川内型三姉妹は言われるがままに入渠室に連れて行かれた。夕立と北上と大井でドックまで運んだあとそのまま何も言わずに出て行った。
「あの人間と駆逐艦何考えてるんだよ!!」
文句を言いながらもどっかりと湯船につかる川内。神通と那珂も続いて入っていく。
「姉さんまだチャンスはあると思います」
「ああ!!やるぞ!!神通、那珂!!」
「はい」
「・・・・・・」
その呼びかけに那珂だけは反応できなかった。
「どうしたんだ?那珂」
「・・・本当にあの人は何がしたいんだろうね。那珂ちゃんわからない」
「人間の考えなんぞロクなことじゃねーだろ。それを思い知ってきただろ・・・」
「うん・・・で、でもあの人は強いんだよ・・・那珂ちゃんはあの雷巡コンビにやられたけど二人は人間と駆逐艦に・・・」
確かに三人は呆気なくしかも
「那珂!!・・・これはチャンスだ」
「えぇ、寧ろ回復までさせてくれるなんて明らかに油断はしていると思います。そこを狙いましょう」
「そうなのかな・・・」
那珂はこの時からずっと悩んでいることがあった。亮についてのことだ。今まで提督に散々ひどいことをされてきた北上も大井もあんなに接している。それに私と戦うときに見せた殺気は凄まじかった。あの人間嫌いだった北上があそこまで回復しているということは私たちのやっていることは止めたほうがいいのではないか、だが、川内と神通はそのような考えがなかったようだ。
「はぁ・・・なんだよ。あの駆逐艦。人間に従っているとか、しかも提督じゃない人に。あの駆逐艦は艦娘をやめたも同然だよ。全く」
「そうね、あの子にもわからせてあげないと」
「・・・・・・」
那珂だけ返事はないようだ。するとそこに
「おっふろー!!お姉ちゃん、一緒に行くよ~」
「こら島風ちゃん、ちゃんとお湯かけてから入りなさい」
そこに元気よく入ってきたのは島風と夕張だ。
「あれ?夜戦バカ!久しぶり~」
「ってバカ言うな!!」
川内の姿を見るや否やいきなり失礼なことを言う。
「島風ちゃん・・・そちらの方は」
「あ、そっか、夕張お姉ちゃんは来たばっかだもんね。川内さん、神通さん、那珂ちゃんだよ」
「初めまして、夕張よ。一応さっき建造されたばっかで、提督・・・じゃないけど今カウンセラー派遣できてる亮が提督みたいなものかな?」
「あの・・・その亮という人間は何者なのですか?」
神通は情報を探るためかあまりにも真剣な表情で聞いてくる。
「うーん・・・最悪だね」
「やっぱり・・・」
川内はがっかりしたような、やはり、人間は信じられないような感じになっている。
「うん!聞いてよ!さっき私が作った空気清浄機がボッコボコに壊れていたの!!明らかたたきつけられてぶっ壊したものだから・・・あ~、もう思い出しただけでイライラする!!」
「なんだ、その程度・・・」
もっとひどいことだと思ったらその程度、というか冗談交じりの言い方だったのであきれていた。
「あ、それ那珂ちゃん・・・」
申し訳なさそうに那珂が空気清浄機についてはなす。
「あ、そうなの・・・後で謝らないと・・・うぅ、思ったより言っちゃったからな・・・」
本当は北上と大井だが言えそうになかった。
「お姉ちゃん大丈夫だよ!!お兄ちゃんだからどうせ気にしてないよ!!」
「・・・そうね!!どうせ、謝ったら許してくれるっしょ!!」
「あなたたち人間はそんな軽いものじゃないわよ!!絶対油断させてひどいことしてくるにきまってる」
「そうかな~?あっ!高速修復剤来たよ。たぶん三人分。亮が用意したのかな?」
リフトで高速修復剤が三つ分。それが川内型三姉妹に降りかかる。すると、傷や汚れはきれいさっぱり無くなった。
「あー、たぶんそのあと補給補給ってうるさいから早く出たほうがいいよ」
島風がタオルを湯船につけながらそういった。だが、川内は引かない。
「はっ!私たちは残るに決まってんだろ。そんな人間の言うことなんて聞いてられっか」
「そうですね・・・私たちは残ります」
だが、二人のいうことに逆らう艦娘がいた。
「那珂ちゃんは・・・出るよ。アイドルは入りすぎもよくないからね」
「おい!!」
川内の呼び掛けには答えずそのまま出て行ってしまった。
「はぁ、何やってるんだろ。那珂ちゃんは」
やっぱり、あの人を殺しても意味はないと思う。そして、那珂の心の中では試してみたいという好奇心もあった。だが、提督のような人だと思うとそれは怖い。
「あ、出たんだ。那珂っち」
「あ・・・」
入渠室を出るとそこには北上がいた。
「ほかの二人は?」
「まだ入るって」
「そっか、あーあ、亮のいうとおりになっちゃったか、さて、引きずり出すよ」
少し屈伸して入渠室に入ろうとするが・・・
「待って!!・・・北上さんはあの人間を信用してるの?」
那珂の素朴な疑問。あれだけひどいことされて人間を信じられなかった北上がどうしてこんなに笑顔を見せるようになったか知りたかった。
「うーん、というか賭けてるね。もし、亮がこの鎮守府の全艦娘を救ってくれたら・・・あたしは人間を信じることにしている」
「えっ?まだあの人間は信用してないの?」
「うん。でもまぁ、命救ってくれたし、今のところ球磨型は全員信用しちゃってるから・・・正直期待してるよ。川内型三姉妹もあんな強襲みたいなことじゃなくてちゃんと話してみれば~。そしたら、生きるのが楽しいよ」
「でも!!あの人って今日来たんでしょ、なんでそんなに・・・」
確かにあんなに絶望していた北上がここまで元気になっている。そうしたのはあの人間、だが、あの人間は今日来た。それなのに信用してるなんて軽すぎるのではないか。
「そうだね、あたし自身も不思議だよ。でも、あの人は・・・亮は・・・艦娘のために必死で、それに一番に考えてくれて・・・って何あたしらしくないこと言ってんだろ」
少し照れながら説明するが途中で終えてしまった。
「まぁ、先に提督室行ってて、川内っちと神通っち引っ張り出してくるから」
そういうとそのまま入渠室に入っていった。
那珂は言われた通り提督室に向かうそして扉を開けようとしたら扉越しに声が聞こえた。
「亮!!今日は安静にしてるっぽい!!」
「はぁ?こんなのかすり傷だよ」
「ぽーーーい!!ダメっぽい!!今日はお休みにするっぽい!!川内型三姉妹は夕立が・・・」
「あのな、俺はカウンセラーだ。艦娘の刺し傷でビビらねーよ、心配はありがとう。頼りにしてるぞ、夕立」
「・・・そういわれると何も言えないっぽい。でも、夕立にできることがあったら何でも言ってね」
「ああ、そうだな。じゃあ、さっきのカレーあっためといてくれ。どうせ川内たちもろくに補給してないだろうし」
「ぽい!!」
その光景、那珂にとっては非常にうらやましい光景だった。お互いがお互いを信用している。すごくほほえましい。
「いいな、那珂ちゃんもあんな提督が・・・」
「あっ!亮!!那珂さんがいるよ!!」
「よし!!入っていいぞ那珂」
「ええ!?いや、ちょっと」
「ほら、入るっぽい」
夕立に背中を押されながら無理矢理入れられ扉を閉められた。
「何やってんだ?とりあえず体に異常がないか検診するからこっち来い」
「うん・・・」
そのまま聴診器を当てる。
「補給不足だな。食堂行って補給して来い」
すごく簡単に検診は終わる。結果は大したことはなかった。
「あのさ、なんでこんなことしてるの?」
「・・・仕事だから、仕事しないと飯は食えないだろ。それに、お前たち艦娘ががんばってくれないと深海棲鑑が倒せないだろ」
「そっか・・・」
「それに、人間がこんなことしたんだ、責任ぐらいとるさ。お前らだって俺らと何も変わらない人間だからな」
「那珂ちゃんは・・・兵器だよ。そう何回も言い聞かされてきた・・・だから、何も反抗できなかった」
「あのなぁ・・・」
「兵器兵器うるさい。もうちょい気楽にやれ。艦隊のアイドル。とりあえず補給してこい」
「・・・うん!!」
アイドルだなんて久しく呼ばれていなかった。それが嬉しかった。兵器というのが否定されて嬉しかった。こんなことで喜ぶなんて・・・この人なんだろう?北上が言っていた通り不思議だ。
「お~い、今那珂っちが元気よく出て行ったけど何したの?」
「北上かどうした?」
「無視か。神通っちと川内っち連れてきた~」
北上だが、最近自主的に働いてくれている。ここに来てから一緒にいることも多い。
「そうか、ありがとうな北上」
「いいって、じゃあ、あとでね」
そういうと部屋から出て行った。
「とりあえず、検診するか・・・」
「はぁ!!」
「終わりです!!」
「ぐはぁ?!!」
聴診器をつけようとしているとき、後ろから素早い一突き。川内、神通が服の中に隠し持っていたナイフを顔と背中に一突きする。しかし、顔のほうは防いだものの腹のほうはそのまま刺さる。亮はそのまま倒れてしまった。
「・・・やった!!」
「ええ!!姉さん!!」
二人はその場で喚起した。復讐の一歩を踏み出した。だが・・・
「残念、甘かったな」
そういい、亮は素早く起き上がり二人の腹を思いっきり殴る。すると二人はその場でうずくまり動けなくなった。
「あぅ・・・」
「ぐぅ・・・」
「夕立に念を押されて着けといてよかった」
コートを脱ぐとそこにあったのは支給された金属のチョッキだ。それにナイフが刺さっている。先ほどの神通との一対一の戦いでは着けていなかったが、川内型が入渠中に夕立がものすごくうるさかったので着けた。
「あー、やりすぎた。また入渠行こう」
亮は二人を肩に担いで入渠室へ向かった。そしてまたドックに放り込む。
「ああ!!あの人間何考えてるんだよ!!」
「最初と似たような状況になりましたね」
また入渠室に放り込まれてはどっかりと浸かっている。
「あ、高速修復剤・・・別に五分もかからないケガなのに」
またリフトで高速修復剤が運ばれてきたが、不思議に思う。なぜあの人はここまでするのか?
「・・・なんかこんなことするのがバカになってきました」
「神通!?」
「あの人は正直何やってもかなわない気がします。それに暗殺までやっておいて、また高速修復剤を使うようなメリットのない行動・・・信じてもいいんでしょうか・・・」
「もう!!神通も那珂もなんだよ!!勝手にしろ!!」
「・・・はい」
そういうと神通はそのままドックから出て行く。
「もうなんだよ!!一生でない!!私一人でやってやる・・・」
「あの・・・先ほどは申し訳ありませんでした」
提督室にいるには神通と那珂、そして亮の三人だ。
「大丈夫だ。それよりお前らは平気なのか?」
「ええ、高速修復剤のおかげで」
「那珂ちゃんももっと素敵になっちゃったからね!!」
「はぁ、あとは川内か・・・意地っ張りな奴だな」
那珂のシカトッ!!というセリフはスルーして。川内をどうするかを考える。
「亮!!大変っぽい!!」
慌てて駆け込んでくる夕立に問いかける。
「どうした!?」
「川内さんが・・・」
「あのなーのぼせるなんてバカかよ」
「さすが夜戦バカ」
「うるさぁい・・・熱い・・・」
何かと思えばただののぼせだった。本当にバカだ。
「案の定、俺の殺し方考えて知恵熱でも出したか?」
「うるさい・・・」
図星のようだ。
「とりあえず気分良くなったら飯食いに行け、検診はもう終えてるから」
「ふん!!誰が従うか!!」
「姉さん、もうやめましょう」
「神通・・・でもさ」
「大丈夫だよ。この人は私たちのことを兵器では見ないで普通に接してくれるよ!!」
「ああ!!わかったよ妹二人に免じて許すけど・・・夜になったら覚悟しておけよ!!」
「夜戦か?」
「ああ、絶対に負けないからな」
「だが、今はそれを治せ。ほら、氷食うか?」
「あ、自分で食べるから・・・って!口元に運ぶな!!あん!!」
亮は無理矢理にも見えたが口に入れる。
「どうだ?冷たくて気持ちいいだろ?」
「ぅうぅ・・・」
なぜか、体温が上がった。
「うわぁ、亮さん大胆ですね」
「そうか?」
那珂に言われるが本人はそう思っていないようだ。
「あーもう・・・はっれ・・・」
急に立ち上がるがクッラッとして倒れこむが亮が抱え込む。
「全く、無理するな、部屋まで運んでやるから」
「ええ!!?」
「すごいなー!!」
「お姫様抱っこ・・・」
川内が暴れているが、数秒でやめた。たぶんそんな体力もないのだろう。
「夜戦だったら・・・負けないから、いつでも狙うから」
「ああ・・・そんなセリフ端折っちゃ意味深だな」
「うぅうぅ・・・」
川内は亮には敵いそうにない。」