とりあえず工房へ、またしても夕張が何かいじってる。
「ぐへへぇ・・・こうでしょそれでぇ・・・」
「あいつの作業中の表情ってキモイな」
毎度思うが、ぼやくし、よだれ垂らすし・・・本人はそれだけ夢中ってことらしいが。
「夕張。仕事だ。」
「ん?亮じゃんどったの?」
作業中のものをいったんおいて、こちらを向く。
「改装って、できるか?重巡洋艦から航空巡洋艦に」
「あたしを誰だと思ってるの?夕張さんですよー」
そういうとスパナを取り出し、それをくるくる回す。
「お姉さんに任せなさい!!」
そして、改装は数分で終わった。案外と速いものらしい。
「これが航空巡洋艦か・・・」
新しく生まれ変わった鈴谷の姿には腕に艦載機を飛ばす装置がついた。それにのっけて、彩雲を飛ばすらしい。
「夕張、彩雲は?」
「え?何言ってるの?航空巡洋艦には彩雲積めないよ?」
「・・・へ?」
誤算。最大の誤算。そうなのか、航空巡洋艦に彩雲は積めないらしい。
「って、鈴谷!お前そんなんも知らないでこれ買ったのか!?」
「えー!!だって、艦載機だよ!普通飛ばせると思うじゃん!!というか、亮も教えてくれればよかったじゃん!!」
「俺はカウンセラーだ。提督じゃねぇよ」
一応海軍の大学でカウンセリング技術のほかにも艦娘の性質については勉強したがこんな深いところまでは教えられてない・・・はず。
「はぁ、じゃあ頭からやり直しか・・・」
少しばかりの望みはあっさりと途切れた。だが、まだ可能性はある。
「彩雲ほどの索敵は出来ないけど、瑞雲が改装時に掲載されてるからね、それを使えば?」
夕張の一言に反応した鈴谷が腕についている艦載機に目をやる。
「これって索敵できるの!?」
「うん、大丈夫だよ」
「ふぅ・・・」
安堵の息。とりあえず安心。だが、せっかくの彩雲をこのまま何もしないのは見つけられる確率が下がる。調べたところ、瑞鶴は使えるらしい。だが、俺は提督ではない。何度も言うが、カウンセリング対象者の海の出撃は禁止されている。にもかかわらず、鈴谷を出撃させようとするという違反まで犯している状況だ。なので、これ以上は危ない。さらに今回は鈴谷の違反も本部に見せるわけにはいかない
「なんて考えてもな・・・」
仕方がないのでとりあえず二人を海に出すことにした。
「よいしょっと・・・索敵行くよー!」
艦載機がはなられてそれが四方に散らばっていく何か異変があれば知らせてくれるので入電を待つ間には足で探す。亮から無線通信があった。
「とりあえず近辺を探してみろ。深海棲鑑の出る沖の戦場には出るなよ」
「了解っぽい・・・慣れないことして・・・」
提督業なんてやったことのない亮がぽいことをしているのに自然と集中する。私の役目は三隈さんを見つけることも大切だが、一番は鈴谷さんの安全を保障すること、そういう意味で亮は私も連れだした。
「・・・索敵の動きって案外見えないみたいだね」
「・・・でもどうして?」
「何が?」
夕立は鈴谷に聞きたいことがあった。それは前々から気になってたところだ。
「・・・わざわざ悪者になったの?」
「・・・意外と気づかれるもんなんだ・・・亮には気づかれてると思ったけど」
「うん。あんなの・・・」
夕立は何か言いかけたがやめた。
「別に自業自得だよ。正直に良い配偶をされていた時に罪悪感を感じない時もあったし、周りみて反抗する艦娘も本心でバカにしてたこともあった・・・今になっても後悔してるってはっきりとは言えないし。」
「本当に?じゃあ、なんで三隈さんを探そうとしたの?」
「・・・わかんない。口では強がってるだけで、本心は許してほしいのかも・・・って、さっき言ってることと違うね・・・もうね、わからない」
「それでいいッぽい」
「え?」
てっきり何か言われるかと思ったが、そうではない。賛同とは少し違うがとりあえず承認といった具合か。
「動かないでいるのなら動くべし、思い立ったら即行動したほうがいいッぽい」
そういって彼女は意味もなく先行した。
「(そう・・・何もしないから私は・・・)」
さみしい表情を見せたくなかったからだ。
そう思っていると、鈴屋の艦載機から入電が入った。
「えっと・・・だれ?」
何か人影が見えるらしい、水の上を歩いているということは艦娘で間違えないだろうが、三隈かはわからない。遠征中の艦娘か・・・
「・・・うん、他の鎮守府の艦娘だね。遠征中かな?」
駆逐艦二隻という初歩の初歩遠征である。慣れない海上歩行が微笑ましい。だが、そんなのは次の瞬間に地獄絵と変わった。
ドカァン!!!!
突如、その付近で爆発が起きる。砲弾ではない・・・魚雷か・・・
「鈴谷!!夕立!!今すぐそっちに迎えるか!?」
「わかったっぽい!!」
索敵の周辺に行く。ボロボロの状態だが、轟沈せずに済んだ。
「報告、駆逐艦二隻大破・・・」
よし・・・何とか間に合ったか・・・
「・・・!?鈴谷さん危ない!!」
夕立が声をあげ危険を知らせる。そのおかげで、避けられた・・・魚雷だ。
「深海棲鑑の反応はないぞ!!」
「索敵にも反応なし!!」
どういうことだ・・・深海棲艦の新技術なのか?カウンセラーには武器専門は詳しくないので亮が考えても無駄だった。
「ひたすら避けろ!!無理難題だが、それしかない」
三隈を探すという当初の目的は今はしょうがない。それよりも今は生きることを考えなければ死ぬ。
「あーあ、疲れた・・・おーい、わが嫁ー」
「元治提督~お仕事お疲れさま」
「大鯨・・・じゃなくて龍鳳か。なんでお前名前変わったの?」
「さー、私に聞かれてもわかりません」
平和すぎる島。その中にある鎮守府。このプライベートの無人島にお気楽な夫婦カッコカリが話してる。
「なんだよ、ビックホエールからドラゴンフェニックスだぞ。どういう繋がり…なんだ?爆発?」
先程の魚雷のところから爆発音が鳴り響く。遠くにいるつもりだが聞こえたようだ。
「みたいですね…索敵飛ばしますか?」
「頼むわ」
艦載機を展開していく、それは先ほど鈴谷が使えないと知った彩曇だ。
「…艦娘を四体発見!!二隻は大破状態です!」
「マジかよ…龍鳳、ローとゴーヤ連れてそこに迎え!!」
「でっち~今日はオリョールじゃないんですって!!」
「でっちじゃないでち!伊58でち!ローちゃんもいい加減先輩を敬うべきでち…」
「わかったよーでっち」
「わかってないでち!!」
完全になめられてる先輩は伊58潜水艦。愛称はゴーヤ。そして、なめきってる後輩はドイツと日本の合作の潜水艦呂500
。
「二人とも、ふざけてないで、魚雷は見える?」
「今潜るでち」
潜水艦の二人は慣れた手順で巣潜りを開始する。そこからその場に向かいながら魚雷の方向を確認する。
「北西と、北から来てるみたいでち」
「ありがとう。いっけぇー!!」
ゴーヤに言われた方向に艦載機を散らばし発射元を探る。その正体を特定することができた。
「嘘…」
「ちょっとさすがに疲れてきたっぽい…」
「撤退は出来ないのか!?」
無線で状況を聞くがそれは無理だろう。
「いくらなんでも、大破の艦娘背負いながら魚雷避けんのだって精一杯なの!!」
と言うかおかしい、なぜこうも正確に魚雷が来るのか…
「清に応援を…」
いや、違反の出撃をさせている状況だ…だが命には変えられないか…艦娘に責任がいったら俺が代わりになればいいし…
「あれは…彩曇!」
自分達の真上にあげられた艦載機を目にする。だがその艦載機はそのまま前へと進んでいった。だが、真上を見た一瞬を鈴谷は見逃さなかった。
「…もう一個ある…瑞雲!!」
真上には瑞雲が浮いていた。これが位置を知らせていたのだろう。
「はぁあ!!」
鈴谷の銃口が上の艦載機を捉えた。だが、その一瞬だった。その余所見により…
ドゴォン!!!!
その破壊と同時に何か声が聞こえた。艦載機の通信の音もれか…
「え…」
「鈴谷さん!!魚雷!!」
夕立の声は遅かった…真下の魚雷には目を向けられなかった。だが、艦載機は破壊できたようだ。
「あれ…う…そ…」
動けない。たぶん次が来たらもうおしまいだ。この状況で…魚雷が…なんで…来るのさ…今まで楽したツケが回ってきたのかな…あーあ、みんなに謝れなかった…
「ぽい!!」
だがその魚雷は鈴谷には当たらなかった…それは…
「沈ませないっ…」
夕立が庇い、それと同時になぜか魚雷は収まった。
彼女もまた亮と同じ信念があった。何があっても沈ませない。端か見たらただの事故犠牲であり身勝手であるし自己中である。だが二人はそう思われても構わないのでそういう行動が目につくのだ。
「おいバカ!!何死のうとしてんだボケ!!」
「うるさいっぽい!!昨日の件は人のこと言えないっぽいからおあいこっぽい」
「説教はあとだ。今のうちに撤退だ…今夕張を向かわせてる」
彼女一隻しか自由に動けないので大変だと思うが彼女に運んでもらおう。一先ず三隈は後にしよう。
「瑞雲…壊されちゃいましたね」
「みたいだな。魚雷止め…流石に勘で魚雷飛ばすわけにもいかねーしな。それよりも、いきなり良い働きを見せてくれるじゃないですか三隈さん」
そう、先ほどの瑞雲を飛ばしていたのはこの三隈。そして、魚雷を放っていたのは木曾だ。
「ええ、この三隈は人間とは決別を誓いましたです。木曾さんの率先した行動により…何か来ます」
「クソ、艦載機…しかも彩曇かよ…届かねー」
今この場所を特定されるのは困る。なので打ち落とそうとするが軽巡洋艦の木曾では届かない。
「すみません。お願いできますか…」
その後ろから彼女たちとは比べ物にならない物体があとを通る。
「大和さん」
「はい、押して参ります!」
そう言って彼女は銃口を艦載機に向けとてつもなく重く響く音と共に発射される。それは艦載機を粉々にした。
「ふう、流石です」
「上ばっか向くなでち」
大和の真下から二隻の潜水艦。呂500と伊58だ。
「この近距離ならローちゃんは外しません!」
彼女達からお返しと言わんばかりの魚雷が発射される。
「クソ!!」
その不意打ちにいち速く反応したのは木曾だ。砲撃で一つの魚雷は防げたが、もう一つは大和に直撃した…筈だった。
「別にこれくらいの痛みには我々…慣れてますので」
にっこりと浮かべた笑顔の裏にはすごくおぞましいものを感じた。
「潜水!!提督へ電文!不意打ち失敗により撤退するでち!!」
「了解。気を付けろ」
彼女たち潜水艦の超スピードには付いてこれないだろう…いざってときのダメコンもある…それに…
「逃がさねぇぞ!」
木曾が砲撃を放とうとするが、また、真下だ。
「行きますノネ!!」
「ハチも…」
伊19と伊8の保険もある。敵の位置を特定したときに忍ばせておいた。その牽制により簡単に敵の射程距離から外れた。
にしても俺の艦隊の…しかも実力者の二人の不意打ちをものともしないなんてな…
「俺が育て上げた海のスナイパー達がなー…大将の自信なくす。なんで俺なんかを大将にすっかねー…」
「そう?私はそうは思わないわよ?」
「伊168か」
「イムヤで良いって…ま、潜水艦の艦隊のみでここまで成果挙げられるんだから充分じゃん?」
「そういうものなのか?」
「そうでしょ、」
「毎回思うがなんで競泳水着なんだ?」
「国の指定服だから?」
「マジかよ、日本終わってんな」
「大将さんはお仕事して!」
「はいはい、これ終わったら嫁の飯食う」
そう言って彼は本部に電話を掛ける。
「海軍四大将の 浜 元治 だ。報告をする」