艦娘カウンセラー   作:kakikaki

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二十話 悪者

第七駆逐隊の件が終わってから、気がつけば正午の時間になっていた。なので食堂に行ってみる。夕立が作っていればいいが、いなければ亮が作る羽目になるだろう。まぁ、仕事だから仕方ないが。

 

そして、食堂へ行ってみると面白い状況だった。

 

「後はオーブンで焼くだけっぽい」

 

「ふぅ・・・疲れた・・・」

 

夕立と長月という非常に珍しい組み合わせで食堂の厨房にいた。何か作っているようだ。

 

「長月ちゃんはセンスあるッぽい!」

 

「当たり前だ。駆逐艦だからと言って侮るなよ」

 

当然かのごとく鼻を鳴らしている。

 

「夕立も駆逐艦なんだけど・・・」

 

「駆逐艦・・・」

 

目線は改二になってから大きさが改二になった場所へ移る。

 

「・・・重巡洋艦くらいじゃないのか?」

 

確かに。みんな思ってる。

 

「火力が?」

 

「いや、何でもない・・・」

 

話しているうちになんか恥ずかしくなってしまった。

 

「よぉ、珍しい組み合わせだな」

 

いつまで見ていても仕方ないので会話に入ることにした。

 

「狩島亮!!貴様見てたのか!?」

 

「ああ。ま、世にも普通な会話だった」

 

「へ、変なこと言うんじゃない・・・」

 

なぜか目線を外される。そして、亮はオーブンのほうに目をやる。

 

「・・・クッキー?」

 

「そう。教えてほしいって言われて」

 

「睦月型には内緒にしておいてくれないか?その・・・日頃のお礼だ・・・」

 

そういって恥ずかしそうに下を向く。そう思っているとお気楽な声が聞こえてきた。

 

「ぴょーん!!おなかすいたぴょん!!」

 

タイミングがまずいことに卯月が乱入してきた。飛び跳ねながらこちらに向かってくる。

 

「びしっ!!みんな何やってるぴょん?」

 

「あ、ここ、これはだな・・・」

 

作った後のかたずけをしていなかったせいでやっていたことはバレバレだった。それを必死に隠そうとしているがもう遅い。

 

「クッキーぴょん!!あとどのくらいぴょん?」

 

「じ、十五分ぐらいだ。少し待ってろ・・・」

 

開き直ったのか、長月はいつも通りになっている・・・わけではなく無理しているだけだった。なぜなら、手を後ろに隠してもじもじしている。なかなかレアな場面だ。

 

「はぁ、夕立。昼は作ってある?」

 

「一応作ってるわ・・・」

 

不機嫌な態度。やはりあのやり方をするのはよろしくなかったか・・・こいつにとっては特別そのことがわかっているから・・・

 

「そうか、ありがとう」

 

礼だけを言っておいてその場を立ち去る・・・機嫌を損なわないために準備しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は正午、書類の整理と軽い健康診断を終えて食堂へ向かう。しかし、そこには見慣れない艦娘がいた。

 

「マジでおなかすいたんだけど!!」

 

「い、今作ってるから待ってるっぽい!!」

 

「まぁ、まぁ落ち着いてよ」

 

「うっさい、魚雷オタク」

 

「オタ・・・」

 

北上も場を落ち着かせようとしているが一蹴されてしまった。

 

「はぁ、久しぶりに来てみれば提督いないし、あーあ、あの金ヅルいなくなるとか考えてなかった・・・」

 

目線があった。その艦娘は悪戯そうな顔でこちらに近づいてきた。

 

「鈴谷だよ!あなたが新しい司令官かな?」

 

最上型三番艦の鈴谷だ。

 

「違う、艦娘カウンセラーの狩島亮だ」

 

「ふぅん・・・」

 

罰が悪そうにこちらを見つめる。

 

「なんだ?」

 

「提督、返してほしいんだけど?」

 

耳を疑った。今まで会った艦娘にはそんなことを言われたことがない。しかし彼女はその存在を望んでいるようだ。

 

「悪いが、それは無理だな。違反行為により、それなりの罰を受けている」

 

「はぁ、ま、それもそうだよね~あれで今までつかまんなかったとかマジありえないからねー。ンで?カウンセラーさんに相談あるんだけど?」

 

そういって彼女は顔を近づけてくる。もう少しで唇が当たるので一歩下がる。

 

「ん?興味ないの?」

 

彼女の狙いは亮の考える通りだろう。

 

「それで金巻き上げる気だろ?」

 

「ご名答。私が信じるのは自分だけだから」

 

自信ありげに彼女はそう答える。

 

「それより昼飯だろ?食ってけ」

 

「当たり前。カウンセリング対象でしょ?」

 

「それもそうか。だができるまで待ってろ。ガキじゃあるまいんだ」

 

「はいはいー」

 

そう思って、いると隣からクッキーが渡される。

 

「腹が減ってるなら、私のクッキーを食べろ。」

 

「美味しいんだよ!!長月ちゃんのクッキー!!」

 

皐月もその隣で美味しそうに鳳ばる。

 

「はは、ありがとう・・・」

 

 

 

なんなの?なんでそんな姉妹艦で仲がいいの?そうやって・・・そうやって・・・私は・・・そんな光景を・・・

 

 

「あ・・・」

 

鈴谷はそれをわざわざ地面に置いて踏みつぶしていた。

 

「っく」

 

目の前からは非難の目。そうか、私はやっぱりこういうのが慣れちゃってるんだ。慣れって恐ろしい。

 

「駆逐艦ごときが作ったものを私が食べるわけないじゃん」

 

そういい放って彼女は食堂から出て行ってしまった。すると一人の艦娘は口を開く、

 

「相変わらずだねあの艦娘」

 

そういってきたのは瑞鶴だ。

 

「前々からあんな感じよ。提督に媚売って一人でいい思いしてた。それが鈴谷よ」

 

最上型重巡洋艦三番艦鈴谷。そういう者らしい。彼女の姉妹もいるようなので後で部屋に向かってみよう。

 

「そうか・・・うまくできたはずなんだけど・・・」

 

其れよりも長月のショックはあったようだ。子供が一生懸命作ったものを目の前で粉々にされてしまった。そして謝罪もなければこう泣き出してしまうだろう。

 

「ううう!!何ナノあの態度!!」

 

珍しく睦月が感情をあらわにして怒り出す。

 

「睦月ちゃん落ち着いてください・・・私も・・・」

 

三日月もフォローするが長月のフォローなど一緒にあってあわただしいようだ。

 

「なら、鈴谷について教えてくれ。どういうやつだった?」

 

「とにかくひどいよ!!」

 

この縛られた鎮守府の中で彼女は何もかも自由にできた。それは提督に媚を打っていたから。それだけの話だ。他の艦娘からは当たり前だが、それをよく思っていない。金は先ほどの様なものをすれば手に入るし、出かけるなどもしていたらしい。

 

 

「なるほど。要はひどい奴だったんだな」

 

「睦月は長月ちゃんに謝ってもらうまで許さないんだからね!」

 

完全に拗ねてしまっている。

 

「なら、お姉ちゃんとしてまずは長月を気遣ってやれ」

 

「うん!!」

 

そういって彼女は長月の元へ向かう。亮もやることをやり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘カウンセラーだ。扉を開けていただきたい」

 

亮が訪れたのは最上型の部屋。鈴谷もここに戻ってきたと考えていいだろう。

 

「・・・・・・」

 

返事は何も聞こえない。だが、ガチャッと扉が開いた。

 

「・・・・・・」

 

無言だが、顔をのぞかせてくる。

 

「大丈夫か?熊野?」

 

その正体は最上型四番艦熊野だ。お嬢様らしい気品を感じられる雰囲気を漂わせているイメージがあるが、そのようなものは一切感じられない。くたびれているようにも見える。

 

「・・・どちら様で?」

 

「艦娘カウンセラーだ。少し時間いいか?」

 

「・・・鈴谷はどちらに?」

 

「・・・わからない。先ほど顔を合わせたがどこか行ってしまった」

 

「そうですか・・・」

 

そういって彼女はそっぽを向いた。・・・いや、安心した?

 

「提督も・・・もういないのですか?」

 

「ああ」

 

鈴谷とは全く違うリアクションだった。いや、これが普通なのだろう。安堵の息を吐く。安心に満たされているようだ。先ほどの睦月の会話を聞く限り鈴谷はどうしようもなかったのだろう。

 

「そろそろ、昼飯の時間だ、食堂に行って・・・」

 

 

 

 

「誰だ君は」

 

 

 

真後ろから威圧的な声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこにいたのは最上型一番艦最上だ。こちらをにらんでいるようにも思えるので誤解を解いておく。

 

「・・・艦娘カウンセラー、狩島亮だ」

 

「ふーん。まぁいいや。なら、熊野からかまってやってくれないか?僕は最後でいい」

 

「そうか、見た感じは元気そうだしな」

 

「妹からやらないとね」

 

「なら次は鈴谷だな・・・」

 

「・・・いや、あんな奴はもう、どうでもいい。たぶん彼女専用の部屋にいるか外出じゃないかな?最近外出しまくってるし」

 

姉妹艦からもこう思われているらしい。彼女の信頼はゼロだろう。

 

「わかった。熊野、検診を始めるぞ。最上、三隈はどこにいるんだ?」

 

 

 

「・・・いないよもう・・・この鎮守府から出てっちゃった」

 

遅かった。彼女はもうこの鎮守府にはいないらしい。この仕事では「逃走艦」と呼んでいる。そのほかにも木曾もそうだ。この仕事をしていてこういうことは珍しいわけでもない。木曾や三隈のように逃げる艦娘もいれば解体する艦娘もいる。こんな苦しい状況を逃げ出したいと思うのもしょうがない。

 

「そうか・・・すまない」

 

「別に謝られても困るよ。君が悪いわけじゃない。なら、僕たちを検診してもらっていいかな?」

 

彼女のいうことはもっともだが、亮は納得できない。そういうやつだ。

 

「・・・そうだな。じゃあ熊野から・・・」

 

 

 

彼女たちの検診結果だが、異常は見当たらず補給不足を覗けば大したことではなかった。彼女たちには昼飯を食べさせるために食堂へ向かわせた。

 

「さて・・・最上の言ってたところに行ってみるか・・・」

 

彼女には一人部屋が設けられているらしい。媚売るだけで一人を特別扱いしているここの提督の腕が知れる。そして彼女の部屋の前に立つが鍵が開いていた。

 

「・・・誰もいないのか?」

 

そう思って入ってみる。いかにも女の子らしい部屋だ。さっきの最上型に部屋とは違い。趣味が出ていていかにも女の子らしい部屋だった。そして、シャーっと音がする。

 

「シャワー室にいるのか・・・ん?」

 

彼女の机の上には雑誌の山と地図があった。そしてところどころバツ印がついている。雑誌にはほしいものにマーカがついてある、艦載機の雑誌、艦娘ってこんな雑誌読むのか。

 

「なんだこれ?」

 

その地図を見てみるが、いまいちわからない。

 

「なんかの印だが・・・」

 

本人に聞かないとわからないので後で聞くことにした。

 

「ふぅ・・・って・・・」

 

シャワー後の割にはあまりさっぱりとした表情でもなかった。そして、俺のほうを見て何か言いたげだ。

 

「・・・これなんだ?」

 

地図を見せつける。それを見せても大したリアクションはなかった。

 

「女の子の部屋に入っておきながら一言目がそれ?別に、あんたには関係ない・・・」

 

ま、見ず知らずに重要なことを言うのもどうかと思うし普通の対応か。

 

「お前は元の提督のなんだったんだ?」

 

この鎮守府での彼女の処遇の良さ。睦月の言う通りなのだろうが、本人はどう思っているのか。

 

「いいとこで援交ってとこじゃん?サービスをしてお金をもらっている。そうすれば・・・」

 

彼女は息を吸い、

 

「ここのみんなみたいにケガをしなくて済む。」

 

「・・・なるほどな。一応大丈夫っぽいが、検診させてもらう」

 

「えー、鈴谷これからショッピング行くから・・・お金ちょうだい!!」

 

媚を売るかのようにあざとく要求してきた。

 

「・・・ほらよ」

 

が、あえてノリ、亮は財布から十万札を渡した。

 

「ほえぇ・・・マジでくれると思わなかった。しかもこんなに・・・これでほしい化粧品手に入るかも」

 

意外そうな顔をしてくる。まぁ、大金でもあるし当たり前の反応でもある。

 

「好きなもの買って来い」

 

「・・・うん」

 

彼女はルンルン気分で鎮守府の外へ向かっていった。

 

 

彼女の行動、俺は悪いと思わない。この状況下で媚を売り自分だけ助かる。誰しも仲間は大事といっている中である意味一番現実を見ているのかもしれない。危機を察知し、自分の身を守りたいなんて考えは当たり前だ。そのために彼女はああなってしまった。

 

「だけど・・・下手糞なんだよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただいきまーす!!!!!!!!」

 

 

食堂では挨拶が鳴り響く、メニューはみんなで摘まめる鍋だった。みんな美味しそうに鳳ばっているが、トークは先ほどの鈴谷がらみのの会話で埋め尽くされていた。聞いていてあまりいいものじゃない。

 

「はぁ・・・いきなり出てきたと思ったらあの態度・・・」

 

「長月ちゃんのクッキー!」

 

「あんな奴はムシムシ」

 

「ほんんといやなやつ」

 

「(こうなるように仕向けた・・・だろうな鈴谷は・・・)」

 

彼女の考えは孤独を選ぶ選択だった。悪者になる。こうすれば、鎮守府のみんなは鈴谷の悪口で結束が生まれる。人の悪口、というものは意外と結束が生まれてしまうものだ。悪者が一人に集中すればいい。恨まれるのは自分だけでいい。という考え方だろう。出なければ、クッキー踏んだ時に漏らしたことばや、今やっているショッピングにも見当がつく。こんなに早く察しがついたのは・・・まぁ、昔の経験だ。

 

「・・・・・・」

 

夕立もことを察しているようだ。これは昔、体験したこと。彼女は鈴谷の立場ではなかったが、似たような状況に今出くわしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ごろ、鈴谷はショッピングから帰ってきた。

 

「ふぅ・・・なんで部屋にいるの?」

 

鈴谷の部屋には、亮が待っていた。

 

「何か買ってきたか?」

 

「別に・・・関係ないし」

 

「・・・彩雲」

 

「!?」

 

「だろうな。なんで艦載機なんて買ったんだ?化粧品買うんじゃなかったのか?」

 

「関係ないって言ってるでしょ!!!!」

 

バンッと机をたたき荒々しく声をあげた。

 

「・・・じゃあ何?お金くれるっていうの!?ほしかった化粧品だってバックだって我慢してこんなの買ってるんだよ!!」

 

「なら、我慢しなければいい」

 

そういいきってやった。彼女の行動にはもう答えが見えている。言動とは違うものを買ってきた。

 

「でも・・・そんなことしたらさ・・・」

 

そういうと彼女は泣き出した。そう、彼女は孤独を選んだことによって、誰かに頼ることはもうできない状態になっていた。

 

「夕立・・・頼めるか?」

 

「・・・わかったっぽい」

 

そういって彼女は部屋から出て行き、準備を仕出した。

 

「鈴谷、まずは航空巡洋艦に改装をし、彩雲を積ませる。俺の艦娘の夕張と妖精がいるからすぐに終わる。改装費もろもろ俺の自腹だ」

 

「・・・えっ」

 

「確証はないが、三隈を探している・・・違うか?」

 

「正解・・・」

 

買ってきた艦載機。地図のマーク。これらすべてはこのためだろう。姉を探していた、責任を感じてしまったのだろう。こんなことをしたから逃げたのじゃないかということ・・・

 

「夕立も一緒に行く・・・頑張ろうな」

 

「・・・うん!」

 

自信を取り戻したかのように返事をした。


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