二日目、朝日が昇り提督室に日が指す。何度もうとうとしていたが亮は徹夜をし潮はその後眠っていた。昨日の傷がまだズキズキと痛んでいるが、そろそろ発注の品が来るのでシャワーを浴びる。その時に布団で寝ている潮を見たが、顔色は優れていた。徹夜をするが太陽の光を浴びると眠気は意外と覚めてしまう。しかし、午後からはその睡魔が襲ってくるだろう。その前に色々とかたずけておきたい。
「こちらが今回の配達物です」
「はい。ご苦労様です」
トラックに詰められたものを下して、これを運ぶ。運送の人も手伝ってくれればいいのに、などと文句を垂れても仕方がないので運び出す。昨日よりは少ないので何とかなるだろう。
一時間したころには運び終わっていた。その後、アナウンスでモーニングコールをかけ、食堂に向かった。
「おはようッぽい」
「よぉ、夕立」
先に来ていたらしく朝食の準備をしていた
「亮はパンとごはんどっちがいい?」
「ご飯。味噌汁つけて」
「できてるっぽい」
そういってトレーに持って運んできたのはご飯、味噌汁、焼き魚。シンプルな朝食だ。
「ありがと」
「ぽい、いただきます」
「いただきます」
二人で向かい合って手を合わせる。こうして食べるのは久しぶりな気がする。
「いつも言うってるが俺に合わせて起きなくていいんだぞ」
「いいの、ちょっとは役に立ちたいし、昨日は・・・迷惑かけたし」
「気にすんな・・・ほら、魚貸して」
そういって奪い取るように夕立の焼き魚を取り、小骨を取ってやる。先ほど会話からずっと苦戦していたのがじれったくなり亮がとることにした。
「自分でできるッぽい!」
「いや、できてないだろ」
先ほどの家庭的な面を見てから魚の骨が取れないというギャップ。夕立はところどころ抜けている。
「ほら、どうぞ」
「ぽい」
それを受け取ると、ほぐした身の部分を食べ始めた。
「・・・潮ちゃんはどうっぽい?」
「・・・難しい」
「そう・・・どういう感じっぽい?」
昨日のことを川内のこと以外すべて話した。その件話したら夕立がなぜか気にするので。だが、夕立が食いついたのは潮についてではなく・・・
「徹夜したっぽい!?見張りぐらい夕立がやるッぽい!!」
「しょうがないだろ!お前昨日べろんべろんに酔ってただろうが!」
「言ってくれたらちゃんとやるッぽい!!」
「アホか、それで大変だったんだよ」
「全く・・・夕立はみんなの準備するから、頑張るッぽい」
そういっていつの間にか食べ終わっていたて空いた食器を洗い場に持って行ってしまった。なんか不機嫌なもしたがまぁ、いいや。機嫌はどうせ治るし。
「あ、潮の朝食も用意してくれないか?身体には異常がなかったから」
「わかったッぽい」
先ほどと同じメニューをトレーに渡されて提督室に向かう。その途中に川内にあった。
「・・・おはよう」
「あ、亮・・・」
明らかにしょぼくれている。昨日のことだろうがそれは昨日のことだ。反省してくれればそれでいい。
「今日は魚だ。朝食は夕立が作ってくれているからな」
「うん。その・・・ごめんなさい!!」
綺麗な姿勢で頭を下げてきた。確かに昨日は謝られてなかったことを思い出した。
「ああ、大丈夫だ。それより食事してこい」
「うん・・・あの?怒ってる?」
「いや、反省してくれればそれでいい。気にしているんなら再発しないように努力しろ」
そういって川内の頭にポンポンと手をのせる。
「うん!!ありがとう、亮!!」
そういってスキップで食堂のほうへと向かった。
「いっひひ~亮君もかっこいいねぇ~那珂ちゃんほどじゃないけど」
「那珂。それに神通も、どうしたんだ?」
「昨日部屋に戻ってきたら。いきなり泣き出したものですから・・・」
「そのあとは三姉妹でパジャマパーティだったよー。久しぶりにあんなかわいい川内ちゃん見ちゃった!!」
その場でくるりんとスピンをしてピースをする。
「まぁ、ストレスためないでさっさと吐き出せたのは大きいな」
「これも亮さんのおかげです」
今までは生きることに必死だった。その時に艦娘カウンセラーである亮が来て、最初は憎い人間を殺そうと暗殺しようとした。でも、彼はほかの人間と違った。周りの艦娘を笑顔にして。何もかも忘れさせてくれるような楽しい毎日を過ごさせてくれた。それに、姉妹で久しぶりに笑ったのも最近のこと・・・
「別に俺は手伝っただけだ。最終的にはお前ら自身が強くならないといけないんだからな」
「そのきっかけを教えてくれました」
「それが仕事だ」
「本当に・・・仕事と理由だけでここまでしてくれているなんて」
「ほかのカウンセラーもこんなもんだ。俺が特別ってわけではない」
「じゃあ、那珂ちゃんが亮君に特別ソングを歌ってあげる!!」
遠慮しておきたいけど、どっから取り出したわからないラジカセから愉快な音楽が流れる。というか流れがわからない。
「朝飯食って来い」
Aメロに入るであろう前にその音楽を止めておいた。そして那珂はその場でひざから崩れ落ちる。そして神通は引きずるように食堂へと向かった。
提督室に入る前、誰かがいる気配がしたので持ってきたトレーを置く。たぶん潮が起きたのだろう。とりあえず、飯だけおいて、状況を見ようと思ったのだが・・・
ガチャ
「あ・・・」
まさかの潮から出てきて目が合ってしまった。
「あああぁあ!!」
やばい!!いきなり昨日みたいなことになる!!
「ん?亮さん・・・!!」
その状況に鉢合わせになった艦娘がその状況を見ていち早く反応してくれた。
「離れなさい!!何してるの!?」
潮がつかみかかろうとするときに後ろからひょいっと持ち上げたのは瑞鶴だ。
「悪い・・・」
「それより大丈夫?」
潮を持ち上げたはいいがその状態にしているとかみつく恐れがあるので鎮静剤を使おうとするが・・・
「少し・・・向き合ってみるか」
それをしまい。瑞鶴に潮を部屋に連れて行ってもらうように言って、そのあとに念を押して亮はこう言った。
「中の様子は覗かないようにしてくれ。できる限りでいいからあった艦娘には伝えるようにしてくれ。提督室には近づくな」
そういって亮と潮の一対一での状況で提督室に残った。
相変わらず、怯えている様子だ。この状況にしたけれども解決策なんて何にもない。だったら、本人に聞くしかない。暴れないために鎮静剤で眠らせてもそれの繰り返しだろうと亮は悟った。だったら、起きている潮に直接何があったかを聞くしかないと思った。
「ほら、朝食だ。置いておくから食べ終わったらトレーを渡して」
先ほど亮が食したものを彼女から少し離れた机の上に置いてみる。目線は少しずつトレーに向かっていった。そして亮がそのトレーから離れると潮はそのトレーに向かって食いついた。
「食欲はあり・・・箸を使え」
見ると一心不乱に手で掴んで食べてしまっているので近づいてみて箸を見せるが無反応だ。
「・・・・・・」
トレーをひょいっと取り上げてみる。そうすると目線はトレーから亮へと変わる。
「・・・!!!!」
とりあえず・・・攻撃をよけないようにしてみるか・・・
潮にそのままビンタからはじまりひっかき、かみつき・・・本当に拒絶しか読み取れない。ところどころ出血しだした。
「来ないで!!お願い!!来ないで!!」
そしてその変異あったものを投げつけ始めるその中にトレーの味噌汁をぶかっけられた。
「アッツ!!!」
思いっきり頭からぶっかけられて手で頭を掻く。その瞬間だった。
「うぅ・・・!!」
物を投げるのもやめてその場でうずくまって頭を抱え込んでいる。
「・・・まさか」
その手をポケットに突っ込んでみる。それを見ると潮はまた攻撃を開始した。しかし、手を上にあげてみる。そうするとまたうずくまった。
「トラウマ・・・か・・・」
手を上にあげる。又は自分の上に手がある。その状況を彼女は怖がっている。手が上にあるイコール彼女にとっては殴られるため自らを守る体制をとる。体がその動きを覚えてしまっている状況だ。そう考えるのが妥当か。しかし、こうなってしまった理由という新しい課題が生まれただけでこの出血は安いものだ。
とりあえず怖がらせっぱなしもよろしくないので手を下げる。そして先ほどのひっくり返したトレーを戻し拐取する。みそ汁のシミは・・・気にしないようにした。
食堂によってもう一杯もらおうとするが、周りが亮を見た瞬間駆け寄ってきた。
「ちょっとどうしたんですか!?」
「血だらけじゃない!!」
「えーと、救急箱!!」
「あーと、えーと・・・救急車呼ぶ!?」
あ、ミスった。止血してから行けばよかった。そうしておけばこんな騒がれることなかった。
「・・・ちょっと来て」
その困惑した艦娘たちの中で一人冷静に食堂の外に連れだされた。
「たぶん、潮よね。それ」
「ああ、その通りだ」
その正体は朧だ。結構強い力で引っ張り出してきた。ちなみに騒動は夕立が納めてくれたのか食堂は静まってた。
「・・・あの子、どうしてた?」
「トラウマだな。手を上にあげるだけで殴られるっていうのが体にしみこんでいるらしい」
「・・・そう。昨日、曙から話を聞いたわ。潮に何があったか聞きたいでしょ?」
「ヒントになるからな」
「でも、それを聞いても・・・私だけを憎んで。曙と漣は関係ない。そう約束してくれるなら話す」
「その言い方だと、百パーセント二人が関係しているな」
「だから見逃せって言ってるの。どうする?ヒントを教える代わりに仲間を無実にする。私はどうしたっていいわ。煮るなり焼くなり解体や軽蔑。精神崩してもらってもいい。潮を助けてくれるなら」
「・・・わかった」
彼女の覚悟が伝わったその場しのぎではない本気でどうなってもいいと思っているのが伝わった。
「そう。なら二人になれるところに行きましょう」
「いや、まだ潮がいる。提督室にいるから待ってくれ、勝手に脱走されても困る」
「それもそうね。いいわ提督室で話しましょう」
二人で提督室へ向かう。朝食の追加を忘れてしまったのを思い出すが、今は朧の話に集中することにした。
「じゃあ、約束は守ってもらうから」
「ああ」
二人で提督室を覗くと座り込んでいる潮の姿があった。こちらには気付いていない様子だ。
「もう一回寝かせられる?」
「鎮静剤も打ちすぎると効果がなくなる。そのそも、使い過ぎもよくない」
「じゃあ、これが最後の一回ってことにして、これで終わりたい」
「・・・・・・」
懐の携帯バックから注射器を取り出す。正直使いたくないが、朧の話を聞かないことには始まらない。ドアをバッ!と開けてすかさず潮の元へ向かい素早く差す。そうするとまた眠ってしまった。
「ごめんね。潮・・・じゃあ、話すね」
「ああ」
「まず、駆逐艦の様子はどう見る?」
「他艦と比べて軽傷だな。軽巡や戦艦のやつと比べて被害は少ない」
「じゃあなんで潮はああなってしまったと思う?」
「・・・身代わりか?」
「半分正解。半分不正解。」
「半分?」
「彼女は身代わりになった。でも、それはみんな一緒だった」
そういって朧は上の服を脱ぎだした。
「・・・艦娘の体見るのは慣れてるの?」
「まぁ、夕立が来る前は風呂の世話もやってたからな」
「じゃあ、こういうのも慣れっこ?」
「見てきたけど。慣れていいものじゃない」
やはりといったところか、外傷は激しく痛々しい。古傷や最近できた傷があり、見るにたえないが目をそらしてはいけない。
「この傷は第七駆逐隊だけが受けているのか?」
今まで見た駆逐艦。島風はあの露出の高い服で外傷を見逃すことはないだろう。睦月型もだ。検診もしたし風呂に入れた北上曰く傷がないことをよく思っていた。
「ええ、だってこれは第七だけの問題だから」
「・・・・・・」
「私たちだって潮ほどじゃないけど、いろいろやられてきた艦娘。でも・・・私たちは・・・」
本当に怖い状況・・・その時に私は自分がかわいくなってしまった。そう。甘くなってしまったのだ。この中で一番姉なのに。それなのに・・・私は・・・
「潮に・・・全部押し付けた・・・」
「・・・そうか」
彼女が言うには。身代わりになった。確かに正解ではある。ただの押しつけだったが・・・艦娘とはいえ、子供だ。自分がかわいくなって逃げ出したくなる。当たり前だ。自分が怖いと思う状況から逃げられるなら。逃げるを選択する。それは間違った行動ではないと思う。だが・・・正解でもないようだ。
「お前はそれを間違えた行動だと思ったのか?」
「・・・うん」
「なら、こっからは俺は関係ない。潮に言いたいことがあるのなら、言ってみろ」
そういって亮は部屋を出て行った。詳しくは聞いてないが、話すことはあれで終わりだろう。あれ以上話させても朧が壊れるだけだ。それに、第七駆逐隊の問題でもある。提督から受けた傷だったら、俺がどうにかする。だが、潮からしたら第七駆逐隊に裏切られた。といっても過言ではない。だったら、一対一で話してみろ。向かい合って、言いたいことを言って来い。そして、何を言われても、どんなショックなことを言われても受け入れてみろ。これは俺の出る幕ではないが・・・もちろん押し付けるだけじゃない。
これは簡単にいえば姉妹喧嘩ってところか・・・それがすごく取り返しのつかない事態になった。朧は責任を感じていた。だからこそ俺に話してくれたのだろう。頼れる仲間が朧にはいなかった。負けず嫌いで実はプライドも高かったりするので頼る行為は彼女にとって良くなかった。だが、彼女から頼ってきた。だったら答えないわけにはいかない。
「・・・俺もやることをやる」
そう呟いて、亮は提督室を後にした。