼んで来い」
そういい各々が行動に移る。亮は無駄なことはせずさっさと食堂に戻るが、まだ戻っていないようだ。
「たいへんぴょーーーん!!」
「うぉ!・・・って卯月か、びっくりした」
「いいからぁ~早く来るぴょん!!」
「!・・・わかった」
卯月の表情だがやけに険しかった。卯月は常に明るくふざけていることが多いが、このような表情をするということは何かあったらしい。急いで彼女の跡をついていく。
「ここぴょん!!」
表札に睦月型と書かれた部屋にそのまま入る。そこには
「ほら!ご飯を食べるよみんな!」
「うぅ・・・」
先ほどいなかった睦月型はあそこに行かなかったんじゃない、行けなかったのだ。それが証拠に寝たきりだった。動けない艦娘はおぶって運んでいる。
「・・・待った。先に検診させてくれ、皐月、文月、長月、菊月、三日月を先に」
先ほどの五隻をベットに寝かせ、それぞれに聴診器を当てる・・・
「・・・・・・」
黙ったままだが非常にまずい。駆逐艦はほかの艦と比べ、子供だ。なので体も丈夫ではないので病気にもなりやすい。五隻全部が北上と同じく、胃に異常がある。補給は徐々にやっていくしかない。そして・・・
「(外傷は入渠で何とかなるが・・・こんなことは初めてでわからない・・・)」
皐月なのだが、右目に異常があったのを確認した。見た感じは正常だが、視力落ちているのか
「そうだね・・・僕は右目が見えないんだ・・・」
先ほどから目をぱちぱちしているが浮かない表情でそう答える。
「そうだったの!?皐月ちゃん!?」
睦月はかなり驚いていてそれであってショックのようだ。
「大丈夫!僕はちゃんと・・・」
そういってベットから立ち上がるが
「あれ?」
そういいながら倒れこんでしまうのを亮が受け止める。倒れた理由だが、寝たきりになっていた。というのも考えられるが片目を閉じることで平衡感覚を失う。皐月は今その状況だ。正直、この右目が入渠で治らなかったら・・・皐月は艦娘としてやっていけるかはかなり難しい。
「そうだな・・・とりあえずみんなで入渠しに行こう。ひとまず高速修復剤を使って・・・」
とりあえずこの後のスケジュールを考える。入渠、補給、そして就寝。大雑把な流れはできているが、そう簡単にはいかないだろう。今回は亮一人に対し睦月型十隻だからスムーズにいったらそれはかなり運がいい。というかうまくいきすぎだ。
「とりあえず、睦月、如月、弥生、卯月、望月は先に入渠室に行ってくれ、この子たちは俺が運ぶから」
「・・・わかりました。張り切っていきますよ!!」
睦月の掛け声からそのあとをついていく。そしてそのあとから皐月をおぶった亮がついていく。
「全く・・・僕は何をしている・・・」
「いまは何も言うな。悔しいのなら今は姉妹艦に甘えてろ」
そういうとすっかりおとなしくなった。そして皐月を入渠室に連れて行きまた部屋に戻る。だが、部屋から誰かが出る姿があった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「長月!今運ぶからおとなしくし・・・」
「さわるなぁ!!・・・ひとりで行ける・・・」
「はぁ~あ、ホント駆逐艦ってむかつく」
長月をひょいっと持ち上げる姿があった。
「北上?寝てなかったのか?」
「ま、こんなに騒がれちゃね。さっきまで遊んでたし目が覚めちゃうよ。それより、この子たちを入渠室に運べばいいの?」
「ああ、その間にこっちは補給の準備をするから・・・頼んでもいいか?」
「ほーい。任せといて」
そういって北上は持っていた長月をそのまま入渠室に連れて行った。
その間に食堂で補給するための流動食を作ることにする。
「そうだな、こういうのは夕立にばっか任せてたからな・・・」
作れなわけでもないが夕立ほどのものを作れるとは思えない。だが、思い出しながら作ってみる。
思えば自分が夕立がいなかったらこんなにスムーズにいってたのだろうか・・・そうも考える。だが、本来なら自分一人でやらなければならないこと。そして今回は北上に頼ってしまっている。
「はぁ・・・やっぱ向いてないのか・・・」
そんなことを考えながら調理を開始した。