艦娘カウンセラー   作:kakikaki

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十九話 許されないことをした

亮に言われて思った。確かに、あの時から私と潮は話せていない。しかし、その状況を作ったのは私だ。だから私はどうなってもいい。・・・潮を助けられるなら・・・

 

 

「・・・・・・」

 

提督部屋に入るや否や潮はもぞもぞと起きだした。鎮静剤の効力が切れるのは早くなっているとは聞いていたけどここまで早くなっているとは思わなかった。だけど、こうして向かい合って話すのっていつぶりなのかな・・・

 

堂々と構えている朧。おどおどと構えている潮。その静かな空気の中で動いたのは、朧だ。

 

「潮・・・朧・・・だよ」

 

なんで、こうとぎれとぎれになっちゃうんだろう・・・向かい合えてないよ。

 

「・・・いや!!!!」

 

そういって部屋の飾り物を投げつける。それをよけながら考える。

 

「向き合うってどういうこと!?」

 

朧は必死に考える。だけど向き合うって何すればいいの?謝るの?いやそれだけじゃだめだ・・・どうすれば・・・

 

「ごめん!!潮!!話を聞いて!!」

 

「うるさい!!来ないで!!痛いのは嫌!!」

 

そういうと潮は朧に向かって突進をし、それを受けて壁に打ち付けられる。体が痛い。

 

「うしぉ・・・」

 

やっぱりダメなのかな。犠牲にしちゃったから。裏切っちゃったから・・・どうすればいいの・・・

 

「・・・ぅう!?」

 

朧の首に違和感が・・・潮に首を絞められていた。

 

「もういや!!!!みんなヤダ!!!!」

 

「苦し・・・」

 

怯えきっている表情だが、攻撃の手をやめない。このままでは艦娘とはいえ死んでしまう。その時に、思い出がよみがえってくる。走馬燈の様なものか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朧ちゃん!可愛いかな?」

 

あ・・・潮だ。・・・これは・・・お菓子作ってもらってる時だっけ・・・まだ、平和だった・・・仲良しだった時・・・第七駆逐隊はいつでも一緒だった。

 

 

 

 

 

「はい。潮。食べなさい」

 

「え、でも、朧ちゃんの分は?」

 

「私、そんなおなかすいてな・・・」

 

ぐうぅ~

 

「・・・・・」

 

「はい、半分こしよ?」

 

「・・・ありがとう」

 

これは・・・少ない食事を分け合ったんだっけ?懐かしいな、お姉ちゃんぶってそこでおなかなっちゃったんだっけ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「貴様ら使えないな!!駆逐艦のカスどもが!!!!」

 

パァン!!

 

「いたっ・・・」

 

「っち・・・罰だ。旗艦であった朧は食事抜き。あと・・・ストレス発散させてもらうぞ!!!!」

 

「・・・はい」

 

これは・・・攻略できなくて怒られた日・・・だっけ?こんなこといっぱいあってわからないけど・・・みんな傷だらけになっちゃった日・・・

 

「使えないな!!!」

 

殴られた日

 

「屑が!!!!」

 

殴られた日

 

「次やったらぶっ殺すぞ!!!!」

 

殴られた日・・・痛い・・・

 

「またか貴様は!!俺の顔に泥塗ってんじゃねぇ!!!!」

 

殴られた日・・・痛い・・・怖い・・・

 

「使えねぇ・・・ほんとに使えねぇな!!!!」

 

殴られた日・・・痛い・・・怖い・・・来ないで・・・

 

「止めて!!!!朧ちゃんをいじめないでぇ!!!!」

 

 

「潮・・・だったら、お前が朧の代わりになるか?」

 

「・・・はい」

 

 

「潮・・・」

 

あ、この時だ。私はこの時に逃げ出しちゃったんだっけ・・・もう、痛いのは嫌だ・・・怖いのは嫌だ・・・だから・・・

 

「おねがい・・・します」

 

この時の私・・・みっともなかったな・・・姉が逃げちゃった・・・一番下の妹に頼っちゃった・・・なにお願いしてるんだろう・・・やっぱ。この時からおかしくなっちゃったんだろうな・・・もうだめだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力が入らなくなってしまったぐたりとなった瞬間。朧から、手は離された。そのままばたんと落とされる。その時だった。

 

「朧ちゃん・・・?」

 

目の前の現状を見て我に返った。なんで、朧ちゃん倒れてるの・・・首にあるくっきりと残った手形を見る。そして自分の手を見る。

 

「まさか・・・うそ・・・」

 

「はぁ・・・がはっ!!」

 

何とか息はできている状況だった。

 

がちゃ

 

「はぁ・・・ダメだったか・・・」

 

部屋に入ってきたのは亮だった・・・曙と漣を連れて

 

「さて、朧と潮は動けない・・・」

 

「大丈夫!!?」

 

「曙ちゃん・・・漣ちゃん・・・私・・・私・・・」

 

自分の手を見て、震えている。

 

「・・・さて、集まったか」

 

すると亮は懐から拳銃を取り出す。

 

「潮のカウンセリングは失敗。朧もダメになったか・・・」

 

「ちょっと!!何やってんのクソカウンセラー!!?」

 

「はぁ?一人に時間かけるんだったら、減らしたほうが効率的だろ?」

 

「あの・・・亮さん」

 

漣がおどおどしながら近づいてくる。

 

「なんだ?」

 

「これって演技ですよね?もしかして、潮ちゃんたちに正気に戻ってもら・・・」

 

バァン!!!

 

「っくう!!!」

 

言い終わる前に銃弾は漣の足に当たる。そこから出血をした。

 

「これが演技とでも?」

 

「ちょっとクソカウンセラー・・・本気なの・・・」

 

「ああ」

 

バァン!!

 

「くっ・・・」

 

そういって曙の足に打ち込む。

 

「どうだ?少しは抵抗してみたら・・・」

 

「ああああああ!!!」

 

ガッ!!

 

「っち!!」

 

素早い動きで突進してきて拳銃を弾き飛ばした。そして亮は壁に打ち付けられる。

 

「・・・私が・・・助けるから・・・逃げて・・・」

 

潮だった。この状況に対して唯一動いていた。

 

「そうか・・・だけどな・・・」

 

そういって懐から、もう一つの拳銃を取り出す。

 

「じゃあこうだ。一人だけ名乗り出ろ。そいつ以外を助けてやる。早い者勝ちだ・・・助かりたいやつはいるか?」

 

亮はそう提案した。朧、曙、漣、潮。この中で一人だけを犠牲にしてくれれば、命を取らないでおこうという話だ。

 

「さて、名乗り上げないなら、動く気にもならない朧だな。三十秒で決めろ」

 

彼女たちは目を合わせる。三十秒という短い時間の中で・・・ある艦娘は即決だった。

 

「・・・私がやる」

 

朧だ。即座にこの苦しい状況で手を挙げた。

 

「朧か・・・他はどうだ?」

 

「私・・・が!!」

 

「ダメ!!それは絶対にダメ!!!」

 

潮が手をあげようとするがそれを阻止するかのように朧は大声をあげた。

 

「もう嫌なの!!絶対に!!あの時の罪滅ぼしって形になっちゃうかもしれないけど・・・妹が・・・犠牲になるんだったら・・・」

 

必死の訴えだった。もう彼女は助けることしか考えてないのだろう・・・本当に死を覚悟していた・・・

 

「・・・曙、漣。入渠いくぞ」

 

そういって亮は二人担いでを入渠室に連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、向かう途中・・・

 

「・・・二人とも痛むか?」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・漣もごめんなさい」

 

右肩に曙。左肩に漣を担ぎながら、彼女たちに謝られた。

 

「俺もだ・・・もっとほかの方法があったはずだ・・・」

 

「いいのよ。提案したのはあたしだし艦娘だから入渠でさっさと治るわ」

 

そう、実は演技だった。それも大掛かりな・・・決して許されることじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧と潮を二人にした後のこと・・・

 

「ねぇ、クソカウンセラー」

 

「ご主人様」

 

この特徴的な呼び方の二人が目の前に立った。

 

「・・・言いたいことはわかるが、朧次第だ」

 

「・・・また」

 

「・・・・・・」

 

「また私たちは何もしないで見てろっていうの・・・」

 

「そうだな。今はそれが一番の方法だな」

 

「・・・ねぇ、できることってある?」

 

「・・・なくはない。ショック治療法だ」

 

ショック治療法。目の前でショックな出来事を起こして、それによる心身の変化を見るものだ。

 

「どういうことですか?」

 

「単純だ。これ見ろ」

 

そういって取り出したのはパソコンでそのままにしておいた監視カメラだ。映像は提督室の朧と潮だ。首を絞められて倒れたところだ。

 

「朧がぶっ倒れた。この状況を見て、潮は自責か仲間の傷つく姿を見て少しまともになった」

 

「・・・なんで・・・」

 

声をすすりながら漣は話し始める。

 

「どうして・・・どうしていつも朧ちゃんと潮ちゃんがこうなっちゃうんですか!!私たちだって姉妹なのに・・・なんで頼ってくれないんですか!!」

 

「そうよ・・・なんで・・・同じ第七駆逐隊なのに・・・私たち何もできてない!!!」

 

「・・・なら、一発文句でもいいに行くか?」

 

亮のこの一言に二人は声をそろえて

 

「「はい!!!!」」

 

そして、決まった作戦がさっき実行した二人を傷つけたら潮がどういう反応をするのか。という、百パーセント助かる確信があるわけじゃないがリスクの大きい作戦だ。そして、朧の口からあの時の謝罪をしてもらうように仕向け、それも成功した。

 

「・・・二人大丈夫かな?」

 

「入渠に行ったら俺が様子を見に行く」

 

「・・・それじゃ駄目よ。あの二人は演技だって知らないもの」

 

「バカか。俺はこの作戦をするっていうならあの二人によく思われる資格なんてない。この先もな」

 

そう、さっきも言ったが取返しもつかないことだ。演技で艦娘撃ちましたなんて言ったら。この鎮守府の艦娘全員に嫌われるかのしれない。それすら思った。だが、やるしか潮を助けられる方法はなかった気がした。もっといい方法もあったはずだが限界だった。

 

「それじゃ意味ないじゃないですか!!」

 

「・・・ここからの第七はお前たちにもかかってるんだぞ。漣。何もできないのはいやなら自分で行動するしかないだろ。だから、このことをあの二人に言わなくていい。」

 

「クソカウンセラー・・・ありがとう・・・でも・・・」

 

曙のお礼を聞いたとき入渠室に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

提督室で終始無言の二人。とは言っても朧も呼吸は落ち着いているし、潮も正常だ。

 

「りょーう。いるッぽい?」

 

その空気の中無邪気入ってきたのは夕立だ。

 

「って!二人ともどうしたっぽい!?」

 

荒れた部屋に血痕傷ついた朧と潮・・・これを見て何もなかったとは言えないだろう。

 

「あの・・・どちら様で?」

 

普通の口調で潮が話しかけてくる。

 

「夕立!!カウンセラーの補助をしてるっぽい!!それで亮みてない?」

 

「あの人は!!・・・声あげてごめん。入渠室いると思う」

 

「・・・わかったっぽい」

 

そういって彼女は出て行った。と思ったが・・・

 

「ちょっと亮!!これどういうことっぽい!?」

 

「あ?話はあとだ、とりあえずここにいる二人を入渠室にぶっこむぞ!!」

 

「ちゃんと説明するッぽい!!何があったッぽい!!」

 

扉越しに亮と夕立に声が聞こえた。・・・なんかけんかしてる。そう思っているとどかどかとした態度で入ってくる。

 

「だいたい、お前は休んでろ酔いどれぽいぽい」

 

「そのあだ名はひどいッぽい!!クソカウンセラー!!」

 

「曙みたいなこと言ってんじゃねーよ。改二になってちょっとは成長したかと思えばまだまだガキなんだよ」

 

「はぁ!?亮だってそのガキの夕立に頼りっぱなしっぽい!!」

 

「じゃあ朧頼む」

 

「じゃあ、潮ちゃんお願いね」

 

無駄話も多かった気がするが息の合ったコンビネーションで二人を担ぎ上げる。二人は呆気を取られて無言で目を合わせていて抵抗する気もなかった。

 

 

 

 

 

そして、入渠室にぶん投げる。水しぶきを上げて顔を拭くと二人の目の前には曙と漣だ。

 

「・・・潮」

 

「えっと・・・なんか、久しぶ・・・」

 

「「潮!!!!」」

 

二人同時に抱き着いてきた。それは二人にとっても同じだった。

 

「よかった・・・よかったよぉ・・・」

 

「漣・・・」

 

抱かれたまま漣は泣き出した。それにつられて、曙も泣き出した。

 

「・・・良かった。これで悔いはないわ」

 

そうつぶやいた朧。そうだ、彼女には演技だったってことを伝えていない。亮には口止めをされているが・・・そう思っていると高速修復剤がかかる。それもしっかり四人分。

 

「・・・ふふ、クソカウンセラーめ」

 

そういって朧と潮に向かって大声で言ってやった。

 

「実は!!全部演技でした!!ドッキリ大成功!!」

 

曙らしくないテンションでそう言い放った。もうヤケクソ状態のようにも見えているが、彼女の考えでの行動だった。そして徐々に目に涙が浮かんでいる。この状況で二人は唖然としている。漣は慌てていた。

 

「それってどういう・・・」

 

「・・・撃たれたのも演技!!朧ちゃん解体も演技・・・だから・・・」

 

涙と鼻水でシュワクチャになった顔でこういった。

 

「ずっと・・・一緒よ・・・」

 

「・・・うん」

 

曙が衝撃的過ぎて彼女たちは何も言わなかった。そして、第七駆逐隊の四人が入居室から出てみると、何やら面白いことが行ってた。

 

「・・・・・・」

 

亮と・・・なぜか夕立が頭を深く下げていた。

 

「いや・・・すまん」

 

「もっと頭下げるッぽい!!曙ちゃんの会話を聞いてたら何かやらかしたッぽいから聞いてみれば・・・」

 

頭を上からガンガン押さえつけられる。痛い痛い・・・

 

「・・・そうね。でももういいわ」

 

そういって朧は亮に手を差し伸べる。

 

「潮・・・元に戻ったよ。いいやり方とは思わなかったけど・・・」

 

「でもでも!!終わり良ければ総て良しですよ!!ktkr!!」

 

必死にフォローを入れるが

 

「漣はだまってて、じゃあ、一つお願い聞いてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

その後、潮は暴れることはなくなった。俺を見ようが、艦娘を見ようが普通に挨拶をする素直な子になっていた。提督はいなくなったんだと・・・だが、相変わらず一人は苦手らしい。朧も演技のことは気にしてないと言っていた。曙は相変わらずクソカウンセラーと呼ぶ。漣は意外と鎮守府のために動いてくれる。

 

「ふぅ・・・疲れた・・・」

 

「お疲れっぽい」

 

とりあえず彼女たちが帰ったあと、提督室の掃除から始まった。乱闘の中でこんなにものも散らかり挙句の果てには撃った時の血痕だ。流石に放置するわけにはいかないと思い夕立と二人でやった。

 

「おう、お前もな・・・不機嫌だな」

 

「当たり前っぽい。あんな方法は・・・」

 

まぁ、あんな方法は懲り懲りだ。だって・・・

 

昔あれをやって亮はどうなった?救った。しっかりと、だが、それを機に関係は崩れた。それだけの話だ。

 

「艦娘カウンセラーは一つの仕事が終われば次の現場に行くだけ、要は一期一会だ」

 

「バカ・・・」

 

そうつぶやくと夕立は部屋を出て行った。まぁ、そのあとにケロッとしてるのが夕立だろう。私情で仕事をしないやつではないが…今回はそう簡単にはいかない気がした。


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