瑞鶴の件か終わったからと言って仕事が済んだわけではない。亮は皐月の練習の様子を見に行くことにした。
「はぁ・・・少し眠い」
「おい?大丈夫なのか?」
話しかけてきたのは長月だ。彼女から話しかられるのは珍しい。
「ん?ああ、平気だ」
「そうか、あまり無理するなよ」
「ああ、大丈夫だとは思うけど・・・」
「・・・・・・」
そういった瞬間黙ってしまった。やはり不安なのか、今日失敗してしまえば解体である。安心しきってはいるが何が起こるかはわからない。
「大丈夫だ。安心しろ・・・」
「ああ・・・それが聞けて安心だ。私も期待しているぞ狩島亮」
そういうと彼女は元の持ち場に着いた。そして演習場を見渡すと亮にとっては珍しい顔があった。
「お前が武装するのも久しぶりだな」
「ぽい!!でもやっぱりなまってるわね」
「全く亮がいるとすぐにそっちに行くのかよ」
夕立と天龍だ。いつの間に仲良くなったのか?彼女が武装するのは皐月の演習相手でその調整といったところだろう。軽く砲撃を打って皐月が避けるなどの演習が行われるだろう。
「そうか、あまり無理はするなよ」
「わかってるっぽい!!」
「おい夕立!俺の相手もしてくれよ・・・ほら補給ドリンク飲んだらもう一戦だ」
そういって天龍から自前であろう補給ドリンクをもらった。そのまま二人が持ち場に行こうとした時一瞬立ちくらみが起こった。
「・・・マジか」
膝をつかずに持ちこたえたが疲れがどっと出た。
「少しだけ仮眠をとるか・・・」
亮は提督室に戻り軽く睡眠をとることにした。しかし、長時間は寝てられないので十五分くらいの軽い睡眠だ。
「・・・・・・」
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「助けて!!亮!!!!」
「亮さん!!」
「熱いよぉ・・・」
「りょ・・・亮・・・」
「痛いよ・・・」
「!!!!」
飛び起きた。それは何か見たくないものを見てしまったからだ。寝汗がすごく息が荒い。人間誰だってトラウマがある。それが夢に出てくることもあるだろう。
「(またか・・・)」
燃え盛る鎮守府。そこから聞こえる叫び声が目を覚まさせる。
「・・・どうしたの?」
声が聞こえ我に返るとそこにいたのは北上だ。
「いや・・・何でもない」
なんでもなさそうに振る舞いがさすがに無理がある。
「そう?いかにもなんかあった感じだけど」
わかりやすかったか・・・北上は察しがいい。ただ話すようなことでもないし、彼女は関係ない。
「ただの夢だ。気にするな」
「そっか、ならいいけど」
気を遣かってくれているのか本当にわかってないのかは知らないが、ごまかせたようだ。
「それで何の用だ?」
「大将さんに呼んできてくれって。時間が云々」
そういわれ時刻を見ると時間は四時三十分。皐月のテストまで三十分前だ。
「やべ・・・寝すぎた」
少しと決めていたのだが、それなりに睡眠をとってしまった。
「あーあ、サボりだ」
「はいはい、今から仕事しますよ」
北上の指摘は置いて置き。そういって重い腰を上げ、演習所へ向かった。
「お前やっと来たのか」
「悪いな清。少し寝すぎた」
演習場を見ると歩行のコースが建てられておりその奥にはポールが立っている。これが今回の皐月のテストコースだ。
「あ!亮!!」
準備をしていた皐月が元気そうに見せかけているように近づく。不安がバレバレだ。
「見ててね!!」
「おう・・・先に深呼吸してリラックスしな、天龍が言うにはもう合格レベルなんだ。あとは落ち着いて練習通りにやるだけだ」
「うん!!みんなの期待に応えるよ!!」
そういって持ち場に戻ろうとするが・・・なんか危なっかしい。
そういっていると、マイクの音量が入り
「それでは、睦月型五番艦、皐月のテストについて説明する。コースは見てのとおり周回コースだ。ここを二周決められた方向に従って進んでくれ。そして、軽く演習を行うことにする。演習相手は夕立。演習の説明はその都度に説明する」
とても簡単なテスト内容。普通の艦娘ならなんともないものだ。しかし皐月は右目を失われてる。だが、そのハンデを乗り切るために彼女は努力した。努力は裏切らないなどというが、実際は裏切ることもある。つまり、何が起こるかはわからないということだ。ここの鎮守府の声援が聞こえる中やはり皐月は緊張している。仕方がないことでもある。不合格ならば解体だ。簡単な内容だが命を懸けたテスト・・・
「テスト・・・開始!!」
清掛け声とともに皐月がスタートする。まずは第一の障害物、ポールだ。そこで、ターンをして次の方向へ向かうというものだ。
「・・・・・・」
皐月は無言。それだけ集中しているということだ。
「いい動きだな」
「ま、俺が教えたんだ。当たり前だろ?・・・それに、いい才能持ってるぜ」
天龍が言う通り、このテストは彼女にとっては簡単すぎた・・・速い。そして軽快であり、無駄が全くない。皐月はここまでセンスを持っていたのだろうか?それとも天龍のコーチのおかげなのか・・・それはわからないが、これを見てる限り大丈夫そうだろう。そうこうしているうちに二周目に入ってようだ。また先ほどと同じように集中力は切れていない。
「うん・・・いける・・・」
皆が黙って見守る中彼女は・・・やり切った。
「いいんじゃないか?」
「ああ、申し分ない。合格だ」
最初の水上歩行は合格となった。
「少し休憩を入れて演習に入る」
皐月のほうを見ると睦月型がわらわらと集まって祝福しているようだ。
「なんか思ったよりも大丈夫そうだな」
ほほえましい光景を見ているとき清が隣に来た。
「あぁ・・・」
「なんか元気ないな?」
「・・・眠いだけだ」
「ならいいけど・・・瑞鳳!!次の準備を始めるから手伝ってくれ」
清は忙しいやつだな。そう思いながら夕立の元へ向かった。
「ぽーい!!亮!!」
「調子はどうだ?」
「うーん・・・ちょっと熱っぽいぽい」
確かに少し顔が赤いが・・・熱でもないっぽい・・・
「大丈夫なのか?」
「言いたいことはわかってるっぽい。ちゃんと練習みたいな感じでやるわ」
「・・・頑張れよ」
彼女の体調は少し悪いようだが本人が言うには大丈夫だろう。カウンセラーの補助をやっているだけあって自分の体調の限界をわかっている。なので本人が言うなら大丈夫だろう。
皐月と夕立がそれぞれ持ち場に着いた。
「それでは演習を開始する。制限時間は十分で先に大破したほうが敗北。」
ま、夕立ならうまくやってくれているだろう・・・
「演習・・・開始!!」
清の掛け声とともに演習が開始された。
「行くよ!夕立ちゃん!!」
皐月が砲口を夕立に向けるが・・・何かおかしかった。夕立の雰囲気が違う。・・・改二の影響か・・・何か違う・・・具体的に説明できないが何か・・・
「・・・・・・」
改二の影響で赤く染まった目がいつもよりもギラギラと光っている。彼女も砲口を向けたが、やっぱり何かがおかしい。そして、皐月が牽制の様な砲撃を放つ。当てる気はないが動きを止めているような砲撃だ。
「・・・・・・」
夕立は言葉を発しない。次の瞬間、目を疑った。夕立が一瞬で間合いを埋めた・・・そこで皐月の砲口めがけてほぼ近距離で砲弾を放ち。皐月を一気に大破の状態に・・・やっぱり何か違う!!
「清!!今すぐやめろ!!」
「はぁ?何言ってんだ?」
「夕立がおかしいんだ!!」
「ま、大破にもなったしそれもそうか、演習を終了する!!」
その掛け声で鎮まるはずだったが夕立の砲撃はやまずに皐月に打ち込む。
「おいやめろ!!早く!!」
「ちょっと予定外・・・天龍!瑞鳳!」
清の掛け声で二人は演習場に入り夕立を止めに入る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は無言で構える。真剣そのものだ。
「演習だ。本気で行け・・・」
「「了解」」
二人の了解とともに空気が変わった。
夕立は夕立で何か狂っている。何があったのか?
「全く、困ったもんだ」
「だから反対したのに・・・」
そういって瑞鳳が艦載機を展開する。その音を聞き夕立は皐月ではなく砲口を艦載機に向ける。そしてそれを難なく撃ち落とす。
「!!!!」
天龍がその隙に夕立の懐に入り込む。だが、夕立はそれを許さずに後退しながら天龍に構える。だが、その後ろにほうこを構えている皐月が絶好の位置にいた。
「ああああぁぁ!!」
その砲撃は夕立にクリティカルする。二人はのけぞったスキを見逃さなかった。
「オラオラァ!!」
そのまま砲撃を浴びせる・・・その一瞬・・・亮は見逃さなかった。
「・・・あれ?」
いつもの夕立だった。赤い目は先ほどよりもギラギラしておらずいつものように見慣れたものだった。
そして、そのまま夕立も大破となった。
今回のテストは何があったのか?テストを終え、演習の片づけをしている時も夕立が心配になった。夕立と皐月は入渠をしている。一応清の艦隊が面倒を見てくれている。
「・・・あの」
話しかけてきたのは睦月だ。その表情は硬く緊張しているようでもある。それはさっきのテストのことだろう。俺だってよくわからない。
「ごめんな。皐月を・・・」
「ううん、大丈夫・・・それよりも夕立ちゃんが・・・」
わかっている・・・わかっているが・・・俺もわからない。
「あとで様子を見に行こう」
「うん!!」
元気のいい返事をして彼女も片づけに戻った。
「・・・はぁ」
結果だけを言うと皐月は合格した。解体は免れたのだ。ただ、気持ちが落ち着かない、それよりも、夕立だ。
「・・・・・・」
「気になるんだったら様子を見に行ってみてください」
後ろから声をかけられるその声は比叡だ。
「ここは私たちが何とかしておくので早く夕立さんのところへ行ってあげてください」
「・・・ありがとう。恩に着る」
そういって亮は夕立にいる入渠室へと向かった。
「・・・・・・」
来たがいいが入るわけにもいかない。
「ふぅ・・・」
意を決してせめて声をかけようと思ったが誰かが出てきた。
「・・・・・・」
皐月だ。表情は暗い。それもそうか、夕立にあんなに砲撃を浴びせられた。怖がらないわけがない。
「・・・大丈夫か?」
「うん・・・けがは平気だよ。でも、怖かった・・・艦娘の戦闘ってあんなのなの?」
「あれは・・・」
何か言葉を探すが浮かばない。だが、引くわけにもいかない。
「あんなのは夕立じゃない」
「それは!!・・・わかってる・・・でも・・・怖いよ・・・」
そういって俯いてしまった。正直夕立の今後が心配でもある。ここの艦娘にあのような姿を見せてしまった。
「気にするな・・・っていってもしょうがないが・・・そうだ。皐月は聞いてなかったかもしれないけど合格だったぞ」
「!!ホン・・・ト?」
「ああ、また一緒に飯が食えるな」
「うん!!」
「とりあえず今日は部屋で休んでくれ。みんな待ってるぞ」
「うん!!」
そういって先ほどの表情とは違い明るい表情だで彼女は部屋へと戻っていった。
とりあえず、その場を何とかして見せた。そして夕立の様子を外から聞いてみる。
「夕立どうだ?」
「ぁあ?亮か?いいぞ入ってきて」
天龍に許可をもらい入渠室に入る。
「とりあえず入渠中は寝ていたから殺気みたいなことにはならなかった」
「・・・よかった」
「たぶん元には戻ってると思います・・・お強いですね。彼女」
丁寧に瑞鳳が説明してくれている。
「ああ、もともとは難関海域で活躍できるほどの実力者だったからな」
「なるほどな・・・俺らは出るから後は任せたぞ」
天龍と瑞鳳は入渠室から出て行った。
「・・・ごめんなさい」
なぜか、瑞鳳が謝った声が聞こえた。演習の話か?それよりも今は夕立だ。
「・・・・・・・」
表情は入渠のおかげかいつもの通りだ。だが疲れているようにも見える。
「・・・はぁ」
思わずため息が出た。久しく夕立の実力を見てやはり彼女は強い・・・改めて思った。その艦娘がカウンセラーの補助なんて考えてみれば笑えるし宝の持ち腐れだ。
「・・・ぽい」
「!!起きたか?」
「亮・・・その・・・」
「演習のこと覚えてるか?」
「・・・うん。何か夕立自身じゃなかったっぽい・・・」
そういって顔を下げてしまう。本人も覚えているのか?
「・・・まぁ気にするな、久しぶりすぎて熱くなっちゃったんだろ」
適当にその場を和ませるために言っておく。
「亮・・・」
そうつぶやくと夕立が抱き着いてきた。前と比べて重いし・・・でかい。当たってる。
「大丈夫。ほら、俺がいるぞ」
「うん・・・大丈夫」
「よしよし」
そういって夕立の頭を撫でる。不安で怖かったんだろうな。さっき考えたことなんてほっておこう。俺のパートナーであってほしいと思う。
「・・・・・・」
「お熱いところいいか?」
「・・・・・・」
「・・・タイミング悪いッぽい」
夕立はむくれながらもしぶしぶ亮から離れた。
清が現れてその現状を見てにやにやしている。
「それでなんだ?」
「悪いが俺は本部に戻る。緊急事態だ」
「わかった。見送ろう」
「お前はもうちょいそいつの相手してやれ」
そういって彼は天龍と瑞鳳を連れて走っていった。・・・また海から行くのか?
「亮・・・もう一回・・・」
「はいはい」
落ち着くまではそばにいてやってある程度のいうことは聞こう。
「そういえば緊急事態って?」
輝いてる海には帰投中の清の艦隊だ。モーターボートでと武装が二人という状況。シュールだ。
「いずれは亮も関係することだ・・・あそこの提督が何者かに殺されたらしい」
「え!?」
「あいつ一回脱出しただろ?それで二度目を図って外に出た時に艦娘に殺されたらしい」
「・・・・・・」
「艦娘だったらさっさと捕まえられるからあんま気にしなくていい」
「私は・・それよりも許せないことがある」
「なんだ瑞鳳?」
「夕立ちゃんに・・・いくらなんでもあんなこと」
「実力を知りたかった。それだけだ」
「まぁ、しょうがないな」
「天龍まで!!」
「にしてもこれすごいな」
そういって彼女は自分の補給ボトルを取り出した。
「興奮状態にするんだっけ?」
「正確には本能的に戦わせるためのものだ。天龍もよくやってくれた」
そう天龍の補給ドリンクには薬が入っていてそれを夕立が飲んでしまったのだ。あれはそういうことだ。
「あの夕立をカウンセラー補助なんて間違ってるからな・・・引き抜く気か?」
「できれば・・・な。前々から思っていたが・・・・あの夕立は欲しい」
「でも!!・・・清・・・なんでそんなこと」
「瑞鳳・・・わかってくれ」
そういって清はポケットから写真を取り出す。そこには清、女性と少女だ。
「こんな戦争はさっさ終わらせて、家族のもとへ帰りたいからな」
「・・・納得できない」
「それもそうだろう・・・な。でも娘だって俺の顔見たことないし・・・だから・・・」
瑞鳳を威圧するようにこう言い放った。
「家族のためなら俺は何でもやってやるからな」
そのまさに恐怖といったその表情。それを見て以降瑞鳳は黙ってしまった。