今は眠っている潮をどうするかを考える。安全なのは提督室か、今の第七駆逐隊部屋か・・・先ほどの暴れ方を見る限り人や艦娘との接触はなるべく控えたほうがいいだろう。だが、それでは解決には至らない。そして、気になることもある。今まで見た駆逐艦は身体的には異常があっても精神的にはほかの艦娘と比べて安定していた。しかし、駆逐艦の中でなぜ彼女だけがこのようになってしまったのか?
「・・・一々考えてもダメだな」
彼女をおぶさり提督室に向かう。やはり一番目が届くし安全であろう。しかしあの怯えようは・・・何をされたのか?そんなことを考えているが、こればかりは聞いてみないとわからないだろう。
提督室に着いた亮はとりあえず布団を敷き、その上に潮を寝転ばす。そして、検診を始めることにする。
「身体面に異常なしか・・・」
補給もできるし、大丈夫のようだ。そこに関しては一安心だが、ここからが本番だろう。この状況をどうするか?鎮静剤なんて何時切れてもおかしくない。ここで起きたら先ほどのように殺しに来るだろう。だが、また縛るわけにもいかない。拘束されている状況など緊張してならない。この後自分が何をされるのか?恐怖が芽生えるだろう。
「・・・そういえばバーベキューは大丈夫なのか?」
そう思って、演習場に行ってみるともうお開きになっていたのだが・・・
「あのなぁ・・・」
こめかみを抑える。瑞鶴が持ってきた酒で酔いつぶれてる。飲んでない艦娘もいたようだが、そのほかはぐったりだ。
「(監視しとくべきか、酒を取り上げるべきだったか)」
「・・・夕立?」
「ぽぉぃい?」
あーあ、完全に酔ってる。なんか色っぽい。
「水飲んで、戻して寝ろ」
「りょおぉ・・・」
「はいはい、もう寝ろ。部屋戻れ・・・」
さて、まずはこいつらを部屋に戻すところから始めないといけないと思うと憂鬱だ。
「ほら、比叡起きろ」
「zzzzzzzzzzzz」
こいついびきうるさい。
と、文句を言っても始まらないので酔ってない艦娘で一人一人負ぶってそれぞれの部屋に連れて行った。
「ああ、疲れた。」
彼女らを運びバーベキューの片づけなどをしていてかなりの時間がかかりもう夜の遅い。駆逐艦たちももうおねむらしく寝てしまった。ちなみに朧たちには潮を預かることに許可を得た。
「さて・・・見張っておくのが一番か」
その間に机に向かい、明日本部から取り寄せるものを決めて報告をする。
接触したのは瑞鶴、朧、曙、漣、潮。皐月のテスト結果合格。大まかにはこのくらいだろう。とりあえず頼むものは食材や消耗品だろう。あとは燃料や弾薬・・・昨日とあまり変わらなくていいだろう。
「よし、報告書完成・・・」
早速それを送って、あとは解決策を考えるといってもしょうがない。今日は徹夜だ。コーヒーを飲みながらじっと潮を見ている。また暴れださないように鎮静剤は準備してあるが使うごとに効力も薄れてしまうので早急に解決したい。が、今回は艦娘に頼るということはできないだろう。今まで見た艦娘は艦娘同士なら大丈夫だったが潮は艦娘ですら恐怖を感じてしまっている。しかし、第七駆逐隊の様子を見る限り彼女たちが原因だとは思わない。そして無言の時間が続いて一時間後・・・
「・・・んぅ」
「起きたか・・・」
潮の吐息が聞こえたのでそちらに目を向ける。起き始めた時は普通の様子だが少し困惑しているようだ。
「潮、補給ドリンクだ」
そういって近づき渡してみるが、亮の顔を見た瞬間だった。
「・・・・・ぃや!!!!」
渡したドリンクははじかれてふたが開き床にこぼれた。
「こらこら、こぼしちゃダメだ・・・」
「怖い!!!!!!」
必死の抵抗で近づく腕を弾き飛ばしその辺にあるものを投げられる。
「はいはい、落ち着け・・・」
それをよけたりはじいたりしてダメージはないがキリがない。だが、鎮静剤も避けたい。ので、亮はパソコンをもって部屋を出て行って。
「さて、始めるか」
廊下に出てパソコンの電源をつけると画面には提督室が映し出された。監視カメラを取り付けて彼女が一人の時にどのような行動をするかを見てみることにした。正直盗撮ではあるが接しないときの状況を見ておきたい。
「いなくなった・・・」
そうつぶやいて息を整えている。誰もいないときには平気らしい。そうすると投げたもので錯乱した部屋を見てそれを拾い集めた。
「掃除しますか、だれでしょうね、こんな汚い部屋?」
成程、先ほどの状況は覚えてないのか・・・たぶん曙にしたことも覚えてないんだろう。そして、テキパキと掃除をして元にあったところに戻している。
「・・・どこでしょうか?」
提督室を知らないのか?記憶喪失?いや混乱の類・・・あまりいい傾向ではない。トラウマで艦娘、人間を見るとあのような行動をして、一人でいるときは普段の潮なのだろう。そしてここで俺が部屋に入るとどうなるのかを試してみようとする・・・だが、その前に厄介なことが起こった。
「みんなは・・・どこなの?」
いきなり半べそ状態でおもむろに部屋中をあさりだした、第七駆逐隊を探しているのか?これは・・・まずい。誰かを近づければ襲い掛かってくる。逆に誰もいない状況だと探し出す。この矛盾した状況で今の亮は何をすればいいかわからなかった。が、行動しないことに始まらないので予定通り部屋に入ってみる。
「潮。どうだ?」
堂々と部屋に入ってみるが、やはり見た瞬間・・・
「いやぁ!!なんで・・・来ないで!!!!!」
また人が変わったようになる。予想通りだが当たってほしくなかった。
「今の状況で得られる知識はこれだけか・・・」
また襲い掛かってきそうだったので、鎮静剤をぶっさし、クタっと倒れ気を失った。
「はぁ・・・難関すぎだろ」
第七駆逐隊に状況を聞いてみてから潮はどうにかするしかないと思った。とも思ったが、扉が開く。
「・・・・・・」
「何無言で入ってきてんだよ曙」
「うるさいわよクソカウンセラー、潮の様子を見に来ただけ」
そういって寝かせてある潮のほうに目を向ける。
「二人は?」
「もう寝た。朧は今までプレッシャーなくなったみたいになってて、漣は食べ過ぎて寝てた」
「そうか・・・なら聞きたいことがある。潮についてだ」
とりあえず先ほどの監視カメラの映像を曙に見せる。隣で顔色が変わっていっているのでこういう状況だとは知らなかったのだろう。
「これが今の潮だ。どう見る?」
「元々、性格もあんなのだったけど・・・それにしても一人になって泣くような子じゃなかった」
「昔、何かあったのか?」
「数えきれないくらいいろいろされたわ」
そういって、服を腹までめくり上げる。またしても痛々しい傷が見えた。
「これだけじゃないわ、脅されたり、食事だってロクなものじゃないし、補給も入渠もなしに出撃させられて・・・目の前で仲間が沈んでって・・・次は私なんじゃないかって思う・・・と・・・怖くて・・・」
「スマン。もういい」
彼女に肝心な部分を聞けていないが嫌な記憶をぶり返してしまったようだ。それに、涙に嗚咽が混じるような声でうずくまる。しまった、曙もまだあって数時間の艦娘・・・触れることも許してくれたが、内面を離させるのは早かったか・・・
「気にしないで・・・潮を助けてくれるんでしょ?」
「・・・ああ」
大した解決策も考えてないがやらなければいけないことだ。彼女の期待にもこたえるためにもそう答えた。
「そ、ならいいわ。協力できることがあるのなら協力するし・・・」
「ああ、頼りにしてるぞ」
そういって頭を撫でる。
「うっさい、クソカウンセラー・・・」
「照れんな」
「照れてない!!」
「じゃあ、もう頭撫でなくていいな?」
「・・・うっさい」
そういうと頭を突き出してくる。
「はいはい・・・」
そういう行動をするということはそういうことなのだろう。とりあえず、辛い話からごまかせたか・・・
「もう寝ろ。潮は俺が見ておくから」
「うん・・・お休み・・・」
そういって彼女は落ち着いた様子で部屋を出て行った。タイミングよく来てくれたが肝心なことは聞けなかった。だが、しょうがない。こんなことをポンポン解決できるわけじゃない。特に今回は難題だ。
「さて、眠気との戦いだな・・・」
入れなおしたコーヒーを口にし、椅子に座る。寝れないというのはやはりつらいが寝たら最悪潮に殺されるかもしれないのでずっと起きていることにしたが・・・
「亮!遊びに来たよ。夜戦だ!!」
「夜遅くに元気だなお前は」
「ふふふ・・・夜行性だからね!!」
夜戦バカ川内はまだ起きてたようだ。若干頬が赤くなっているので酔いは抜けてないのだろう。
「おーい、うっしおちゃーん、やせーん」
「バカ!!」
いくら眠っているからと言って、体を揺さぶり名前を読んだら起きる。
「うぅ・・・」
やはり起きてしまった。そして、俺と川内を見た瞬間・・・
「また。今度は・・・二人も・・・!!!!!!」
また、不安定になってしまった。そして、腕を振りかぶり鋭い爪が川内に襲い掛かる。
「川内伏せろ!!」
いち早く反応した亮は川内に覆いかぶさるようにする。そうしたことによって・・・
「グッ!!」
その爪は亮の背中を思い切りひっかき、五本のひっかき傷の線が背中にできてしまいそこから大量に血が流れる。
「あぁ!亮・・・」
「川内!!早く部屋からでろ!!」
うろたえている川内に早く出るように言う。覆いかぶさっているが隙間を通れば簡単に出れるだろう。
「・・・あぁ・・・」
ダメだ。ショックのせいか動けていない。それにしても、ひっかき傷でこんなに血が出るなんて思わなかった。火事場のバカ力だろうか、普段のリミッターが外れていてこんな力になっているのか、いいかえれば何をすればこんな状態になってしまうのか・・・しかし、この状況はどうしようもない。俺がどけば川内に被害がいく。鎮静剤は机の上・・・一応ピストルはあるが・・・
「しょうがない」
背中の傷も大きくなってきたのでこの状況を続かせるのもダメだ。胸にあるピストルを抜こうとしたとき
「っつ!!!!あああぁああ!!!!」
背中に強烈な痛みが走った。潮がその背中に噛み付いてきた。本気で噛みつかれると肉を千切られることもある。それの痛みで大きく暴れてしまいポケットからピストルが床に落ちた。
「(本気で死ぬかもしれない)」
力が抜けて激痛が走る。正直動くこともできないがこのままではただでは済まない。
「亮・・・!!」
目をやると、先ほど転がってきたピストルが目に入る。手を伸ばせば届きそうだ。
「待ってて!!」
川内は隙間を通って、ピストルを拾うが・・・
「ダメ・・・亮に当たっちゃうかも・・・」
砲撃とは違う。あれは体の一部みたいなものだけどこんなに密着してちゃ、人間の亮は死んじゃうかも・・・
「川内・・・机の注射だ・・・」
ふり絞るように声を出した量の言う通り机の上には注射器が置いてあった。
「これだね!!」
それをもって潮に近づき刺そうとするが、
「脈?だっけ?・・・どこ?」
テンパっているに加えて、注射なんかしたこともない。何もできなかった。
「どうしよ・・・このままじゃ、亮が・・・亮がぁ・・・」
「持ってきてくれただけで十分だ」
伸びた手が注射を持ってる川内の手に添えそれを刺すべき場所に導き。潮に刺す。すると、彼女はまた気を失った。
しばらくの沈黙が居心地の悪さを漂わせる。亮は自分のカバンから医療道具を取り出した。塗り薬と包帯だ。
「川内・・・悪いけど背中に塗ってくれるか?」
「・・・うん」
渡された薬をうつ伏せになっている亮の背中に塗りたくる。だが、途中で水滴が垂れた。涙だ。
「どうした?」
「ごめん・・・あたしが余計なことしたから・・・」
そう、先ほどの騒動は潮を起こしてしまったことから始まった。それを思ったのか泣き出してしまった。
「そうだな。余計なことをしなければ俺はこんなことにならずに済んだし、鎮静剤を消費することもなかった」
「うん・・・」
「気にするな。なんて、甘ったれることは言わないけど次はしないようにしろよ」
「うん・・・亮ってさ。やさしいけど厳しいよね」
「そうでもないさ。説教かましてる奴なんて自分に甘いやつが多いんだよ」
「じゃあ亮も甘いの?」
「そうだな。もしお前たちのような味方の艦娘がいないときにさっきの状況になっていたらたぶん死んでた。それをお前に頼った。カウンセラーなのにカウンセリング対象者に助けられる始末さ」
「そっか・・・でも私は・・・もっと頼ってほしいよ・・・」
「じゃあ、薬塗ってくれ。」
「うん・・・でも、ホントに・・・ごめんなさい・・・」
また彼女は涙をこぼした。だが、しっかりと反省してくれているようだ。だが、反省なんてその場しのぎでもある。また同じことをすれば川内の反省という価値は下がっていってしまう。だが、確信はないが彼女は大丈夫だろう。その後川内は気を引き締めた様子で自分の部屋に戻っていった。そして潮について考える。だが、潮について対処法がわからないので第七駆逐隊に聞くことにしよう。なので、今日は椅子から動かずに見張り。二日目を終えた。